《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第二十三話:目標その1

翌日、博孝は目が覚めるなり、ベッドから起き上がって『防殻』を発現させていた。そして、昨日のことが夢ではないことを確認し、ガッツポーズを取る。

もしもこれで昨日のことが夢で、『防殻』はおろか『構力』をじ取ることすらできなかったら間違いなく泣いていただろう。不貞腐れて、今日の授業をサボっていたかもしれない

もっとも、病欠等の理由もなくそんなことをすれば、砂原が文字通り“叩き起こして”授業に連行するだろうが。

「おっし! ちゃんとES能力が使えるぜ!」

これで、実技でも他の訓練生に後れを取ることはないだろう。そこまで考えた博孝は、ふと頭の片隅に引っかかるものをじた。

「ん? んんー……おお、そう言えば、ES能力が使えるようになったら、やらないといけないことがあったな」

そう言って、博孝は口元を邪悪に歪めた。『空を飛ぶ』という目標よりも先に、達すべき目標があったのだ。そのことを思い出し、今日の実技の時間に想いを馳せる。

「ふっふっふ……さあて、リベンジの時間まで待ち遠しいぜ」

以前、博孝はクラスメートの三人組と喧嘩をして負けていた。その時はES能力が使えず、『ES能力者』としての能力だけで戦ったが、負けたことは非常に悔しかったのだ。

「その悔しさを今日、熨斗(のし)をつけて叩き返してやる!」

だが、『防殻』だけとはいえES能力が使えるならば、同じ土俵に立てたことになる。そうなれば、あとは気合とと、半年間で磨いたを使って土俵から叩き落とすしかない。

テンションを高めつつも、『防殻』を維持する博孝。ES能力が使えずとも半年間“集中”の訓練を続けたおかげか、大抵のことでは『防殻』を消失させることはない。これは昨晩部屋に帰るなり、々と試した結果でもあった。

かしながら『防殻』を維持することは、今の博孝にとって容易い。今までES能力が使えなかったことが噓のように、十全に『構力』をってみせた。

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博孝は昂る心を無理矢理押さえ込むと、制服に著替えて部屋から出る。そして“いつも通り”に朝食を取り、“いつも通り”に午前中の授業をけた。その際、ES能力が使えることは“まだ”口外しないよう恭介や里香に口止めをするほどの周到振りである。

そして午後、博孝は著に著替えると、やる気満々といった表でグラウンドに集合していた。ついでに“目標”である三人組―――クラスメートである中村、和田、城之に視線を向ける。

この三人は初任務の際にも『ES寄生』と遭遇しなかったのか、平常通りの様子だった。しかし、博孝の視線に気づくと示し合せたように近づいてくる。

「よお、もう“怪我”は良いのかよ?」

三人組のうち、リーダー格でもあり第六小隊の小隊長を務める中村がニヤニヤとしながら話しかけてきた。外部への詳細は機事項となっているが、クラスメートが相手ではそれもない。なにせ、博孝は三日間院しているのだ。“何か”があったと推察するのは容易だろう。

そんな中村に追従するように、和田も嗜的な笑みを浮かべる。

「大怪我したんだってな? いやぁ、クラスメートとして心配したんだぜぇ。ES能力が使えないってのは、大変だなぁ」

「まったくだ。怪我で済んで良かったぜ……なあ?」

城之も和田と同じように、“嫌な”笑みを浮かべた。言葉だけを聞けば心配しているようだが、態度は全く心配しているようには見えない。事実、傍で聞いていた恭介がその瞳に怒りのを浮かべた。

「テメェら……」

拳を握りしめた恭介が一歩前に出る。その気迫に三人組はしばかり気圧されたが、すぐに気を取り直した。

「なんだよ武倉。お前には関係ないだろ? 引っ込んでろよ」

「そうだ、関係ないだろ? でも、お前も大変だよなぁ。そんな無能が小隊長をやってるとよ」

「なんなら俺が第一小隊の小隊長をやってやるぜ?」

恭介は『防型』の『ES能力者』であり、三人いれば脅威ではないと思っているのだろう。中村は接近戦が得意な『攻撃型』、和田は遠距離戦が得意な『攻撃型』、城之は『防型』である。『防型』の恭介一人、恐れるほどでもない。

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それでも恭介はなんの躊躇もなく戦うだろうが、博孝が目線でそれを制した。

