《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》遠足と班決め

ある朝、ホームルームで擔任が言った。

「みんな、おはよう。そろそろ新學年がはじまって一ヶ月になる。ということで毎年恒例の行事がやってくるぞ。春の遠足だ」

遠足という言葉を聞いた途端、教室が騒がしくなった。

喜んではしゃいでいる生徒が四割、誰と組もうか思案している顔が三割、あんまり興味なさそうなのが一割、殘りの二割、地味な生徒たちは大方絶の表を浮かべている。

俺にとっても遠足なんて気が重いだけだ。

まあ、組む相手は去年どおり澤がいるからいい。

問題は相手の子たちなんだけど……。

去年は澤が俺たちと似たように目立たない雰囲気の子たちに片っ端から聲をかけてくれて、なんとか班を作ることができた。

今年も澤にがんばってもらうか……。

まったく遠足の班決めを生徒たちに任せるなんて、擔任もどうかと思う。

キャの俺たちにとっては、地獄のようなミッションだということに気づいてほしい。

そりゃあ普段から男仲良くしてる連中はこの機會に気になる相手と距離を近づけたりして楽しいんだろうけど……。

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そういえば、りこはどのグループと行するんだろ……。

俺は教室の前方、廊下側の席に座るりこの後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと思った。

遠足の発表があってから、クラス中の男子が、ちらちらとりこに視線を送っている。

誰もがりこのいるグループと一緒に行したいと思っているのは明白だった。

りこは普段、クラスメイトの子たちと五人で行をしている。

擔任は男混合で四、五人の班を作ると言っていたから、りこたちは二手に分かれることになるはずだ。

多分、りこは麻倉レイナと組むよな。

りこの話によく麻倉の話題が出るし、はたから見ていても二人が特に仲がいいのは伝わってきた。

麻倉は底抜けに明るいタイプで、よく喋り、澤と似て聲がでかい。

そのうえ、気質らしく、時々ぎょっとするような會話がれ聞こえてくる。

おっとりしているりことは真逆のタイプだ。

だからこそ気が合うのかもしれないが、俺から見ると麻倉のほうが骨にりこを好きで、りこは押しの強い麻倉をれてるじがした。

麻倉は男ともに友達が多いから、きっとコミュ力の高いイケメン男子のうちの誰かが麻倉に聲をかけ、彼経由でりこと同じグループになる権利を勝ち取るのだろう。

俺の予想どおり、次の休み時間からさっそく麻倉のもとには人だかりができていた。

かたやりこは普段と変わらないじで、殘りの子たちと談笑をしている。

みんな、直接りこにいっても、すげなくされるとわかっているのだ。

……でもちょっと不思議だよな。

家でのりこはわりとよくしゃべるし、話しかけづらさなんて微塵もじさせないのに。

どうして學校でのりこは、男子を軒並み拒絶するようなオーラを醸し出しているのか、結構な謎だ。

俺からしても、まるで家のりこと、學校のりこ、二人のりこが存在しているようなじを覚える。

俺にとって、學校のりこは相変わらず遠い存在。

たまに目が合って、りこがあの合図を送ってくるようなことがあるけれど、そんな可いイタズラを見れるのもごくまれな話だ。

だから今回、りこと同じ班になるため、男子たちが水面下で行っている爭いなんて、俺にはまったく関係のない問題だと思っていた。

それなのに――。

◇◇◇

「湊人くん……っ」

晝休み後半。

トイレに行った帰りに、教室に戻ろうと廊下を歩いていた俺は、囁くような聲に名前を呼ばれてきょろきょろと周囲を見回した。

えっ。なんで……。

階段の影に隠れたりこが、辺りを気にしながら必死に手招きをしている。

俺は他に人がいないのを確認してから、りこのもとへ駆け寄っていった。

「こっちこっち」

「あ、う、うん」

りこに呼ばれ、階段下にあるスペースにふたりで忍び込んだ。

ここなら誰からも見られる心配はない。

ただその分、りこと二人っきりで人目を忍んで會っているという事実を、めちゃくちゃ意識させられた。

「ごめんね、學校で話しかけたりして……」

「それはいいんだけど……どうかした?」

「あの……遠足のグループ分けのことで……。……湊人くん……っ。もしよかったら私と同じグループになってくれませんか……っ」

「へ?」

予想外の提案をけて、思わず素っ頓狂な聲を上げる。

「なんで俺なんかと……。……あ、もしかして他の奴らを斷る口実?」

なるほど。

無害な俺と組むことで、面倒ないを全部跳ねられるなら楽だもんな。

我ながら冴えてるなと思いつつ、うんうんと頷く。

でも、そうまでして、他のヤツと組みたくないのか……。

「まあ、どの男も骨にりこ狙いっぽいしね……。一方的に好かれてるだけの相手と同じ班になって遠足に行くなんて、大変っぽいもんなぁ」

モテない俺にとってはあくまで想像でしかないけど。

困っているりこに対して理解を示したくて、そう伝えたらなぜか彼はショックをけたかのような表を浮かべた。

「……そ、そうだよね……。私、また勝手なことを……。ご、ごめんね……。今のは忘れてね……」

「え」

そんな……噓だろ……。

棚ぼただとしても、せっかくりこと同じグループになれそうだったのに。

しかも彼のほうからそう言ってくれたのに。

俺の発言のどこかに問題があったんだよな……。

でもどこに……!?

まったく思い當たる節がなくて焦りまくる。

「じゃあ私はこれで……」

「ま、待って、りこ! なんか誤解させたならごめん……! りこの役に立てるなら、ぜひ一緒に組ませてほしい、です……!」

「……でも、湊人くん大変じゃ……」

……なんで俺が大変?

よくわからないけど、首をぶんぶんと橫に振って「まったくもって大変じゃない!」と伝えたら、りこがしだけ笑ってくれた。

「……湊人くんが本當に嫌じゃないなら……、私、やっぱり一緒に遠足行きたいな……」

なんで俺が嫌がるなんて発想になるんだ……!?

「と、とにかくじゃあもうそういうことで……! ――あっ、でも俺たちがいきなり同じ班になるのて不自然じゃないか……?」

今まで何の接點もなかった同士、しかも學園一のと學園一地味かもしれない俺だ。

「……えと、じゃあ、実は馴染っていうのはどうかな。……稚園が一緒だったとか」

りこが制服のスカートをいじりながら、上目遣いで俺を見上げてくる。

りこが可いということで頭がいっぱいになりながら、「わかった。馴染でいこう」と返事をする。

りこの仕草に目が釘付けになっているせいで、それでいいのかどうか深く考えられてないけれど、まあ大丈夫だろう。

「あ! あとさ……りこが一緒に組んでるの子は平気なの? 俺たちみたいなのと班になって……」

「うん、レイちゃんは誰でもいいよって言ってくれてるから」

その誰でもって、いをかけてきてるイケメンたちの中なら誰でもいいよって意味じゃないのかな……。

まさか俺や澤を連れてくるなんて、麻倉レイナは微塵も思ってないだろう。

でもそのことを突っ込んだら、せっかくまとまりかけたりことの話が流れそうで、俺は言い出せなかった。

麻倉レイナに骨に嫌がれて、死ぬような思いをするかもしれないのに……。

それでも俺はりこと同じ班になりたかったのだ。

澤には何も確認してないけど、あいつがりこと組むことを嫌がるわけはないので、何ら問題ない。

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