《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第四話:校 その1

翌朝、時間通り八時に屆けられた弁當を平らげ、ペットボトルのお茶で食後の一服を終えた博孝は、簞笥にっていたシャツやクローゼットにっていた制服をに著けていた。

制服は全的に紺で統一されており、形狀は博孝が中學校時代に著ていた詰襟にそっくりだった。袖に白の二本ラインがっているが、他に目立った裝飾はない。白カラーはないために著けても窮屈はないが、頑丈な生地を使っているのかちょっとやそっとでは破れそうにもないのが気になった。ベルトの部分に攜帯電話用のホルスターがついており、そこに攜帯電話を差し込む。

「でも、ネクタイじゃなくて良かったな」

俺、ネクタイ巻けないしと呟いて、博孝は鏡に映った自分の姿を見る。

「うん、似合ってねぇ」

鏡にはにやけ顔の年が一人映っており、博孝は似合っていないと斷じた。これから同輩となる『ES能力者』に會うと思うと、多ならず期待が刺激されるのだ。自が『ES能力者』になっても『ES能力者』に対する憧れのようなものは消えておらず、博孝は自制するために深呼吸をした。

(調子に乗らないようにしないと……)

テンションが上がると、後先を考えずに行してしまうことがある。博孝はその傾向が強く、中學校時代もそれで苦労したのだ。自己責任だが。

用意された洗面用で歯磨きまで済ませると、時間は八時四十九分を指している。そして五十分になると同時にドアがノックされ、博孝は『もしかしてドアの前で待機していたんだろうか』と首を傾げつつ外へと出た。

そして案の兵士に従って校舎まで移する途中、博孝は自分と同じように兵士に従って移する人の姿をちらほら見かける。今期全員ではないだろうが、博孝が見たところ男の比率はほぼ同じ。年齢も博孝と同じようで、ほとんどのが顔に張を浮かべながら歩いていた。

博孝は外見上はいつも通りだが、心は徐々に興から張へと傾いてきている。それでも周囲のよりは余程気楽な顔つきで歩き―――ふと、その視線が吸い寄せられるように一人の人へと移した。

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おそらくはなのだろう。背を向けているため顔は見えないが、腰まで屆きそうな黒髪を白いリボンでポニーテールにしている。子の制服として、白を基調としたセーラー服をに著けていた。

しかし、博孝が目を惹かれたのは外見ではない。目に見えない、圧迫のようなものを覚えたのだ。真っ直ぐにびた背筋に、一定で進む歩調。そして目に見えない、押されるような空気。まるで抜の刃を首筋に當てられたような気分にもなるが、不思議と怖くはない。

「へー……あれも今日から同輩、と」

嘆混じりに口笛を吹くと、案の兵士が振り返った。

「何か?」

「いや、なんでも」

怪訝そうな表を向けられたので、苦笑を返す。

(背中で語るってわけじゃないけど、なんともまあ騒なじがするお嬢さんだこと)

自分の年齢を棚に上げ、そんなことを思う博孝だった。

「諸君、まずは“學”おめでとう。私はこの訓練校の校長、大場(おおば)恵(けい)次(じ)だ」

教室に案され、席がすべて埋まるなり室してきた男は、そんな言葉を皮切りに話を開始していた。

白髪混じりの髪に、意思の強さを宿す瞳。年齢は六十前後に見えたが、それなりに引き締まった軀がそれよりも若く見せる。人の前に立つことに慣れているのだろう、堂々とした態度で教室に揃ったを見渡していた。

正方形の教室に等間隔に並んだ機と椅子。壁に備え付けられた黒板。教室はやや広く、一辺が十メートルほどある。そして椅子に座ったは“一部”を除き、これからの訓練生としての生活が輝かしいものだと思っているようだった。

「今期……第七十一期、総勢三十二名を無事迎えれられたこと、嬉しく思う。さて、諸君にはこれから三年間、この訓練校で主に『ES能力者』として力の制を學んでもらう。また、それに付隨する法律の學習、將來を見越して『ES能力者』の“部隊”としての連攜行の習得、そして簡易な任務を行っていくことになる」