「なんだ、お前ら心配してくれたのか。いやぁ、嬉しいなぁ」

そして、とても“イイ”笑顔を浮かべて気軽にそう言ってみせる。そこには一切の怒りのがなく、嘲りの言葉をかけた三人の方が戸うほどだ。同時に、博孝の笑顔を見た恭介は一気に怒りが収まるのをじる。

(あ、絶対“何か”やらかす気っすね……)

絶対何かを企んでいると、恭介は悟った。これでも半年間親しくしてきた友人だ。今の言葉に怒っていない―――ように見えるのは、何かしらの考えがあるのだろう。

反対に、これまで嘲りの言葉を投げかけ、時には直接的な暴力に出ていた三人組は博孝の態度が気に食わない。

「んだよ……怪我して頭の螺子が外れたか?」

代表して、中村がそんな言葉を口にした。それを聞いた博孝は、ニヤリと笑う。

「おうよ。螺子やら歯車やら、んなモノが外れた気分だよ。ふっふっふ……いやぁ、この時をどれほど待ったことか」

楽しげに笑う博孝。その表を見た三人組は、顔を見合わせる。

「いや、お前……本當に大丈夫か? 頭とか……」

続いて、今度は本気で心配された。それを聞いた博孝は、笑みを深くする。

「無問題(もうまんたい)無問題(もうまんたい)。絶好調だよ、俺。まあ、強いて言うなら退院祝いがしいところだな―――というわけで、以前お前らに負けた分、ここらで取り戻させてもらおうか?」

拳を握り締め、博孝が骨を鳴らす。それを見た三人組は視線をわし合うと、口元を吊り上げた。

「へぇ……良い度じゃん。ES能力も使えないくせによ」

「“あの時”とは違って、『防殻』の維持は完璧だからな……どうなるかわかってんだろうな?」

「吐いた唾は飲めねえぞ……」

以前、博孝がこの三人組と喧嘩をした際は、ES能力の扱いが下手だったためそれなりに戦うことができた。しかし、今はその未さもだいぶなくなっている。なくとも、投げ飛ばすぐらいでは『防殻』の維持を止めさせることはできないだろう。

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早くもいきり立つ三人を見た博孝は、肩を竦めた。

「まあ、そんなに慌てるなよ。すべては教に許可を取ってからだ。模擬戦って形にしてもらおう」

博孝がそう言うと、中村が眉を寄せた。

「模擬戦? まさかお前、長谷川や武倉に助勢を頼むつもりじゃねえだろうな?」

警戒するように言うと、名前を呼ばれた恭介が首を傾げる。

「俺っすか? 博孝、どうするっすか? 必要なら手を貸すっすけど?」

半ば答えを予想しつつ恭介が問うと、博孝は恭介が予想した通り首を橫に振った。

「いらねー。まあ、のんびり観戦しててくれや。あ、なんなら、昨日あげた果でも食べつつ」

「いやぁ、昨日もらった果味しかったから全部食べたっすよ……」

博孝の言葉に、恭介は気が抜けるのをじる。だが、それでも言うべきことは口にした。

「ちゃんと教に許可を取ってからやるっすよー。あと、油斷はっすからね」

恭介がそう言うと、実技の時間になったため砂原がグラウンドへと姿を見せる。そしてすぐに博孝達の雰囲気がおかしいことに気付くと、片眉を上げた。

「これは何の騒ぎだ?」

砂原に聲をかけられたため、博孝は背筋をばして真剣な視線を向ける。

「実戦形式の模擬戦をやりたくてですね―――三対一で」

「ほう……実戦形式の模擬戦か。それも三対一で、か」

博孝の言葉を聞いた砂原は、博孝と相対するように立つ三人組を確認した。そして、その顔ぶれを見て、苦笑する。博孝が何をんでいるか、すぐさまわかったのだ。

「“あの件”か……しかし河原崎、お前は退院したばかりだろう?」

「大丈夫です! しっかり休養が取れて、むしろ調子が良いぐらいですよ!」

拳を握りしめて力説する博孝。その様子を見た砂原は、困ったやつだとため息を吐く。

「中村、和田、城之。お前らは河原崎の申し出をけるのか?」

一応は尋ねてみると、三人組は頷く。

「教の許可が出るのなら、今すぐにでも」

「クラス全員の前で恥をかかせてやりますよ」

博孝の様子に発されたのか、全員やる気のようだった。それを見た砂原は、再度ため息を吐く。

「やれやれ……今回だけだぞ。それで“私怨”は全て流せ。良いな?」

三人組と言うよりは、博孝に向けて砂原が言う。それを聞いた博孝は、笑顔で頷いた。

どの道、ここ最近の三人組の態度は目に余るものがあると思っていた砂原である。それに加えて、博孝に対しても“確認したいこと”があったため、砂原は許可を出すことにした。こういった騒ぎが出來るのは、訓練校までである。“喧嘩”ならば、可いものだろうと思った。

