《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第一話:ES適検査

リクライニングシートに背中を預けながら、一人の年がバスの窓から外へと視線を向けていた。

舗裝された道路を走る際に発生する僅かな振じながら見る外の風景は、年の地元に比べればだいぶ発展しているように見える。

窓の外では高層ビルや巨大なマンションが建ち並び、年の目から見れば『都會』の一言に盡きた。首都から僅かに離れているものの、近場に首都がある影響か、その発展ぶりは目覚ましいものがある。年の生まれ育った町は良くも悪くも“普通”の町で、年々都市部へ人材が流出することで過疎化の一途を辿っていた。

視界を巡らせてみれば、コンビニやファーストフード店もあちこちに立っており、中には地元では扱っていないような高級ブランド品を売っている店もある。行きかう人々の表もどこか華やいで見えるのは、目の錯覚だろうか。

それでも最初は目新しさを覚えて窓の外を見ていたが、年はやがて興味を失ったのか視線を窓から外す。ついでとばかりに両手を上にばしながら軽く背びをしてみると、背中の骨が小さく音を立てた。

年は百七十センチを僅かに超える長を持つが、中學三年生も終わりに近づくこの時期、目立って高いというわけでもない。バスの上部に設けられた荷を置くための棚に指先が僅かにれるが、それを気にせず欠を一つ零す。

バスの外への興味は失ったものの、どこか明るい、ワクワクする子供のような表を浮かべながら、“目的地”に著くのはまだかと一人心で呟く。予約していた大作ゲームを買いに行く道中のような、興混じりの。法定速度に則って走るバスの運転手に対して、限界までアクセルを踏み込んで走れと文句を言いたいような気分でもあった。

目的地への到著まで、どう時間を潰すべきかと無理矢理思考しようとするが、それも上手くいかない。

「なあなあ、博孝ー」

そうやって興と暇を持て余していた年―――河原崎(かわらざき)博孝(ひろたか)の肩を、隣の席に座っていたクラスメートが叩く。

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「ん? なんだよ?」

博孝はそんなクラスメートに向き直ると、そのクラスメートはどこか興したような様子で口を開いた。

「いやー、楽しみだなぁ! ES保管施設ってテレビでしか見たことなかったんだよな。俺、一度で良いから行ってみたかったんだよ!」

そう言ってクラスメートはES保管施設―――このバスが向かう先の名前を口にする。その名前を聞いた博孝は、心底同意しながら答えた。

「おお、俺も楽しみ過ぎて、テンションが振り切れているじがするわー……よし、ちょっと運転手気絶させて俺がハンドル握ってくる。このバスって100キロは出るよな?」

「やめろ!? お前が言うと冗談に聞こえないんだよ! というか運転できないだろ!」

博孝の回答が気にらなかったのか、クラスメートは必死で博孝を止める。そんなクラスメートの様子を見て、博孝は不思議そうに首を傾げた。

「車なんて、アクセル踏んだら前に進むものだろ? 限界までアクセル踏んだらES保管施設まであっという間だって」

「……カーブがあったらどうするんだ?」

「そこは気合で。バスでドリフトって、素敵じゃね?」

「橫転するから! ES適検査をける前に死ぬぞ!?」

博孝としては冗談なのだが、クラスメートは冗談と思わなかったのか全力で止めにかかる。博孝としては、ES適検査をけるまで死ぬ気などサラサラないのだ。

ES適検査―――それはその名の通り、ESの適を検査することを指す。

國際名稱『Evolution Seed』。その頭文字を取ってESと略されるそのは、日本では『進化の種』と呼ばれている。

そのESが発見されたのは、今をさかのぼること70年弱。當時は第二次世界大戦の真っただ中であり、日本はその中でも劣勢に立たされる側だった。

そして、そんな劣勢を覆したのが『進化の種』―――ESだったのである。

ESは宇宙からの隕石とも、地層から採掘された鉱石とも噂されるであり、その形狀は磨き抜かれた寶石のようなものだ。

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発見されれば國で保管されるため博孝も実を見たことはないが、テレビやインターネットではその姿を見ることができる。

