《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》14.そうでなくては困るのだ。※王子視點
ああ……なんということだ。
「こんな生活、もう嫌!!」
「大きな聲を出してはなりません!」
「もう限界よ!! こんなの辛すぎるわ!!」
真の聖として新しく僕と婚約したのは、シベルの義妹、アニカ・ヴィアス。
早速始まったアニカの妃教育の様子を窺いに部屋を訪ねてみたら、すぐに彼と教師のわめき聲が耳に飛び込んできて、僕は頭を抱えた。
「あっ! マルクス様! 助けてください!!」
「えっ?」
「殿下からも言ってくださいませんか! アニカ様は何度教えても同じところで間違えるのです! 集中力もやる気もまったく窺えません!」
「貴が厳しすぎるのよ!」
「ああ……、そうか……」
困った。本當に困った。
二人から同時に別のことを言われて、僕はただただ苦笑いを浮かべながら一歩を後退させた。
これまで聖は姉のシベルだと思い、彼が將來の王太子妃となるため妃教育をけてきた。
子供の頃から何年もかけて覚えさせてきたそれを、突然アニカに教えようというのだから、無茶をしているのはわかる。
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だが、シベルを追放する前に、アニカにはしっかり伝えてある。
將來僕と結婚して王太子妃になるために、厳しい妃教育をけなければならないことにアニカは納得したのだ。
そのうえで、彼は僕との結婚をんでくれた。
シベルは一度も言ってくれなかったが、アニカは僕のことを「してる」とも言ってくれた。
シベルより可げがあり、既に聖なる力を使ったことがあるらしいアニカとの結婚を、僕は喜んでけれた。
聖はヴィアス伯爵の実の娘であるシベルだと思ってきたが、予言者は彼だと斷定はしていない。
それにシベルは聖らしいことを一度もしたことがなかった。
だからヴィアス夫人とアニカに、真の聖は妹のほうだったと言われて、深く納得したのだ。
「アニカ様! そのようではとても王太子妃としてやっていけませんよ!」
「私は聖なのよ!? 聖なのだから、無條件でマルクス様と結婚できるはずでしょう!?」
「まぁ! それでは、妃教育を學ぶ気はないとおっしゃるのですか!?」
「そうよ、厳しすぎるのよ!」
「……っわかりました。それではわたくしにできることはもうないようですので、失禮致します!」
「ああ……そんな、待ってくれ――」
また、教師が一人辭めてしまった。
アニカが妃教育を始めてひと月で、既に何人もの教師が「お手上げだ」と言い、辭めている。
しかし聖といえど、王太子妃になるのならそれなりの教養やマナーが必要だ。
これはアニカが恥をかかないためでもあるのに。
困った。本當に困った……。
――僕には腹違いの兄がいる。
兄は父である國王の人が産んだ子だ。
だから王位継承権第一位は僕にあるのだが、僕はまだ立太子されていない。
正妃の息子である僕が間違いなく次期國王であると思っていたのだが、近頃よく、兄が王位を継ぐのではないかという噂を耳にするようになった。
五つ年上の兄とは、昔からあまり顔を合わせることがなかったが、母譲りの金髪の僕と違い、兄は曽祖父譲りの黒い髪をしている。
この國では珍しいだった。
曽祖母は聖だった。つまり、曽祖父は前聖と結婚している。そして二人はこの國の発展と太平に盡力し、民からとてもされていた名王だった。
しかし、兄は人との間に生まれたせいで、城での居心地が悪かったのだろうし、母も僕と兄を會わせたがらなかった。
父は人と兄のために、王宮の敷地にわざわざ別邸を用意した。
兄はほとんどをそこで過ごしていたのだ。
それに、十五歳になるとすぐに騎士団に団したと聞いている。
王族のくせに本気で騎士になるなんて、僕には考えられないことだった。
だが、まぁ……この國の次期國王はこの僕だ。
だから、たとえ兄が死んだって、構わないのだ。
僕さえ生きていればそれでいい。
誰もがそう思っているに違いない。……と、ずっと信じていた。
兄は外國を渡り歩いていると聞いている。
今どの部隊にいて、どこでどうしているのかは知らないが、たまに耳にする噂では、騎士としての腕を相當上げているのだとか。
僕はもう二十歳になったというのに、なかなか立太子されないのは、シベルが聖としての力を解放していないからだと思っていた。聖の力が解放され、國全が平和になり、僕が聖と結婚すれば――父も僕を王太子にしてくれるだろう。
そう信じていた。
だから真の聖が妹のほうだと聞いて焦った僕は、ろくに調べもせずにシベルを辺境の地、トーリへ追いやった。
シベルが聖の力を使っているところなど一度も見たことがなかったが、アニカが聖の力を使っているのを、母親が見たらしい。
それを聞いて、思わず安堵してしまった。
更に、アニカが真の聖だとわかると、シベルはアニカをいじめるようになったというではないか。
ヴィアス伯爵夫人が調べてくれた報告書を読み、それも深く納得した。
シベルがアニカに嫉妬しているというのは、その現場を見なくても説得力があったのだ。
だから、僕は間違ってなどいない――!
だが妃教育が始まると、アニカは早々に文句を言い、もう嫌だと喚き散らしている。
それでも彼が言うように、聖としての力があれば、僕の立太子もなんとかなるだろう……そう思ったが、彼はその力も未だに見せてくれていない。
いつも「疲れてしまって力は使えません」と言うのだ。
まぁ、とりあえず王都は平和だし、まずは王太子妃として、もうし相応しい振る舞いをしてもらうのが先だと思った。
せめてシベルに並べるくらいは頑張ってもらわなければ、僕の婚約者として連れ歩くのも恥ずかしい。
……大丈夫。彼も高位貴族の娘だ。
の繋がりはないが、シベルと同じ家で育った妹だ。
もう子供ではないのだし、淑として頑張ってくれるはずだ。
とにかく、今の僕はそう信じるしかなかった。
……というか、そうでなくては、困るのだ。
しずつ進んでいきます!
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