《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》05.聞いていたと隨分違う※レオ視點
今日、あのシベル・ヴィアス(・・・・・・・・・・)伯爵令嬢が、この地に來た。
彼を団員たちにも紹介し、皆で夕食を食べた。
いつもは寮母たちとは食事を共にしないのだが。
長距離を移してきて疲れているだろう彼には、今日は仕事をさせずゆっくり休んでもらう予定だった。
しかし、エルガに聞いた話によると、どうやら彼は自ら何か手伝うと言いだしたらしい。
話に聞いていたとは、隨分印象が違った。
彼はマルクス・グランディオ王子の元婚約者で、偽の聖だと聞いている。
約百年に一度誕生する、稀な聖であるために威張り散らしていたらしいが、義理の妹が真の聖であることがわかると、今度はその妹をいじめ始めたのだとか。
そのため、王子マルクスはシベル嬢との婚約を破棄し、この地へ追放したのだ。
なんともよくある話だと思ったが、この〝トーリ〟の地が魔たちの猛威により、とても危険であるため、働き手がないのも事実だった。
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ここで働く者は、皆何かしら事がある。
エルガもそうだ。
彼の家には多額の借金があり、両親にを売られるも同然でここで働いてくれるようになった。
他の者も、ほとんどが借金があったり、金に困っているために、嫌々この地へ來る者が多い。
俺は団長として、そんな彼たちにしでも安心して生活してほしいと思っている。
だから第一騎士団の者は、貴族生まれのエリート集団でありながら、できるかぎり自分たちの面倒は自分たちで見るようにしている。
そうして共に生活しているうちに、彼たちもここでの暮らしをけれてくれるようになっていった。
それでもまだ、人が足りていなかったのだが、今度の新りはまさかマルクスの元婚約者だとは。
どんなに傲慢なであっても、ここで働いてもらう以上俺たちの仲間としてけれようと覚悟して彼と対面したが、シベル嬢はとても元気で明るいだった。
〝不束者ですがよろしくお願いします〟
なんて言ったのは彼が初めてで、思わず笑ってしまった。
嫁りのつもりか? まさかここに一生を置く覚悟でもあると言うのだろうか。
まぁ、そんなはずはないだろうが。
ほとんどの者は、初日は怯えていたり、馬車での長旅ですっかり疲れ切っていたりするのだ。
それなのに、彼のエメラルドグリーンの瞳は期待に満ちあふれんばかりに、キラキラと輝いていた。
しいプラチナブロンドの髪は長く、まるで彼の格を表すかのようにまっすぐであった。
しかし、彼が著ていた服は気になった。
とても高位令嬢が著るようなものではなかったのだ。
地味で、し古いワンピース。
妹をいじめた罰で、高価なものはすべて沒収されたのだろうか。
……それにしては、やはり元気なのだが。
まったく落ち込んだ様子が見られなかったのは、本當に不思議だ。
「どうした、レオ。そんな怖い顔をして」
「ん……いや」
一日の終わりに、俺は副団長のミルコと共に執務室で日報をまとめていた。
ミルコとは同い年で、騎士としても共に切磋琢磨しながら剣の腕を磨き合ってきた男だ。
騎士らしく鍛えられたは俺よりも大きく、騎士団の中でも一、二を爭うほど鍛えられたをしている。
それでいてやわらかみのある薄茶の髪と瞳がなんとも甘く、彼はからとても人気がある。
そんな友人が、考え事をしていたために厳しい表で腕組みをしていた俺に聲をかけてきた。
「君はどう思う?」
「何を?」
「彼……シベル・ヴィアス嬢のことだよ」
「ああ……マルクス殿下の元婚約者様」
ここに來る者の詳しい事を知っているのは、俺とミルコだけだ。
皆何かしら事があってここに來るのはわかっているが、詳しいことは伝えたりしない。
「聞いていたようなとは隨分違うと思わないか」
「確かに……どんな傲慢なお嬢様が來るのかと思っていたが、思ったより普通の娘だった」
「そう、まるで高位貴族らしくなかった」
いや、それは悪い意味ではない。
彼の明るさは、この地で働く者を癒やす何かをじたのだ。
「気がれてしまったとか」
「まさか……。それにしては、今日の夕食を作るのは彼も手伝ったと聞いたが、いつもより味くなかったか?」
「ああ……確かに。言われてみればそうだな」
「だろう? 彼は今日來たばかりなのだぞ? なぜ伯爵令嬢が突然來て料理ができる」
「……今の妃教育ではそういうことも習うとか」
「そんな話は聞いたことがない」
俺もミルコも王都を離れて長い。
この地に來る前は、外國を飛び回ったりもしていた。
それにしても、そんなに急に常識が変わってしまうこともないだろう。
「まぁ、いいじゃないか。あの明るさも、料理の腕も悪くなかった」
「もちろん、それはそうだ」
「明日からは正式に働いてもらうんだ。本はすぐに現れる」
「……それもそうだな」
格が悪いのは構わない。
いや、他の寮母たちに迷がかかるのなら俺も黙ってはいないが、それはエルガが報告してくれるだろう。
俺が心配しているのは、そちらではない。
むしろ、俺に屆いた報せのほうが間違っていた場合――。
どこまでが誤りになるのだろうか。
彼の格だけならいいのだが、もし〝偽聖〟であるという話が誤りだったら――。
いや、そんな間違いはできれば考えたくはないが、念のためそれも頭に置いて、もうし彼の様子を見てみることにする。
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