「あれ？　あ、あそこにいるのは人間ではないですよね？　まさか……ゴブリンですか！？」

アルト村にやってきたエルフのティオ王は、見櫓に立つゴブリンを見て、すっとんきょうな聲を上げた。

「驚いたかお姫様よ。アルトの大將は魔族ですら支配下にれちまう最強のテイマーなんだぜ！」

「自慢じゃないけど。こんなことができるのは世界広しと言えど、アルトくらいなものよ」

ルディアとガインがドヤ顔で解説する。

おい、恥ずかしいから、やめてくれ。

「ゴ、ゴブリンが人間と共存しているなんて信じられません。

エルフの伝承では、魔族は魔王にしか従わないハズなんですが。アルト様は一……？」

「僕も未だに信じられないんですけど……バハムートを見て、彼らは恐れをなしたみたいなんです」

「バハムート？」

「アルトの召喚獣よ。神話の時代から生きる最強最古のドラゴンなの。さっき見たでしょ？」

「ええッ！？　まさか魔王の軍勢と戦ったとされる神竜バハムートですか！？

そ、そんなモノを従えるなど、神にしかなし得ないことではありませんか？」

ティオ王は口をあんぐり開けている。

「まっ、耳を疑うような話かも知れねぇがよ。お姫様もさっき目にして鳥が立っただろ？」

「は、はぁ……確かに、すさまじい力をじましたが……」

ティオ王は目を白黒させた。

半信半疑といったじだ。

「やぁー！　マスター、すごいの！　モウモウバッファローをテイムしてくれたの！」

キツネの耳のクズハが、ダッシュしてきて僕に抱き著く。

クズハは僕が引き連れたモウモウを見て、満面の笑みを浮かべた。

「これで湯上がりの牛一気飲みができますの！　クズハの溫泉がついに究極の完形に！」

「クズハ、良い子にしていたみたいだな」

クズハも僕の召喚獣だ。彼を実化させ続けるには毎分MPを消費する。

だが、クズハは溫泉に浸かることで、僕からのMP供給に依存せずに、実化し続ける特殊能力を持っていた。

クズハはアルト村で、溫泉宿の建設と経営計畫を擔っている。

僕の権限でクズハは『溫泉擔當大臣』に任命していた。

ちなみにルディアが『農業擔當大臣』。

ガインが『防衛擔當大臣』。

シロが『警備擔當大臣』。

ハチミツベアーのベアーが『ハチミツ採取擔當大臣』だ。

「はいなの！　ゴブリンたちのおかげで、溫泉宿がもうすぐ完しそうなの！　お客さんをガンガン呼んで、おもてなししますのよ！」

「うん、えらいぞ。クズハ！」

僕はクズハの頭をでる。

溫泉はモンスターたちと、のんびり楽しく暮らすための重要施設だ。

この土地を開拓するためには、お金を稼ぐ必要もあるし。クズハの溫泉宿経営には期待している。

これからが楽しみだな。

「マスターになでなでされると、とっても気持ち良いの。もっともっとしてしいの！」

クズハは嬉しそうに目を細めた。

甘えてくるクズハはかわいい。

まるで妹ができたような気分だ。

「こらッ！　クズハ、いつまで私のアルトにくっついてんのよ！」

「やぁー！　ルディアお姉様、マスターを獨り占めなんて橫暴なの！」

「橫暴じゃないわ！　アルトは私のモノで、私はアルトのモノなのよ！」

ルディアがクズハを僕から引き剝がそうとして、押し合いへし合いする。

「げ、元気が有り余っているみたいだな」

「ルディア嬢ちゃんは、ホント元気なのが取り柄っすね」

ダークエルフとの戦闘で、僕はヘトヘトになっていたが、ルディアはへっちゃらのようだった。

「はあっ……あのキツネ耳のの子は、獣人ですか？　ゴブリンにホワイトウルフに獣人に人間……これほど雑多な種族が一緒に暮らしている村があるなんて、驚きました」

ティオ王が呆気に取られていた。

「まるで伝説にあるの魔王ルシファーが建設しようとした理想郷のようですね」

の魔王ルシファーか。

確か七大魔王の筆頭で、この世界のすべてを支配しようとした存在だったな。

てっ、確か……

僕は昔、母から聞かされたおとぎ話を、ふいに思い出した。

「……どうされましたか？」

一瞬、考えごとに耽ってしまい、ティオ王から心配そうな顔をされた。

確か魔王ルシファーは、天界に攻めって、そこで神ルディアとに落ちたとかいう伝説があったような……

『魔族は魔王にしか従わない』

というティオ王の言葉が、脳裏に引っかかった。

「私は２０００年前から、ずっとアルトのモノなのよ！」

ルディアがアホな絶をしている。

ちょっと後で、魔王と神ルディアにまつわる神話について調べてみるか。

この村にも話の本くらい、あるハズだ。

「ええっと。キツネ耳のクズハは、獣人じゃなくて溫泉の神なんです。実際に溫泉を出現させていましたし……」

「お、溫泉の神ですか？」

「僕は【神様ガチャ】というスキルを持っていまして。これは神様や神獣を召喚して使い魔にできるスキルみたいなんです。

僕もまだ半信半疑なんですが……ルディアは穣の神だと名乗っています」

「穣の神！？　えっ、ま、まさか、あの方が神ルディア様だというのですか？

ルディア様と言えば、私たちエルフが信仰する自然を司る最高神ではありませんかっ！？

い、いえ……助けていただいたことには謝いたしますが。さすがにそれは……不敬っ」

ティオ王は、クズハと取っ組み合いをしているルディアをあ然と見つめた。

必死の形相をしているルディアに、最高神の貫祿はない。

とはいえ……

「これはルディアのおかげで大きく実ったトマトなんですが。ティオ王、一口いかがですか？」

僕は畑からトマトをもいで、ティオ王に渡した。

「ルディアさんのおかげで、大きく実った？」

「ルディアが手をかざしたら、トマトが一気に長したんです。

あそこの季節外れのヒールベリーも、ルディアが実らせました。ルディアは植をる力を持っているみたいなんです」

まさに神がかった力だ。

穣の神というのも噓だとは思えない。

しばらく一緒に暮らして、ルディアが噓をつくようなでないことも、わかってきていた。

それに【神様ガチャ】の力も本だ。

「と、とにかく。いただきます……んっんん！？」

トマトを口にしたティオ王は、驚愕に目を見開いた。

「お、味しぃぃい！？　まさに完璧な味です！　こ、こんなジューシーなトマトはエルフの國でも食べたことがありません！」

「これで作るトマトパスタが最高なんです」

「な、なんとっ……！」

ティオ王は衝撃にを震わせた。

「はしたないかも知れませんが。想像しただけでヨダレが出てきてしまいそうです。あっ、こ、これは失禮……っ」

エルフの王は正直者のようだ。

「溫泉もあるし、メシは味いし。最高の村だぜ、ここは！　お姫様よ。ここにいたらエルフの國に帰りたくなくなっちまうんじゃねえか？」

ガインが笑顔を見せる。

「おおっ！　我らが領主アルト様がご帰還されたぞ！」

「お帰りなさいませ、アルト様！　ご無事でなによりです」

「がおん！（ご主人様、お帰りなさい）」

村人たちと、ハチミツベアーが諸手を挙げて出迎えてくれた。