《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第六十一話:水中戦闘訓練 その2
ES訓練校という場所は、一言でいえば學校である。通常の學校と異なるのは、通っているのが『ES能力者』だということだろう。
ES能力や軍事的な知識が幅を占めるものの、一般科目も含まれる座學。
能力、ES能力、集団での連攜能力、指揮能力などが問われる実技。
學校である以上、訓練生である生徒達はそれらの項目で“評価”されることとなる。一點付け加えるとすれば、定期的に行われる任務での評価も加算されていた。
しかし、第七十一期訓練生については、任務の達狀況で與えられる評価の付與方法が難しい。
正規部隊の後詰めとして參加した二回目の任務はまだしも、一回目の任務では二つの小隊が『ES寄生』と遭遇して重者が一人、三回目の任務ではほとんどの小隊が『ES寄生』と遭遇して多くの負傷者を出している。
みらいと初めて出會った二回目の任務が、最も“安全”かつ“穏やか”に終わったというレベルなのだ。二回目の任務については実際にみらいと戦った第一小隊以外、何事もなく任務を終えている。
それらの事を勘案すると、第七十一期訓練生達の評価というものは曖昧になってしまう。元『零戦』の中隊長、『穿孔』とあだ名される砂原が鍛え抜いているということで、生徒達の能力は例年の訓練生と比べれば高い。その上、本來は安全なはずの訓練生向け任務で、多とはいえ実戦を経験している。
現場の実働部隊からすれば、卒業後は是非とも自分の隊にしいと思うだろう。『穿孔』に鍛えられた上に、実戦経験もあるのだ。
訓練校の生徒達は『ES能力者』として訓練校を卒業後、新兵として適切な部隊に配屬され、先輩や上に扱かれ、現場で経験を積んでから一人前になっていく。だが、最も重視される“経験”を訓練生の時點で積んでいるのだ。配屬してすぐに即戦力として數えられる人材ならば、人手不足の現場はいくらでもしがる。
通常ならば、大抵の指揮は第七十一期訓練生の評価に目を通せばそう思うだろう。『大したものだ』、『うちの部隊にしい』と。“そこまで”は、思うだろう。
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第七十一期訓練生にとって幸いだったのは――あるいは不幸だったのは、教えを施す教が“通常”の枠には到底納まらない砂原だったことだ。
――“その程度”では、満足などしない。
訓練生のに鍛えられるだけ鍛えておけば、“教え子”達が將來命を落とす可能は下がる。反対に、鍛えられなければ卒業後の數年で命を落とす者も出てくるだろう。
砂原は一人の大人として、一人の教として、『ES能力者』の先達として。教え子が命を落とすことがないよう、鍛えていくのだ。
八月が近づき、日差しが完全に真夏のものへと変わった頃。その日も、水中および水上訓練が行われていた。
砂原としても、生徒達は訓練生と考えるならばだいぶ“使える”水準に近づいているが、長の余地はいくらでも殘っている。
しかし、時間というものは有限だ。次回の任務の日程も決まり、訓練に割り振ることができる時間も終わりに近づきつつある。
準備運に始まり、水中での組手や小隊での連攜訓練を行った後、砂原は生徒達をプールサイドに集合させて見回す。
「さて、諸君らも水中および水上でのきにだいぶ慣れてきたと思う。そのため、今日は評価テストを行う」
テストという単語を聞き、生徒達の數名が顔をしかめた。勉學で行うテストとは異なるのだが、砂原がわざわざテストと口にする辺り、嫌な予をじざるを得ない。
