《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第十一話:ES能力者について
學から三週間ほど経ち、新生が午前は授業で午後は実技という生活サイクルにも慣れた頃。
相も変わらずES能力どころか『構力』の知もできない博孝だが、以前のように落ち込んだり苛立ったりすることはなくなっていた。もちろん、周囲に置いていかれているという焦りはあるのだが、ここまでくれば焦り過ぎても仕方ないと開き直っている。
日中の授業や実技に加えて、夜間も自主練習を行っている。砂原に聞いたところ、育館ならば『ES能力者』の訓練用に作られた施設のため、夜間でも人がいることを聞かされたのだ。そこにいたのは『ES能力者』ではなく普通の兵士だったが、何かあった場合でも人がいるというのはありがたかった。
博孝は生來の気さくさで兵士とも打ち解け、顔を合わせれば雑談をするぐらいの仲にはなっている。兵士は職務中だが、それでも気を許したのか、ある程度の世間話には付き合ってくれるのだ。
人目がない場所で自主練習をしていると、例の三人組が寄ってくる危険もある。そのため博孝は、その日も育館で自主練習に勵むことにした。
「お、今日も自主練か? 熱心だな」
育館に顔を出すなり、顔見知りの兵士から聲をかけられる。それを聞いた博孝は、苦笑しながら頭を掻いた。
「相変わらず上達しないもんで。自主練ぐらいはしとかないとなー、と」
「『ES能力者』も大変だな。でも、徹夜はやめとけよ? いくら『ES能力者』でも、“なりたて”のお前さんじゃ徹夜はきついだろ」
「そうですねー。前に徹夜で自主練したら、翌日授業中に寢落ちしちゃいまして……」
「はははっ、それで、どうなったんだ?」
「教に窓から放り投げられました。いやぁ、さすがに目が覚めましたね。いきなり衝撃があったかと思ったら、グラウンドにいたんですから」
博孝がそう言うと、兵士は腹を抱えて笑した。それを見た博孝は、いやーまいったまいった、とため息を吐く。
「そりゃ自業自得ってやつだ! 練の『ES能力者』なら寢なくても平気だけど、お前さんみたいな“なりたて”が無茶するからそうなるんだよ!」
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「ごもっともで……って、練の『ES能力者』って、寢なくても平気なんですか?」
聞き逃せない発言があったので、博孝は思わず尋ねる。
「おう。俺も詳しくは知らないが、『ES能力者』ってのは歳を取るごとに『人間が生きる上で必要なこと』を必要としなくなるんだと。食事だとか、睡眠だとかな」
「へぇ……じゃあ、俺もいずれはずっと寢ずにES能力の訓練ができるようになるんですかね?」
特に深く考えず博孝がそう言うと、兵士は再び笑した。
「おいおい、そいつは訓練馬鹿が過ぎるってやつじゃねえか?」
「でも、便利じゃないですか?」
「まあ、そりゃな。っと、あまり自主練の邪魔しちゃ悪いな。そんじゃ、今日も頑張れよ。休憩するときは聲をかけろ。その時は、とっておきのコーヒーでも飲ませてやる」
「マジっすか!? あざーっす! 頑張ります!」
「おお、頑張れ頑張れ」
兵士の言葉にテンションを上げて、博孝は育館の片隅に立つ。そして昂ったテンションを一瞬で鎮めると、目を閉じて集中にった。
それを遠目に見ていた兵士は、呆れたように呟く。
「あの集中力だけは見事なんだがなぁ……結果に結びつかないのが、ちと不憫だな」
それだけを呟いて、兵士は休憩用の小部屋へとる。そこからは育館の様子も確認でき、その上コーヒーメーカーなども置いてあるのだ。
「さてさて、頑張る若人のためにとっておきの豆を出してやりますかね……」
それだけを口にして、兵士はコーヒー豆を探す作業にるのだった。
明けて翌日、博孝は僅かに眠気が殘る頭で教室へと向かっていた。
昨晩は兵士が飲ませてくれるコーヒーで休憩しつつ、日付が変わるまで自主練に勵んでいた。だが、結果は慘敗である。未だに『構力』が知できず、一歩も前に進めていなかった。
「おはよーっす」
そう言いながら博孝が教室にると、教室のあちこちから視線が飛んでくる。その中には明らかに見下すようなものが混じっているが、博孝はそれをまったく気にせず自分の機に座った。
