《【書籍化】キッチンカー『デリ・ジョイ』―車窓から異世界へ味いもの輸販売中!―【コミカライズ】》異世界三者會談(3)

「…これは、なんだ?」

「それはピーラーと言って、手軽に皮が剝けるアイテム」

レイモンドはキッチンカーから離れると、俺たちとは言葉が通じない。だから、その時に々とメモをしておいて、営業中に俺にメモを見せて解答を得ることを繰り返していた。

まだこちらへ來て數日だから、さすがに日本語を覚えるまでにはいかないが、謎のアイテムや裝置の使い方を知っておけば、後はジェスチャーでと。そうすると、単語も早く覚えるし、その流れで言葉を覚える。

でもな、俺はあまりそれを推奨していない。

彼は、ここへは避難して來ただけだ。長居は無用。あちらの危険が去ったなら、さっさとお帰り願おうと思っている。それをまだ告げてはいないが、俺の中では決定している。

彼をこのまま日本に住まわせる。なんてことは、絶対に無理だ。戸籍がまず無い。醫療費だって高額になる。長く住めば、家に閉じ込めておく訳には行かなくなる。だからって街に出して、見るからに外國人の彼に、警察が職質してきたら?國だと捕まっても、帰される國なんてこの世界にはない。

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今だって、出來ることなら家の中に引き籠っていてしい。看板イケメン計畫なんてふざけちまったけど、この狹いキッチンカーにいてもおかしくない狀況を作るため、仕方なく夏休みの留學生を裝ってもらっただけ。だって、マジで仕方ないだろう?営業時間のキッチンカーの窓からしか、あっちに接できないんだから。

それに、俺が告げなくても、彼はちゃんと彼の異世界を心配しているし、戻る時期も見計らっている。

窓をしだけ開けて、向こうを伺っている。そして、昏い顔で首を振るんだ。人の気配はなく、窓から出ようにも瓦礫が邪魔をして出られない。足で蹴ったりしてみたが、あまりに瓦礫が重すぎて、何度試しても撤去は無理だった。

帰りたいのに、帰れない。その気持ちのまま、彼はここでしばし避難生活をしている。

家族が王都にいるんだ。安否を確かめたいだろうさ…。

だから、ここに長居はさせられないんだ。

◇◆◇

大鍋一杯の、豚

それもナスや白瓜やかぼちゃがどかどか盛りだくさん。だが、豚の切り落としがふんだんにっている。味は當然、味噌仕立てだ。七味をちょろっと掛けて食うと、味いんだがなー…。

安価で大勢に行き渡る量で、味は薄味で香味や香辛料をなるたけ使わないとなると、大量買いで安く仕れられる材料で、それに合わせた大鍋料理となる。

ふっと頭に浮かんだのは、給食だった。

給食なんて遠い昔過ぎて―――なんてことはなく、俺は中學まで給食が出されたし、専門學校でも給食メニューの実習をしたりした。だから、すぐに浮かんだメニューが、味噌味のだった。

でも、野菜だけの訳には行かないから、切り落としだがをどっさりれた。名付けて夏野菜豚だな。

営業用の下拵えがあるってのに、山の様な野菜を切るのは大変で、ひーひー言ってた俺を見かねてレイモンドが頑張ってくれた。凄く真剣な顔で包丁を手にかぼちゃを切り刻む彼は、なんだか凄く手際が良かった。

さすが戦士!

出る直前まで火を通し、キッチンカーへは頑丈に作ったストッカーに納めて固定。しだけ早めに拠點へ行って、営業前に素早く渡す。

「じゃ、渡すぞー。レイ、頼む」

渡すのもレイモンドにお任せですが、なにか?

俺の腕じゃ窓際のカウンターの上まで持ち上げられても、窓の外へ移できん!途中で腕がプルプルしだして、手が離れて落としそう。では、俺は何をしてるかと言えば、料金計算してるのだ。

「持てるかな?」

「これくらい、軽いものよ?あー…いい匂い…」

「ああ…」

心なしかレイモンドの返事が萎えた。怪力神様を前に、夢から覚めたか?勘違い戦士は。

レイモンドが両手でツルを持って窓の外へ下ろしたが、それをフィヴは片手でけ取った。それも、本當にひょいっと持って。大鍋は無事に妙なへ変化することなくフィブの手に渡り、彼も大満足の様子だった。

しだけ呆然としているレイモンドの手に、フィヴが貨幣を乗せる。お、今度は黃の石が二枚ってる。

け取った手を、そっと窓からこちらへ引くと。

「おおーっ!何度見ても、やはり凄いなっ」

いつも自分が支払っていた立場だったから、今度はけ取る立場で新鮮なんだろ。目を見開いて、変わる瞬間を楽しんでいる。

さすがに札には変化せず、500円玉で換金されていた。何が基準なんだか、さっぱり分からん。でも、これは大変なことなんだ。俺たちは、異世界から貨を消してるだぞ?マネーロンダリングみたいなもんなんだぞ?それに加えて、料理を輸…。

「鍋は空になったら持って來てくれよ。それと、次はどうする?」

「毎日じゃお金がもたないから、明後日でいい?」

天井に張り付けてあるカレンダーを見上げ、休日じゃないことを確かめて頷いた。

「今度は、魚にを付けて揚げる料理になるが…」

「うん。それなりの量があればいいわ。サカナ食べてみたい!」

「おう。じゃあな!好評だったら教えてな~」

「了解。ではまたね」

早く食べさせたいからと、フィヴは雑談することなく、軽々と鍋を片手に持って駆けて行った。その後ろ姿を二人で見送り、窓を閉めながら心で祈った。

あの料理を持って戻り、配りながら事を打ち明けると言うことになった。俺たちが応対するのは、フィヴをれて三人のみ。それ以外の人が來ても、個人的に商売しないこと。

そして、この事はフィヴがいる避難地區だけの。以上の約束が守れないなら、俺は売らないとフィヴに言った。

人が好いとレイモンドは言ったが、こと商売に関することなら非になるよ?

流は持ちたいけど、それはひっそりこっそりでだ。別に異世界で飯屋やりたい訳じゃないんだしな。

さーて、巧く行くかな?

なんて、俺たち二人は心配しながらも、フィヴなら巧くやると気楽に考えてた。

それどころじゃないのに――――音もなく嵐が近づいていたのに。

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