い頃、私は自分が嫌いだった。

王族として一番大事な髪に、不備があったからだ。

―――そのため、私には王族である資格がないと考えていた。

―――父母に厭われることは、一の髪で生まれてきた自分が悪いからだと考えていた。

誰も私を肯定せず、けれなかったから、私も私自を肯定することも、けれることもできなかった。

そして、私自に価値はなく、いつか複數の虹髪を持つ弟が生まれれば、切り捨てられる存在だと理解していた。

だが、―――私が７歳の誕生日を迎えた日、王宮に虹がかかった。

それはそれはしい虹が、まるで私の誕生日を祝福するかのように、王宮の端から端までかかったのだ。

次に、私が従騎士となった日に。

さらに、私に勲章が授與された日に。

それから、毎年の誕生日には必ず、しい虹が王宮の端から端までかかるようになった。

初めて虹を見た時は、して言葉を失った。

そして、こっそりと一人で泣いた。それは私に與えられた、初めての優しさだったから。

２度、３度と重なると、その荘厳さがどんどんに染みてきて、心が震えるような気持ちになった。

そして、３度目の奇跡が重なった時、私は「虹の神」の慈をじることができた。

「……ああ、世界は私に優しい」

心から、そう思うことができた。

これほど何度も偶然が重なるはずもない。

世界が、神が、私に示してくれたのだ。

『お前を見ている』と。

『お前をしている』と。

私は嬉しさのあまり、初めて聲を上げて泣いた。

そうして、涙が溫かいものだと初めて気が付いた―――涙は、人を冷やすものではなく、溫めるものなのだと。

「ああ、私はされていた」

たったそれだけで―――そして、その重大な啓示のおかげで、私の全ては一変した。

これまで何度も流していた涙が、突然溫かいと気付いたように、ある日を境に全ての見え方・じ方が転換したのだ。

そして、新たなる人生が始まった―――世界が私に優しいとじることができたあの日に。

なぜならその日から、私は顔を上げてまっすぐ未來を見つめることができるようになり、その未來は輝いていたのだから。

―――そんな話を、なぜ妃にしようと思ったのか。

これまで誰にも話したことがなかったけれど、ルピアならば好意的にけれてくれるように思われ、……違うな、好意的にけれてもらいたく思い、話したくなったのだ。

ともに過ごすうちに分かってきたが、大國の王であったルピアは、意外に恥ずかしがり屋で言葉が足りなかった。

貴族令嬢というのは煌びやかな言葉を使い、事実を數倍に膨らませるのが常だけれど、ルピアにそのような面は全くなく、むしろ言葉が不足していた。

そのことを証するように、自分が再現させた料理にしろ、見事な刺繍にしろ、一切ひけらかすことがなかった。

そして、私はいつしかそんな彼を好ましく思うようになった。

明るくて思慮深く、何事にもひたむきで真っすぐなルピアを。

明らかな好意をもって、私を見つめてくれる彼を。

だからこそ、彼が目の前で倒れた時には、心臓が凍り付いたような心地になった。

―――「始まりの地」で彼は突然、まるで力盡きたかのように倒れたのだ。

「ルピア！」

慌てて抱き留め、そのまま馬車まで運んだけれど、抱き上げたが熱を持っていたため、その熱さに戦慄した。

馬車の中では、彼が頭を打ち付けないようにと膝の上に抱えていたけれど、そのがどんどん熱くなってきたため心配になる。

そして、彼は眠ったような狀態に陥り、目を開かなかった。

王宮の専屬醫に見せると、ルピアの母國から提出された病歴書から判斷するに、定期的に彼に起こる発熱癥狀だろうとの診斷が下された。

癥狀は一週間程度で治まるだろうとの見立てだったが、私は心配な気持ちを抑えることができなかった。

日に何度も彼の寢室を訪れ、彼が無事であることを確認してしまう。

それだけではなく、彼の喜ぶ顔が見たくて、朝摘みの花を彼の部屋に差しれるようになった。

すると、私が摘んだ花を見た彼は、実際に嬉しそうに微笑んでくれた。

そのため、私はもっと彼を喜ばせたいと考えた。

だが、レストレア山脈に登り、彼の瞳と同じの花を摘んできたことは、衝的な行為だったと我ながら思う。

そのため、王宮に戻った際、宰相から散々小言を言われたが、當然のことだと甘んじてけ止めた。

だが、心配を掛けた者たちには悪いが、私は自分の行を一切後悔していなかった。

なぜならその景は、私が見るべきものだと思われたからだ。

―――レストレア山脈で目にったのは、一面の銀世界だった。

どこからどこまでも真っ白な世界。

その白一の世界に、シーアの花だけがところどころ顔を覗かせ、繊細でしい花を咲かせていた。

その景はあまりに荘厳だったため、私はのあまり言葉を失った。

そして、この目の前の景をルピアのようだと思った。

それは決して、彼の白い髪と紫の瞳から、目の前の景を連想したからではなかった。

高潔で清廉。何者にも荒らされない、凜としたしさを持っている。

そんな彼の姿と眼前の景からける印象が同じだったからだ。

この景を覚えていよう。そして、ルピアを大事にしよう。

私は目の前に広がる幻想的な景を前に、そう決心した。

そして、その決意は間違っていなかったと、私は思った。

私にとって意味のある日に必ず虹がかかるため、私は「虹の神」にされており、世界にけれられているとじるとルピアに話をした時、彼が涙を流してくれたから。

「フェリクス様は大事な存在で、だからこそ世界はあなたをしているわ」

涙を零しながらも微笑んで、そう言ってくれたから。

そして、そんな彼を見て、私は心の大事な部分が溫かくなっていくのをじた。

それから、私の妃はとても綺麗だと思った。