《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》60 慕 4

それから、數か月が経ったある日、ルピアの寢室で執務をしていたところ、彼の服がはだけていることに気が付いた。

ペンを置いて椅子から立ち上がると、彼の服を整えようと近付いていったが、途中でぎくりと足が止まる。

なぜなら目にったものが、信じられなかったからだ。

大きく目を見開いて彼を見つめるが、目に映るものは変わらなかった。

そして、それが何なのかを理解するにつれて、心臓がばくばくと早鐘を打ち始める。

―――ルピアの左肩に、遠目からでも分かるほどの、深い傷が刻まれていたからだ。

無作法だと思いながらも、ルピアの側に寄ると、震える指で彼の服の元を緩める。

すると、左肩から心臓まで続く、長く深い傷が表れた。

「…………ルピア……」

その傷がどうやって刻まれたのかを理解し、嗚咽を押さえるために片手で口を覆う。

直したまま真っ青になっていると、ミレナが部屋にってきた。

は私とルピアを互に見つめると、何が起こっているかを把握して、まなじりを鋭くした。

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「全く無作法な行為ですこと! にとって恥ずべき、隠しておきたい傷を暴くなど、許されざるべき行為ですわ」

ミレナは私を糾弾してきたが、今回ばかりは大人しく引き下がる気になれなかった。

「お前はこの傷を知っていたな。なのになぜ、私に報告しない?」

ミレナは従順な侍は決して浮かべない表を見せた。

「ルピア様は傷があるを恥じておられ、あなた様には決して知られたくないとお思いでした。なぜ私が、主のお気持ちに逆らうのです? どのみち、その傷はルピア様のご決斷です。あと數か月長く眠っていれば、綺麗に消えてなくなったものを、分かっていながら目覚められたのですから」

私は鈍で毆られたような衝撃をけると、ひきつれた聲を出した。

私が彼に何をしたのかを、改めて理解したからだ。

「…………それは、私に會うためなのだろう? そんな、私のために無理をして目覚めた彼を、私は責めたのだ…………」

―――ああ、ルピア。

君はどんな気持ちで、私のもとに戻ってきたのだろう。

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君は死ぬほどの痛みについて、1度も文句を言わなかった。

私を責めることもなかった。

君はどんな表で、私に帰ってきたと言ったのだったか。

そこにあったを、私は覚えていない。

君の表は覚えているが、そこにあった深いに私は気付いていなかったのだ。

そして、君が私の子を籠り、人生で1番喜ぶべき報告をした時に、私は君を糾弾した。

―――もう1度あの時間をやり直せるのならば、私はどんな犠牲でも払おう。

君が幸せに満ちた表で、優しい聲で、私の子が腹にいるのだと微笑んでくれるのならば。

1度も葉わなかった時間を、君に取り戻してあげられるのならば。

私はただただ君を抱きしめ、何度でもを乞うだろう。

―――そう心から希ったけれど。

失った時間を、取り戻せるはずもなく。

ルピアの狀態が、劇的に良くなることもなく。

が眠ったまま、日々はゆっくりと過ぎていった。

そして、季節が一巡する頃には、彼が眠りながら苦しむことは、ほとんどなくなっていた。

そのことに、心からの安堵を覚える。

その頃には、私の生活スタイルも安定しており、晝は執務室に通い、夜はルピアの寢室で眠ることが常態となっていた。

ルピアの狀態は安定しており、夜中ずっと様子を見ている必要はなかったが、もはや自分の部屋で眠る気持ちになれなかったからだ。

が視界にっていないと、落ち著かない気持ちを覚えるため、寢臺からし離れた場所に長椅子を置いて、その上で彼を見守りながら眠るようになっていた。

日々暮らしていく中、ルピアの優しさはあちこちに落ちていて、私はそれらにれる度に、しくも切ない気持ちを覚えた。

たとえば私はこの1年間、1度も虹を見なかった。

「私が部屋に籠って過ごしていたことが原因かもしれないが、それだけでもないだろう。……虹はそうそうお目にかかれるものではなかったということに、やっと気が付いたよ。君がどれ程私に、祝福を與えてくれていたのかも」

