《【書籍化・コミカライズ】誰にもされなかった醜穢令嬢が幸せになるまで〜嫁ぎ先は暴公爵と聞いていたのですが、実は優しく誠実なお方で気がつくと溺されていました〜【二章完】》第55話 怒り

「それ、私にくれない?」

メリサに言われた途端、アメリアは反的にペンダントを守るように握り締めた。

途方もない後悔が到來する。

(なんで隠さなかったの……!!)

今までのメリサの行からして、このペンダントに目を付けられる事くらいし考えれば分かっていたはずだ。

これまでどれほどを取られてきたと思っているのだ。

しかしどれだけ自分を責めようとも後の祭り。

ニタニタと笑うメリサが、ずいっと掌をこちらに差し出してくる。

さあ、寄越しなさいと言わんばかりに。

実際、アメリアはメリサに言われるがままたくさんのを差し出し……いや、強奪されてきた。

痛々しい記憶がフラッシュバックする。

しでも逆らう素振りを見せたらその度に痛い思いに遭わされてきた。

ここで渡さなかったらまた、酷い目に遭わされる。

そんな恐怖がアメリアのに纏わり付く。

『早く渡さなきゃ』という思考が洗脳のように湧き出し、ペンダントを握り締める手が緩み──。

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──とても、よく似合っている。

脳裏に響き渡る聲。

──君のしい赤髪にぴったりだ。

思い浮かぶ、ローガンの笑顔。

(ローガン様からの、初めての贈り……)

一生の寶にしようと誓った、大事な大事なペンダント。

アメリアの中に、今までメリサに対し抱いた事のなかったが芽生えた。

ずっと言われるがままだった。

無く、されるがままだった。

この人には絶対に逆らえないと思っていた。

(だけど……)

思った。

強く、強く思った。

これだけは、このペンダントだけは──。

(渡したくない……!!)

ぎゅうっと、ペンダントを握り締めて。

震えるで、アメリアは言葉を発した。

「……や……です……」

思ったより小さなその聲は、メリサの眉をぴくりとかした。

「なんですって?」

低い聲で聞き返される。

恐怖で竦みそうになるい立たせ、キッとメリサを睨みつけて。

今度ははっきりと、アメリアは言い放った。

「いや……です!」

アメリアの拒否に、メリサの反応が一瞬遅れた。

何を言われたのか理解出來なかったようだった。

しかしすぐに、メリサの表がみるみるうちに怒りに染まって。

「はあああぁぁぁ!?」

どんっと雷が落ちたような怒聲。

びくりとアメリアの肩が震える。

「アンタ、自分が何を言ったかわかってんの?」

ドスの効いた聲に後ずさりそうになる。

でも耐えて、メリサの目を見據えアメリアは再び言い放つ。

「わかってます! このペンダントは……絶対に渡しません!」

ぶちぶちぶちいっと、メリサのこめかみにいくつもの青筋が浮かび、切れた。

「いいから渡せって言ってんのよ!」

渡さないのなら奪い取るまで。

これまでもそうしてきた。

が吹き飛び完全に怒りに支配されたメリサが摑みかかってくる。

「いやっ……やめてください!! やめて……!!」

アメリアは必死に抵抗するが、まだまだ栄養不足気味で小柄な格とたっぷりとエネルギーを吸い込んだ樽のボディでは歯が立たない。

あっという間にアメリアはメリサに押し倒され組み敷かれてしまう。

それでもアメリアは必死にを捩って反抗した。

「このおっ……抵抗……するなぁ!!」

アメリアに馬乗りになってメリサも負けじと手をばす。

こんな場面、へルンベルク家の誰かに見られようなら一発で不敬罪案件だ。

しかしメリサは先程まで溜まっていた鬱憤が発した上に、ヘイトの対象であるアメリアに反抗をけブチブチにブチ切れていたため正常な判斷力を失っていた

攻防はしばらく続いていたが、力でもハンデを抱えるアメリアの抵抗が徐々に弱まってきた。

「あっ……」

アメリアの細腕から力が抜けた一瞬の隙をついて、メリサがペンダントのチェーン部分を鷲摑みにする。

「いやっ……離して……!!」

「こ、こら! くな!!」

ペンダントを外そうとするメリサに、アメリアは力を振り絞って抵抗する。

そのせいでなかなか外れない。

もどかしさ、焦れったさがついに臨界點を突破した。

くなって、言ってるでしょう!!」

その剎那。

ぶちぶちいっと、ペンダントのチェーンが嫌な音を立てて引きちぎられた。

「──っ!!」

アメリアが言葉にならない悲鳴を上げる。

「わっ……!!」

勢い余って重心が後ろにずれたメリサはつい、今しがた摑んだペンダントを離してしまった。

ペンダントが宙を舞い、重力に引かれて落ちていく。

きん、きん、ぱきんと、クラウン・ブラッドが石作りの地面を転がる。

その音に混じって。

ちりん、ちりんと、寶石とは違う音がどこかから聞こえてきたような気がした。

「はあ……はあ……全く、よくも手こずらせてくれてわね……」

メリサが立ち上がり、ペンダントの元へ。

ペンダントを奪われてしまったショックで、アメリアは呆然としていた。

「そうそうこれがしかったのよ、これが……ああ、綺麗……」

うっとりと、拾い上げたペンダントに見惚れるメリサ。

もう完全に自分のものにしてしまっているらしい。

「あら?」

メリサしげしげと、寶石を見つめる。

アメリアも弱々しく見上げると……クラウン・ブラッドの一部がほんのしだけ傷ついてしまっていた。

「ちょっと傷になってしまったみたいだけど、目立つほどじゃないしいいわね。まあ、どうせその辺で拾ってきた安なんだし」

(安だなんて……!!)

メリサは何を勘違いしているのかは知らないが、それはブラッドストーンの中でもさらに希なクラウン・ブラッドの寶石だ。

しかしそんな市場的な価値よりも、アメリアにとって大事な付加価値があった。

(ローガン様からの……)

大事な大事な贈りを、奪われた挙句に傷をつけられてしまった。

その事実に、アメリアの中では涙が滲むほどの悲しさと辛さが渦巻く。

「ほら、いつまで寢転がってんの? さっさと屋敷に案してちょうだい」

盜人猛々しくメリサは言う。

ペンダントを手にれて満足したのか、これ以上は追撃してくる様子がない。

その事にアメリアは安堵では無い、別のを抱いた。

今まで自分の中に手持ちがなかったと思い込んでいた

自分の意思で、他人に反骨心を剝き出しにし初めて抱いた “怒り“だった。

わなわなと拳を震わせながら上半を起こし、アメリアはメリサを睨みつける。

「何よ、その目は?」

視線に気づいたメリサが眉を顰める。

「……さない」

「は?」

「貴方だけは、絶対に許さない!!」

アメリアがぶと、メリサは驚いたように目を見開いた。

しかしすぐに、忌々しそうに表を歪めて。

「公爵家に嫁いだくせに、まだ禮儀がなっていないようね」

無禮者はどっちだ、とアメリアが口にする前にメリサは膝をついた。

そして、アメリアのぐらを摑む。

反対の手が、宙に向けてく。

過去の痛みが思い起こして、アメリアは萎してしまう。

(ローガン様……!!)

アメリアが目をぎゅっと瞑ったその時。

「何をしている!?」

アメリアが今、一番聞きたかった聲が鼓を叩いた。

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