生徒達も訓練に慣れ、今では野戦服を著て水中および水上での訓練に取り組んでいる。水著ならばともかく、野戦服で訓練を行うと洗濯が大変ではあるのだが、文句を言う者はいない。もしも文句を言えば、砂原が笑顔で“指導”を行うだろう。
「テストの容は単純だ」
どこか楽しそうに、砂原が説明を始める。それに合わせて、顔をしかめる生徒の數が増えていく。砂原が訓練で楽しそうにする時は、決まって生徒が苦しむ時だ。
「俺と一対一で模擬戦をして、一分間気絶せずに耐えるか一発有効打をれる。それだけだ」
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簡単だろう、と口元に笑みを浮かべる砂原に、生徒達は冷や汗を流す。クラス全員で行うならば、確かに簡単かもしれない。砂原が全力で、本気で殺しにかからなければ余裕だろう。
あるいは、小隊対砂原でも辛うじて可能はある。だが、一対一で一分間を凌ぐのは並大抵のことではない。テストの容を聞いた生徒達は、すぐさま無理だろうと判斷した。
ただし、生徒の中には疑問を覚える者もいる。砂原が無茶を言うのは、“いつものこと”と納得できた。しかし、その容に問題がある。
「教、質問をしてもいいですか?」
「河原崎兄か。なんだ?」
博孝が挙手をすると、砂原は一つ頷いて促す。
「一対一の模擬戦は別に良いんですけど、支援型の奴も同じ條件なんですか? 小隊で戦うならともかく、支援型が一人で戦うのは厳しいんじゃ……」
一分間気絶せずに耐えろと言われれば、防に秀でた防型が有利だろう。
砂原に一撃をれろと言われれば、攻撃に秀でた攻撃型が有利だろう。
そのどちらでもない支援型の『ES能力者』は、圧倒的に不利である。
もっとも、砂原を相手にすれば攻撃型だろうが防型だろうが支援型だろうが、あるいは萬能型だろうが、條件に差はないようなものだが。
博孝の問いかけに対して、砂原は視線を鋭くする。
「実戦で、支援型だから見逃してくれと言って、そのまま見逃すような敵がいると思うか?」
「……ごもっともで」
その通りだと博孝は納得した。隣にいた里香も、砂原の回答で疑問が解決したのか頷いている。
納得した様子の生徒達を見て、砂原は々言葉を付け足すことにした。
「とは言っても、俺も鬼ではない。有効打と言ったが、俺にダメージを與えなくて良い。打撃でも『撃』でも良いから、きちんと當てさえすれば勝ちだ。俺はハンデとして、攻撃系、移系のES能力は使わん。防も足場を作るための『盾』と、あとは軽く『防殻』を発現するだけにしよう」
本気で暴れて施設を破壊しても困る、と付け足し、砂原は笑う。つまり、砂原は移手段を生徒と同等にした上、攻撃も素手で行うだけだ。
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それならばテストを合格できるのではないか――などという“楽観”を抱ける生徒は、一人もいない。
「素手だけで突っ込んでくる教とか、逆に怖いんだけど」
「近づかれたら終わるな」
「『瞬速』や『飛行』なしでも、目に映らない速度でく人にそんなことを言われてもなぁ」
顔を寄せ合い、現実の困難さを嘆く生徒達。“その程度”のハンデで勝てると思えるほど、砂原に対する理解は淺くない。
「ふーむ……どうするかねぇ」
「や、やっぱり、撃系のES能力で有効打を狙うしかない……かな?」
「でも、教ならあっさりと避けると思うっすよ」
「かといって、接近戦で有効打を與えるのも難しいわね」
