《真実のを見つけたと言われて婚約破棄されたので、復縁を迫られても今さらもう遅いです!【書籍化・コミカライズ連載中】》62話 黒死麥

黒死麥の恐ろしいところは、はともかく、普通の麥と味が変わらないところだ。

かつて黒死麥は、ただ一本の麥から始まった。

他の麥よりも固くが黒いところを除けば、大きく育ち味が変わらないので、農家たちはこぞって黒死麥を育て始めた。

そうして麥畑が黃金から黒く染め変わり、人々が安価な黒いパンにも慣れてきた頃、その地域で奇病が流行った。

まず手足に小さな水皰ができた。

農民たちは蟲刺されか葉にかぶれたのだろうと気にしなかったが、やがてそれが全に広がり、激しい痛みを伴って死ぬものが現れると、さすがにこれはおかしいと原因を調査することになった。

最初は川の水が疑われた。

だがその川の水を飲むもの以外にも被害が広がった。

次に伝染病だとして、癥狀の出たものは隔離され、村ごと焼き払われた。

それでも被害はどんどん広がった。

やがて、被害の大きい地域でも、何も癥狀の出ないものがいるということに気がついた。

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彼らは黒いパンを嫌い、し値段が高くても白いパンだけを食べていた。

やっと原因が分かった時には、大勢の人々が黒い麥によって命を落としていた。

それから黒死麥と呼ばれるようになった黒い麥はすべて焼卻され、栽培は止された。

元々、普通の麥が変異して生まれた種類だ。すべて撲滅してしまえば、再び現れることはない。

そのはずだった。

「黒死麥の栽培は、どの國でも極刑になるはずだ。どこでこれを?」

険しい顔で黒死麥を睨むレナートだが、セドリックはすぐに答えず、マリアベルに視線を向けた。

「先日、バークレイ領に持ちこもうとしていたところを捕らえました」

驚いたマリアベルは「一誰が……」と呟き、何か思いついたようにセドリックを見返す。

「ダンゼル公爵ですか?」

元が分かるものは何も持っていなかったけれど、多分そうだと思う。製前の麥に混ぜるつもりだったみたいだね。致死量になるほどの量ではなかったからそこは良かったけれど、念のため、既に混ぜられてしまっているところがないか、ジュリアン殿に調査してもらっている。それにしばらくは旅人や遊詩人にも注意するようにと言っておいたから、安心して」

小首を傾げてマリアベルを見上げるセドリックは、そうしていると年相応に見える。

図書室にってからずっと大人びた態度のセドリックにし寂しさを覚えていたマリアベルは、以前と変わらぬ表しだけ安堵して、それからセドリックを年相応の子供のままでいさせられなかったことに対して、申し訳なさをじた。

マリアベルもまだ大人ではないけれど、それでもセドリックよりは年上だ。

本來であればセドリックを守ってあげなければいけない立場なのに、こうして守ってもらっている。

もっと強くならなければいけない。

マリアベルは、そう何度目かの決心をした。

「幸い、陛下の黒死麥の摂取もそれほど多くはなかったみたいだから、しばらく療養をすれば回復すると思うよ」

黒死麥は、その摂取量によって生死が決まる。國王は、手足に水皰ができてに痛みを覚えているものの、幸い命に別狀はないようだった。

「良かった……。他に癥狀の出たかたはいらっしゃるの?」

「いないみたいだね」

「そう。……でも、それはおかしいわ」

「マリーねえさまも、そう思う?」

「ええ。何に黒死麥を混ぜたのかはわからないけれど、王宮の廚房で作っているのなら、他にも癥狀の出る人がいなければおかしいわ。毒見役の方は、癥狀が出ているのかしら」

「それほど量を摂っていなかったから、足に水皰がし出たくらいで済んでいるんだって。早めに発見できて良かった」

「黒死麥は何にっていたの?」

「多分……王國祭で陛下に獻上されたカヌレだと思う」

古代王國が大陸を統一した日を祝う王國祭では、國民はワインで乾杯をし、カヌレと呼ばれる菓子を食べて祝う。

カヌレというのは、外側に黒い焼きをつける焼き菓子だ。

古代王國では水の代わりに人々はワインを飲んでいたという。

そのワインの澱(おり)を取り除くのには鶏卵の卵白を使用するのだが、そうすると使わなかった大量の卵黃が余る。その利用法として考え出されたのが、卵黃と麥で作るカヌレという焼き菓子だ。

そこで古代王國の後継を名乗る王國は、古代王國の建國の日を「王國祭」として、古代王國の象徴であるワインとカヌレで祝うのだ。

「陛下が召し上がるのは、厳選された材料で作られたカヌレのはずなのに、一どこで黒死麥が混ぜられたのかしら……」

王族の食べるものは、すべて専用の農場や牧場で作られる。他の食材を用いることなど許されない。

「新しく見つかった古代王國の跡があってね、その壁畫に外側だけではなくて中も黒いカヌレを食べている絵があったそうなんだ」

カヌレの表面は焦げた蝋で黒く見えるが、中はしっとりとした生地で蜂をしている。

中も黒いカヌレなど、見たことがない。

「まさか……」

「そう。古代王國では黒いカヌレを建國祭で食べていた。それを復活させようと提案したのが……」

「ダンゼル公爵なのね」

「そう。そして陛下に獻上されたカヌレも手にれて、黒死麥を使ったものであるという証拠も発見した。これで、ダンゼル公爵を斷罪できる」

セドリックはそう言って、マリアベルと、そしてレナートを強い目で見た。

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