「わっ……誰かと思いました」

お風呂上がり。

新しいドレスに著替えて所を出ると、待機していたシルフィが口に手を當てて言った。

「そ、そんなに？」

「はい。おの汚れも取れて、髪も艶々になって……見違えました」

サバサバとした言いのシルフィだからこそ、心の底からの言葉であることがわかった。

「髪の艶に関しては、シャンプーのおかげね」

「わかります。私も初めて使った時には、こんな素敵なものがこの世にあるものかと銘をけた覚えがあります」

髪にしっとり馴染ませて水で流すと、信じられない艶が出る魔法のアイテム、シャンプー。

シルフィ曰く、油にココナッツミルクやハチミツなどを混ぜて作るものらしい。

（油と混ぜると言うことは、自由に香りを変えられるということよね……ラベンダーとすずらん……いえ、ネメシアとかも……）

アメリア調合癖が疼き始めた。

いつか、分の正確な配合率や調合工程を調べて、自分のオリジナルのシャンプーを作ってみたいと思った。

「あとはたくさん食べて、付きを良くしていかないとですね」

アメリアの軀を見回しながらシルフィが言う。

「お、お腹を痛めない範囲で頑張るわ……」

「そして何よりも、ドレスとアクセサリー。どこかのタイミングで買いにいかないとですね」

アメリアが著ているドレスは実家から持ってきたものだ。

ドレスなんて高価なもの、実家では滅多に買い與えてもらえなかったし、買ってもらえても安くて地味なものばかりだった。

持ってきたドレスは全て、お世辭にもお灑落とは言い難く、なんならよれよれで所々燻んでいる。

とても、公爵夫人が著用しているドレスとは思えない。

「でも、私なんかが著飾っても……」

「何を仰るんですか」

視線を落として自信なさげに言うアメリアの手を取って、シルフィが言う。

「アメリア様はベースがとても良いのですから、しっかりと標準まで重を戻して、ちゃんとおめかしすればきっと……いえ、絶対に化けます」

「そ、そうなの……？」

「ええ、間違い無いです。私が保証します」

真面目腐った表で深く頷くシルフィはお世辭を言っているとは思えない。

ただ今まで、醜穢令嬢やら骨やら散々な言われようだったから、自分の容姿を褒められるなんて初めてで、実が湧かない。

（でも……）

「……ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいわ」

心の底から、そう思った。

自己肯定が地に落ちているアメリアにとって、誰かに褒められると言うのは天にも昇る気持ちにさせてくれるものだった。

意図せず、頬がにやけそうになるのを誤魔化すように、アメリアはシルフィに背を向ける。

「さて、一旦部屋に戻りましょう」

「かしこまりました」

自室への帰り道は、行きと比べると足が非常に軽いアメリアであった。