「……むり」
博孝達も顔を見合わせ、作戦を立て始める。一対一での戦いとはいえ、考えを出し合う程度は許容範囲だろう。テストが進めば、新たな有効策も見つかるかもしれない。
「それでは、早速テストを行うか。まずは第一小隊のメンバーから。河原崎兄、お前が最初だ」
だが、トップバッターはぶっつけ本番である。砂原の宣言を聞いた博孝は、慌てたように挙手をした。
「きょ、教!? テストと言えば、普通は名前順とか早生まれ順だと愚考するのですが!?」
博孝としては、砂原との模擬戦は大歓迎だ。しかし、できれば有効策の糸口程度は見つけておきたい。実戦では相手の報もなしに戦うことがザラだが、これはテストだ。それも、相手は見知った砂原である。可能な限り対策は立てたかった。
「男子の名前順で選んでも、お前が最初であることに変わりはないだろうが」
「……そうでした」
冷靜に返され、博孝も冷靜に諦める。軽く屈をして気持ちを切り替えると、第一小隊の仲間達へと振り返った。表を引き締め、サムズアップをして口を開く。
「――逝ってくる」
「今、発音がおかしくなかったっすか?」
「ハハハ……気のせい気のせい」
恭介がツッコミをれるが、博孝はそれを軽く流した。一対一で砂原と模擬戦を行うという事態を前にすれば、そんな気分にもなる。
博孝はプールサイドから跳躍すると、水面に『盾』を発現して著地する。それに対する砂原は、“水面を歩いて”移していた。
『盾』を板狀に発現する博孝と異なり、砂原は自分のきに合わせて、足の裏に最小限の『盾』を発現している。その事実だけで、博孝は砂原との間に隔絶した技量差が存在することを実した。
巨大なプールを利用して、互いに五十メートルほど距離を取る。砂原は移系のES能力を使わないと宣言しているが、練の『ES能力者』だ。五十メートル程度の距離ならば、二秒もあれば余裕を持って踏破できる。
プールサイドにはタイマー式の時計が設置されており、砂原がリモコンで作をするとカウントダウンを始める。テンカウントの後、一分間計るのだ。
カウントが一秒減るごとに十三階段を登る気分になりながら、博孝は『構力』を練る。だが、それと同時に違和を覚えた。
(なんだこれ。教の方から……殺気?)
カウントダウンが進むにつれて、砂原のから殺気が溢れ出していく。それは博孝を委させるほどではなかったが、訓練生が行う訓練で出すには過剰なほどだ。
砂原の顔には恐ろしいほどにが浮かんでおらず、そのから溢れる殺気と相まって“敵”と対峙したような錯覚を與える。五十メートルという距離があるにも関わらず、博孝は空気が張り詰めていくのをじた。
(これは……気を抜けねぇな)
カウントが、ゼロになる。その瞬間、博孝は『活化』を併用しつつ『撃』で弾幕を形。前傾姿勢を取って駆け出した砂原目がけ、三十発の弾を殺到させる。
以前、クラス全員で砂原と戦った時同様、初手で全火力の集中。それが最良だと博孝は判斷した。全火力と言っても、砂原が発現しているのは薄い『防殻』である。博孝も施設を破壊しないよう、弾に使用している『構力』は非常にない。まともに命中すれば、砂原の発現した薄い『防殻』を破って有効打になるかどうか、という威力だ。
弾を連する博孝だが、視線の先では砂原が躍るようにして全ての弾を回避していた。まるで陸上にいるかのように、捌きにも足運びにも一切のれがない。博孝から放たれる弾を冷靜に見切り、紙一重で避けていく。その間にも砂原は博孝から目を離しておらず、獲を狙う狩人のように接近してくる。
(教が相手の場合、を止してもらった方がよっぽど楽かもな!)