博孝と三人組は砂原の許可が出たことで、他のクラスメート達から離れる。実戦形式と言った以上、ES能力の使用もあるからだ。

「実戦形式とはいえ、模擬戦である以上相手を殺傷する威力の攻撃はじる。その場合は問答無用で割ってるぞ。それと河原崎は……“わかっている”な?」

「了解です」

一応の警告を発する砂原に、四人とも頷いた。特に、博孝は例の薄緑の『構力』について注意をけたので、深く頷く。

そして、博孝は三人組の顔を見て小さく笑った。

「なんだよ、余裕じゃねえか。これから大恥を曬すっていうのによ」

そんな博孝の様子を見て、中村が不快そうに言う。客観的に見れば博孝は『ES能力者』でありながらES能力が使えない落ちこぼれであり、小隊長としても沙織の手綱を握れていない。においては男子のトップだが、子のトップである沙織に勝てるかどうかといったレベルであり、ES能力が使えないためクラスメートの評価はそこまで高くなかった。

だが、博孝はそんな嘲りも心地良いと言わんばかりに笑みを深める。やっと、“借り”を返すことができそうなのだ。そのため、神を高揚させながらも油斷はしない。

「ES能力も使えない癖によ……ボコボコにしてやるぜ」

そう言いつつ、三人が『防殻』を発現する。この時點で、クラスの大半は博孝の敗北を予想した。だが、その中でも第一小隊の面々の心境は大きく異なる。

恭介は、博孝が調子に乗って“やり過ぎ”なければ良いなと思った。

里香は、博孝が“暴れ過ぎて”怪我をしないことを祈った。

沙織は、早く実技の授業をやりたいと思った。

一名ほど平常運転だったが、それでも各人が抱いた心境は、他のクラスメートと大きく異なることに違いはない。

そして當の博孝は、そんな自らが率いる小隊の仲間達の心境を知ってか知らずか、急に高笑いを始める。

「くっくっく……はぁーっはっはっは! 愚か者めぇ! 人が進歩しない生きだと思ったかっ!」

悪役のように笑う博孝。そして、戸う三人組を前にして、『防殻』を発現させると拳を握り締める。

「なっ!?」

「お前、いつの間に!?」

驚く三人組を見て、博孝は満足そうに笑う。そして、告げた。

「―――というわけで、ボクシングごっこしようぜ! お前“ら”サンドバックな!」

以前言われた言葉を返して、それが“模擬戦”のスタートになる。

『防殻』を発現した博孝に驚きつつも中村は拳を構え、和田は『撃』での矢を作り出し、城之は『盾』を発現する。そして手始めに和田がの矢を放つが、博孝は半歩くだけでそれを避けてみせた。次いで、地を蹴って中村へと接近する。それを見た和田が慌てたように再度『撃』を行うが、単発で飛んでくるの矢を博孝は掠らせもせずに回避した。

「はっはっはぁっ! 無駄無駄ァ! 俺を倒したかったら、五発以上同時に『撃』を撃ち込むんだなぁ!」

験に基づいてそうぶ博孝。しかも、今は『防殻』を発現しているため、五発以上『撃』を食らっても耐えきれる自信がある。まがりなりにも“実戦”を経験した博孝は、和田の放つ『撃』に何の脅威もじなかった。

「このっ!」

間合いに踏み込んできた博孝に対して、中村が迎撃のために拳を振るう。左足で踏み込み、博孝の顔面を右拳で狙った。それに対して、博孝も前へと踏み込み、振るわれた拳に合わせるようにして左拳を繰り出す。

中村の拳が頬を掠めるが、それに構わず、博孝は中村の腕にかぶせるようにして自の拳を中村の右頬に叩きつけた。それは、俗に言うクロスカウンターである。まともに博孝の拳をけた中村は後ろへと弾かれるが、それよりも早く、博孝が毆るために突き出された右腕を摑む。

