９・１７　こっそり加筆修正。

執筆中の保存ミスに加え、UP後の確認を怠ったために後半が保存されないままの未完をUPしてしまいました。

読んでくださった皆様、戸わせてしまい申し訳ありません。

想欄でご意見してくださった方々、ありがとう！　気づかないまま時間を過ごすところでした。；

という言い訳を添えて、加筆修正させていただきます。

ごくりとが鳴った。

震える指先でスタートボタンを押し込んでエンジンを始させると、キッチンカーを発進させた。

焦っている時ほど運転は慎重に！　を唱え続けながら、どこにも寄らずに自宅を目指す。

視線は周囲に向けてるのに、脳をついさっき目にした畫像がちらつく。

それは、中井がＬＩＮＥにった一枚の畫像だ。

対象がアップのために背景がすこしだけしかってなかったが、青と白のストライプのベッドカバーに地元のＦＭ局のとある番組でプレゼントするステッカーがられた傷だらけのノーパソは、まぎれもなく中井の自室だって証拠だ。

『これ何！？　いきなりベッドの上に現れたぞ』

そんな一文と共に、畫像の中央には三十センチちかくある何かのぶっといかぎ爪。

現代日本の技なら、そんなモンは作ろうと思えば作れるさ。ただ、中井が金をかけてまで俺にそんな悪戯を仕掛ける理由が思い至らねぇ……。

と、助手席に投げ置いたスマホが、また著信音を鳴らす。ちらっと見れば、今度は野々宮さんから。

――これは、もう……。

著信をあえて無視し、とにかく落ち著いてける自宅に向かって、黙々とアクセルを踏んだ。

んで、俺は走り込んだ茶の間で倒れ込んだ。

「……なんだってーの！？」

茶の間の真ん中に置かれたちゃぶ臺の上に、見覚えのある黒いハンドルと何者かのデカい牙。そして……。

俺は反的にそれらに向けてスマホのシャッターを切り、弾けるように家から走り出た。

逃げる。車に乗らず、ただ走る。

切れる息にかまわず野々宮さんからのＬＩＮＥログに目を通し、ＵＰされてる畫像を見てイラっとした。

「なっ、なんであっちは素樸なじのケーキで、俺の所にあんなもんを寄こすんだよっ！」

腹立たしさに押されて撮影した畫像をＵＰし返した。

間髪れず、大笑いスタンプが送られてくる。変顔貓やラクガキみたいなひょろっとした野郎が、腹を抱えて笑っている。

もちろん、デカい笑い聲の擬音付きだ。

俺がＵＰした畫像の中心で、茶い葉っぱがぼんやりと輝いていた。

後すら、匂いたちそう――だった。

「ありがとう」と言いたいのに、言えないこの悔しさを誰に向ければいいのか判斷できないまま、俺は仲間たちのもとに向かって走った。

◇◆◇

トラウマ級の幻覚の臭いに慄いて家から逃げ出したはずの俺は、なぜか自宅の茶の間に戻ってきていた。

というのも、自室にあんな騒なブツを置いておけないっつー中井と、食べるなら三人で分けようと提案してきた野々宮さんに首っこを摑まれて強制帰宅させられたのだった。

「んで、俺んちにブツを集めて、どーする気だ？」

「……こんなモンを飾っとくには、俺の部屋は狹い」

「ケーキはさ、これ一個しかないんだよぉ？　あたしだけで味わうのはねぇ～」

卓袱臺の上に溢れる異。ハンドルはともかく、小さな琥珀のケーキの違和が半端ない。

そして、またもや葉っぱがぼんや～りとっているのが、なんか怖いんだよなぁ。

あれ、いきなり発して塵拡散とか……しねぇよな！？　なっ！？

突如として出現したブツはっても何事もなく、最後の最後に贈られた記念品じゃないか？　と、カップルは辺りをつけたらしい。

うんうんと頷く野々宮さんと中井をじっと見つめ、俺は問う。

「誰からの？　ジィ様は俺を助けた時に力を使い果たして消えちまったんだぞ？」