心で浮かぶ驚愕を冗談で押し流し、博孝は次の一手を模索する。下手な鉄砲も數を撃てば當たるらしいが、狙いが正確な弾で數を撃っても當たらないのだ。足止めには有効かもしれないが、砂原は弾を避けながら博孝に近づいてきている。
瞳をギラつかせた砂原が、じわじわと接近してくるというその景。博孝は弾幕を張りつつ、頭の中では距離を取るための方法を模索してしまう。できれば逃げる方法を模索したいが、これはテストだ。砂原からは、逃げられない。
彼我の距離が二十メートルを切った瞬間、砂原の姿が水中に沈む。を支えていた『盾』を切り、わざと水中に潛ったのだ。そして水中に『盾』を発現して蹴りつけると、博孝の狙いを外すように不規則な軌道を描きながら水中を移する。
水中から――足元から伝わる強烈な圧迫。博孝が咄嗟に跳躍した瞬間、まるで巨大な口を広げながら襲いかかる鮫のように砂原が姿を見せ、博孝が足場にしていた『盾』が一撃で砕される。
「人食い鮫ですか!?」
逃げた博孝を追うように接近してくる砂原に、博孝は心からの悲鳴を上げた。それでも、『撃』を再開して砂原を狙う。だが、相変わらず掠りもしない。
(こうなったら、勝負に出るしか……)
『瞬速』を連続で行使しても、砂原から時間いっぱい逃げ切るのは難しい。下手をすると“移中”に捕まり、そのままゲームオーバーだ。
一分間逃げ切るのではなく一撃を當てることを決意した博孝は、『瞬速』を発現して一気に距離を取ると、『撃』で弾を五発発現する。そして、そのうちの一発に『構力』を注ぎ込んでいく。その一発は、『狙撃』に見せかけた『撃』だ。殘り四発を砂原が避けそうな場所へとばら撒き――『狙撃』もどきを砂原のきに合わせて発する。
威力と弾速が『撃』を上回る一発に、砂原は僅かに眉をかした。しかし、冷靜に弾の軌道を見切って回避すると、一足で間合いを詰めてくる。
(ここだ!)
接近して掌底を繰り出そうとする砂原に、ピストルの形にした右手を突き出す。瞬時に集めた『構力』を乗せ、指先から『狙撃』によって発現した弾を発した。
『狙撃』は『撃』以上に『構力』を集め、弾丸にして撃ち出すES能力である。紫藤に學んで練習をしている博孝だが、今はまだ『撃』のように自のの周囲に発現することができない。そのため自分の指を発口に見立てて撃ち出し――それは功する。
至近距離からの高速弾。例え相手が沙織だろうと、確実に命中させる自信がある一発。しかし、相手は沙織ではなく砂原だ。避けにくいようにとを狙って放った弾は、半開くことで回避される。それでも左肘に掠め、『防殻』を撃ち抜いて砂原が著ていた野戦服を吹き飛ばす。
有効打とは言えないが、それでも掠らせただけでも上出來だろう。そのことに博孝は心で快哉を上げ――攻撃が掠ったことで、砂原が獰猛に笑った。
「っ!?」
膨れ上がる殺気をけて反的に右腕を折り畳み、次の瞬間には衝撃が伝わる。
急速に流れていく視界の中で博孝に理解できたのは、砂原が回し蹴りを叩き込んだという事実だけである。気付いた時には蹴られており、そのきは微塵も見えなかった。
下手をすると骨が折れそうな一撃だったが、砂原も訓練で生徒の腕を圧し折るほど下手な指導はしない。骨に伝わる衝撃をに逃がし、吹き飛ばすだけだ。
けた衝撃をそのままに、博孝は水上を吹き飛んで行く。水切りの石のように水面を何度か跳ね、それでも勢を立て直そうとする博孝。だが、勢を立て直した瞬間、眼前に砂原が迫っているのを見て、慌てて水中へと逃げ込んだ。
(やべぇ……教に攻撃が掠めたからって喜び過ぎた。今は一旦距離を……っ!?)
水中に『盾』を発現して足場を確保し、博孝は砂原から距離を取ろうとする。しかし、距離を取るよりも先に砂原が博孝の頭上を取った。砂原は獰猛に笑ったままで掌底を繰り出し、水面へと叩きつけ――突如発生した圧力をけて、博孝のが水底へと強制的に“沈む”。
(これ、は……掌底で生み出した水圧!? どんだけ強く水面を叩けばこんなことができるんだよ!?)
