《【書籍6/1発売&コミカライズ配信中】辺境の貧乏伯爵に嫁ぐことになったので領地改革に勵みます》第30話 シャルロット(1)
シャルロットは、子どもの時からずっとアンジェリクがうらやましかった。
貧乏子爵家の次に生まれたシャルロットは、著るものも髪飾りも扇も、ほかのどんな持ちも、二つ年上の姉のお下がりばかり。
同い年のアンジェリクは、公爵家の第一令嬢というだけで、なんでも新しくて高価ものを買い與えられていた。
特にしいわけでもないのに。
世間ではアンジェリクを人だと言うが、シャルロットはそうは思っていなかった。
アンジェリクの髪は栗だ。大勢の侍がいて、毎日香油で手れをしているから艶やかだけれど、平凡なだ。
瞳のもよくあるはしばみ。いくら瞳が大きくて、頭の良さがわかるような深みがあるといっても、ありふれたであることには変わりない。
シャルロットは自分の髪は金髪だと信じていた。
黃味がかった薄茶だと言われると、相手の目を疑った。
目は青だ。
自分でも、多合いが薄すぎると思うこともあるけれど、青であることは確かだ。
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アンジェリクの妹で四つ年下のマリーヌと、自分は似ていると思う。
輝くような金髪とサファイアに似た青い目を持つ、お人形のような。
モンタン公爵家の第二令嬢マリーヌと言えば、まだ社界にもデビューしていないのに、そのしさで有名だった。
従姉妹なのだし、似ていても不思議ではない。
そう、従姉妹なのだ。
シャルロットは、アンジェリクやマリーヌと同じおじいさまの孫なのだ。おばあさまは違うけれど、シャルロットがモンタン公爵家のを引いていることに変わりはない。
たまたま父が次男で妾腹だったというだけで、ほんのし違っていたら、あの広大な領地を持つ大貴族、モンタン公爵家はシャルロットの生家だったかもしれないのだ。
エメリーヌやフェリシーの家などモンタン家の足元にも及ばない。なのに、どうしてシャルロットを下に見るのか、意味がわからない。最低だ。
もっと下の爵位の令嬢たちは、まだいい。コルラード卿の名前を出せば、たいてい言いなりになってくれるから。
コルラード伯父様のお金で買った髪飾りや扇のお下がりをあげると、ちょっとした頼みも聞いてくれる。
あげるものによっては、人に言えないような頼みを聞いてくれることもある。
學園の學費はただでさえバカ高い。
その上、毎日違うドレスを著て、新しい髪飾りや耳飾りを付けていかなくてはならない。
社界とは別の小さなパーティーやお茶會もある。
參加したければ、それなりの支度が必要だ。
たいした領地を持たない底辺貴族の令嬢たちが、どんなにドレスや裝をしがっているか、シャルロットはよく知っていた。
自分でしがらなくても次々と最高の品を買い與えられるアンジェリクには、絶対にわからないだろう。
アンジェリクの名前で買いをして、支払いをモンタン公爵家に回していることがバレた時は焦った。
気づいたはずなのに、アンジェリクは何も言わなかった。コルラード卿に言った様子もなかった。
けれど、何回目かに見つかった時は金額も大きくて、さすがにアンジェリクも伯父様に告げ口するのではないかと思った。シャルロットは、念のため、こっそり柱ので立ち聞きしていた。
もしコルラード卿が怒ったら、何かの間違いだと訴えようと思って。
ところが伯父様は「四人目の娘のようなものだ」と言ってくれた。
シャルロットは嬉しかった。
それからは堂々と、自分の名前で買いをするようになった。コソコソ隠れて、店の人に疑われながらアンジェリクの名前を使わなくても、モンタン家のシャルロットとして好きなものが買える。夢のようだった。
それでもまだアンジェリクがうらやましかった。
アンジェリクが持っていてシャルロットが持っていないものが、まだたくさんあった。
もっと、何かがしかった。
そんな時、街でエルネストを見かけた。
相変わらず、ちびでのろまでうすぼんやりしている。おまけにはぶよぶよで、王子のくせに、しょっちゅうジレのボタンが外れてかけている。
第二王子という分がなかったら、誰も相手にしない最底辺の男。
エルネストは供を付けていなかった。きっと、はぐれたのだ。
王子なのに置いていかれるって、どれだけぼんやりしているのだろう。
どんくさいやつ。
けれど、これはチャンスかもしれないとシャルロットは思った。
この第二王子はアンジェリクの婚約者だ。
こいつを奪ってやったら、アンジェリクはどう思うだろう。
自然と口元に笑みが浮かんだ。
エルネストをそそのかすのは簡単だった。
分だけは王子と立派だが、のろまなエルネストと全的に出來のいいアンジェリクとでは、釣り合いが取れないのは誰の目にも明らかだった。
それをエルネスト自が誰よりも気にしていることを、シャルロットはちゃんと知っていた。
アンジェリクはエルネストをバカにしている。
のろますぎて、うんざりしている。
せめて自分より背が高ければよかったと言っていた。
あることないこと、……というか、ないことばかりだが、繰り返し吹き込んでやった。
気が小さいくせにプライドだけは高いエルネストは、ほとんどヒステリーを起こすように、アンジェリクを嫌うようになった。
「やっぱりそうだったんだ。ずっと僕をバカにしてたんだ」
「ひどい子よね。ツンと澄まして、心の中では見下してたのよ」
「許せない。あんな子と結婚したら、僕は一生バカにされ続けるんだ。婚約は解消だ」
エルネストがただ婚約を解消したいと言っても、モンタン公爵家との絆を強めたい王は簡単には認めないだろう。
いつものようにエルネストがダダをこね、うんざりした王が「好きにしろ」と言う可能もなくはないが、確実とは言えない。
それよりも……。
「私にいい考えがあるわ」
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