《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》13 に墮ちた日(ルピア7歳)

私が初めてフェリクス様に出會ったのは、我がディアブロ王國の王宮で行われたガーデンパーティーの席だった。

當時、まだかった王子王のために、王宮では定期的に貴族の子弟を招待したガーデンパーティーが開かれており、そこで王子王の婚約者候補や未來の側近候補、上級侍候補の選定がやかに行われていたのだ。

その時の私は7歳で、年上のお姉様たちとともに綺麗なドレスを著て、どきどきするを押さえながらパーティーに出席していた。

それらの席に、時折外國からのお客様がじることがあったけれど、その日はスターリング王國から第一王子であるフェリクス様が參加されていた。

フェリクス様は私より1歳年下の6歳だと紹介されたけれど、同じ年の子どもと比べると明らかに小さく、5歳くらいに思われた。

私が6人きょうだいの末っ子だったことと、ガーデンパーティーで私よりも年下の子どもを見たことがなかったことから、嬉しくなった私はフェリクス様にまとわりついた。

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本當に図々しいことだけれど、年上というだけで、彼の面倒を見ることを許された気持ちになっていたのだ。

テーブルをはさんで向かい合って座り、ひたすら彼に向かって話をする私を、フェリクス様は丁寧に相手をしてくれた。

わずか6歳だというのに、を閉じ込めた綺麗な笑顔を浮かべ、何を言っても頷いてくれるのだ。

そんな彼の態度は、私よりもい子どものものとしては出來過ぎに思われ、戸いを覚えていると、私の気持ちを敏じ取ったフェリクス様が小首を傾げてきた。

「どうかしましたか?」

「フェリクス様はどうして、私が何を言ってもうなずいてくれるのですか?」

「え?」

「フェリクス様の嫌いなものは何ですか?」

全てを肯定してくれるということは、フェリクス様は私が話題にした全てのものが好きなのだろうか?

でも、嫌いなものだってあるはずだ。

そんな単純な考えから質問すると、彼は驚いたように目を見開いた。

まるで自分に嫌いなものがあることを、今まで一度も考えたこともないとでもいうかのように。

「……嫌いなもの。……嫌いなものが何かを言えるのは、自分に自信がある者だけです。僕には言えません」

「え? どういうことですか?」

フェリクス様が言っていることは、當時の私には理解できなかったため聞き返すと、彼は眉を下げた。

……多分、この時、私は彼を困らせたのだ。

自分の経験の範囲で彼の発言を考え、安易に分からないと返してしまったため、フェリクス様は大いに困したのだろう。

理解できないのならば、「そうなのですね」と流すことが淑のルールだと既に教わっていたのだから、私はそうすべきだったというのに。

けれど、困していたとしても、フェリクス様はそのことを口にすることなく、理解できていない私のために言葉を変えて話を続けてくれた。

「……嫌いなものは、僕の髪かもしれませんね。我が國の王族は皆、2以上の髪で生まれてきます。本來ならば僕もそうあるべきだったのです」

「…………」

せめてここで、『フェリクス様の髪はきれいですよ』とか、『我が國では、誰もが一の髪しか持ちませんから大丈夫ですよ』とか、気が利いた言葉を言えればよかったのだけれど、昔から私にはその手の用さが不足していた。

そのため、さすがに彼の言葉に穏やかならざるものをじ、元気付けるような言葉を言わなければいけない、との雰囲気をじ取っていたにもかかわらず、結局は適當な言葉が浮かばず、強張った表で沈黙することしかできなかった。

気まずい沈黙が続き、言葉でめることを諦めた私は、當時、兄が馬に夢中だったことも手伝って、フェリクス様に馬を見せたら喜ぶに違いないと考えた。

そのため、私は唐突に彼を馬場にった。

「フェリクス様、馬を見に行きましょう!」

彼は一瞬訝し気な表をしたけれど、すぐに穏やかな表に切り替えると頷いた。

「はい、ご一緒します」

當時の警備に問題があったとすれば、ガーデンパーティーの席から私が抜け出すとは誰も考えていなかったことだろう。

なぜならこれまでの私は一度だって、そのような行を取ったことがなかったため、誰も予測していなかったからだ。

そのため、私たちに付き従ったのは、私の護衛騎士ただ一人だった。

お兄様は栗しい馬を手にれたばかりだ。

あの馬はとてもしいから、フェリクス様も気にるに違いない。

そう高揚した気持ちで、私はフェリクス様とともに馬場に足を踏みれた。

そして、兄の馬が目にった瞬間、「フェリクス様、あの馬よ!」と大聲を上げながら、一直線に栗の馬に走り寄って行った。

馬は臆病なだから、突然大きな音を出したり、走りだしたりしてはいけないと、前々から注意されていたのだけれど、その時の私の頭からは全ての警告が吹き飛んでいた。

注意事項を思い出したのは、私の目の前で一頭の馬がいななきながら、後ろ足二本だけで立ち上がった時だ。

「え……」

恐怖で立ち止まり、見上げた私の視界に馬のお腹と二本の前足が映り込む。

逃げなければ、と咄嗟に思ったけれど、足が竦んでくことができなかった。

踏まれる!

と思ったその瞬間、私を引き倒すようにして、何者かが私の上に覆いかぶさってきた。

高く鳴く馬の聲と、誰かのび聲。走り寄ってくる足音。

一瞬にして騒然となったその場で、私はただ地面に橫たわり、直したまま目を見開いていた。

―――結論から言うと、私に覆いかぶさってきたのはフェリクス様だった。

幸運なことに、彼も私も振り下ろされた馬の足を避けることができ、泥で汚れはしたものの、怪我一つ負うことはなかった。

すぐに私の護衛騎士が走り寄ってきて、馬場にいた従者たちと協力して馬たちを遠くに追い払うと、フェリクス様と私を木のに連れて行き、怪我がないかを確認してくれた。

ことの重大さに真っ青になり、がたがたと震えていると、隣にいたフェリクス様が気遣わし気な聲を掛けてきた。

「大丈夫ですか? 怖い思いをさせてしまって、申し訳ありません」

私はびっくりして目を見開いた。

「ちが……ち、ちがいます! 謝るのは、私です。ごめんなさい。フェリクス様を危険な目に遭わせてしまってごめんなさい」

ショックでぽろぽろと涙を零し始めた私を見て、フェリクス様は眉を下げた。

「僕が怪我をしても、悲しむ人はいないから大丈夫です。あなたが無事でよかった」

そう言うと、彼はふわりときれいに笑った。

―――その瞬間。

そう言い切ったフェリクス様の優しい表を見て、私はに墮ちた。

私よりも年下の小さなでありながら、咄嗟にして庇ってくれた勇気のある彼に。

真っ青になった私を心配し、めの言葉を掛けてくれる優しさを持つ彼に。

王國の第一王子でありながら、怪我をしても誰も悲しまないと言い切る寂しさを持つ彼に。

「……フェリクス様、ありがとうございます。このご恩はずっと忘れません」

口にした言葉は、本気だった。

―――私はたった7歳だったけど、生涯のに墮ちたのだ。

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