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「あ……お、おはよう……」
「っと、おはよう岡島さん。うーん、今日もとってもプリティーですねぇ」
里香からの挨拶に、とりあえず挨拶を返しつつボケる博孝。無論、半分は本心だ。
「うぅ……」
しかし、里香は博孝の言葉をけてそのまま赤くなり、顔を俯かせてしまう。その様子を見た博孝は、朝から良いものを見たと言わんばかりに頬を緩ませた。
毎回里香のリアクションが可らしく、ついつい妙なことを口走ってしまうのだ。
(うん、これは岡島さんがいけないんだ。そんな小ちっくなリアクションをするもんだから、俺も自重が―――)
そうやって博孝が自分に言い訳をしていると、砂原が教室に室してきた。そして教壇へと歩み寄り、それを見た生徒達は私語を止めて席に著く。砂原は席に座った生徒達を見回し―――そこでふと、首を傾げた。
「武倉はどうした?」
そう言われて視線を向けてみると、たしかに恭介の姿がなかった。そういえば今日は會っていないな、と博孝が首を傾げると、廊下を慌ただしく走るような音が聞こえ始める。まるで全力疾走をしているようなその音は、教室のり口でスライディングらしき音に変わり、次いで扉が開かれる。
「よっしゃセーフっす―――ってげぇっ!? 教!?」
音の正は、恭介だった。扉を開けて飛び込み、額の汗を拭い、自が遅刻せずに済んだことに安堵してから砂原と目が合った恭介は、山中で熊に遭遇したような聲を上げる。
「なにが『げぇっ』だ、この馬鹿者。一分遅刻だぞ」
「う、うっす! 申し訳ないっす! 寢坊したっす!」
「素直でよろしい。だが、寢坊とはたるんでいるようだな?」
真っ青になった恭介を見て、砂原は獰猛な笑みを浮かべた。すると、それを見た恭介は震えながらも尋ねる。
「ば、罰として、バケツを持って廊下に立っておけば良いっすか?」
「罰はない……が、午後からの実技でたっぷりとしごいてやる。嬉しいだろ?」
「うぅ……嬉しくて、涙が出るっすよ……うわ、しょっぺぇっす……」
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そう言って本當に涙を流す恭介に、砂原は呆れながら著席するように促した。恭介は午後から訪れるであろう“地獄”に対して軽くブルーになっていたが、今は授業の時間と割り切る。
砂原は今度こそ全員が揃ったことを確認し、授業を開始することにした。
「さて、今日は諸君らの大多數が將來的に所屬するであろう、陸戦部隊や空戦部隊について教えようと思う」
そんな言葉を授業のスタートとして、砂原は黒板に向かって『陸戦部隊』と『空戦部隊』と書きつけた。
「諸君らもこの國に生まれ育ったからにはある程度知っているだろうが、両部隊ともその名の通り、陸上戦闘と空中戦闘を主とする部隊だ。ただし、空戦部隊については三級特殊技能の『飛行』が使えなければ所屬することはできない。そのため、陸戦部隊に比べて數がないが、練度が高い部隊となっている」
そう言いつつ、砂原は黒板に數字を追加する。
「陸戦部隊は約五千二百名、空戦部隊は約八百名の『ES能力者』が所屬している。空戦部隊の數がなくじるが、全『ES能力者』に対する空戦部隊の割合は世界でもトップだ」
「教、質問ですが、割合は“トップ”なんですか? トップクラスではなく?」
クラスメートの一人が尋ねた。すると、砂原はそれに対して頷く。
「今のところはトップだ。もっとも、これは各國が公表している『ES能力者』の數や質をもとに算出している。他國に公表せずに『ES能力者』を抱えている國もあると思われるので、あくまで參考程度に思った方が良いがな」
砂原がどこか気に食わないようなニュアンスで言うと、質問をした生徒は納得したのか返事をした。
砂原の言う、『各國の公表』というのは世界的に定められた『ES國際法』にて定義されたものだ。“無駄な”警戒を行わないために『ES能力者』を保有する國はその保有數や質を報として共有しているのである。もっとも、それを素直に報告する國はなく、逆に疑心暗鬼を生んでいる法律でもあった。
「それでは、この陸戦や空戦の部隊についての説明に移る。最初に説明しておくが、これから先、諸君らがある程度の技量まで達すれば、その後は一小隊四人ごとに訓練をけていくことになる」
