《【書籍化・コミカライズ】誰にもされなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺されていました〜【二章完】》幕間 メリサという侍

「全く……なんで私がわざわざ出向かなきゃいけないのよ……」

晝下がりのハグル家。

本邸の慣れ親しんだ大きな玄関を開け、一人のが外に足を踏み出した。

眩いに鬱屈とした溜息を吐き、庭園を気力無さげに歩く彼の年齢は三十も後半を差し掛かろうと言ったところか。

の皺や弛みは厚化粧でカバーしているが、若干ふくよかになりつつある型は誤魔化せていない。

首の辺りで先が跳ねたダークブラウンの髪と、頬のそばかすが特徴的なだった。

の名はメリサ。

ハグル家に仕え、長い間アメリアの擔當をしていた侍である。

「そもそも支度金を忘れるなんて……何を考えてるのかしらあの愚図は……」

吐き捨てるようにメリサは言う。

隠す事なく全から面倒臭いオーラを撒き散らすメリサは、お世辭にも『出來るメイド』には見えない。

事実、彼は仕事ができない部類の人間だった。

仕事が出來なくても謙虛さや向上心があればまだ可いものだが、彼はその逆で妙にプライド高く、自分の非を決して認めようとしない厄介な格の持ち主だった。

それゆえ屋敷の人間からの評判は頗(すこぶ)る悪かった。

それにも関わらず解雇されなかったのは、新たな雇用費用をケチるほどハグル家の財政が行き詰まっていたという、なんとも皮な理由に他ならない。

しかしキャリアは順風満帆とはいかず、ハグル家に仕えて二年目にして當主と不貞を働き離れに隔離されたソフィとその娘の世話係という、左遷とも言える采配を喰らう。

ただメリサ自、同時期に働き始めた癖に自分より仕事が出來て容貌も良いソフィを常日頃から疎ましく思っていたため、當主をし不貞を働いたと聞いた時には手を叩いて大喜びした。

その上で、半ば奴隷とも言える立場に落とされたソフィの擔當になったとなると、がひん曲がっているメリサがただただ仕事を忠実に全うするわけがない。

ソフィと、その娘のアメリアに対し憂さ晴らしとも言える仕打ちをし始めるのは、メリサの格を考えると當然の流れでもあった。

しかし、それも今は昔。

「居なくなっても迷をかけるなんて、なんて子なの……ああもう、イライラするわ……」

アメリアが數日前にあの悪名高きローガン公爵に嫁いだことから、晴れて本邸の擔當に戻されたメリサ。

しかし、やはり仕事の出來なさは健在で、そのくせ偉そうに先輩風を吹かせるため後輩から白い目で見られる事が多かった。

無駄に歴が長いにも関わらず、自分よりずっと若い侍に嘗められるというのは中々に屈辱的だ。

日々募っていくストレス。

そんな中、當主から下された『アメリアから支度金を貰ってこい』という命は……考えてみると、良い気分転換なのかもしれない。

「ええ、そうね。ちょうどいいわ」

一通り愚癡を出し切った後、冷靜になったメリサは思い直す。

……悪い方向に。

「久しぶりに、良い憂さ晴らしが出來そうね」

ニヤリと口角を歪めて、メリサはハグル家の馬車に乗り込んだ。

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