國家機に該當するため博孝も詳細には知らないが、今回の『ES適検査』はESが扱えるかどうかの検査―――らしい。

「あー! 今回の適検査で俺も『ES能力者』になれねーかなー」

クラスメートが興を滲ませながら言うと、博孝は眉をピクリとかした。

「なに? 俺を差し置いて『ES能力者』になる? よし、良い度だ。ライバルはいないに越したことはない……おっ、この窓けっこう開くな。人ひとりを突き落せるぐらいには」

「何をする気だよ!?」

「え? なにをするって……ねえ?」

とりあえずクラスメートの襟首を摑みに行くと、クラスメートはそれをさせじと全力で暴れる。するとさすがに目に余ったのか、擔任が笑顔で拳骨を一つ落としていった。

一緒に拳骨をもらう羽目になったクラスメートは隣の席で何やら呟いているが、博孝は頭を押さえながら、まだ著かないのかとため息を吐く。

ESに適合した者、ESによって力を得た者を総じて『ES能力者』と呼ぶが、博孝はその存在にの頃から憧れを持っていた。

曰く、人を超越した生き

曰く、練者になれば空も飛ぶことができる。

曰く、ES能力者が一人いれば一つの國を滅ぼすことができる。

そんな、常人ならば鼻で笑い飛ばしたくなるような噂話が飛びうような存在だ。博孝はその中でも、『空を飛ぶことができる』という點に惹かれた。

―――人が、飛行機に乗らなくても空を飛ぶことができる。

そんな夢語に、博孝はこれ以上ないほど惹かれたのだ。

第二次世界大戦中に確認され、劣勢だった日本の立場を対等なものへと引き上げるほどの武力も持つ。しかし、博孝にとっては余分なものだ。

最初期に確認され、大戦を劣勢の狀態から巻き返し、その武名から『武神』とまで呼ばれる『ES能力者』もいる。だが、博孝にとっては武名などよりも、空を飛んでみたかった。ちなみに、クラスメートは『武神』よりも強くなりたいと騒ぐクチである。

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「お? 見ろよ、そろそろ著くみたいだぞ」

拳骨の痛みに不満を呟いていたクラスメートがそう言うなり、博孝は窓に張り付いて周囲の様子を確認する。すると、遠目にもわかるほどの巨大な施設が目にり、博孝は自分でもわかるほど口の端を吊り上げた。

その施設は周囲を高い壁に囲まれ、一見すると刑務所のようにも見える。しかしその実、刑務所のように走者を出さないための壁ではない。機保持と防の観念から作られた、要塞のような建だった。その周囲には緑の制服にを包んだ兵士らしき人が複數立っており、外部に鋭い視線を向けている。

徐々にバスが減速し、施設の口へと近づいていく。すると、兵士のうち一人がバスへと近づいてきた。

「お、おい! 見ろよ博孝! あれ、『ES能力者』じゃないのか!?」

近づいてきた兵士を見るなり、隣に座っていたクラスメートが驚きの聲を上げる。その聲に周囲の座席に座っていたクラスメートも窓の外へ視線を向け、博孝も視線を向けた。

「おー……ホントだ。バッジもつけてるな。たしかに、『ES能力者』だな」

『ES能力者』であることを示すバッジが目にり、博孝は有名人に出會い、のあまり逆に落ち著いてしまったファンのような聲で答える。軍靴に刀を模したマークが掘られたバッジは、近づいてきた兵士が確かに『ES能力者』であることを示していた。

(軍靴に刀ってことは陸戦部隊のアタッカー。それに赤(レッドカラー)……か)

バッジの形やマーク、それにで大の區分けが行われている。博孝は以前インターネットで仕れた知識を思い出すと、近づいてきた兵士が“それなり”に力を持つ『ES能力者』であることを悟った。

バッジからそれだけの報を推察し、博孝は持ってきていたバッグからデジタルカメラを取り出す。

「寫真撮ったらダメかな?」

「……たしか、理由なく『ES能力者』の寫真を撮ったら逮捕されるんじゃなかったっけ? ほら、機保持? だっけ?」

「そうなんだけどな……くそっ! 俺に盜撮の技があれば!」

聲高に盜撮の技を求める博孝に、周囲の子から氷のような視線を向けられる。しかし、相手が博孝であることを確認すると、『なんだまたアイツか』と言わんばかりにすぐ視線を外された。

