《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》12.今日もご飯が味しい

「ごちそうさま、今日も味しかったよ!」

「シベルちゃん、いつも味しい食事をありがとう」

「シベルちゃんの作る料理は本當に味しいし、食べるとなんだかやる気が出るんだよね。どうしてだろう」

「うふふ、よかったです。私も皆さんに喜んでいただけてとても嬉しいです」

トーリにやって來て、騎士団の寮で働くようになり、ひと月はあっという間に過ぎた。

この五年で鍛えた料理の腕で騎士の方たちは私が作る食事を喜んで食べてくれる。

その食べっぷりがまた本當に男らしくて、見ているだけで私はとても楽しい。

マルクス殿下との食事はいつも靜かで、お上品で、退屈だった。

それに王族や高位貴族の方たちは、一流シェフが作った高級料理を平気で殘す。

そもそも、元々味しい部位しか出されていないのに、だ。

けれどここの方たちはいつも殘さずぺろっと食べてくれるから、私も作り甲斐があるし、見ていて気持ちがいい。

まぁ、王族や高位貴族はそれが普通なのだろうけれど、私が好きなのはやっぱりこっちだ。

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その爽やかな笑顔を向けてくれて、男らしい聲で名前を呼んでくれるだけで、私はとても幸せ。

ここに來てよかったと思える。

マルクス殿下と義妹のアニカは、男ばかりの騎士団に若い私が放り込まれたら酷い目に遭うとでも思っていたのだろうけど……第一騎士団の方たちは皆とても紳士。

それでいて気さくで、私に優しくしてくださるのだから、言うことなし!

先輩寮母の方も、この危険な辺境の地にやって來た私を歓迎して仲良くしてくれているし、危険なことは今のところ何一つ起きていない。

きっと騎士の方たちが守ってくれているからだと思う。

「シベルちゃん、食を下げるのは俺たちがやるから!」

「まぁ、すごい!」

騎士の皆さんの夕食が終わったので、私は片付けに取りかかっていた。

騎士の方たちは皆力持ち。私だったら一苦労な大きな食を數枚重ねて、軽々と運んでしまう。

ああ……捲りあげた袖から覗くたくましい腕の筋が本當にしいわ。

腕まくりありがとうございます……!!

「ありがとうございます……」

「ん? 何か言った? シベルちゃん」

「あっ、その……、本當に助かります!」

心の聲がれていた私は、憧れの筋を拝ませてもらいながら、今日も幸せな気持ちで仕事をこなす。

「――さぁ、私もいただきましょう!」

の騎士の方たちを近くで見ることができる幸せの次に私が楽しみにしているのは、ここでの食事だ。

騎士の方たちの食事が終わり、片付けを済ませたら、私たち寮母は順番に食事をいただいている。

一緒に食べることもあるけど、今夜はし忙しかったから、順番に休憩にることになっていた。

今日の夜ご飯は、兎のおを赤ワインでじっくり煮込んでとろとろになったシチューと、ふわっふわでもっちもちの丸いパン。

「あ〜、いい香り」

パンをちぎった途端、小麥のいい匂いがふわりと香って私の食を刺激する。

それをシチューに付けて食べるのが最高に味しい!

もちろん野菜も充実している。

新鮮だからサラダでいける。お塩とオリーブオイル、それからチーズを散らしたサラダはしゃっきしゃきでたまらない!

「ん~、味しい!」

味しくて、ほっぺが落ちてしまいそう。

あまりの幸福でニヤける頰に手を當てて、もぐもぐとこの幸せを噛み締める。

今の暮らしは、私にとって本當にありがたいものだ。

私はこんなに幸せでいいのかしら……!!

父が亡くなってからの五年間は、あの家で使用人たちから無視されて、妃教育と家事をするだけの日々だった。

唯一の楽しみは、寢る前にしだけ読む、騎士が登場するロマンス小説と、王宮で騎士とすれ違えるかもしれないという期待だけ。だから今はまるで天國。

「騎士の方たちは格好よくて優しい人ばかりだし、ご飯はとっても味しいし……ああ、幸せ!」

「何がそんなに幸せなんだい?」

「……っレオさん!」

誰もいないことに油斷して、思わず心の聲がれてしまった。

とくに語尾を強めに発していた私の背中から聲をかけてきたのは、レオさんだった。

驚いて振り返ると、私の反応にレオさんもし驚いたようにはにかんでいた。

黒々とした前髪の下、青空のような碧眼が、整ったお顔の中で私を見つめている。

よかった、どうやら最初のほうは聞かれてないみたい……!

「大きな聲を出して失禮しました。レオさん、どうかされましたか?」

「ああ、何か飲もうと思って」

レオさんはもう食事を終えているはずだ。

それなのに、食堂で一人、食事をしていた私のところにやって來た彼に、どうしたのかと尋ねてみるとその返答。

「今ご用意しますね」

「いや、君はそのまま食事を続けてくれ」

「でも……」

「いいからいいから」

立ち上がって何か飲みを用意しようとした私にそう言って、レオさんは自分でカップにミルクを注いだ。

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