「あれ? 陸軍とかだと、小隊って三十人くらいじゃなかったっすか?」
砂原の説明に、恭介が疑問の聲を上げる。
「良い質問だ。だが、質問する時には挙手するように」
そう言いつつ、砂原は恭介に拳骨を落とす。恭介は毆られた頭を押さえながらややオーバーに教室の床を転がるが、授業中のためか周囲から笑い聲が上がらないことに凹みながら席に座り直した。砂原はそんな恭介の様子に小さく苦笑するが、すぐに表を引き締める。
「通常の軍と違い、ES能力者はその數のなさ、特から四人で一小隊としている。さらに細かい區分けとして二人で分隊としているが……こちらは今のところ気にする必要はない。そしてこの小隊だが、三個小隊で中隊、三個中隊で大隊となっている。通常の軍ならば連隊や師団といった考えもあるのだが、『ES能力者』では大隊以上の部隊は規定されていない」
砂原がそう言うと、希が右手を挙手する。
「教」
「松下か。なんだ?」
「特とはなんでしょうか? そして、一小隊を四人とした理由はなんですか?」
砂原の反応を待ってから質問する希。それを見た砂原は一つ頷いてチョークを手に持つ。
「中には知っている者もいるだろうが、ES能力者は大まかに言って四通りに分けられる」
そう言うと、砂原は黒板にチョークを走らせていく。
「以前話したES能力の區分に紐付く部分もあるが……『攻撃型(アタッカー)』、『防型(ブロッカー)』、『支援型(サポーター)』だ。『攻撃型』、『防型』は読んで字の如く、ES能力が攻撃や防に秀でている者を指す」
黒板に『攻撃型』、『防型』、『支援型』と達筆な字で書きながら、砂原は話を続ける。
「そして、『支援型』はES能力者に対して強力な治療能力を持つ者などのことだ。支援系のES能力である『接合』や『療手』、『治癒』が得意だな。『攻撃型』や『防型』も治癒能力を持たないわけではないが、『支援型』に比べれば遙かに劣る。また、『支援型』はそれなりに防力も高い。さすがに『防型』には劣るが、『攻撃型』に比べればその差は大きい」
『攻撃型』は攻撃、『防型』は防、そして『支援型』は治癒と防と書き、砂原は一旦チョークを置く。
「これら三通りのES能力者を小隊単位で組ませることによって、攻撃、防、支援にがないようにする」
「攻撃に防、そして支援ですか……バランスが良いですね」
砂原の説明に対して、沙織が小さく呟いた。それを聞いた砂原は頷いて見せる。
「そうだな、バランスは良い。ただし、『攻撃型』や『防型』に比べると『支援型』の數はない傾向にある。そのため、必ずしもこの三タイプで小隊を組むとは限らない」
「その場合はどうするんっすか?」
さすがに學習したのか、恭介が挙手しながら尋ねた。
「その場合は『攻撃型』を二人、『防型』を二人で組むのが一般的だ。『防型』も攻撃が出來ないわけじゃない。それに、『支援型』に比べれば難しいとはいえ、支援も不可能ではないからな」
黒板に人數の割り振りを書き、そこでふと、砂原が振り返る。
「ただし、『攻撃型』が三人、『防型』一人のような形で組むのは極力避けるようにしている。何故かわかるか―――河原崎」
突然名字を呼ばれ、博孝は背筋をばした。そして質問の容を味すると、すぐさま口を開く。
「生存率をしでも上げるため、ですか?」
短く思考して答えた博孝に、砂原は満足そうに頷く。
「その通りだ。『攻撃型』は他のタイプに比べて防が脆い。仮に『攻撃型』三人の攻撃が敵に通ったとして、それで仕留めきれなければ反撃をける。だが、その際『防型』が一人では三人の誰かが、最悪二人死ぬ可能が高い。そのため、『支援型』がいない場合はしでも生存率を上げるために『攻撃型』と『防型』の數を等しくするんだ」
黒板に追加で報を書く砂原。すると、今度は里香が手を上げた。
「そ、その、『攻撃型』が三人なら、攻撃の手が増えて良いと思いますけど……こ、攻撃は最大の防とも言いますし」
「ふむ……たしかにそういった見方もできるが、それは場面によるだろう」
黒板にチョークを走らせつつ、砂原は里香の問いに答える。
「『ES能力者』同士が戦う場合、余程の技量差がない限り一撃で勝負が決まることはない。大抵は相手の防を削りつつ、ダメージを蓄積させていくんだ。いくら『ES能力者』が死に難いとはいえ、人間の頃と同じで最終的には死ぬんだからな」
