《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》二人の夜②

りこが俺を好き……!?

「遠足の時におかしいなって思ったんだ。それで普段の態度も観察してたら、もう骨も骨。りこ姫って一日何度もおまえのこと見てるんだよ。しかも明らかにしてる乙の顔で! 言っとくけどめちゃくちゃ落ち込んだからな! 目が合うのは俺に気があるからなんじゃないかって大喜びしてたのに、見てたのは俺じゃなくて隣にいる新山だったなんて……。現実ってひどいよね……スンスン……」

「気持ち悪い泣き真似やめろって」

「うるせー。このモテ男が……」

「あのな、それはどう考えても澤の勘違いだから。だって彼には好――」

そう言いかけて慌てて口を噤む。

って、馬鹿か。

りこに好きな人がいるってことを、ベラベラ喋るヤツがあるか。

「な、なんでもない」

「ほらな。おまえだって俺の直を否定できないだろ?」

「……なあ、澤。それ誰に話した?」

「まだ」

「まだじゃない。そのまま黙ってろよ」

「えー。なんで? おまえは俺たち地味男子の希の星じゃん。この事実をかに広めて、みんなを元気づけてやろうよ」

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悪気はないのだろうが、最悪な案だ。

「そんなことしたら花江さんに悪いだろ……!」

「なんで? 別に悪評を広めようってんじゃないんだし。噂が先に広まれば、りこ姫だって告白もしやすくなるかもしれないよ」

んなわけあるか。

どう考えても逆効果で、気まずくなるだけだ。

俺が言えた筋合いじゃないけど、澤はこのデリカシーのなさを何とかしない限り、本人がいくらんでもの子とお近づきになるのは難しそうだ。

「なあ、新山。りこ姫と付き合いだしたら、彼の可い友達を俺に紹介してね」

両手を合わせてお願いのポーズをとってきた澤を見て、眉を寄せる。

「さてはおまえ、最初からそれが目的だな?」

「へへ、バレた?」

「言っとくけど、澤が変な噂を広めたって、俺と花江さんが付き合うことなんて絶対ありえないから」

「なんで言い切れるんだよ?」

「それは……」

りこには別に好きな人がいるから。

と言えない俺は、困り果ててしまった。

このまま澤を納得させられないと、本當に噂をされかねない。

そんなことになったら、りこに多大な迷がかかってしまうし、それだけはなんとしても阻止しないと。

……でも一どうしたら、俺たちが付き合うことはないと納得させられるのか。

俺は數秒間悩んだ結果、苦の策を思いついた。

……ありえないけど、他に何も閃かないし……。

この際、澤の口止めができればいいか……。

よし――。

俺は意を決して、澤の肩に右手を置いた。

「澤、よく聞いてくれ。俺と花江さんが付き合うことはない。初めて打ち明けるけど……俺には好きな子がいるんだ!」

「……えっ。え……ええええええええっ!?」

「澤の言うとおり、もし花江さんが俺のことを好きだとしても彼とは付き合えない。だから、彼が俺を好きかもしれないって噂は絶対広めないでくれ。だって俺は彼の気持ちに答えられないし、それなのに彼の想いがみんなに知られちゃったら可哀そうだろう?」

「そ、それは……たしかにそうだね」

方面に鈍い澤でも、丁寧に説明すれば理解してくれたようだ。

「……でもおまえ、本気で言ってるの? あの花江さんを振るなんてもったいなさすぎだろ……」

告白されたわけじゃないんだし、振るも何もないけど。

「好きになるのと、に憧れるのは違うんだよ。おまえもしたらわかるって」

「……そ、そういうものなの?」

「そうそう。てことで噂を広めるのはなし。いいな?」

「……まあ、りこ姫を傷つけたいわけじゃないからな。でも、おまえに好きな子が……。しかもに好かれても気持ちがぶれないぐらい本気のとは……」

「はは……」

澤が素直な奴でよかった。

とにかくこれで問題は解決だ。

ホッとしながら息を吐いた俺は、何かを忘れているような気になって首を傾げた。

あれ……?

