《【書籍化・コミカライズ】誰にもされなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺されていました〜【二章完】》第26話 これで、良いよね?

「……」

シルフィが部屋を出ていき、一人殘された後。

「いやはしゃぎすぎでしょ私!」

ベッドにダイブし、足をジタバタ。

顔を真っ赤にして枕に顔を埋め「ううぅぅうううぅ〜〜〜!!」とを捩らせるアメリアの姿は浜辺に打ち上げられた魚の如し。

冷靜になって気づいた。

久しぶりの植採集でテンションがおかしくなっていた。

ざっと見積もっても神年齢が七歳くらいまで落ちていたことだろう。

どこに行った私の十年。

ひとしきりぴちぴちした後、枕から顔を上げたアメリアがぽつりと呟く。

「こんなところ、ローガン様には見せられない……」

他者との関わり方やの制が下手だという事がどんどん呈してしまっている気がする。

おそらく、長いあいだ隔離されてひとりだった弊害だろう。

「妻アメリアは、ヘルンベルク家の品位を落とさぬように盡力する……」

ローガンとわした契約書を諳(そら)んじて、ぱちんと両頬を叩くアメリア。

「しっかりしよう、ちゃんと大人っぽく振る舞おう……!! こんな子供を公爵家夫人として認めるわけにはいかん! とかなったら目も當てられないからね」

おっちょこちょいなところを見せない宣誓に続き、大人っぽく振る舞おう宣誓であった。

大きく息を吐いて、頭を切り替える。

ごろりんと、うつ伏せから仰向けの勢になって、呟く。

「……嬉しかったな」

採集中、オスカーの腰の薬を作った記憶が蘇る。

オスカーが腰を痛そうにしているのを見たら、気がつくといていた。

この家の人たちの役に立ちたい。

そんな思いがアメリアを突きかしていた。

直に、オスカーの腰痛は回復に向かうだろう。

効果は母で実済みだ。

そしてそれは、自の調薬スキルが確かなものであることの証明にもなる。

──お母さん、お父さんやメリサに魔法は教えてあげないの?

──……ここの人たちにはダメよ

──どうして?

──ここの人たちは……この魔法を悪用して、良くないことをするからよ

き頃、母に言われた言葉。

その意味が、今ではわかる。

魔法……自分の調薬スキルは、実家の人たちに明かしてはいけない。

ゆえに、この能力のことをずっと隠して生きてきた。

ヘルンベルク家に嫁いでからも、スキルのことは伏せておこうと考えていた。

しかし。

──ハグル家には、著名な調合師がいるのか?

初日の夜。

が調合した薬で腹痛から回復した後、ローガンに問われて迷った。

スキルのことを明かすか、否か。

最初は伏せようと思った。

まだ會って間もないローガンに全幅の信頼を置いているわけでもない。

もしかすると、スキルを何かに利用されるかもしれない。

でも……。

──汚れたものを拭き取るのがハンカチの役目だろう。急な話で張をしているのだろうが、仮にも私たちは夫婦になるなのだ。こういった遠慮はしなくていい。

零してしまった紅茶を、自分のハンカチで拭いてくれた。

──流石に初日くらいはな。明日からは同席できるかはわからん

多忙の合間をって夕食の時間を作ってくれた。

父や義母や義妹や侍からはちっともじられなかった、他者に対する思いやり、

そういったものを、ローガンからじて。

(この方には噓をつきたくない……それにこの方なら……きっと大丈夫)

そう思った。

そこに理屈なんてない、が直的に判斷した。

それが早計な判斷だとしても良い。

この人の前では自分を偽りたくない。

そう、思ったのだ。

……自分の調薬スキルが、客観的に見て凄いものだとけ取られた事は、予想外ではあったけども。

「お母さん……」

──將來、ここの人じゃない、アメリアのことを大事にしてくれる人が現れたら……その時は、たくさん魔法を使ってあげて。

ちらりと、鏡臺に立てかけられた亡き母の小さな肖像畫を見て、アメリアは言葉を溢す。

「これで、良いよね?」

肖像畫の中で微笑む母は何も言わない。

だけど。

良いんだよって、言ってくれた気がした。

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