《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》55 大國からの訪問客 2

アスター公爵に対して何事かを言いかけたギルベルトを片手で制すると、私は玉座から立ち上がった。

通常、訪問客と面會する場合、王が玉座から離れることはない。

しかし、ルピアのことを真摯に思う相手に対して、私自が対応すべきだと思ったからだ。

真っすぐに進んで數段ある階段を降りると、アスター公爵の前に進み出る。

すると、公爵は挑むような表で私を見やり、馬鹿にするかのようにを歪めた。

そんな風ににする公爵を見て、1つ年上の相手ながら若いなと思う。

そして、一方では、を思いのままに表すことができる立場を羨ましく思った。

―――もちろん、彼には怒るべき理由がある。

彼の大事な従妹姫を、私が傷付け悲しませてしまったのだから。

「これは、ルピアのご夫君であらせられる國王陛下! 玉座を降りるなど、いかがされた?」

どこまでも挑発的な言葉を発するアスター公爵を正面から見つめると、私は口を開いた。

「まずはお禮を申し上げたい」

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「……何だって?」

アスター公爵は聞き間違えたと思ったようで、眉を寄せると聞き返してきた。

そのため、私は誤解を生まないよう、はっきりとした言葉を発する。

「貴君の言葉通り、私は世にも得難い妃を貴國より迎えれた。そのことについては、謝してもし足りることはない。王の名代として我が國を訪問されたアスター公爵に対し、謝を申し上げる」

「………へえ」

アスター公爵が不思議な言葉を聞いたとばかりにを歪めた。

公爵からしたら、まさかそのような言葉が返ってくるとは思っていなかったようで、次の言葉を待つかのように無言で見つめられる。

そのため、私は言葉を続けた。

「妃の要に応え、我が國を訪問されたことにも謝する。しかしながら、妃は調不良により私室で臥せている。そのため、対面はそちらで行ってもらいたい。……妃が至上なる存在であることは理解しており、貴君の妃に対する敬意はけ取った。だが、先に述べたように、妃は臥せているため、貴君が多くの耳目がある中で、妃に敬を示すことは難しいだろう」

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公爵は腕を組むと、不満さを表現するかのように顎を上げた。

しかし、言葉を差し挾まれることはなかったため、公爵に対して新たな提案をする。

「もしよければ、妃の調が回復した折に、私が貴君に代わって、公的な場で妃に敬の意を捧げよう」

それは現狀で最良の提案であったものの、アスター公爵からすると、満足いく容とは言えなかったかもしれない。

なぜなら私の提案容では、遠地よりはるばる訪れた公爵が、自らルピアの価値を高めるために行できないからだ。

しかしながら、私の懸念をよそに、公爵は私の提案に肯定的な意見を示した。

「……ふうん。代替案としては悪くないな。この國において、僕はよそ者でしかないからね。対して君は王だ。王が敬を示すとしたら、その意味は王宮中に広まるだろう。……よもや王が示す敬意の意味すら知らぬうつけ者が、王宮に足を踏みれられるはずもないからね……そうだろう?」

ただし、アスター公爵は抜け目なく條件を示してきた。

彼は言外に、今後、王宮でルピアの地位を確立するようにと、さらに、彼を敬わない者を王宮にれないようにと、要求してきたのだ。

私の後ろにぴたりと張り付いていたギルベルトが苦を言いかけたけれど、私は片手を上げて制した。

そもそも彼の要は、私が目指している未來と一致しているのだ。否定する必要などない。

「その通りだ」

けれど、公爵は私の返事に満足することなく、さらに一歩攻めてきた。

「お言葉謝する。だが、初対面の君の言葉を、僕はどうやって信じればいいのだろう? ああ、分かっている。君が大陸の勇者だということは。長年小競り合いを繰り返してきたゴニア王國を叩きのめし、あの國の重要地域を全て併合したことで、今やスターリング王國は強國の仲間りを果たしたのだから。そんな立派な王國に長させた、偉大なる王の言葉だ。僕は無條件に信じるべきなのだろうね?」

それは完全なる挑発の言葉だった。

公爵にとって、大陸の勇者であることも、強國の王であることも意味はない、とその口調がはっきり暗示していたのだから。

『私がルピアに足るべき者か』という1點だけを確認しに、公爵は我が國まで來たのだ。

私が優れていようが、そうでなかろうが、どうでもいいことは明らかだった。

「アスター公爵、さすがにあなたの態度は、王に対して不敬が過ぎます!」

とうとう我慢ならなくなったギルベルトが、注意の聲を上げた。

ギルベルトにしてみたら、従うべき相手は私のみだ。

そもそもここはスターリング王國で、王は私なのだから、アスター公爵であっても『外國の公爵ごとき』でしかなく、私への態度が目に余ったのだろう。

冷靜に判斷して、アスター公爵の態度が一國の王に対するものでないことは承知していた。

この場の誰もが公爵の態度は不敬で、止めさせるべきだと考えていたようだが、彼がそうしたいのであれば、私はけ止めるべきだと考えていた。

なぜなら先に、ルピアに誤った対応をしたのは私なのだ。

私はルピアの親しい者から、―――大陸にその名を冠する偉大なるアスター公爵ではなく、い頃からルピアを慈しんできた彼の従兄から―――同じような応対をけるべきだと考えた。

