《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》寢ぼけた嫁が潛り込んでくる(前編)
その事件が起きたのは、りこと暮らしはじめてちょうど一週間が経った夜のことだった。
二十三時過ぎ。
俺たちは挨拶をわして、寢室へと向かった。
もちろん部屋は別々だ。
書面上は夫婦でも、俺たちは契約結婚なのだから同じ部屋で寢起きをするわけがない。
外では強い雨風が吹いていて、さっきからガタガタと音を立てて窓が揺れている。
まだ遠い場所でだけれど、微かに轟の音もしていた。
天気予報によると、明日は朝から晴れ。
きっと雷を伴う雨は、夜の間に勢いよく降って、消滅するのだろう。
外の音が気にならないように、音楽アプリを起して目をつぶる。
1時間後には自的に消える心地よいサウンドに耳をすませながら、俺は眠りに落ちていった。
◇◇◇
普段は雷が鳴っていても、気にせず眠っていられるほうなのだけれど、この日はなぜか深夜に目が覚めてしまった。
落雷の音は寢る前よりずっと近くで、地響きのように鳴っている。
これじゃあさすがに起こされるか……。
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ほとんど覚醒していない頭の片隅でそんなことを考えながら、枕の位置を直す。
すぐにあの心地よい覚がやってきて、俺は微睡の淵をふらふらと漂いはじめた。
そのとき、遠いようで近い場所でキイっと音がした。
それが扉の開く音だと認識できないまま、うとうとしているとしだけ背中が寒くなった。
「ん……」
……なんだ?
もぞもぞいて、めくれてしまったらしき掛け布団を引き寄せようとする。
その直後――。
らかい塊がとすっと背中にぶつかってきた。
……え……?
あたたかい溫もりのおかげでもう寒くはないけれど、それどころではない。
人生で一度もじたことない、信じられないぐらいらかい何かが俺の背中にれている。
「……っ!?」
な、……ななな……何が起こってるんだ……!?
一気に目が覚めた。
とにかく狀況を確認しようと寢返りを打つ。
信じられないことに、俺の隣には目を瞑るりこが橫たわっていた。
……なんで……!?
大慌てで飛び起きようとしたら、瞼を閉じたままのりこの眉間に皺が寄り、不満げな可い聲が小さなから零れ落ちた。
「んー……。……近くにいないとだめだよぉ……」
「ヒッ」
子供がぐずるような聲を出したりこは、そのまま俺のに両腕を回してぎゅっと抱きついてきた。
しかも揺した俺が小さな悲鳴を上げると、離すものかとでもいうように、むぎゅむぎゅっと力を込められてしまった。
そのたび、さっきじたらかさがますますダイレクトに俺の皮に響いてきて……。
やばいやばいやばい。
こんなのまずいって……!
「り、りこ……っ。……起きて……!」
「うぅん……湊人くんは今日から私の抱き枕なのです……スヤァ……」
噓だろ……。
盛大に寢ぼけている……!
とにかくりこから離れないと……っ。
このまま、まともに意識がない彼との接を堪能するなんて下種なこと俺にはできない。
だって明日の朝、りこがそれを知ったら確実に軽蔑される。
それに例えりこが今晩のことを覚えてなくても、俺はりこの顔を見るたび勝手に満喫した彼のの覚を思い出して、罪悪のあまり死にたい気持ちになるだろう。
りこの肩を両手で摑んで、グッとを引く。
し距離ができたとホッとしたのも束の間、そのせいでもっととんでもない事態になった。
俺は気づいてしまったのだ。
橫を向いて眠るりこの元は無防備で、パジャマのV字型の襟元から、普段は決して見ることのない谷間が覗いているのに。
「……っ」
悲しいことに目が釘付けになって離せない。
だめだってわかっているのに、俺の理を俺の瞳はまったく相手にしてくれなかった。
……いやいやいやいや。
しっかりしろ、理!!!
を痛いぐらい噛みしめて、泣きたい気持ちになりながらもなんとかベッドから転がり落ちた。
床に座り込んだ俺が、しばらくの間、「ふーふー……」と獣のような息を吐いて自分を落ち著かせなければいけなかったことは言うまでもない。
俺のベッドにいるりこはそのまま起きることがなくて、俺は一睡することもできないまま朝を迎えたのだった。
◇◇◇
――そして翌朝。
「ほんっっっっとうにごめんなさい……っっ」
目を覚ましたりこは、狀況を理解した途端、床に座り込んで平謝りしてきた。
「わああ、りこ! 気にしないでいいから! ほら、立って。そんなところに座ってたら冷えちゃうから」
「でも、私なんてことを……っ」
「寢ぼけることぐらい誰だってあるって。りこにはどうしようもなかっただろうし」
「そんなことないの……。実は私、雷の夜になると、寢ぼけて親のベッドにり込むくせがあったの。……もう子供じゃないし、まさか湊人くんにも同じことをしちゃうなんて思ってなくて……。恥ずかしがらずにちゃんと話しておけばよかった……。ごめんなさい、もう私が侵しないよう、お部屋に鍵をつけてもらっていい……?」
なに、その可い癖……。
それを恥ずかしがって隠したことも含めて可すぎる。
でも相手が親から俺になった瞬間、大問題だ。
俺はりこの両親と違って、彼をの子として見てしまっているから、りこにとっては有害な存在だ。
……ならりこの言うとおり、部屋に鍵をつけてりこを俺から守るべきだよな。
「わかった。今日はバイトが休みだから、學校の帰りにホームセンターによって買ってくるよ」
そしてその日のうちに俺の部屋には鍵が取り付けられた。
普段はりこが寢ぼけてってくることもないので、今までどおり施錠しないまま過ごしていたけれど、そう日を経ないでその鍵が使われる雷雨の夜がやってきた。
俺は部屋の前の廊下でりこと頷き合い、「おやすみ」を言ってから鍵をかけた。
その夜は當たり前だけれど全然寢付けなかった。
スマホをいじったり、無理やり目を閉じてみたり、ため息をついてを起こしたり……。
そんなことを繰り返しているうちにいつの間にか深夜二時、雷の音の後ろのほうに、微かに床を踏む気配が混ざりはじめた。
數秒後――ガチャガチャ……。
鍵のかかったドアノブを回そうとしている音が聞こえてくる。
りこだ。
やっぱり今晩もまた彼は寢ぼけて、この部屋にやってきたのだ。
俺は息をひそめて、りこの向を窺った。
寢ぼけているりこも扉が開かないことに気づいたのか、ドアノブのきが止まる。
ところがそのすぐあとに、トンッと何かが扉にもたれかかるような音がした。
「え……」
まさか――。
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