《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》12 虹のかかる理由 2
その頃から、フェリクス様自にも変化が表れ始めた。
剣の訓練、勉學、マナーといったあらゆる學習に対して、一切の弱音を吐かなくなったのだ。
泣くことを止め、苦しくても歯を食いしばって乗り越えようとする。
恐らく……彼は自分が多くの者からされていると、じ始めたのではないだろうか。
そして、そのことは彼にとって大事なことで、自分を信じて頑張ることができるようになったのではないかと思う。
同時期に、彼は城の裏庭を訪れることを止めた。
そのことから、彼は自分の進むべき道を選択したのだと気付く。
多分……彼はお守りだった場所を捨て、厳しく険しい王となる道を選んだのだろう―――それまでは、『お前を決して王にはさせない』と両親から宣言されていたため、選ぶことすらできなかった道を。
フェリクス様の選んだ道は厳しいものだったけれど、それが彼のみであれば、私は全力で応援したいと思った。
そのため、しでも彼の手助けになるようにと、スターリング王國についてあらゆることを學んだ。
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そして、彼の後押しになるようにと、フェリクス様にとって意味のある日には虹をかけ続けた。
「ルピア、には大きくなるべき適正な時期がある。例えばお前が8歳の時に大きくなる分は、8歳の時にしか大きくなれない。9歳の時に倍の食事を取ったとしても、8歳の時の長を取り戻すことはできないのだ」
無理をし過ぎて連続で寢込み、食事もろくに取れない日が続いた私に、兄が苦言を呈した。
「ルドガーの言う通りだ。ルー、お前が何事にも全力で取り組むことは知っているが、無理をし過ぎるものではない。スターリング王國では長の高いが好まれるらしいから、ほら、しでも食べてごらん。そして、虹をかけるのはほどほどにしなさい」
従兄であるアスター公爵家のイザークも兄に同意する。
「分かりました」
そう答えはしたものの、結局、私は家族の言うことを聞くことなく、フェリクス様にとって大事な日に虹をかけ続けた。
そして、皆を心配させないようにと、熱が下がるとたくさん食べた。
―――9歳になっても、10歳になっても、11歳になっても、私は変わらず虹をかけ続けた。
そうしたら、皆は諦めて、もう何も言わなくなった。
だから、私はずっと彼のために虹をかけ続け、彼は「神のし子」との呼び名を確実なものにし、「虹の王太子」と國民から呼ばれるようになった。
虹をかけたことが原因とは思わないけれど、殘念なことに、17歳になった私は平均より長が低かった。
兄姉の中で、一人だけ低い。
けれど、そのことで誰も私をからかわなかった。
それどころか、事あるごとに私をフォローしてくれたため、私は自分の長が低いことに不便さをじることも、劣等を抱くこともなく済んだ。
また、この頃には、私がフェリクス様に夢中なことを家族の誰もが理解していた。
そのため、私たちの結婚式に先立って行われたフェリクス様の戴冠式に虹をかけ、調を崩して寢込んだ際、兄は「やるだろうと思っていたよ」と諦めたように呟いただけだった。
―――実際に、結婚予定日の1週間前にスターリング王國に到著していたものの、結婚式の當日までフェリクス様とお會いすることができなかったのは、私が寢込んでいたせいだ。
そして、フェリクス様は私の発熱の理由を知らないため、『大事な行事を前に発熱するなんて管理不足だ!』と不満を抱いてもおかしくないのだけれど、文句を言うことなく、直筆で書かれた労りの手紙を屆けてくれた。
スターリング王國の來賓用寢室のベッドに橫になり、彼の手紙を読んでいると、兄がやってきて汗ばんだ前髪を優しくかき上げてくれた。
それから、真面目な表で質問される。
「お前がこれまで彼のために虹をかけ続けた事実を、フェリクス王に伝えないのか?」
熱でぼおっとした頭では、質問を理解することに時間がかかったため、しばらくの間を置いて兄に答える。
「……話をするにしても、今すぐでない方がいいと思います。彼は自分が『虹の神』に祝福されていると考えているはずですので、実際はそうでなく、ただの私の魔法だったと知ったら、がっかりすると思いますから」
「そうかもしれないが」
短く反論する兄に、私は首を橫に振った。
「私はフェリクス様をがっかりさせたくないのです。ですから、……理想は、私が彼にとって大事な存在になれて、私が手助けをしたことが彼にとっても意味があるものだと思ってくれるようになってからです」
長い會話をしたことで息が切れ、思わず目を閉じると、兄が額に浮かんだ汗を拭いてくれた。
「気の長い話だな。お前は本當にフェリクス王を中心に、全てを考える」
それから、兄はため息をつくと、カットされた果を差し出してきた。
「無理をしてでも食べなさい。恐らくお前は、結婚式の前日まで熱が引かないはずだから、しでも力を付けるのだ。……ところで、お前自の結婚式には虹をかけないのか?」
食が全くなかったので、差し出されたフルーツをほんのしだけ齧る。
「結婚式の後は、披宴や外國の要人たちとの謁見といった重要行事が続くと聞いています。王妃が寢込んで欠席すると、フェリクス様に迷をかけることになるので、結婚式に虹をかけるのは諦めます」
兄は凄くできの悪い子どもを見る目つきで私を見やると、呆れた様子で天を仰いだ。
「虹をかければ、お前が祝福された存在であると、大々的にアピールできると思うのだが、……本當にお前はフェリクス王のことばかりを考えて、自分のことはどうでもいいのだな」
それから、兄は橫目に私を見つめてくる。
「彼がお前を大事にしてくれることをむよ。お前がお前自を労わらないのだから、お前の夫にその役を擔ってもらわないとな」
「そうなってくれたら、私は世界で一番の幸せ者ですね」
うっとりとした表で答えると、顔をしかめられた。
「……いや、やはりフェリクス王がお前を大事にしすぎるのも考えものだな。お前は調子に乗って、もっと彼のために盡力しそうだからな!」
そう言うと、兄はブランケットをぎゅうぎゅうと私のに巻きつけ、「おとなしく眠っているように」と言い置いて、扉に向かった。
「はい、分かりました。……お兄様、ありがとうございます」
お禮を言うと、兄は背中を向けたまま、軽く手を振った。
その作は、私が熱を出して寢込むたびに目にする見慣れたものだったため、いつの間にか自然と笑みが浮かんでくる。
私の結婚式に出席するため、遠路はるばる付いてきてくれ、さらに熱を出した私を心配してくれる優しい兄の後ろ姿を見つめながら、私は安心して深い眠りに落ちていった。
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