私は再度片手を上げると、ギルベルトを押し留める。

「よい、ギルベルト。ルピアの従兄殿であれば、私に何だって発言できる」

それから、私はアスター公爵を見つめた。

「ただし、貴君の発言も訂正する。私がスターリング王國の王であるから信用してくれ、と私は言わない。そうではなく……君の従妹であるルピアが選んだ者として、私を信用してほしい」

私がそう発言した瞬間、アスター公爵はかっとしたように目を見開いた。

それから、馬鹿にした様子で両手を打ち鳴らすと、激を抑えきれない聲を上げる。

「これは、これは! 本當に思ってもみない言葉を聞かされるものだな!! 君がルピアの信頼に足る人だと、君は言っているのか?」

その口調から、とても信じられないといったニュアンスが読み取れたけれど、私は真摯な表のまま頷いた。

「そのことを、この先一生を懸けて証明していく、と言っている」

アスター公爵がを歪める。

「……できなかった場合は、命でも差し出すと言うのかな?」

「それはできない。私の命はルピアのために使うと決めた。つまり、ルピアより1日でも長く生きて、最後まで彼のためにこの命を使うと」

私とアスター公爵は至近距離で睨み合った。

私はぐっと腹に力をれると、目の前にある嫌になるほど整った顔を見つめる。

―――正直に言って、アスター公爵の存在にがざわつくのは事実だった。

このわずかな時間だけでも、アスター公爵がルピアのことをどれほど大切にしているのかを、簡単に理解することができた。

これほど見栄えが良くて、大陸中に名を轟かせる人が、ルピアに明らかな好意を抱いているのだ。

そのことに気付くと、不安な気持ちがの中を暴れ出すのを止められなかった。

ルピアは真っすぐ私を思ってくれていたため、他の男について考えたこともなかったが、思えば當然の話だ。

はあれほど可らしくてらしいのだから、母國の誰からもされたに違いない。

それが家族なのか、異間のなのかは不明だが、アスター公爵に可がられるルピアの姿を想像すると気分が悪くなる。

しかし、同時に謝の気持ちを覚えた。

公爵はい頃からルピアの側にいて、彼し守ってくれたのだ。

そのおかげで、彼は幸せな時代を送ることができたはずだ。

アスター公爵は私の大切な者を、同じように大切に思ってくれる貴重な相手で、―――決して敵ではないのだ。

加えて、ルピアが困った時に一番に救いを求めるほど頼っている相手だ―――私はルピアの気持ちを大事にすると決めたのだから、公爵を大事にしなければならない。

「ふ……ははは、面白いね、フェリクス王! 君は腹を決めたのだな。ルピアのために生きると! ……初めから君がそうであれば、何も問題はなかったのに!!」

私の表を観察していた公爵は、何事かを読み取ったようで、心底腹立たしげに吐き捨てた。

「面目ない」

あくまで公爵の意見に逆らわずにいると、彼がふっと目の前で敵愾心を捨て去ったのが分かった。

彼は気分を変えるかのように、両手で髪をかきあげる。

「僕は決して君を許さないよ。だが……」

そこで、公爵は大きなため息を一つはいた。

「僕はい頃から、多くの時間をルピアとともに過ごしてきた。そのため、彼の好みは分かっているつもりだ。……うん、確かに君みたいなのが、彼は気にるのだろうね。僕は君が世界で1番憎らしいと考えながら、この部屋にってきた。実際に君と対面したら、この悪はさらに膨れ上がるだろうと予想しながら、のままに罵ってみたけれど、不思議なことにひとかけらも増えなかったよ。……うん、そうか。こういうタイプなのだな」

彼はわざとらしくもう一度ため息をつくと、片手をひらひらと振った。

「ルピアのところまで案してくれ。フェリクス王、僕はしばらくここに滯在するよ。今の君が改善されていたとしても、これまでの君が酷かったのは間違いないから、……滯在中、そのことに対して僕は苦を言い続ける。いいね?」

いつも読んでいただきありがとうございます!

更新が非常に遅くなりました。いつも想や評価、ブックマーク、誤字字などをありがとうございます!!

☆別作品で恐ですが、3/7にノベルが発売されましたので、ご紹介させてください。

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ゲームの悪役令嬢に転生した主人公が、に魔法にと頑張る話です。

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どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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