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さすがに振り手振りはえないが、それでも人の心に訴えかけるような聲だった。一度聞いたら忘れないような、のこもった聲である。

「世間では『ES能力者』を兵だなんだと騒ぐ聲もあるが、私はそんなことはないと思っている。諸君は『ES能力者』だが、同時に一人の子供だ。私にできることは、そんな諸君を守り、育てていくことだ」

校長―――大場は教室中の訓練生の顔を見回し、しだけ語調をらかいものにする。

「これから諸君は、『ES能力者』として長い時を生きることになるだろう。未だに『ES能力者』の壽命も解明されておらず、それでもおそらくは常人の三倍近い年月を生きることになると思われる」

無論、その他の原因で死ななければという但し書きがつくだろう。『ES能力者』が國防を擔う以上、壽命で死ねるとは限らない。大場もそれを理解していたが、それでも、自の孫のような年齢のに向ける言葉は決まっているのだ。

「私から諸君にむことが二つある。一つは、決して命を投げ出すような真似をしないこと。そしてもう一つは『ES能力者』として、“人間”として悔いの殘らないよう生きてほしいこと。この二つだ」

そこまで言うと、大場は一転して笑みを浮かべた。

「さて、長い話は年寄りの特権だが、あまりに長いと嫌われてしまうからここまでにしておこう。私は訓練校の中央にある教員用の校舎にいることが多い。何か相談事があったら、遠慮なく來たまえ―――ああ、相談もけ付けているからな?」

最後の一言は冗談か、本気なのか。教室の中でもところどころで笑い聲が上がる。大場はその笑い聲をけて満足そうに頷くと、教室の扉に視線を向けた。

「それでは砂原君」

「―――はっ」

短い返事が響くと、教室の扉が音を立てて開かれる。そして一人の男が教室に足を踏みれ、教壇へと登った。

「俺は教の砂原(すなはら)浩二(こうじ)だ。有事の際の階級は空戦軍曹。これから諸君らを一人前のES能力者に育て上げる」

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そう言って壇上から博孝達を睥睨するその男は、鍛え上げられた鉄のような印象を振り撒いていた。短く刈り上げた黒髪に、百八十を超える長。席に座った博孝達を見回す視線は鋭く、知らず博孝の背筋もびる。

一般人が知り合う教師と違い、ES能力者を育てるための“教”だ。その腰からも、生半可な人間ではないことが窺えた。緑の軍服をに纏っているが、服の上からでもそのが鍛え上げられていることがうかがえる。

見た目は二十代半ばといったところだが、ES能力者になれば著しく加齢が遅れる。そのため、見た目通りの年齢ということはないだろう。博孝は鋭い視線をけながら、頭の片隅でそんなことを考えた。

であると自己紹介した砂原は、博孝達を見回してから口を開く。

「大場校長からもあったように、諸君らはこれから三年間この訓練校で過ごすこととなる。訓練校の施設については、各人の部屋に資料があったのでそれに目を通しているだろう。そのため、次は訓練校での規則について説明を行う」

砂原はそう言って博孝に背を向けると、黒板に向かってチョークを走らせ始める。博孝のすぐ傍から、『やばい、資料読んでないっす』という絶に染まった聲が聞こえたが、博孝は聞こえない振りをした。

黒板にチョークを走らせていた砂原は、一通り書き終わったのか博孝達へと向き直る。

「さて、諸君らがこれから訓練校で生活していくに當たって重要なことは三つだ。一つ、教の言うことには“必ず”従う。一つ、訓練校の敷地外への無斷外出をしない。一つ、敷地には他の期生の『ES能力者』がいるが、彼らへの“無意味”な接をしない。これら三つは必ず守れ」

