《【書籍6/1発売&コミカライズ配信中】辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に勵みます》第15話 奧方様

晝近くに、領地の最も北の地區にある集落に著いた。

領民たちはセルジュとアンジェリクを見ると、作業の手を止めて深々とお辭儀をした。

「僕の妻、アンジェリクだ」

セルジュが紹介すると、みんなが不安そうにアンジェリクを見る。その視線はきらびやかな馬車と二頭のしい白馬にも向けられた。

「あの……」

集落の代表がおそるおそる口を開き、ひどく怯えた様子で稅の負擔のことだろうかと聞いた。

奧方を迎えた領主が稅を上げることは多い。それを言いに來たのかと恐れているようだ。

セルジュは「そうではない」と言い、土地の様子を聞きに來ただけだと説明した。

土を見たり、これまでの栽培の結果を聞くことで、土地に合った作を見つけられればいいと考えて視察に來たのだと。

「土地に合った作を?」

「そうだ。アンジェリクは王都で植學の教授からさまざまなことを學んできた。アンジェリクの力を借りて、みなにブールの土や気候に合った作を作ってほしいのだ。うまくいけば、今より暮らしが楽になると思う」

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「稅は……」

「だから、稅の話に來たわけではないんだ。収穫量が増せば、おのずと納められる稅の額も増える。それで我々も助かるのだから……」

話を聞いていたアンジェリクは「稅率はどのくらいなの?」とセルジュに聞いた。

「今の稅率は、五分だ」

「五分……」

百分の五。

それは、ない。

アンジェリクは眉をひそめた。

稅が軽いことで知られるモンタン家の所領でも、一割五分から二割の稅を課している。

しかし、その稅率でも、セロー夫人の夫のように出稼ぎに行かなければならないのか。

思った以上にブールは貧しい。

今は、これ以上の稅は取れないだろう……。

だが、それではだめだ。

なすぎる。

「稅率は、もっと上げなければならないわ……」

アンジェリクは呟いた。

セルジュと領民は飛び上がった。「やっぱり、そうなんだ」と、人々の間からどよめきが広がる。

「思った通りだ」

「贅沢を好む奧方を迎えれば、金が必要になるのは當然だ」

つい呟いた聲が、たまたましんとしていたところに響いてしまったようだ。

聞かれてしまったなら仕方がない。

アンジェリクは真剣な顔で、今度ははっきりと口にした。

「稅率は上げなければならないわ。もちろん、上げるのは十分な収穫があってからだけど」

「でも、上げるんだろう」

「わしらからむしりとって、好きなように使うんだ」

「そうじゃないわ」

好きなように使うというのは、語弊がある。

稅は必要なものなのだ。

アンジェリクは一人一人の顔を順番に見ながら説明した。

「集めた稅で、街道を整備したり土地を開墾したりしたいの。病気になった人を世話する病院や、小さな子どもを預かる保育所も作りたいし、飢饉の時に困らないように、食料を貯めておきたい」

やるべきことはいくらでもある。

「でも、今はまず、この土地で作れるものを増やすことからよ。稅を上げるのはその後。でも、この先もずっと上げないと約束することはできないの。今、ここで、ちゃんと言っておかないと、噓を吐くことになるから……」

稅は上げなければならない。

けれど、それは全てみんなのためなのだ。

「アンジェリク……」

名前を呼ばれて、はっとした。

「か、勝手にごめんなさい」

「いや。きみの言う通りだ」

セルジュは真剣な顔で頷いた。

領民に向かって、靜かに、しかしはっきりと口を開く。

「僕は今まで、大切なことをおざなりにしてきた。そのために、みなに苦労をかけている」

「そんな……」

「稅を軽くしてくださっただけでも、私たちは……」

「稅は大切なものだ。本當は、さっきアンジェリクが言ったことを、その稅で僕がしなくてはいけなかった」

青く澄んだ目を領民たち一人一人に向け、セルジュは続ける。

「稅が上がっても困らないくらい収穫量が増えたら、上げさせてほしい。そして、みんなの暮らしをよくするためにそれを使わせてほしい」

領民たちはまだ半信半疑な様子だったが「どの道、我々に決める権利はない」と言った。

払えと言われれば払うしかないのだ。

國で決められた上限の四割を要求する領主もいる。

諦めたように肩を落とす人々を見て、アンジェリクは、誰にも気づかれないように、そっとため息を吐いた。

今は仕方がない。

すぐにわかってもらうことはできないだろう。

それでも、耳に心地いい噓を言うわけにはいかない。

セルジュがきちんと理解して、セルジュの口から人々に話してくれたことが嬉しかった。

たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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