《【電子書籍化】退屈王は婚約破棄を企てる》20.エピローグ

どこまでも澄み渡る青空の下、フローラはいつもの薔薇園の東屋にいた。

紅茶を飲みながら、小説のページをめくる。同じテーブルにはやはり読書をするエルナの姿がある。

いつもと違うのは、お茶請けのお菓子がないことだ。この後、ユリウスと一緒にカフェ・ブルームに今シーズン最後のホットチョコレートを飲みに行く予定になっているため、お菓子を控えているのだ。

あの婚約破棄騒から1週間が経った。

あの日以來、ユリウスは毎日フローラを訪ねて來ている。

誰かから助言をけたのだろう、毎回大きな花束を抱えて訪れる。それはもちろん嬉しいのだけれど、そろそろフローラの自室は花に埋もれそうな狀態になっている。今日あたり、花束は時々でよいと言うつもりだ。

ユリウスはフローラを訪ねて來る度に、1,2時間ほどお喋りをして帰っていく。

2人でたくさん話をした。

ユリウスがアシャール王國に留學していたときのことも話に出た。婚約破棄騒を思い起こさせる話題であり、ユリウスは躊躇う様子だったが、フローラはむしろ話を聞きたがった。話題を避けるよりも、気になることは全部聞いてしまった方がすっきりすると思ったからだ。

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ユリウスの話によれば、アシャール人は男共にに関して熱的な國民らしいのだが、その中にあっても特に、ロズリーヌの想い人に対するアピールは熱烈なものだったそうだ。いまや彼をよく知る人達全てから「絶的に心に疎い」との評価をけているユリウスですら、すぐに気付いたというのだから、相當なものだったのだろう。

ロズリーヌと言えば、あの婚約破棄騒の日、ルーカスに連れられて東屋を退出した後、ルーカスから詳細な事聴取と忠告という名の嫌味を數時間にわたりけ続けた結果、すっかり自信を喪失してアシャールに帰國したらしい。

この先、ロズリーヌのと夢がどうなるのか、フローラには分からない。分からないが、周りが見えなくなるほどのあの一途さが、良い方に向かえばいいと思っている。

それはさておき、2人で々な話をする中で分かったことだが、エルナの予想したとおり、ユリウスはやはりフローラの心に気付いていなかった。

好意を向けられていることにはさすがに気付いていたものの、兄のように慕われているものと思い込んでいたようなのだ。あんな騒の後ですらフローラの心に半信半疑の様子で、期待半分、不安半分の視線を向けられたが、フローラは自分の気持ちをあえて明言しなかった。

(だって、わたくしだって、まだユリウスからはっきり聞いていないもの。いくら口下手だからって、これだけは譲れないわ)

とはいえ、相手は絶的に心に疎いユリウスである。期待できないと心のどこかで思いつつも、いまだに小説のような甘い告白シチュエーションを夢見るフローラだった。

甘い言葉にはほど遠いものの、あの騒以來、ユリウスはフローラの前で自分の気持ちを言葉にすることが増えた。ユリウスなりに今回の一件を省みた結果なのだろうと、フローラは考えている。そして、気持ちを言葉にするとき、わずかにではあるが、確かにユリウスの表くのだ。

カフェ・ブルームに行ったら、何故いつも無理してホットチョコレートを飲むのか尋ねてみようと、フローラは考えている。

(ユリウスは何て答えるのかしら? そして、どんな顔をするのかしら……?)

その小さなきを見逃したくないと、フローラは思っている。

ふいに心地の良い風が吹き、赤やピンクの薔薇の花びらが東屋に舞い込んだ。頬にかかる髪を手で押さえながら、風の吹いてきた方向に目をやる。

その視線の先では、とりどりの薔薇に囲まれた小徑を、大きな花束を抱えた黒髪の婚約者が、東屋に向けて歩いて來るところだった。その表が、フローラの姿を認めてかすかに和らぐ。

それに笑顔で応え、フローラは婚約者を出迎えるために立ち上がった。

〈了〉

本編はここまでとなります。

最後までお読み頂きありがとうございました。

引き続き番外編をお楽しみ頂けると嬉しいです。

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