何か質問は、と砂原が尋ねた。それを聞いた博孝はすぐさま手を上げる。

「はい先生! じゃないな……えっと、教?」

「ああ、教と呼べ」

「では教、その三つのルールの意図はなんですか? あと、破ったらどうなるんですか?」

説明がないのならば聞けということだと判斷して、博孝は尋ねた。砂原はその質問に対して一つ頷くと、ニヤリと笑って見せる。

「一つ目のルールに関しては、諸君らに上位者からの命令を徹底させるためだ。これを破ったら、俺が直々に“指導”する。二つ目のルールについては、諸君らのを守るためでもある。これを破ると、下手すれば走扱いになるぞ。三つ目のルールについては、これも諸君らのを守ることにつながるな。まあ、罰則はないが」

一つ目のルールについては、博孝も納得できた。『ES能力者』はいずれ國防の要として、軍組織にる可能が高い。今のにそれを學ぶのだろう。そして二つ目のルールについても、拐される云々と清香に脅された博孝には理解できた。しかし、三つ目のルールについては理解できない部分がある。

「罰則はないんですか? それなのに、“無意味”な接は駄目と」

「そうだ」

どういうこっちゃ、と博孝は首を捻った。すると、博孝の隣に座っていたが挙手をする。眼鏡をかけた、どこかオドオドとした雰囲気を持つだった。

「つ、つまりそれは、教えを乞うといった“意味のある”接は問題がない、という解釈で合っていますか?」

がそう言うと、砂原は片眉を上げた。

「その通りだ。相手は諸君らよりも、なくとも半年は長く『ES能力者』として生活している。學ぶこともあるだろう。もっとも、それだけで済むかはわからんがな」

そう言って、砂原は意地悪く笑う。はその笑みをけて、しだけ怯えたように椅子に座った。博孝はそんなと砂原の表を見て、再度挙手する。

「ないとは思いたいんですけど、その“先輩方”が俺達後輩にちょっかいを出してきた場合は? 的に言うと、喧嘩を売られるとか」

「そういった事態の対処を學ぶという意味では有効だろう。ああ、なんなら叩きのめしても構わんぞ?」

「うぇ……いや、自分平和主義なんで、遠慮しますわ」

「そうか。まあ、殺しさえしなければ多の喧嘩は問題ない……が、可能な限り教に屆け出ろ。実戦形式の模擬戦という形で決著をつけさせてやる」

そう言って、砂原は迫力のある笑みを浮かべた。獰猛と形容できそうなその笑顔に、博孝は降參するように両手を上げる。

砂原は他に質問がないことを確認すると、食事は校舎の食堂もしくは売店を利用すること、購の際は攜帯電話の読み取り機能で支払いができることなどを伝える。他にも細々とした説明があったが、それほど重要なことはなかった。そして一通り説明が終わったのか、砂原は博孝達を見回す。

「それでは、これから自己紹介をしてもらう。何もなければこれから三年間付き合っていくクラスメートだ。しっかり覚えろ。自己紹介後の質問も許可する」

學時やクラス替え時のオリエンテーションのようなものかと気楽に考える博孝。しかし、砂原の視線が自分へ向いたことで背筋をばした。

「まずは男子からいくか。名前の順番でいけば河原崎、お前が最初だ」

名前を呼ばれて博孝は椅子から立ち上がり―――砂原へと視線を向けた。

「教、やはりここはトップバッターとして、場を溫めるためにボケるべきでしょうか?」

「……っても良いのなら好きにしろ。あと、その発言自がボケたようなものだろうが」

「わかりました。それでは至極真面目に……」

そう言いつつ、博孝はこれからクラスメートになるであろうへ視線を向けた。どうやら博孝の発言自はあまり好意的にけ取られなかったようで、いささか視線が冷たい。

「ちょ、やめて、俺はそんな目で見られて喜ぶ趣味はないんで、勘弁してっ」

視線の冷たさに耐えかねてそんなことを口走ると、一部の生徒からの視線がますます冷たくなったようにじられた。博孝は視線から逃れるようにを捩っていたが、さすがに砂原から注意が飛びそうだったのですぐさま姿勢を正す。