バスで騒ぎつつ、博孝は兵士の男に観察の目を向けた。何せ、本の『ES能力者』を生で見る機會などそうそうない。博孝自、間近で『ES能力者』を見たことはなかった。

の年齢は、二十歳を超えるかどうか。しかし、『ES能力者』ならば外見年齢は當てにならない。

何故なら、『ES能力者』は著しく加齢の速度が遅くなるからだ。調査結果では、およそ三年で一歳加齢するという話である。つまり、二十歳程度に見えても実際には三十路四十路である可能もあるのだ。

博孝が知識として知っている『武神』など、年齢は九十歳近いはずなのに外見は壯年の男にしか見えないらしい。

引率の擔任教師と話をする『ES能力者』をが開くほど見つめ、博孝は靜かに両手を握り締める。

ES適検査は國民の義務として定められており、十五歳になった國民は全員がけることになっていた。適がなくとも三十歳になるまで三年ごとにける必要があり、それを過ぎればESの適がないものとして検査をける必要がなくなる。

しかし、多くの人間が『ES能力者』に興味を持ち、博孝もそれに屬す人間だが、このES適検査で“通常”の人間だと判斷されればそれまでだ。三年経って次回のES適検査をけるまで、普通の生活を送ることになる。博孝に限って言うならば、高校へ進學することになるだろう。

ちなみにES適検査には二通りの通過方法があり、一つは“オリジナル”と呼ばれるESに適合する場合。そしてもう一つは、伝によってES能力を引き継いでいる場合だ。

もっとも、両方とも可能としては非常に低く、博孝もそこは弁えている。なりたいと思ってなれるものではなく、確率も非常に低いものだと理解してもいる。

なにせ、ここ數年のES適検査で“オリジナル”のESに適合した人間はいない。そうなるとES適検査で引っ掛かるのは祖先に『ES能力者』を持ち、ある程度年齢を重ねたことでES能力の発現が認められる者ぐらいだった。

博孝の知る限り、祖先に『ES能力者』がいないので、こちらはみ薄どころから絶的だが。

その上、仮に祖先に『ES能力者』がいたとしても、ES能力が発現する確率も低い。博孝もかつて調べたことがあったが、『ES能力者』と普通の人間の間では子供ができにくく、子供が生まれたとしてもES能力を発現するのはコンマ1パーセント以下の確率でしかない。両親が『ES能力者』ならば生まれた子供もES能力を発現しやすいと言われるが、それでも々一割程度の確率だった。

“オリジナル”と呼ばれる『進化の種』に適合する確率はさらに低く、寶くじの一等が當たるよりも低い。また、『進化の種』に適合した人間は『ES能力者』ではなく『ES適合者』とも呼ばれている。

つまり、博孝にとって今回のES適検査は半ば以上に観目的だった。もちろん、『ES能力者』になれればと思う気持ちはあるが、確率を考えれば現実も見える。しかし、ES適検査自は本の『ES能力者』を見ることができる機會であり、當面の話のタネにもなる。國が強いる義務ではあるが、博孝としては大歓迎だった。

憧れはするが、『ES能力者』になることで発生する様々な問題もある。

第二次世界大戦以降、『ES能力者』は國家間の爭いに利用されてきた。博孝も詳細には知らないが、新人の『ES能力者』でも武裝集団を相手に戦うことが可能であり、練の『ES能力者』は戦闘機に匹敵する速度で空を飛び、挙句に、『武神』などは単獨で一國を落とすとまで言われている。

元が普通の人間である以上訓練を行う必要はあるが、戦闘機等を作るよりも費用が安価で、その戦略は大きく上回る存在。

『ES能力者』の保有數がない國は國際社會での発言力も大きく減する、とまで言われている。それ故に國の『ES能力者』を発見するためのES適検査は重要視されていた。

専用の施設が造られ、數ない『ES能力者』を防衛に回し、大勢の人間に検査をけさせる予算も毎年確保されている。近年では反『ES能力者』の団がクレームの聲を上げているが、それが葉う様子もない。

博孝としても、限りある國家予算が多く使用されるのはどうかと思っているが、國防のために必要だろうと思っている。時折『ES能力者』による犯罪も起こることがあるが、その數はない。

(……まあ、『ES能力者』になったらなったで、戦爭の道扱いされるかもしれないのがネックだよなぁ)

