《【書籍化】盡くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?》高校生カップルの正しい過ごし方(休日編)①
約束の土曜日。
りこの用意してくれた朝食を済ませた俺たちは、電気屋へ向かうため午前中のうちに家を出た。
空はどんよりした雲で覆われ、気持ちの良い天気とはいえない。
殘念ながら午後からはまた雨になるらしい。
まあ、朝から雨よりはマシか。
降り出す前に帰ってこれるといいね。
そう言いかけたとき、裾を軽く引っ張られるような覚がした。
「ん?」
視線を下げると、長袖Tシャツの裾をりこが指先で摘まんでいるではないか。
「……!」
その仕草がドストライクだったうえ、りこに似合いまくっていて、クラッとなる。
「り、りこっ、どうしたの……!?」
上ずった聲で尋ねると、りこはモジモジしながら言った。
「あのね? ……手」
「手?」
「手、繋ぎたいな……」
「……っ」
なっ、ななななんで!?
俺がめちゃくちゃ慌てたら、それが伝染したのか、りこまで落ち著きを失ってしまった。
「あ、ああ、あのね!? えっとえっと……あっ、そ、そう! 商店街のときみたいに、どこかで知り合いに遭遇したりするかもしれないでしょう? そういうときに他人行儀な距離で歩いていたら、『本當に付き合ってるのかな』って思われちゃうかも……!」
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「なるほど……! それはたしかに」
そういえば、りことプライベートで出かけるのは、あの商店街の買い出し以來初めてのことだ。
「それにほら! 湊人くんも人同士のアピールをしたほうがいいって……!」
「うん、そうだった」
「というわけで……! 休みの日でも、できるだけ人っぽく見えるように過ごした方がいいのではないでしょうか……!」
し前のめりになったりこが、商品をプレゼンするかのような態度で両手を広げる。
俺はその勢いに押されて、二、三度首を縦に振った。
でも冷靜に考えれば、りこの言うことはもっともだ。
普通にしていたら、俺とりこはまったく人になんて見えないんだから……。
それに澤が言っていたじゃないか。
『だいたいさ、學校でも一緒にいないうえ、デートすらしてないのがバレたら、他の男たちがりこ姫を狙い出す危険があるぞ。今までは男子全般相手にしてなかったから、みんな高嶺の花として遠くから眺めてるだけだったけど、彼氏を作ったうえ、相手が平々凡々とした新山だからなぁ。下手したらりこ姫が學した當時の告白ラッシュが再來しかねないって』
澤の言葉が現実になる場面が脳裏に過ぎり、慌てて頭を振る。
そんなの絶対に嫌だ。
やっぱり學校の知り合いに目撃される可能がしでもあるときは、できる限り人だというアピールを外に向けてしたほうがいいな。
【人同士だというアピールをするため】
まさか、この言葉が今後様々な局面で、免罪符的効果を発揮することになるなんて、もちろん現時點では予想もしていなかった。
「えっと、それじゃあ……」
俺がおずおずと手を差し出すと、頬を桃に染めたりこが優しく俺の手を握り返してくれた。
放課後の帰り道、りこが腕を絡めてくれたときも死ぬほどうれしかったけれど、手を繋ぐのはまた違った覚がして、ドキドキが止まらない。
「ねえねえ、湊人くん」
「うん?」
「手の繋ぎ方、今のと……よいしょ、こっちと……どっちがいい?」
束の間離れた手を、りこは人繋ぎで握り直した。
指と指が絡まり、自分とりこの境界が曖昧になったような錯覚を覚える。
當然、俺の心音は発的に騒がしくなった。
「……っ、こ、これもいいけど、張する……っ」
「うん……私もすっごくドキドキしてる……」
「えっ、りこも?」
「だってこんなふうに人繋ぎをして歩くのなんて初めてだもん……」
恥ずかしそうに目を伏せるりこが可すぎて、どうにかなってしまいそうだ。
そっか。
りこは今まで誰ともこんなふうに歩いたことがないんだ。
俺が初めて……。
別に特別こだわってるわけではないはずなのに、初めての経験を共有できたことがうれしくてたまらない。
「張するけど、でも私、このままがいいな……」
「あのっ、俺も……その同……!」
「ほんと? うれしい……」
俺は恥ずかしさのあまりりこを全く見ることが出來ないし、りこも照れ臭いのか、俺と同じように前をまっすぐ見たまま。
俺たちは初々しすぎるぎこちなさを分かち合ったまま、駅までの道を並んで歩いた。
りこの手は俺よりしひんやりしていて、ものすごくらかくて、力をれて握ったりしたら壊れてしまいそうな気がした。
だから、大事に大事に繋ぎ返す。
手を繋ぐのって不思議なじだ……。
自分の手のひらの中に、寶を包み込んでいるみたいで……。
幸せでくすぐったい気持ちになる。
俺たちはそのまま大船駅まで歩いた。
改札を通るときに離れた手は、すぐにまたりこから繋ぎ直してくれた。
だから電車の中でも手を繋いだまま。
もし、りことデートするならこんなじなのかな。
そんなことをうっかり考えてしまったせいで、無にソワソワしてきた。
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