いかにもされて育った、大國の姫君だな。

―――ルピアを初めて見た時の第一印象はそれだった。

初めての顔合わせの場で―――加えて、大勢が居並ぶ大聖堂という特別な空間であるにもかかわらず、張も恥じらいもなく、満面の笑みで私を見つめてくる姿を見て、拒絶されることを知らない、だけを與えられてきた姫君だと理解する。

いずれにしても大陸一の大國の王で、私の妃となる者だ。

しくらい甘やかされていようと、我儘だろうと、大事にしなければならないし、大事にしたいと思う。

―――その気持ちから、私は手をばしてルピアの手にれると、彼を稱賛する言葉を口にした。

大國の王として、彼を稱える言葉など聞き飽きているだろうに、ルピアは嬉しそうに微笑んでくれた。

その表を見て、ああ、この王はきちんと稱賛の言葉をけ取ることができるとともに、相手の立場を立てることができるのだと心する。

そして、このような王が相手であれば、この結婚は上手くいくに違いないと確信した。

―――そもそも私の妃は、私の１５歳の誕生日から１か月掛けて、じっくりと選定される予定だった。

それをディアブロ王國が圧倒的な國力差でもって、わずか數時間でルピアに決定させたという経緯があった。

明らかに強引で我が國を軽んじたやり方ではあったが、抵抗できないほどの國力差があったため、選定メンバーたちは不満を覚えながらも、ルピアをけれざるを得なかった。

しかしながら、ルピアの名前は當日まで候補者として挙がっておらず、報が不足していたため、直ちに調査を行わせたところ、『問題あり』との結果が報告されたことは選定メンバー全員の頭を悩ませた。

最大の問題は、年齢が私より１歳上であることだった。

妃選定會議に割り込んできた時點で１６歳、実際に婚儀を行う１年後には１７歳というルピアの年齢は、１４歳で嫁ぐ王族のからしたら明らかな行き遅れだった。

ディアブロ王國にはルピアの嫁ぎ先として適當な家格の貴族が複數存在したことから、彼らと婚約を結ばなかったルピア側に、何らかの原因があるのではと問題視されたのだ。

では、その原因とは何かと考えた時、彼の病弱さだろう、というのが大多數の意見だった。

ルピアはい頃からが弱く、すぐに調を崩しては寢込んでいたため、嫁ぎ先の継嗣を生めるのかと危ぶまれて敬遠されたのではないかと思われたのだ。

非常に大きな問題ではあるものの、我がスターリング王家に関していえば、何の問題もなかった。

なぜなら王家存続の幹にかかわる問題のため、既に解決策を講じてあったからだ。

つまり、スターリング王國の王族においては、正妃以外にも複數の側妃を持つことが認められており、どの妃の子であろうとも等しく王位継承権が與えられることになっていたのだ。

ただし、ディアブロ王國にとって、この結婚の最大の目的は、ディアブロ王家の脈を次代のスターリング王國の王に継承させることだと思われたため、側妃についてルピア側が了承しないのではないかと心配された。

しかしながら、蓋を開けてみると、さしたる渉をすることなく、ディアブロ王國はその條件をけれた。

婚姻から２年が経過してもルピアが懐妊しなければ、私に側妃を認める旨を、結婚契約書の條項に盛り込むことに同意したのだ。

訝しむ私に対して、ルピアの専屬侍の兄であり、我が國の宰相でもあるギルベルトが意見を述べた。

「結局のところ、我が子可さに現実が見えていないのでしょう。『結婚前に好きなだけ世迷いごとを言うがいい。どのみち、結婚して一旦王を知ってしまえば、夢中になって何もかもをけれるに決まっているのだから！』という主旨のことを、ディアブロ王國國王が口にされたとのことです」

私よりも１０歳年上でありながら未だ獨であるギルベルトは、結婚に夢も希も抱いていないようで、その口調には揶揄する響きが混じっていた。

「……なるほど。私がルピアを深く知れば、たとえ世継ぎを生めなくとも、彼しかしくないと言い出すと思われたのか。むしろそんな自分を見てみたいものだが」

一國の國王が、跡継ぎ問題をそのように簡単に考えられるはずもない。

皮を口にしたくなるギルベルトの気持ちは理解できるな、そして、ディアブロ王國國王は平和だなと考えながら、私はほっと息を吐いた。

―――になど、１度も落ちたことがない。

落ちるはずもない。

なぜなら自分の理や冷靜さをかなぐり捨てて夢中になり、その者だけを特別に扱い出すなど、相手がよほどの徳を兼ね備えていなければ発生しない事象だからだ。

そして、それほど優れた相手などいるはずもないのだから、結局は自分が相手にどれだけ幻想を抱けるかにかかっていて、私は夢想家でなかった。

だからこそ現実を見つめて、言葉を続けた。

「側妃の條項はそのまま保険としてれておけ。だが、それは最後の手段だ。私はルピアに世継ぎを生んでもらいたいと考えているし、大國ディアブロ王國出の正妃を差し置いて側妃が生んだ子どもなど、火種にしかならないからな」

私はルピアとの間にできる限りきちんとした夫婦関係を作りたいと考えていた。

そのためには一夫一妻制が基本であろうし、彼との間に何者をも割り込ませたくなかった。

そもそも側妃が必要になるのは、継嗣の問題を考えた場合のみで、ルピアが私の子を生んでくれるのならば側妃は必要ない。

政略結婚であり、大國ディアブロ王國のやり口に腹立たしい部分はあるものの、私はルピアのことを好ましく思っており、彼には出來る限り平和で穏やかに過ごしてほしいと考えていたのだ。