博孝が心中でそう呟くと、擔任教師と『ES能力者』の男との確認が済んだのか、再度き出したバスが施設へとっていく。

そして視界に映ったES保管施設は、傍目から見ても頑強だった。一見するとただの研究所のように見えるが、以前博孝が調べた話によると、ミサイルの直撃にも問題なく耐えきるらしい。敷地外と同様に、施設の周囲を複數の『ES能力者』らしき人達が巡回している。

ES適検査に利用されるだけでなく、“オリジナル”のESを保管しているから警備が厳重なのだろう。視線を巡らせてみれば、他の場所から來たのか博孝達が乗っているものと似たようなバスが何臺か止まっている。

これから検査をけ、それからは三十歳になるまで三年ごとに利用する施設だ。今後も何度か見ると思うが、初めて見たは大きい。

(お土産コーナーとかないかな……検査が終わったら、何か記念になるを売っていないか探すか。『ES能力者』のバッジもどきとか売ってあったら、買い占める自信があるぞ……)

そんなことを思いながら、博孝は擔任教師の先導に従ってバスを降りる。すると、わざわざ名指しで妙なきをすれば殺されるかもしれない、と冗談混じりに注意されたので博孝は擔任教師に頷いてみせた。

「先生! サインをもらうことは“妙なき”になりますか!?」

「……お前は大人しくしていろ。いや、本當に大人しくしていてくれ」

「わかりました! 大人しくサインをもらってきます!」

笑顔でそう言い、リュックからサイン用の紙を取り出して博孝は見張りをしている『ES能力者』達のもとへ突貫しようとする―――が、擔任教師に捕まって、引きずられるようにしてその場を後にするのだった。

施設の中に足を踏みれた博孝が思ったのは、『まるで病院のようだ』という想だった。り口からって最初に目についたのはガラス張りの付であり、その付の前には順番待ちをするためか多くの椅子が並んでいる。

もっとも、り口と言っても金屬で作られた頑丈そうな三重の扉だった。その上、周囲には自小銃を肩から提げた兵士が待機しており、ってきた博孝達に鋭い視線を向けている。気の弱い子等は肩を寄せ合っているが、施設の重要から仕方がないかと博孝は他人事のように考えていた。

(さすがに、施設の中まで『ES能力者』を配置するわけじゃないのか……)

兵士の服裝や裝備からそう判斷した博孝は、ぼんやりとそんなことを考える。あわよくばサインを、と思っていたが、紙を沒収されてしまったため難しくなってしまった。

「こうなったら著ているシャツにサインを……」

「……いや、さすがに自重しようぜ」

クラスメートから突っ込みをけて、博孝は不満げにを引き結んだ。

『それでは、お名前を呼ぶまでは椅子に掛けてお待ちください』

すると、不意に天井のスピーカーからそんな聲が響き、博孝達は教師の指示に従って出席番號順に椅子へ座る。さすがに周囲のクラスメートも張しているか、周囲から話し聲はしない。それぞれ顔を見合わせるものの、言葉までは出ないようだった。

博孝も張はしているが、これから行われるES適検査でどんなことをするのかと期待する気持ちの方が強い。

(室でできることだから、筆記試験とか? 績はアレだけど、ES能力に関することとかだったら……)

の中學三年間の績を思い出して、博孝は眉を寄せた。悪くはないが、決して良いとは言えない。まさかここで『英語のテストを行います』などと言われることはないと思うが、そうなったらお手上げだった。

そうやって待つこと五分。出席番號が若い順に五人クラスメートの名前が呼ばれる。その中に自分の名前がっていた博孝も立ち上がると、兵士に連れられて施設の奧へと歩いていく。

博孝と一緒に歩くクラスメートの中には施設にるまでは興していた者の姿もあったが、さすがにここまでくれば張しているのか、黙って兵士の案に従っていた。博孝も、ここでは大人しく従っている。

白い、リノリウムの廊下を歩くこと々。外部からの侵対策のためか、窓がないことを確認していた博孝達は一際頑丈そうな扉で閉ざされた部屋へと通される。

『そこでしお待ちください』

通されるなりスピーカーから聲が聞こえ、博孝達は顔を見合わせながら待機。周囲を窺ってみるが、特に機材などもない。ってきた口と、部屋の隅に人ひとりがれそうな扉があるだけだ。

(これがES適検査……なのか?)