俺、もっと大問題を抱えていなかったっけ……?

って、そうだよ!!!

今日の夜のことだ!!!

澤がとんでもない話題を振ってきたせいで、しの間、完全に頭の中から忘れ去られていたけれど、俺は今晩に向けての心の準備をしなくちゃいけないのだった。

慌てながら窓の外を見ると、どす黒い雲が視界にってきた。

風もどことなく不穏なじで、校庭の大木をゆさゆさと揺らしている。

……予報通りの天気になりそうだな。

俺は重い雲を見上げながら、複雑な気持ちで目を細めた。

◇◇◇

心の準備ができていなくても、時間は容赦なく過ぎていき――。

「今日に限ってバイトもないし……!」

マンションのエレベーターの壁にごんっと額を打ち付ける。

決して嫌なわけじゃない……!

ただ不安と、張と、してはいけない微かな期待がれて、押しつぶされそうなだけだ。

あ。やばい。

心臓、口から出そう……。

とりあえず無心になろう。

そう念じるしかない。

無心、無心……!

必死に唱えながら、インターホンを鳴らす。

『は、はいっ! おおおかえりなさいっ』

ああ。

インターホン越しのりこの聲も普段と違う。

これまずいって……。

りこも意識してると思うと、俺、余計そわそわするもん……。

明日まで生きていられるかな……。

心臓を酷使しすぎて死なないか本気で不安になってきた。

そのぐらい俺の鼓は大騒ぎし続けている。

まだ九時半すぎだっていうのに……。

夜はここから相當長い――。

「あ、あの、湊人くん、おふろは……」

「そうだ。朝、じゃんけんし忘れてたな」

「そうなの」

俺たちは一緒に暮らしはじめた當初、お互いに風呂の順番を譲り合いまくってしまい、結構苦労したのだった。

そこから毎朝、朝食前にじゃんけんをしてその日の風呂の順番を決めると言うルールを作った。

でも今日はイレギュラーな事件が起きたせいで、すっかり忘れてしまったのだ。

「じゃあいくね! じゃーんけーん……ぽんっ」

「――あ、りこの勝ちだ。ごはんのあとる?」

「……うん、そうする」

りこが目の下を桃に染めながら、ちらっとリビングのテーブルの上を見た。

そこで初めて俺は見慣れない箱が載っているのに気づいた。

ノートよりちょっと大き目ぐらいの箱で、の子が好きそうなじの花柄がプリントされている。

りこのだろうけど、あれなんだろう?

「りこ、あの箱って……」

「あっ……あ、あ、あ、あああれはっ、深い意味はないよ!? ただ、ずっと前から気になってて! なんとなく今日ものすごくしくなっちゃったから、買ってみただけで……! 別にもしかしたら……とか、萬が一……とか妄想したわけじゃないの……! 本當にたまたまなのっ!」

「お、おう。中は?」

「……ボディスクラブ」

消えりそうな聲でそう言ったきり、りこは真っ赤な顔で俯いてしまった。

ボディスクラブってなんだ……?

そんな恥ずかしがるようなものなの……?

りこがあまりにも恥じらうので、男が追及していい話題じゃないような気がしてきた。

結局、そのあとりこの隙を見てスマホで調べたら、塩や砂糖などを含んだ石鹸みたいなもので、角質を落とすのに使ったりするのだということがわかった。

でも、なんであんなに恥ずかしそうにしたんだ……?

だってただの石鹸なんだよな?

俺はますますわけがわからなくなって首を傾げた。

ボディスクラブはおがつるつるすべすべになって、とてもいい匂いになります

ると違いは歴然!

そこそこ高級品なので特別な日に使うの子が多いはず

つまり、りこちゃんは………………

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