《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》20 虹の乙 2
皆から説明された話によると、スターリング王國で3の虹髪を持つ者は現在、わずか3名しかいないらしい。
フェリクス様、フェリクス様の弟のハーラルト、それから目の前にいるアナイスだ。
そのため、アナイスはい頃から様々な行事への參加を求められ、フェリクス様と顔を合わせる機會が多かったようだ。
ちなみにアナイスは、フェリクス様より1歳年下の15歳とのことだった。
「貴族は虹髪で生まれる場合が多いのですが、あくまで1です。まれに2の者が現れますが、そこが貴族の限界です。3の虹髪はこれまで、王族にしか現れたことがなかったのですから。ですが、私は神に選ばれて、3の虹髪を持って生まれてきたのです」
アナイスは高揚した表で、とくとくと語った。
「それは素晴らしいことね」
彼の言葉を肯定すると、アナイスはうっとりとした様子で続ける。
「私の誕生日には毎年、虹がかかるのです。そのため、髪のも相まって、私は『虹の乙』と國民から呼ばれています」
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「まあ、それはこの國で最上の呼稱だわ」
私は驚いてアナイスを見つめた。
この國では、誰もが「虹の神」を信仰している。
だからこそ、呼稱に「虹」と付加されることは最上の栄譽に違いない。
そう心していると、アナイスはもったいぶった様子でうなずいた。
「この國にとって、私の存在が大事なものであることは、間違いないでしょうね。だからこそ、私の名付け親は我が國有數の大貴族……前クラッセン侯爵です。もちろん、當主が代替わりした今も、現クラッセン侯爵から何くれとよくしていただいておりますわ」
クラッセン侯爵と言えば、ミレナの兄でもあるギルベルト宰相のことだ。
まあ、アナイスとギルベルト宰相は知り合いだったのねと考えたところで、ふと先日ミレナが言っていた言葉を思い出す。
『そもそも兄は熱心な「虹の神」の信者のため、虹髪を尊重する傾向があるのです。そして、誠に勝手なことに、ルピア様がご婚約者に決まる前、複數の虹髪のご令嬢をフェリクス様のお相手にと考えていたのです』
私ははっとして、アナイスを見た。
……そうだ、彼は3の虹髪をしている。
そして、この3の虹髪を持つ者は、彼自を含めても3名しかいないという。
さらに、國民から『虹の乙』と呼ばれており、宰相の父親が名付け親をしている。
つまり……ギルベルト宰相がフェリクス様の婚姻相手に、と考えていたご令嬢はアナイスなのだわ。恐らく、多分。
自分の閃きに呆然としていると、フェリクス様がからかうような聲を掛けてきた。
「どうした、ルピア。私の髪も3で、見慣れていると思ったが、アナイスの髪の方が君の興味を引くのかな?」
「あ、え、ええ、しい髪ですね」
揺しながらも、目に映るアナイスの髪は確かに神的でしいわと返事をすると、フェリクス様はわざとらしく肩を落とした。
「そうか、アナイスの髪に負けるようでは、私の髪はまだまだだな。王宮の侍たちに、私の洗髪剤を変更するよう申し伝えておくとしよう。……ルピア、悪いね。我がスターリング王國の者のくせで、すぐに髪の話をしてしまうのだ。ただし、虹髪以外の髪の良さが分からないわけではないから、君の清廉な白い髪が素晴らしいことは、よく理解している」
……フェリクス様はよく私を見てくれているわ。
そして、気分が落ち込んだ時に、的確な優しい言葉をくれる。今のように。
「フェリクス様、お優しい言葉をありがとうございます」
しみじみと口にすると、バルテレミー子爵がぷっと噴き出した。
「これは、これは……失禮を承知で申し上げると、王妃陛下は何ともお可らしい方ですね」
「テオ、確かにお前の発言は失禮だ。というか、人の妻を勝手に褒めるんじゃない!」
「うわあ、國王陛下ともあろう方が、何とも狹量な!」
仲の良いフェリクス様とバルテレミー子爵が會話を引き取ったことで、場に明るい雰囲気が戻ってきた。
それから、話題は様々なものに移っていく。
「……その時、フェリクス王は拾った落ち葉を差し出してきたのですよ! 私はもう、どうすべきなのか困してしまって」
誰もがバランスよく様々な話を提供したけれど、アナイスは熱中するとついつい、フェリクス様、バルテレミー子爵と3人で過ごした昔の話に終始しがちだった。
「アナイス、昔話ばかりでは、私の記憶力が試されているようだ。そろそろ記憶に自信がなくなってきたので、話題を変えてくれ」
けれど、その場合には必ず、會話にれない私のことを気遣ってか、フェリクス様が話題を変えてくれる。
そのことをありがたく思いながらも、話の端々から、アナイスがい頃からフェリクス様と多くの流があったことに気が付く。
そして、2人が気の置けない間柄であることにも。
その時ふと、もしかしたらアナイスは、ギルベルト宰相が彼をフェリクス様の婚約者にと考えていたことを知っていたかもしれないと思い至る。
そうだとしたら、ぽっと出の他國の王が彼と結婚したことを、アナイスが不満に思ったとしても不思議ではないだろう。
……そうだ、私は忘れてはいけない。
んな方がんな気持ちでフェリクス様のことを思っている。
そして、その思いは、私がこの國に嫁いで來るずっと前からのものなのだから、私は彼らの気持ちを大事にしなければならない。
幸いにも私は今、フェリクス様の隣に立つことを許されているのだから、一杯フェリクス様のためになるよう頑張っていこうと、改めて自分に誓ったのだった。
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