《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》14 虹のかかる理由 3
「まあ、ルピア様、凄い汗ですわ! ご気分は悪くありませんか?」
目が覚めたタイミングでミレナが室してきたかと思うと、汗で張り付いた私の髪を見て、驚きの聲を上げた。
「心配してくれてありがとう。昔の夢を見ただけだから大丈夫よ」
何でもないと伝えたけれど、ミレナから心配そうな表で々と確認される。
目覚めたばかりだからなのか、私は先ほどまで見ていた夢をはっきりと思い出すことができた。
私がに墮ちた―――フェリクス様に助けられた7歳の頃のシーンだ。
あの場面を思い出すと、彼を危険にさらした記憶がまざまざと呼び覚まされ、いつだってが苦しくなる。
今もそうで、苦しさを散らすためにゆっくりと元をさすっていると、時間の経過とともに楽になってきた。
もう大丈夫と思った私は、未だ心配そうな表を浮かべているミレナを安心させるために微笑みかける。
けれど、彼は私の笑顔を信用していないようで、冷やしたタオルで顔を拭いてくれた後も気づかわし気な表を浮かべていた。
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まあ、私が々とごまかしたい時に笑顔を浮かべることを、既に見抜かれてしまっているわ!
さすがフェリクス様が認める優秀な侍だわと驚いていると、そんなミレナを満足そうに見つめているバドに気が付いた。
バドったら、ミレナのことを気にっているのならば、そろそろ聖獣であることを示してくれればいいのに!
そう不満に思いながら、バドの耳をぴんぴんと引っ張る。
それから、バドに態度を改めるよう申しれた。
「バド、あなただって分かっているでしょう。ミレナは心から私のことを考えてくれる素晴らしい侍だわ。お願いだから、そろそろ正を現してちょうだい」
けれど、私の言葉が聞こえたはずの守護聖獣は、まるでリスであるかのようにを丸めると、迷そうに尾を振ってきた。
どうやらバドは方針転換することなく、リスに擬態し続けるつもりのようだ。
まあ、バドは本當に手強いわね!
私はバドに向かってため息をつくと、朝の支度に取り掛かった。
―――さて、フェリクス様は國王として日々忙しく、々なところに出掛けられている。
一方、が弱いと思われている私の公務はなく設定してあり、彼とともに行することは多くない。
けれど、本日は2人で一緒に外出する予定になっていた。
なぜなら今日は「虹の神祭」で、國を挙げてお祭りが行われる日だからだ。
それはスターリング王國でも指折りの重要行事であったため、―――私は結婚して初めて、空に虹をかけようと決心していた。
フェリクス様と一緒の外出だわ! と、わくわくした気持ちで、彼とともに馬車に乗り込む。
ぴかぴかの馬車には大きなガラス窓がはめてあったため、沿道に集まってくれた國民に向かって窓越しに手を振った。
すると、わあっと歓聲が上がり、笑顔の國民たちが大きく手を振り返してくれる。
嬉しくなって、笑顔で手を振り続けていると、歓聲はどんどん大きくなっていった。
「凄い人気だね。去年も一昨年も同じ行事に參加したが、これほどの歓迎をけたのは初めてだ。皆、可らしい王妃に夢中なのだろうね」
フェリクス様は冗談めかした口調で、楽しそうに話を振ってきた。
思ってもみないタイミングで話しかけられたため、どぎまぎしてを押さえる。
「ま、まあ、ありがとうございます。でも、去年までは王太子だったフェリクス様が、國王になられたことを喜んでいるからこその歓聲じゃないかしら」
そう答えると、フェリクス様は何とも言えない表を浮かべた。
「ルピアは本當に思いやりがあるね。偏見に満ちた言葉で申し訳ないが、貴族というものは、譽め言葉を當然のものとしてけ取り、他人に分け與えないものだと思っていた。君のように、とっさに私を思いやる言葉が出てくる者は、なかなかいないだろうね」
「ま、まあ、そうではないわ。立派な夫を持っていると自慢しているのだから、思いやりとは程遠いはずよ」
褒められたことに揺し、自分でもよく分からない言葉を返すと、彼はきょとんとした後に聲を上げて笑い始めた。
「ははは、なるほど! だが、自慢される夫の立場としては、誇らしいことこの上ないな。うん、君の夫になってよかったよ」
「ま、まあ」
何てことを言うのかしらと思いながら、言葉に詰まった時の癖で、ドレスのポケットにっているバドをでると、その仕草を見つめていた彼から言葉を重ねられる。
「ルピアは本當に深いね。ペット……ではなく、聖獣様だったかな? 聖獣様にまでそれほどのを注いでいるのだから、子どもが生まれたら凄く可がるのだろうね」
「えっ、こど? こ、こど?」
突然何を言い出すのかしらと、驚いて問い返そうとしたけれど、揺し過ぎて単語を上手く口に出せない。
一瞬にして真っ赤になった私を、フェリクス様は馬鹿にするでもなく、むしろ心するような表で見つめてきた。
「本當に、こんなに可らしい王妃様が存在するなんてね。それが己の妃だなんて、私は果報者だな」
「…………」
これは無理だ。
夢で覗き見していた時、フェリクス様がに甘い言葉を囁く場面を目にしたことがなかったため、浮ついた言葉を口にしないタイプだと勝手に思っていたのだけれど、どうやら私の勘違いだったようだ。
彼の言葉は私の許容範囲を超えており、とても耐えられないと思ったため、別のことに集中しようと、無理やり視線を窓の外に向ける。
そして、街路沿いに集まってくれている人々に向かって手を振った。
國民へ手を振る私をフェリクス様が見つめていることは分かっていたけれど、私は決して彼に視線を向けなかった。
そんな私を見つめていたフェリクス様は、しばらくすると「可いな」と、獨り言のようにぽつりと呟いた。
聞こえない振りをしていたけれど、もちろんしっかり聞いていた。
そして、明後日の方向を向いた角度を可いと思ってもらえるのならば、今後はどうにかして明後日の方向を見続けようと心に決めたのだった。
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