《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》プロローグ

どうぞよろしくお願いします。

好きで、好きで、大好きで。

この人には傷一つ、苦しみ一つ與えたくないという思い。

―――それが、『代わりの魔』のはじまりじゃないかしら。

▲▼▲▼▲▼▲◇▲▼▲▼▲▼▲

私は必死になって、橫たわっている彼のに手をばした。

震える手を近付け、意識がなくぐったりとしているれると、わずかに上下しているきがじ取れる。

「……フェリクス様、よかった……」

彼が生きていることを確認でき、安堵のあまり呟くと、その同じタイミングで、私を中心に魔法陣が展開され始めた。

失われた古代の文字が、まるで模様のように出現し、円陣を描くように形されていく。

國王であり夫でもあるフェリクス様は、目を瞑ったまま地面の上に橫たわっており、全びしょ濡れの狀態だった。

を刺されて川に落ちたものの、自力で岸まで這い上がってきたようだ。

恐らく岸に上がった途端、安堵と傷の深さが原因で意識を失ったのだろう。

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そのことを示すかのように、頭や上半は草の上に橫たわっているものの、足の一部は川の中に浸かったままだった。

私は嗚咽がれるのを防ぐため、必死でを噛み締めると、彼の全に目を走らせた。

一見しただけでも、肩口から左にかけて負った深い刺し傷が致命傷であることは見て取れた。

次々に新しいが流れ出ており、彼が川から上がって僅かな時間しか経っていないはずなのに、橫たわっている草一面が赤く染まっている。

彼の命が流れ出て、その終わりを迎えようとしていることは明らかだった。

私は私の肩口に留まっている、小さなお友達に聲を掛ける。

「バド・ラ・バトラスディーン! 力を貸して!!」

「……勿論だよ。正式な名を呼ばれては、従わないわけにいかないね」

普段とは異なる真面目な聲で返事をすると、肩口で丸まっていたリスのように見える生きはふわりと空中に浮きあがった。

そして、一瞬にして何倍もの大きさに膨れ上がると、全く異なる形をとった―――古き時代に生息していたと言われている、大きくてしい古代聖獣の姿に。

≪魔法陣、立展開・天!≫

バドが古代の言葉を呟いた瞬間、魔法陣から上空に向かってが立ち上った。

けれど、そのはフェリクス様のれた途端、上空に向かうのを止めて彼のを包み始める。

私は一心にフェリクス様を見つめると、天に向かって片手をばし、契約の聲を上げた。

「さあ、古(いにしえ)の契約を執行する時間よ!

代わりの魔、ルピア・スターリングが贄(にえ)となりましょう!

不足は認めないわ!

フェリクス・スターリングの傷よ、一切合切(いっさいがっさい)躊躇(ちゅうちょ)することなく、私に移りなさい!!」

―――その瞬間、私とフェリクス様は繋がり、一致した。

が、魂が、傷が一致し―――そして、その一瞬の間に、彼の全ての傷は私のに移る。

「…………ああああああ!!」

剎那、心臓に鋭い痛みが走った。

痛くて、痛くて、痛くて、痛くて、それ以上は聲も出せない。

咄嗟に奧歯を噛み締めるけれど、とても我慢できるような代ではなかった。

……痛い、痛い、痛い!!

目の前が赤く染まったような覚に陥り、この痛みから逃れることしか考えられない。

ああ、フェリクス様はこんな痛みに耐えていたのか。

これほどの痛みを抱えながら、落ちた川からこの岸まで這いあがったのか。

―――生きたい、とのみとともに。

だとしたら、そのみを葉えるのが『代わりの魔』の役目だ……。

「かは……っ!」

けれど、彼を救いたいと思う私の意志を嘲笑うかのように、大量のが口から零れ落ちる。

想定していたよりも、何倍も傷が深かったようだ。

……まずいな。

激痛の中、必死で頭を働かせる。

この場所に助けが來るまで、どれほどの時間が掛かるのだろう。

フェリクス様の傷は消えたけれど、彼は意識を失っているため、次に目覚めるまでどのくらいの時間がかるか分からない……私を助けることが出來るようになるまで。

そもそも私は『代わり』で死ぬことはないけれど、それも適切な処置がなされてこそだ……。

このような人里離れた森の中にいる私たちを探し出してもらうまで、どのくらいの時間が掛かるのだろう。

ましてや、適切な処置が開始されるまで……。

そう思考を深めようとするけれど、痛みで立っていられなくなり、地面に崩れ落ちる。

―――けれど、崩れたは草のを味わう前に、ふわふわとした溫かいモノに支えられた。

「致命傷だよ、ルピア。この傷でこの場に倒れ伏し、救助が來るのを待つことは、死を選択することと同義だ。……僕の城に招待しよう。そこでこの傷を治すんだ」

痛みで意識が朦朧としている私の耳に聞こえてきたのは、バドの聲だった。

けれど、意識が混濁してきて、彼が何を言っているのかを理解することができない。

「君は何も選ぶ必要はない。なぜならこの方法が君の命を繋ぐ唯一の選択なのだから、生きるためには他に選びようがないからね」

その聲を最後に、私の意識は真っ暗な世界に飲み込まれた。

―――そして、私のもこの世ならざる空間に……聖獣≪(バド・)なる翼(ラ・バトラスディーン)≫の城に呑み込まれたのだった。

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