「おらよっと!」

腕を取り、足を払い、を巻き込むように回転させる。そして中村を地面へ叩きつけると、毆られた衝撃もあってさすがに集中が切れたのか中村の『防殻』が消失した。それを見た和田が『撃』で博孝を狙うが、それを察知した博孝は中村を“盾”にする。

「ぐはっ!?」

「あ、て、テメェ!」

背中に『撃』が直撃した中村は、その衝撃で気を失う。博孝はそのまま中村を持ち上げると、盾代わりにしたままで和田へ向かって駆け出した。

それを見た城之が割ってろうとするが、『防型』である彼には『防殻』を発現したまま立ちふさがることぐらいしかできない。接近戦を挑むこともできるが、城之はそれほどが得意ではなかった。

城之は『盾』も使えるが、相手が弾戦を挑んできた場合に『防殻』と同時に使えるほど習していないのだ。『撃』なども“一応”使えるが、実戦で通用する威力はない。

博孝は持ち上げていた中村を盾にしたままで城之に近づくと、組み付かれるよりも先に中村を城之へと投げ渡す。城之はさすがに仲間を避けるわけにもいかず、慌てて中村をけ止め―――その隙に、博孝は城之のすぐ傍に踏み込んでいた。

正面は中村をけ止めたことで塞がっているため、真橫から、脇腹を抉るようにして折りたたんだ肘を叩きこむ。さすがに『防型』の『防殻』は頑丈だったが、それでも博孝も自が発現した『防殻』を頼りに、二度三度と打撃を加えた。

和田は博孝と城之が接近しすぎているため『撃』を使うことができず、橫やりがることもない。それでも博孝は油斷をせずに、打撃を加えて城之を無力化した。

そして最後の仕上げとばかりに和田の元へと向かう。和田は博孝が城之達から離れたことで『撃』を再開するが、博孝には當たらない。

相手の目線や発現したの矢の位置から狙いを看破すれば、単調な『撃』など當たらないのだ。

もしも『撃』を練しているならば、複數のの矢を発現させて同時に放つか、何本かを囮にして放つだろう。『ES寄生』が五発ものの矢を放った時のように、“避けられない”狀況を作れば良いのだから。

しかし和田は『撃』で複數のの矢を発現させることはできず、る技量もない。そのため嬉々として向かってくる博孝に対してできるのは、せめてもの抵抗に『撃』を継続することだけだった。

模擬戦は、結局五分もかからずに終了してしまった。それも、大半のクラスメートの予想を裏切る、博孝の勝利という形での終幕である。

博孝は最後に殘った和田を気絶させると、両手を突き上げて歓喜の聲を上げていた。以前喧嘩で負けたことが、余程悔しかったのだろう。

それでも半年間、腐らずに自分ができることを行った結果が、この景である。

「―――それまで」

三人を倒した博孝を見て、砂原が模擬戦の終了を告げた。それと同時に恭介が博孝のもとへと駆け寄るが、その様子を見ながら砂原は顎に手を當てる。

(模擬戦とはいえ、戦闘中でも“あの”『構力』は発現しない、か……)

砂原が模擬戦を許可した理由は、博孝が持つ薄緑の『構力』について考察するためだった。クラスメートの目もあるが、仮に博孝が薄緑の『構力』を発現しても、そこはどうとでも言い繕うことができる。そう思っての許可だったのだが、結果は『防殻』のみを使用した博孝の圧勝という形で幕を閉じた。一応釘を刺したが、無意識に薄緑の『構力』を発現するということもなかった。

(河原崎の神狀態は関係ないのか? そうなると、単純にあいつがもう一つの『構力』を発現させるだけの技量がないということになる、か……)

これは今後の検討事項だな、と心で呟く。そして、博孝が倒した三人組に対して『治癒』を行う。

目を覚ました三人は狀況が理解できていないのか、周囲の様子を見て目を瞬かせていた。しかし、自分達が博孝に負けたことを悟ると、悔しそうな顔をして俯く。

三対一の上、それまで格下だと侮っていた博孝に負けたのだ。激昂して博孝に毆りかからなかっただけ、大人しい反応だと言えるだろう。それでも悔しそうな顔を見る限り、“良い薬”なっただろうと砂原は判斷した。