私はルピアのらかい髪をゆっくりとでながら、そう彼に語りかけたけれど、返事はなかった。

―――それから、さらに1年が過ぎた。

ルピアが前回、代わりで眠った際は、2年で目覚めている。

そのため、いよいよルピアが目覚めるのかと期待したけれど、その後さらに1年待っても、彼が目を開くことはなかった。

「ルピア、君が眠ってから3年が経過したよ。前回の君は2年で目が覚めたが、……あの時は、傷も治りきらないうちに目が覚めたのだったね」

だから、本來ならばもっと長い時間が必要なのかな、とルピアに語り掛けながら、彼の手を握る。

「ねえ、ルピア、君はもうしばらく眠るのかな? 君の腕は……いや、腕だけじゃない。どこもかしこもこれほど細くなってしまって、……君が目覚めたら、一緒に食べたいものがたくさんあるよ」

そう言って彼を見つめたけれど、彼は私の聲が聞こえた様子もなく、ゆったりと眠り続けていた。

―――それから、さらに3年が経ち、彼が眠り始めてから6年もの月日が経過した。

その頃になると、私は日々、不安な気持ちを抱えながら生活していた。

なぜならルピアのから、全ての毒はとっくに抜け切ったと思われたからだ。

この3年間、ルピアの顔は良く、呼吸も穏やかで、ただ眠っているだけのような狀態が続いていた。

そうであれば、彼は目覚めてもいいはずだ。

、何のために眠っているのだろう。

聖獣に何度尋ねても、答えはなかった。

しかしながら、聖獣はルピアの側を離れるようになっており、數日間、王宮を空けることもあったので、ルピアの狀態は安定しているに違いないと確信を持つ。

そのため、私は毎日のように恐怖を覚えていた。

もしかしたらルピアは、このまま眠り続けるのではないだろうかと。

私は一人だけ老いていき、2度と彼に會えないかもしれないと。

「ルピア、……ルピア」

私は縋るかのように、彼に呼びかける。

「図々しい願いだろうが、……私は君と一緒に年を取りたい。一緒に聲を上げて笑いたい。悲しい時は、君と手を取り合って涙を流したい」

眠っている彼の手を取ると、必死になって語り掛ける。

「君がずっとんでいた西部地區に橋を架けたよ。これで、あの地區が取り殘されることは二度とない。そう言ったら、君は喜んでくれるかな。よくやったと、しは私を褒めてくれるかな。それとも、……もう今さら、私が何をしようとも君の心には響かないのかな。ああ、6年は長いよ。君と時間を共有したい」

しかし、それでも彼が目を覚ますことはなかった。

―――さらに3年が経過した時、私は絶的な気持ちの中、突然気が付いた。

……もしかしたら、ルピアは私に會いたくないのかもしれないと。

だからこそ、彼は眠り続け、目覚めないのかもしれないと。

私は臥せる彼の手を取ると、自分の額に押し當てた。

それから、震えるを開く。

「ルピア、……君が私を好きでいることが苦しくて、そのせいで目覚めを拒絶するのならば、その気持ちを捨てればいい。君が私への思いを忘れても、私はずっと君をするし、必ず君を取り戻すから」

私の聲が聞こえていたかは分からない。

しかし、その日からしずつ、彼の頬に赤みが差してきたように思われた。

それから、彼は眠ったまま微笑んだり、涙を零したりするようになった。

この変化は良い傾向だと自分に言い聞かせ、私は祈りながらルピアの目覚めを待った。

―――それから、さらに1年が経ち、彼が眠りについてから10年が経過した時、彼は突然、全くかなくなった。

それまでは手をかしたり、の向きを変えてみたりと、眠っていてもきがあったのに、ぴくりともかなくなったのだ。

そのため、私は張を覚えた。

この変化は、目覚めの兆しかもしれないと思ったからだ。

私は執務室に行くことを止めると、ルピアの部屋で一日中彼を見守る生活を始めた。

靜かに橫たわる彼を眺めながら、いよいよ彼が目覚めるのではないかと期待する。

果たして、私の予想は當たっていたようで……。

―――ある春のうららかな日、私は私の妃が目を開ける姿を目にした。

それは彼が眠りについて、10年後のことだった。

読んでいただきありがとうございました!

これにてフェリクスの章は終了です。

楽しんでいただけたら嬉しいですし、

ブックマーク・評価★★★で応援いただければ勵みになります!

★1點、お知らせです★

おかげさまで、本作品が書籍化されることになりました。

とても素晴らしい本になりそうですので、どうぞよろしくお願いします◝(⁰▿⁰)◜✧*˚‧

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