「あ、その、そう、ですか……」
「しかし、岡島の言う通り小隊を攻撃に偏らせる場合もある。例えば、特定拠點に対する強襲を行う場合は時間を短するために『攻撃型』四人で組んだりな。逆に『防型』四人で組んで遅延戦闘に務めることもある。ああ、間違っても『支援型』四人で組むことはないからな」
余程人員に余裕がない限りは、と付け足して、砂原は走らせていたチョークを止める。
黒板には各タイプの下に、いくつか補足事項が書かれていた。
「あと、それぞれのタイプの中でも能力に違いが出る。『攻撃型』ならば接近戦が得意、遠距離からの攻撃が得意といったようにな。『防型』の場合は自の『防殻』や『防壁』が固い者、周囲の味方全員を“包んで”『防壁』を張るのが得意な者などだ。『支援型』の場合は『治癒』が得意だったり、他の『ES能力者』の位置を探る『探知』が得意だったり、と様々だ」
博孝は砂原の言葉を聞くと、すぐさま手元のノートに書き留めていく。
「理想としては近距離型、遠距離型の『攻撃型』が一人ずつに、自の防力もあって他の小隊員も守れる『防型』、そして治療が得意な『支援型』の四人で小隊を組みたいところだ。この組み合わせならば、大抵のパターンに対応できる」
砂原はそう言うと、どこからともなく板狀の磁石を取り出した。磁石はそれぞれ赤、青、黃に分けされており、それぞれを黒板にり付ける。
「近距離型の『攻撃型』が斬り込んで、『防型』がその防。遠距離型の『攻撃型』がそのサポートに回り、『支援型』がその補佐に回る、というのが基本だ」
ペタペタと磁石の配置をれ替えつつ、砂原は様々な戦い方を説明していく。生徒達はそれらをノートに書き寫しつつ、時折質問も行っていた。
「諸君らもES能力についてはなからず理解をしていると思うが、今後は各自がどのタイプに該當するかを見極めていく必要がある」
「教、ES能力が使えない奴もいますけど、その場合はどのタイプになるんですか? 何もできない奴が同じ小隊にいたら、勝てるものも勝てなくなると思うんですけど」
そこで不意に、クラスメートが揶揄するようにそう言った。それを聞いた博孝はやれやれまたか、と苦笑する。
(授業中にそんな質問をするとはなぁ……)
馬鹿な奴だ、と呆れるような気分だった。いくら博孝でも、授業中でも、授業中でなくとも、“その手”のネタで騒いだりはしない。そして、それを裏付けるように砂原が口を開く。
「―――黙れ。他人と自己の優劣を楽しむ暇があれば、しでも授業を理解するよう努めろ」
「っ……は、はい。すいません……」
冷たさを通り越し、冷徹さすら滲ませた聲と視線に、発言をした生徒が聲を小さくする。砂原はしばらくその生徒を睨んでいたが、やがて靜かに口を開いた。
「他人を揶揄する暇があれば、授業や訓練にをれろ。他の『ES能力者』を侮るような考えでは、実戦では生きていけんぞ」
そこまで言うと、生徒は何も言えなくなったのか、顔を俯かせる。砂原は一つ息を吐いて空気を変えると、再び黒板に向き直る。
「……さて、授業の続きだ。先ほど三つのタイプについて説明したが、これら三つのタイプに屬さない『ES能力者』もいる。それが『萬能型(オールラウンダー)』だ。もしも敵がこの『萬能型』だった場合は注意しろ。相手の技量にもよるが、かなり手強い」
黒板に『萬能型』と付け足す砂原。その文字を見た博孝は、まさかと思いながらも挙手して尋ねる。
「もしかしてですけど、三つのタイプすべてが得意……なんてことはない、ですよね?」
さすがにそれは手強いだろうと思うが、同時に、それはないだろうと博孝は思った。しかし、そんな博孝の疑問を肯定するように砂原が頷く。
「その通りだ。『萬能型』というのは、各タイプの特を持つ……とは言っても、その能力は各タイプに比べて々八割程度と言われている。だが、それはあくまで同程度の技量だった場合だ」
砂原はチョークを置くと、指についたチョークのを払う。
「諸君らにもわかりやすく言うならば、我が國の『武神』、長谷川源次郎氏はこの『萬能型』だ。その辺の『攻撃型』よりも攻撃が強力で、『防型』よりも防がい。その上『支援型』と同様に治療もできる。言うまでもないことだが、“あの方”は強いなんてレベルじゃないぞ?」
ニヤリと、誇るように砂原が言った。すると、博孝の視界の隅で沙織が僅かにを震わせる。
(ん? 何事?)