「まあ、今のは冗談ですから! 本當に俺、そんな趣味ないですから! いたって普通の十五歳ですから! というわけで俺、河原崎博孝です。將來の夢はES能力で空を飛ぶこと! 呼ぶ時は名字でも名前でも良いから、気軽に話しかけてくれよな!」

『というわけで』とはどういうわけだ、という視線がいくつか飛んできたが、それに耐えながら博孝は自己紹介を終える。殘念ながら、質問はされなかった。それでも、一仕事終えたと言わんばかりの満足した表で博孝は椅子に座る。

これで他の人も気軽に自己紹介をしてくれるだろうと、場を溫めたつもりになっている博孝だった。しかし、博孝のあとの男子達は當たり障りのない、いたって普通の自己紹介をしていく。

(―――あれ? これって、俺だけ孤立するってオチじゃねえ?)

早々から調子に乗るんじゃなかったと若干後悔するが、後の祭りである。思わず博孝が頭を抱えていると、砂原から名前を呼ばれて次の男子が立ち上がった。

「俺、武倉(たけくら)恭(きょう)介(すけ)っす! 年齢は十五歳。趣味はゲームで、好きな食べは鶏のから揚げ。良かったら恭介って呼んでほしいっす! これからヨロシク!」

教室中に響くぐらいの聲で自己紹介を行う年―――恭介に、周りからまばらな拍手が上がる。長は博孝よりも若干高く、百七十五センチを超えているだろう。染めているのか地なのか、適度にびた濃い赤茶の髪と年らしい溌剌(はつらつ)とした笑顔が印象的だった。

博孝はどこかシンパシーを―――的に言うと、『あ、こいつとは仲良くなれそう』という直を覚えた。

そんなことを博孝が思っていると、不意に恭介と視線がぶつかり合い、向こうも同じことを考えていたのか両者は同じタイミングでサムズアップをする。次いで博孝が立ち上がると、無言のまま握手をした。そして、いつの間に移したのか砂原が両者の頭蓋に拳骨を落とす。

「ぎゃっ!?」

「いだっ!?」

「仲が良いのは結構だが、場を弁えろ」

冷たさを通り越して凍るような聲でそう言われ、博孝と恭介は何度も頷く。それと同時に多なりとも笑い聲が上がり、博孝は安心したように椅子に座った。

そうやって自己紹介が進むと、男子の紹介が終わって子の紹介へと移る。まずは博孝の隣の子―――先ほど博孝と共に砂原に質問をしたが名前を呼ばれて立ち上がった。

「あの、その……わたしは、岡島(おかじま)里香(りか)、です。十五歳、です。よろしく……お願いします」

先程と同じようにオドオドとした態度で―――里香が自己紹介を行う。

のボブカットの髪に、薄桃のフレームの眼鏡。百五十センチを僅かに超える長は非常に細く、強く抱きしめたらそのまま折れてしまいそうな印象があった。俯きがちに喋るその姿は、気弱そうにも見える。

先ほど砂原に質問をした姿を見るに、本當に気弱な人間なのだろうかと博孝は疑問を覚えた。本當に気弱な人間なら、あの場でも黙っているだけのような気がしたのだ。

(しかし、何か質問したらそれだけで卒倒しそうだなぁ……)

クラスメートとして名前と顔は覚えたが、関わる機會があるのか、とも思う。質問もなく、里香は顔を俯けながら椅子へと座った。

そしてまたもや普通の自己紹介が続いていくが、次に立ち上がったを見て博孝は僅かに目を見開く。そこにいたのは、校舎に來る際に見かけた白いリボンのだった。

「……長谷川(はせがわ)沙織(さおり)よ」

ぶっきらぼうに、それだけを口にする―――沙織。だが、ぽつりと呟かれた『長谷川』という名字に、教室が俄(にわ)かにざわめく。そこまで珍しい名字ではないが、『ES能力者』の上に『長谷川』という姓を持っているのならば、その出自に目星がついた。

