シベルちゃんとひと月過ごして、わかったことが二つある。

まず、彼が聖であるために威張り散らし、義妹をいじめたというのは噓であるということ。

むしろ酷い目にあっていたのは彼のほうだろう。

いつも明るく、謙虛で健気でひたむきな彼が誰かをいじめるとは到底思えないし、高位貴族であれば當然の食事や部屋にもいちいち素直にし、謝している。

それによく働くし、俺たち騎士のことをとてもよく考えた食事メニューを提案してくれているという話もエルガから聞いた。

休みの日だって、ゆっくり寢ていればいいのに早く起きて朝食の配膳を率先して行い、とても嬉しそうな笑顔でにこにこしながら俺たちのことを見守ってくれるのだ。

あの笑顔が噓だとは、とても思えない。

彼はいつだってとても健気で、一生懸命なのだ。

だからあのシベルちゃんが義妹をいじめたというのは、何かの間違いだろう。

そしてもう一つのわかったことは、そんなシベルちゃんに俺は惹かれているということ――。

「おーい、団長ー、聞いてますー？」

「あ？　ああ……、悪い。聞いてなかった」

その日は仕事を終えた副団長のミルコと、第一騎士団の若きエース、ヨティの三人で俺の部屋に集まり酒を飲んでいた。

晝間のシベルちゃんとのデートを思い出して、彼のことを考えてぼんやりしていた俺に、ヨティが不思議そうに呼びかける。

「どうしたんすか？　なんか悩みっすか？」

「いや……」

「あ、わかった。その顔はっすね！」

「え？」

「図星だ。相手も當てましょうか？　ずばり、シベルちゃん！」

「な……っ、なぜ……！」

ヨティは先の跳ねた金髪を指でくるくる巻きながら、片目を閉じてにやりと口角を上げた。

「やっぱり！　可いっすよね、シベルちゃん。元気いっぱいなのに、なんかのほほんとしてて。それに料理も本當に味いし、俺たちのことをいつもあたたかく見守ってくれてて」

ヨティの口から語られた言葉に、俺のはどきりと跳ねる。

「ヨティ、君は彼のことが好きなのか！？」

「好きっすよ」

「！」

間を開けずに答えられ、俺の頭に衝撃が走る。

「…………そう、か……」

「いや、皆好きでしょう。副団長も好きっすよね？　シベルちゃんのこと」

「ああ、好きだな」

「なに……っ！？」

いつもクールで冷靜で、にあまり興味を示さないミルコでさえ、ヨティの問いに迷わず頷いた。

「そ、そうか……そう、なのか…………」

「いや、だからあの子のことを嫌いな奴なんて、ここにはいないと思いますよ？」

「……ああ、なんだ。そういう意味か」

「あ、やっぱり団長は違う意味で好きなんすね」

「……！！」

からかわれている……。

俺より五つも年下のヨティは、にやにやと口元を緩めて楽しそうにウイスキーをあおった。

彼の言う通り、俺は彼を気にかけて目で追っているうちに、必要以上に彼に惹かれていっている自覚はある。

「しかし珍しいな。レオがに惚れたか」

「いや、まだそうだと決まったわけでは――」

――ないか？　本當に？

付き合いの長いミルコは、俺のことをよく知っている。

俺はこれまで騎士として、剣のことばかり考えて生きてきた。

父はたまに結婚を急くような手紙を送ってくるが、両親とはしばらく會っていない。

そもそも俺は、父の人の子で、正妻の息子ではないのだ。

だから跡を継ぐのは正妻の子である弟だし、俺は家には居づらく、若くして騎士団に団した。

やにはあまり興味がなく、誰かに深りしたこともない。

そんな俺だが、彼には惹かれるものがある。

彼のような明るいと結婚したいと思わなくもないが……

もし、彼が本當の聖であったとしたら――？

彼がプレゼントしてくれたペンダントにれながら、ふとあのときのことを思い出す。

彼が店主に言われてこの石を握り祈ったとき、彼のが微かにを放ったのだ。

あれは、聖の祈りの力ではないだろうか……？

これでも一応、その手の教育はけている。

そのとき聞いたことがあるのだ。

実際に見たことはないが、あのはまさにそれではないのか……？

俺にはまだ確かめるがないが、そうなると他にも辻褄が合ってくる。

彼がこの地に來て以來、魔が大人しいこと。

彼が作った食事を食べるようになってから、俺たちは疲れづらくなったこと。

それらはすべて、彼が聖であれば説明がつくのだ。

単なる偶然とも思えたが、先ほどのあれはどう説明するのだ。

「……まぁでも、彼はいい子だ。レオにも合っていると、俺は思うぞ」

「そっすよね。いいじゃないっすか！　でも団長のにするなら早いとこ公表しないと、他に手を出されちゃいますよ」

「なんだと！？」

ヨティのよからぬ言葉に、既に彼にはそのような相手がいるのかと聲を上げると、彼は怯えたように「冗談っすよ……」と呟いた。

つい力がって怖い顔をしてしまったようだ。

しかし立場を考えると、彼とのことはもうし慎重にならねばなるまいな……。