さすがに學力的な意味でテストをけるとは思っていなかったが、検査というからにはの採取などを考えていた博孝は、僅かに拍子抜けする。心で首を傾げていると、ってきた扉とは別の扉が開き、再度スピーカーの方から聲が響く。

『……それでは、河原崎博孝君。あなた“だけ”その扉を通ってください』

「…………え?」

俺だけ? と周囲のクラスメートと視線をわし合う。

ここからさらに一人ずつ検査があるのだろうかと疑問に思うが、それならば普通は五十音順などで呼ぶだろう。この五人の中で、『河原崎博孝』は出席番號四番目の名前だった。しかし、ここで止まっているわけにもいかず、困の表を浮かべながら博孝は歩き出した。そして小さな扉をくぐると、すぐに扉が閉まる。った扉の先では細長い廊下が続いており、博孝は眉を寄せた。

「えーと……」

『そのまま進んでください』

「あ、はい」

言われるままに進むと、再度小さな扉が視界にってくる。扉は博孝が近づくと自で開き、その中には検査室まで博孝達を案した兵士が立っていた。

「目を閉じたまえ」

「…………」

何をされるのか。そんな不安を覚えながらも、博孝は言葉に従って目を閉じる。すると、兵士が博孝の背後へと回り、手に持った布狀のものを博孝の目を覆うようにして巻いた。

思わず、博孝は目を開ける。しかし、視界は何も映さず、真っ暗なままだ。そこには聲をかけてきた兵士につけられた目隠しがついており、その視界を遮っていた。

スイカ割りの時につけるような手ぬぐいではなく、罪人の拘束のようにしっかりとした造りらしい。手をばして確認した手りからそう判斷すると、目隠しされたまま兵士に手を引かれ、覚束ない足取りで前へと進む。

「ここでし待ちたまえ」

「あの……」

「すまないが、質問はなしだ」

そう言われ、博孝は足を止める。何をしようとしているのか聞こうとするが一蹴され、どうしたものかと、心で僅かに不安を覚えた。

そうやって立ち続けることしばし、頭上から僅かなノイズ音が聞こえた。

『検査対象の河原崎博孝君ですね? その場所からかず、あと一分ほどお待ちください。そうすれば、目の前の扉が開きますので』

「……わかりました」

スピーカー越しに、の聲が響く。その聲を聞いた博孝は返事をすると、僅かに張と、そして淡い期待をしながら扉が開くのを待つ。

すると、僅かに空気の抜けるような音がして目の前の扉が左右に開いたようだった。

『それでは、中にってください。段差などはないですが、気を付けて歩いてくださいね』

スピーカーから聞こえてくる聲に従い、博孝は部屋の中へとっていく。視界がゼロのため、ややゆっくりとした歩調で歩いていく。

「…………」

視界が閉ざされているため、部屋の中に何があるのかわからない。それでも博孝が前へと進んでいくと、不意に、何か暖かい風のようなものをじた。

『どうかしましたか?』

博孝が思わず足を止めると、すかさずスピーカーから聲が飛んでくる。

「いや、何か風が吹いたような……」

『それは、あなたから見てどの方向ですか」

「多分、右の……」

そう言いつつ、博孝は無意識のに右手を風が吹いたと思われる方向へと向けた。

その瞬間、指先に強めの靜電気が走ったかのような覚が伝わる。

「うおおおおおぉっ!?」

思わず博孝は悲鳴を上げつつのけ反るが、指先の覚は消えない。それどころか、徐々に強くなっていくようにじられた。

「ちょ、ちょっとすいません! 俺、何かにりましたか!?」

何かってはいけないものにったのではないか。そう思った博孝が聲を上げるが、スピーカーから返ってくる聲は冷靜なものだ。

『いえ、気にしないでください。……手配、急いで』

最後に小さく、非常に気になる一言を付け加えて、スピーカーから音が消える。

それと同時に、博孝は心臓が大きく脈打つのをじた。そして、が急に熱を持ったかのように熱くなっていく。

「う……ぐ……いきなり、なんだ?」

その熱さに、博孝は思わず膝を突いた。

スピーカーに向かって助けを求めようと口を開くが、それよりも早く意識が遠退いていく。

そして、高まる熱に耐えきれなくなった時、博孝は意識を失うのだった。

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