その作が思わず気になった博孝はこっそりと沙織へ視線を向け、思わず驚愕した。
―――沙織が、嬉しそうに微笑んでいたのだ。
學以來ツンとした表を崩したことのない沙織が、である。
(うわ、やべー……なんか、見てはいけないものを見た気分だぜ……)
視線が合うより先に、博孝は自の視線を逸らす。
沙織が『武神』長谷川源次郎の縁―――おそらく孫であるというのは、博孝も予想していたことだった。しかし、今回の沙織の反応を見て確認する。
(にしても、笑うと可いじゃん……勿ないねぇ。いつもあんな笑顔なら良いのに)
そしてついでに、思考を脇に逸らしてしまった。すると、どこかから刺すような視線をじて博孝は肩を竦める。
(あ、やべ……これ絶対睨まれてるわ)
見ていたことが気付かれたのか、沙織が座っている方向から視線をじた。
くわばらくわばら、と思いつつ、博孝はすまし顔で砂原の授業に集中する。
「『萬能型』が小隊にいる場合は、各タイプを一人ずつ組ませるのがベストだ。『萬能型』はどんな局面でも力を発揮するからな」
「教、質問っす。ないとは思いたいんすけど……全員が『萬能型』っていう小隊が相手だったら、どうすればいいんすか?」
砂原が『萬能型』について説明すると、恭介が疑問の聲を上げた。それを聞いた砂原は、恭介の質問の意図を理解して苦笑する。
「その時擔當している任務次第だが、可能なら逃げろ。まず勝てん。もしも勝てるとすれば、『攻撃型』四人で小隊を組んでいる場合ぐらいだろう。敵を上回る火力を叩きつけるぐらいしか方法がない」
「うっへぇ……おっかないっすねぇ」
「ああ。だが安心しろ。『萬能型』は『支援型』よりも數がない。普通ならば、その『萬能型』を一つの小隊にまとめるような運用はしない。他のタイプと混ぜた方が有効に使える」
苦笑しながら砂原が言うと、それを聞いた里香が何事かをノートに書き込む。隣の席のためそれを見て取った博孝は、思わず視線を向けてしまった。
するとそこには、砂原が語った通り『攻撃型』を集中運用して撃退する方法が書かれている。そして、し時間を置いてもう一文書き加えられた。
『多分、純粋に技量で上回る小隊をぶつければ攻略可能』
さらりと付け足されたその一文に、博孝はなるほどと思った。砂原が話しているのは全て同程度の技量ならば、という話である。それならば、それを上回る技量の者に戦ってもらえば良い。
(ふむふむ、単純だけど効果的だな……俺も書いておこう)
參考になる、と博孝も同じように一文を書くと、その音が聞こえたのか、里香が博孝へ視線を向ける。そして博孝のノートに視線を向け、首筋から顔に向かって徐々に赤くなり始めた。
それを見た博孝は、思わず頭を下げ、ついでとばかりにサムズアップする。
「良かったら、あとで他のノートも見せてよ。すっげぇ勉強になりそう」
小聲でそう言うと、里香は小さく首を振った。どうやら、自分の考えを書いたノートを見られるのが恥ずかしいらしい。その様子を見た博孝は、それなら仕方がないかと諦めた。
見せてもらえないなら、自分も同じように狀況を打破する方法を考えれば良いのだ。
(ES能力もまったく長しないし、補えるなら違う部分で補わないとな)
戦や戦略で戦闘を引っくり返せるなら、それに越したことはない。中學校時代は勉強嫌いだったが、こういった“勉強”なら大歓迎の博孝だった。それに、ES能力が使えなくとも、を鍛えることぐらいはできる。
ノートに『観察力を養うこと。も鍛える』と付け足すと、隣の席から小さく『くすっ』という聲が聞こえた。それを聞いた博孝は、調子に乗ってもう一言『あと岡島さん可い』と書き加える。すると、今度は『あぅ……』という聲が聞こえた。博孝は満足だった。
「では、なぜこういった構想で小隊を組むか? それは、『ES能力者』の數がないからだ。損失をしでも防ぐために、一小隊の組み方を考えてある」
そうやって博孝がしばかり“息抜き”をしていると、砂原が生徒達を見ながら真剣な表で話を続けている。その表を見た博孝は、思わず背筋をばしていた。
「諸君らもいずれ、己の鍛錬だけではなく、周囲と連攜することも重要であると気付くだろう。それは己だけでなく、同じ小隊の仲間のも守る。それを肝に銘じろ」
言い聞かせるように、砂原が言う。
砂原は軍人然とした人だが、それと同時に、“教”として生徒を鍛え育てることを大切に思っている。博孝もそれを理解しているが故に、ノートにもう一文だけ付け足した。
『教みたいに強くなる』
再び隣の席から『うん』という小さな聲が聞こえ、博孝はノートを閉じるのだった。
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