《【書籍化】キッチンカー『デリ・ジョイ』―車窓から異世界へ味いもの輸販売中!―【コミカライズ】》最終兵

レイモンドの魔法を見れるかと、俺とフィヴは期待に目を輝かせて彼を注目したが、殘念なことにお預けになった。

「午後からの営業はどうするんだ?」

腕組みをして俺を見ながらレイモンドが告げたその一言で、一気に頭が冷えた。時計に見れば、もうすぐ出発しなけりゃならない時間だった。

うぎゃー! 飯食ってねぇ!とびながら慌てて午後の準備を開始した俺とフィヴの前に、レイモンドが家から何やら持ってきた。手渡されたスーパーの袋の中を覗くと、なんとパックにれたデカい卵焼きが鎮座していた。

「これ…」

「トールのお婆様の手帳を見て、作ってみた。味見をしてみてくれ」

心なしか自慢げにを張っているレイモンドを呆然と見て、嘆と悔しさを一度に味わった。

うぐーっ!負けれてられん!俺はプロだぞ!進あるのみ!

「おう!ありがとな。じゃ、いってきます」

袋をフィヴに渡して運転席に乗り込むと、見送りのレイモンドに笑顔で手を振って一路第二拠點へと出発した。

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開店準備をしながらフィヴの様子を窺うと、やはり窓の外が気になっているらしく、レイモンドの差しれを口に運びながらも目だけは窓へと向けられていた。

ところで、レイモンド作の卵焼きだが、これが旨い。ばーちゃんのレシピを忠実に守ったからだろうが、あれは家庭料理のレシピだから調味料なんて目分量を『大これくらい』程度のアバウトな記載なのに、懐かしいばーちゃんの味がした。卵焼きと言うより、出巻き卵なんだがな。

しかし、いきなりレイモンドはどうしたんだ?まぁ、料理本やばーちゃんレシピをメモってたから、知識収集してるのは分かってたけど、自分で料理するとは思わなかった。

「はい、オムナポ二つにレタス巻き五つ、お待たせしました~」

稚園児と手を繋いだお母さんに、袋を渡してお代を頂く。可い娘さんが、俺に手を振りながら帰っていった。

「フィヴ、いいぞ。まずは細く開けて確認な」

俺の聲を合図に、パーカー姿のフィヴがを屈めて窓へ寄っていく。カウンターに上を伏せて、恐る恐る窓を引く。力の加減で開きすぎるのを恐れてか、僅かに開いた隙間に指を突っ込んで調節しているのに忍び笑った。

「……誰もいない…何もない」

隙間に片目をくっつけて覗くフィヴの呟きは、抑揚を欠いた力ない聲だった。

『何もない』ってのは、討ち捨てられていた仲間ののことだろう。敵に攫われたか、あるいは獣に…。

またしだけ窓を開き、今度は鼻先を突き出した。この窓は、こっちの匂いはらすけど、向こうの匂いは遮斷している。だから、窓より先に鼻を突きださないと匂いは嗅げない。

「竜種の匂いはしない…あぁ…誰の匂いも…」

そこまで言って聲を詰まらせたフィヴは、そっと顔を引っ込めるとうつ向いたままじっと何かを堪えていた。

俺はあえて営業窓から外を眺めて気づかない振りを決め、フィヴやレイモンドの世界へと思いを巡らせた。

いきなり暴れ出したドラゴン。理由も告げずに一方的に宣戦布告した竜種の王。そんな二つの世界と繋がったこのキッチンカー。そして、俺たちは出會った。

言葉通りの窓越し外で、個人的な繋がり以外に何もまなかったのに、気づけば彼らを助けていた。繋がっていなかったはずのドアから。何度試してもれなかったはずの窓から。俺が心の底から助けたいと思ったからなのか?と、しだけ自賛してたけど、ここに來てどーも神様の意志だったみたいな予兆が現れた。

あのパズルを當て嵌めて、なんとなくだが浮かんできたのは神の目的だった。

―――月夜の晩に、両方の窓を開けて、二つの世界を繋げろ。そのためには、窓を塞ぐ瓦礫を撤去しろ―――

ってじか。

それで何が起こるか分からないが、それをしないと大変な―――誰かが狂って世界が終わる―――とあの子供たちは言っていた。

終わるのは、この両方の世界に起こった竜やドラゴンたちの暴のせいか?その原因が、何者かが失敗した結果。

いったいなんだってんだろうな。

「とにかく、明日だな…」

無意識に呟いた。

◇◆◇

定休日に、拠點にキッチンカーを駐車させたことは何度かあった。賃貸契約は期間と時間設定なんで、その間なら定休日でも気兼ねなく駐車できる。ただ、キッチンカーを見て買いに來るお客さんがいるから、定休日だと告げて斷るのが申し訳なく思うこともしばしばあった。

できるだけキッチンカーをビルの外壁へ近づけて停め、営業側の窓とフロントガラスには、定休日の札をかけて、窓全を吸盤付きのバイザーで覆う。

そんな狀態にして、やっとフィヴが立ち上がった。

俺はかに道路通違反してきた。だって、このキッチンカーは二人定員だが、今日は三人。を隠したまま車の揺れに対処できるのはフィヴだったため、彼は小さくを丸めて店舗の隅に納まっていたのだ。

「どっか打ったりしてないか?」

「ええ、大丈夫!外を見れなかったのが惜しいだけ~」

「よし!今日はフィヴに活躍してもらうんだ。でも、無理無茶するんじゃねぇぞ!」

「はーい」

「フトンはここに置いておくぞ。それと…」

計畫に従って、用意してきた道を設置する。し草臥れていた敷布団を持ち込み、厚めの長い足場用の板を、両方の窓のカウンターに渡した。二歩あるか無いかの助走距離だが、フィヴはどうにかすると言い切った。

計畫なんて言ってるが、やることは単純だ。

獣化したフィヴが、助走を付けて両足で瓦礫にキックを喰らわせる。その際、窓枠の上を爪を立てて摑まるけど、背中から下へ落ちることも考えて、俺とレイモンドは板の上にすぐさま布団をり込ませ、勢いで窓から飛び出しかけるフィヴを捕まえること。あっちへ落ちても、戻ってこられるか分からないんだ。レイモンドなら仕方ないね、で済むが、フィヴが落ちたら一大事だ。

板の下に機材用のラバーシートを何枚も敷いて高さ調整とり止め固定し、何度もフィヴに上がってもらって確かめる。

「準備完了だな。フィヴ用意だ」

時間がかかる彼には獣化を始めてもらい、その間に窓の先の確認をする。いつも通りに細目に開けて、覗き見で確認。人の気配や音を、顔を出して探る。

「よし、誰もいない。妙な音も無しだ」

レイモンドは瓦礫を軽く叩いてから、二枚のガラスを両方へスライドさせて間口を一杯に開いた。

振りかえると、獣化をおえたフィヴが反対の窓の板の上に立っていた。

そこには、全く知らない生きがいた。

俺のタンクトップと短パンを履いてもらっているが、それが奇妙なくらい似合わないしい獣がいた。

を銀に包み、爪が貓のように僅かに飛び出して拳を作る度に出たり引っ込んだりしている。あの綺麗な長い髪と貌はそのままなのに、額や頬まで被で覆われている。

そして、なんと言っても瞳だ。オッドアイがまさに貓の目の様に縦長になっていて、薄暗い車でぼんやりっていた。

「じゃ、いくわよ!!」

誤字訂正 2/21

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