博孝は三人が目を覚ましたことに気付くと、そちらへと歩み寄る。三人は博孝が歩み寄ってきたことに気付くと、不貞腐れたように顔を逸らした。だが、そんな三人を見た博孝は苦笑しながら手を差し出す。

「これで一勝一敗……つまり、“対等”だな」

「んだよ……何が言いたい?」

中村が不貞腐れながら問う。すると、博孝は苦笑を笑みに変えた。

「俺もES能力を使えるようになった。まあ、他のみんなと比べたら遅すぎたけどな。どうだ? これで俺のことも、クラスメートとして認めてくれるんじゃないか?」

ES能力が使えない落ちこぼれではなく、同じステージに立つ『ES能力者』として。

博孝がそう言うと、三人は不貞腐れたような顔から一転、バツの悪そうな顔になる。

「……お前が騒がしくて、それをうるさいと思ったのは事実だからな」

「ああ、そりゃ悪い。でも、こういう格なんでな。諦めてくれ」

「……で、その手はなんだよ?」

手を差し出したままの博孝を見て、城之が尋ねた。それを聞いた博孝は、予想外のことを聞いたと言わんばかりに目を見開く。

「そりゃお前、仲直りの握手だよ」

他に何がある? と博孝は首を捻った。心底不思議そうな博孝の言葉を聞いた三人は、自分の耳を疑う。

そもそも三人が博孝に喧嘩を吹っかけたのは、自分達の『ES能力者』としての力を試したかったからだ。その際博孝を選んだのは、以前口にした通り騒ぐ博孝が気に食わなかったというのもある。しかし、それ以上にES能力が使えないという一點で―――言わば、弱者を選んだのだ。それ故に、三人は博孝がに持っていると思っていた。だからこそ、今回こんな模擬戦を行ったのだろう、と。

だが、手を差しべる博孝から負のは一切じられない。三人を倒した、見返してやったという達だけしか見けられなかった。

「そっちは俺がムカついた。俺もそんなお前らがムカついた。だから喧嘩した。そうなったら、あとは仲直りぐらいしかやることはないだろ? それともなんだ、まだやるか? “模擬戦”なら大歓迎だぜ?」

「なんだそれ……毆り合ったから仲直りなんて、そんな単純な思考はしてねえぞ」

博孝の言いたいことはわかったが、理解ができなくて和田は呟く。それを聞いた博孝は、その言葉を笑い飛ばした。

「いいじゃねーか! 単純でけっこう! 折角のクラスメート、“仲間”なんだし、仲良くしたいじゃんか!」

ほら握手、と再度手を差し出す博孝。それを見た三人は顔を見合わせ、複雑そうな顔をする。それでも代表として中村が手を取ると、博孝は力をれて立ち上がらせた。そして、ニヤリと笑う。

「そんじゃ、仲直りな?」

「……うっせ。また“無駄に”騒いでみろ。その時はまたフクロにすっからな」

「おお怖い。でも、それはちゃんと“模擬戦”でやろうな。次回“喧嘩”したら、さすがに教に怒られるから」

博孝がそう言うと、それを聞いた砂原が歩み寄ってくる。

「河原崎、もしまた今回のようなことをしたら、模擬戦でも私闘と見做すぞ?」

「げっ……や、やだなぁ。ちゃんとした模擬戦ですって! な? そうだよな!?」

博孝は馴れ馴れしく中村の肩に手を回すと、頷けよと小さく呟く。それを聞いた中村は、ため息を吐いた。

「模擬戦じゃなくて、喧嘩がしたいそうです」

「ちょ、おまっ!?」

すぐさま裏切られ、博孝は焦ったような聲を上げる。すると、砂原が楽しそうに笑った。

「そうか。それならどうだ、河原崎。俺と“喧嘩”するか?」

「うっわ! それは勘弁してください!?」

笑顔で拳を鳴らす砂原に、後ずさる博孝。それを見た三人は、知らず笑みを浮かべていた。

「こら! お前ら何笑ってんだよ!? ああもう! やっぱり模擬戦じゃなくて喧嘩で―――」

「なるほど、余程“指導”をけたいようだな?」

そう言って、砂原が博孝に拳骨を落とす。それを見た生徒達は、楽しそうに笑い出した。

校して半年。

博孝が、『ES能力者』としてクラス全員に認められた瞬間だった。

あまり起伏がないですが、語の序盤はこれにて終了になります。

ここからは々とイベントを挾みつつ、語を進めていければと思います。

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