《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》58 慕 2

言い訳にしかならないが、これまで私の前に現れたご令嬢は皆、他人の努力や労働を己(おの)が手柄とする者ばかりだった。

や料理人といった家人が行ったことは、すべて自分の行為と見做すのだ。

たとえばどこぞの侯爵令嬢が、『私が陛下のために作りました』と持ってきた焼き菓子は、最後にアーモンドを振りかけただけだと知っていた。

しかし、高貴なる貴族令嬢が一部でも手伝ったのならば、確かに彼にとっては「作った」のであって、自分をよりよく見せるためには、どれだけでも自分の手柄にするのだろうと思っていた。

それが普通だと。

そのため、私が懐かしい料理を口にして驚いた時、『王妃陛下が作られたものです』と説明された際も、同様だと考えた。

「陛下、何かお食べになりたいものはございませんか?」

侍従頭から聲を掛けられて、私は顔を上げた。

彼が自ら話しかけてくることは滅多になかったため、彼から心配されるほど、私は不調をきたしているのだろうかと、自分のを見下ろした。

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すると、目に見えてが落ちている腕や足が目にった。

思い返してみると、確かに最近は食が落ちていた。

しかし、ルピアが臥せている今、私が病気になるわけにいかないと、しでも食べられそうなを考える。

すると、ルピアが再現させてくれた懐かしい料理が頭に浮かんだ。

「クグロフを」

聲に出しながら、この料理もルピアが私のために、宮廷料理人たちに作らせたのだと思い出してしんみりする。

しかし、その日の夜に出された料理は、私が食べたかったものと全く味が異なっていた。

一口食べただけでカトラリーを置く私を見て、侍従頭が困した様子で尋ねてくる。

「お口に合いませんでしたか?」

「私の味覚が変わったのかもしれないが、覚えていた味とは異なるようだ」

そう返すと、侍従頭は申し訳なさそうに返事をした。

「実は、料理長から謝罪の言葉を預かっておりまして、お伝えさせていただきます。『これまでお出ししていたクグロフは王妃陛下の手作りで、王妃陛下しか再現できない味になっております。申し訳ございません』」

私は驚いて、料理長を呼び付けた。

間もなくして駆け付けてきた料理長は、恐したように頭を下げると、コック帽を握りしめながら口を開いた。

「あの料理は、ジャガイモを洗って皮をむくところから、お皿に盛り付けるところまで、全て王妃陛下が行われておりました」

「ルピアが? 野菜を洗って、切ったというのか?」

「はい、それはもう見事なお手並みでした」

突然、激しく拍し始めた心臓の音を煩くじ、私は服の元を強く握りしめた。

……確かにルピアが作ったとの報告をけていたが、実際に彼が作っていたのか?

私は料理人たちが作ったとばかり思い込んでいたが、……彼は料理ができて、私のために時間と労力を使ってくれていたのか?

「だが、そんなことをすれば、どれほどの時間がかかるのか」

私の質問に対し、料理長は恐ろしい答えを返した。

「3時間です。そのため、あの料理は王妃陛下のお時間がある時にのみ、作られていました。……調理室には『王妃陛下の樽』と呼ばれている場所があります。あの料理は、芋を細かく砕いて、バターと小麥と混ぜるのです。それを王妃陛下は『王妃陛下の樽』に座られて、1時間かけてやられていました」

「1時間も混ぜ続けるのか?」

ルピアの細い手首が思い出され、その労力はいかほどのものだったのかと不安になる。

思わず痛まし気な表を浮かべた私の前で、料理長は早口で言葉を続けた。

「王妃陛下はクグロフを作られる時は必ず『王妃陛下の樽』に座られて、『料理で大事なのは気持ちなのよ。混ぜて、混ぜて、混ぜて、そして、混ぜて!』と楽しそうに口にされながら、混ぜられていました。その言葉には聞き覚えがあります。先代の料理長の口癖です。王妃陛下は先代料理長に料理を師事されておりました」

私は片手でぐっと口元を押さえた。

こんな偶然が起こるはずもない。

ルピアは分かっていて、私の料理を作っていた料理人を師としたのだ。

「前料理長は野菜を混ぜる時に、獨特の手首の回し方をされていました。王妃陛下は全く同じようにされるのです。私たちも同じ教えをけましたが、手首に負擔がかかるので、誰も継承しなかった。けれど、王妃陛下はやられていたのです。1時間、漫然と混ぜるのではなく、1回、1回、意識しながら、ただ、食する方のためを思って作られていたのです」

ルピアが私のことを思って料理を作ってくれた。

ああ、だからこそ、あれほど味しくじたのだろう。

「……私たちに、同じ料理が作れるはずはありません。陛下がもう一度食べたいと思われることに、不思議もありません。王妃陛下の料理は味しいに決まっています。ただ、陛下のことだけを考えて、一心に作られていたのですから」

聲を出せる気がしなかったので、私はうつむいたまま頷いた。

そんな私に対し、料理長は聲を詰まらせると、掠れた聲で続けた。

「王妃陛下がものすごく高貴な方であることは存じ上げていますが、……あんな風に、きらきらとるように一心にをされている方を、私は初めてお見かけしました」

「…………ああ」

……その日、私はそれ以上一言も発することなく、ただルピアのことを考えていた。

いつも読んでいただきありがとうございます!

(思っていたよりもフェリクス王パートが長くなりました。できれば毎日か2日置きくらいに更新して、あと數回でこの章を終わらせられればと思います)

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