「そりゃー……」

中井の糸目が白い牙や爪を見下ろし、最後に強烈な存在を放つ葉っぱに止まる。

「あっちの神様……達？　かなぁ？」

言葉を濁した中井の後を野々宮さんがぽつりと続けた。

まーな。それしかないだろう、とは思う。ジィ様が去った後に、こんな事ができるのは彼らしかいないだろーし。

でもなー。

「龍神騒に関するご褒は、後の異世界流の機會を許可してもらうってことで手を打ったはずだしさ。フィヴ作のケーキはともかく、ドラゴンのアイテムを貰ってもさ……。それに、この……植兵なんて……もう、どーしろと」

友人知人や親戚なんかの厚意で、一番辛いのは『飾るだけしか使い道のない、場所を取る記念品』を貰うことだ。ことに、結婚披宴出席時に贈られる引き出の――何か。

父方の従兄弟の披宴で貰った、新郎新婦の顔寫真がプリントされた二腳のカップを見た時、瀬家一同は疲労を増した。

今、目の前にあるは、いわばそれと同じくらいの価値しかなく。ありがた迷っつー言葉を進呈したいっ！

眉間に皺を寄せてくだけの俺に、野々宮さんがまぁまぁといなす。

「とりあえず、ケーキだけでも先に食べよ～。きっと、フィヴちゃんが味見してくれって願ったんだよ～」

ちょい歪な四角いパウンドケーキ。表面は琥珀で、切ってみれば中は山吹。

木の実や乾燥果実がってて、甘い匂いと風味付けか保存のためかの香辛料がかに香る。

ティーバッグで紅茶を淹れて、俺たちは姿勢を正してフィヴ作のケーキを口にした。

「あ……」と、誰が聲をらした。

そこは映畫館の中みたいな空間で、俺たちは橫並びに座って正面の大畫面を眺めている。

記録映畫のような場面が次々と映し出され、たくさんの人たちが泣き笑い、そして満面の笑顔で何かを食べていた。

店先で。屋臺の前で。食堂で。高級レストランの席で。

「味しい！」

「うまーい！」

「これ！これこれ！！おいしーっ！！」

「おい、うめぇな！」

「まぁっ！　これは……！！」

「ほんに、味じゃのぅ」

多くの聲が響き、重なって――嘆の聲になってゆく。

見覚えのある制服姿のケモミミが、「あいがとー！」の聲と一緒に無垢な笑顔で包みを客に渡している。

ぽやぽやの金髪イケメン年が、皿まで食うような勢いで茶のスープを飲み干し、袖で口を拭って叱られている。

誰だ？　なんつー野暮は言わない。見りゃ―わかる。

ああ、世界に広がっていく――俺の、俺たちの送り込んだ報が。

ぱっと周囲が明るくなる。

俺たちはいつの間にか茶の間に戻っていた。

コツンコツンと何かいが卓袱臺の上にぶつかる音がして――見れば、淡いの粒子を殘して異世界アイテムは消え、ボロボロになったハンドルのそばに三枚の金の貨と三粒の真っ青な貴石が転がっていた。

俺たちは無言でそれらを一個ずつ手に取り、ころころと手のひらの中で転がす。

これは褒じゃない。俺たちが渡したレシピの代金だ。

だから。

笑顔で聲を張り上げた。

「「「まいどあり！」」」

ＥＮＤ

これにて、『キッチンカー『デリ・ジョイ』―車窓から異世界へ味いもの輸販売中！―』は最終回とさせていただきます。

長い間のお付き合い、ありがとうございました。

終盤は私事で々とあり、大幅なブランクを挾んだりとグダグダでしたが、どうにか終わりを迎えられました。

これもひとえに、読んでくださった皆様のおかげです。心から謝しております。

連載途中の作品や新作にも、そろそろ手を付けないとなーと考えております。

「面白そう」と思っていただけるようでしたら、またお付き合いくださると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。