博孝よりも先に恭介が挙手をして立ち上がる。

「はいはーい! 長谷川さんに質問っすけど、長谷川ってまさか『武神』さんの縁者っすか?」

恭介が口にした『武神』―――長谷川源次郎。

第二次世界大戦時代、それまでの劣勢を覆して他國と対等な條件で講和を結ぶまでこぎつけた軍人であり、最初期の『ES適合者』でもある。

現在の日本は彼の存在があるからこそり立っているという者もいるほどで、日本國防の最強の矛にして盾だ。

この國では子どもでも知っている有名人であり、現在は日本ES戦闘部隊監督部の部長として日本中の『ES能力者』を監督している人である。

想な挨拶をした沙織が、その『武神』の縁者かもしれない。

深い興味を惹かれ、博孝はに観察の視線を飛ばす。

長は博孝より十センチ近く低いが、腰まで屆きそうな長い黒髪を白いリボンでポニーテールにまとめ、無造作に垂らしている。顔立ちは整っているものの、やけに鋭い雰囲気が尖った印象を與えるだった。

れれば切れる、というのはこういう時に言うのだろうと博孝が思うほどに。

「―――それが、なにか?」

睨む、という形容すら超えた鋭い視線。

まるで抜の刃のような視線を向けられ、恭介は慌てて手を振る。

「あ、や、なんでもないっす! 失禮しましたー!?」

手を振り首を振り、最後には腰を九十度に折って音が立つほどの勢いで頭を下げる恭介。

このままいけば土下座でもしそうなその勢いに気が削がれたのか、沙織は尖った気配を僅かに緩めて視線を外す。

『こえーよ、ちょーこえー。でもあのツンツンっぷりはなかなか……』と恭介が呟いているが、気にしない方が良いだろうと博孝も視線を外す。

ある意味、非常にインパクトのある自己紹介だったと一人頷いていると、再び目を惹かれる“”が椅子から立ち上がった。

「松下(まつした)希(のぞみ)です。みなさん、これから三年間よろしくお願いしますね」

そう言って丁寧な腰で頭を下げる―――そう、だ。

周囲に座るにはない、落ち著いた腰。その所作は大人びているというよりも、積み重ねた時の數が違うのだろうと思わせる。背中までびた茶の髪と、博孝達に比べれば大人びた面差し。それらを見れば、希と名乗ったが年上であることは明白だった。

「あの、おねーさん。同い年じゃ……ないですよね?」

思わず博孝が尋ねた。すると、希は苦笑しながら頷く。

「ええ。わたしは三年前のES適検査には引っかからなかったんだけど今年……前回から三年経った今回けて、ES能力の発現が認められたの。だから、あなた達の三歳年上になるわね」

「へぇ……そうなんですか」

穏やかな笑みを返され、博孝は頬を掻く。すると、今度は恭介が挙手をした。そして、真剣な表に変わる。

「松下さん……いえ、希さん。年下の男の子に興味はあったりするっすか?」

恭介がきりっとした顔で尋ねると、希は頬に手を當てて困ったように微笑んだ。

「あらあら、年上をからかったら駄目よ?」

「からかうなんてとんでもないっす! あとできたらスリーサイズを―――」

最後まで言うよりも早く、再度砂原の拳骨が恭介へと落とされた。鈍で毆ったような音が教室に響き渡り、沈黙が訪れる。博孝も思わず聞きたくなるぐらい“的”なプロポーションだったのだが、さすがに自重をしていたのだった。

そうやって、クラス全員の自己紹介が終わる。砂原は時間を確認すると、未だに蹲っている恭介を無視して口を開く。

「言い忘れていたが、晝の休憩は十二時から一時までだ。そろそろ十二時になるので、ひとまずこれで解散とする。一時になったら今度はグラウンドに集合すること。以上だ」

それでは解散、と告げて砂原が教室から出ていく。

それを見送った博孝は、とりあえず恭介を介抱する作業に移るのだった。

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