砂原の掌底によって水面がすり鉢狀に陥沒し、水が周囲に吹き飛ぶ。急激な圧力をけた博孝のからは、強制的に酸素を吐き出させる。
博孝はそれでもなんとか出しようともがくが、砂原の方が一手早い。水面をくり抜いた砂原は、水の底でもがく博孝を楽しそうに蹴り上げ、水上に吹き飛ばす。
突然空中に巻き上げられた博孝は、回転する視界の中で砂原の挙を注視した。だが、それ以上のことはできそうにない。弾を放とうにも、砂原のきが速すぎる。
「驚いたぞ。用だとは思っていたが、まさか『撃』と『狙撃』を組み合わせて俺の裏を掻くとはな」
そんな稱賛の聲が耳に屆くが、博孝の目に映るのは弓のように右手を引き絞った砂原の姿である。弾丸の様に撃ち出された砂原の掌底を見て、博孝の意識はそこで途絶えるのだった。
「いやぁ、すごかったっすよ。教が最後に叩き込んだ掌底で、博孝のが砲弾みたいに飛んでいって……最後には水面に叩きつけられてバウンドして、プールサイドまで跳ねていったっす」
博孝が目を覚ました時、生徒達のテストは終わっていた。そのため恭介に自分が気を失った後のことを聞いたのだが、相當悲慘な様子だったらしい。
「今回ばかりは死ぬかと思った。いや、マジで」
「俺も死ぬかと思ったっすよ……」
博孝の言葉に同意する恭介。その表は非常にっており、恭介も博孝と同様の恐怖験をしたようだ。
「移用の『盾』を除けば素手と薄い『防殻』だけと思ったっすけど、その狀態でこっちの『防壁』を破ったっすよ。こう、貫手で『防壁』を貫いて、両手を使って力任せに引き裂かれたっす。あれは怖かったっすね……」
ホラー映畫のような景だったと、恭介は語る。他の生徒達も似たような狀態らしく、逃げても追い詰められて気絶させられたようだ。
結局、テストで合格點を取ったのは沙織だけだった。敢えて砂原に接近戦を挑み、博孝同様に不意打ちとして『撃』を撃ち込んで有効打を奪ったのだ。
「博孝達と遠距離攻撃の訓練をした結果ね」
そう言って沙織は喜んでいたが、博孝は反対に落ち込んだ。最初から遠距離攻撃に徹していたが、接近戦を挑んでいる最中に『狙撃』を功させれば良かったのだ。
ただし、そちらの方が勝てる可能が高かったとは思うが、『武化』を使える沙織とは異なり、純粋にだけで砂原に挑めば數秒で気絶させられたかもしれない。
一撃を當てた沙織以外では、博孝が最長の逃亡記録者だった。記録は四十二秒だったが、中には十秒ももたずに沈んだ生徒もいる。
「テストはこれで終了だが、気分の悪い者はいないか?」
砂原は生徒達の評価を紙に書き込むと、全員を起こしてから整列させた。そして調の悪い者がいないか確認を取るが、『ES能力者』としての頑丈さと、砂原自の手加減によって負傷している者はいない。
問題がないことを確認すると、砂原は整列した生徒達を見回した。
「今回のテストについてだが、諸君らが問題なく水上でけるかを見させてもらった。十秒程度で気絶した者もいたが、逃げる時もきちんと『盾』で足場を作っていたな。教としては満足である」
そんな砂原の言葉に、生徒達は俄かにざわめく。砂原が『満足』などという言葉を使うなど、想像の埒外だったのだ。
「揺せずに『盾』が使えるかを確認するため、々恐怖を煽る戦い方をしてみた。しかし、大きな問題も見られなかった」
どうやら、砂原には何かしらの基準があったようだ。砂原が発していた殺気も、生徒達の恐怖心を煽るためだったのだろう。
自分の攻撃が掠めた時に砂原が獰猛に笑ったことも演技なのかと、博孝は思った。決して、博孝の予期せぬ抵抗に気分が高揚し、獲を狩るような気分になったのではないのだろう。博孝は、そう思いたかった。
生徒達は砂原の言葉に困するが、一応は褒められていると判斷する。
「だが、これで満足はするな。所詮、諸君らの力などは高が知れている。あくまで次回の任務を行うのに最低限必要な力がについた程度だ」
し生徒達を持ち上げたと思えば、そのまま落とす砂原。その口ぶりに、生徒達はむしろ安心したように苦笑する。褒められて増長するぐらいならば、罵倒されて起し、長につなげた方が良いのだ。
砂原は個々人の評価を軽く口にすると、最後に生徒達を見回す。その視線に真剣なものをじた生徒達は背筋を正し、砂原の言葉を待った。
「今しがた口にした次回の任務についてだが、日程が決まった」
真剣な様子の砂原に、生徒達は言葉一つたりとも聞き逃すまいと集中する。砂原が今回のテストを行ったのも、次回の任務に向けての仕上げとしての意味合いがあったのだろう。
「以前話をしたが、海上を航行する艦船の護衛任務だ。詳細は明日の座學で説明するが、8月の半ばに三泊四日で行う」
前回の任務から五ヶ月。基本的には三ヶ月間隔で行われる訓練生の任務だが、猶予を二ヶ月も取れたのは前回の任務で大きな騒があったからだ。
それでも、砂原からすれば不満な部分は多い。砂原の見立てでは、もう一ヶ月程度は任務を先送りにできると思っていた。だが、これ以上任務を先延ばしにすれば、訓練生の間に行える任務の數が大きく減ってしまう。
猶予を取ったことで、既に一回分の任務は削減されている。前回の任務で得た経験が大きいため問題視されていないが、あまり時間をかけすぎると“上”からの橫槍も馬鹿にならない。
「海上を航行する艦船の護衛ということで、任務中は海軍のお世話になる。諸君らの任務は正規部隊員への隨行だが、有事の際には実働も有り得る。陸上での任務ではないため、これまでとは違った経験が積めるだろう」
そこまで言うと、砂原は表を緩めた。僅かに笑うと、その視線を博孝と恭介に向ける。
「普通の人間だった頃には滅多に乗れない軍艦に乗ることになるが、はしゃぎ過ぎて騒ぐなよ。特に河原崎兄と武倉」
「了解です教! なんで俺と恭介だけに注意するんですか!?」
「了解です教! 憾の意を表明するっす!」
名指しで注意を促された博孝と恭介は、揃って敬禮をしながら文句を口にした。そんな二人の言葉にクラスメート達も笑みを浮かべ、次回の任務に対する不安を心の中に押し隠す。
前回の任務が任務だっただけに、不安にもなるだろう。それを理解する砂原ではあるが、これも『ES能力者』として超えなければならない壁の一つだ。
それでも“保険”を準備するために奔走してしまった自分に、砂原は心で苦笑する。口に出すことはないが、可い“教え子”のためだ。後悔はしていないのだが。
「今日のところは訓練を終えるが、任務までの殘り期間で小隊間での連攜訓練も仕上げていく。油斷することなく訓練に勵め。良いな?」
砂原の言葉を聞き、生徒達は揃って返事を行う。その元気の良さに満足した砂原は、穏やかに笑うのだった。
【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
書籍版4巻は、2022年7月8日発売です! イラストはかぼちゃ先生に擔當していただいております。 活動報告でキャラクターデザインを公開していますので、ぜひ、見てみてください! コミック版は「ヤングエースUP」さまで連載中です! 作畫は姫乃タカ先生が擔當してくださっています。 2021.03.01:書籍化に合わせてタイトルを変更しました。 舊タイトル「弱者と呼ばれて帝國を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました -魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大國に進化させます-」 帝國に住む少年トール・リーガスは、公爵である父の手によって魔王領へと追放される。 理由は、彼が使えるのが「錬金術」だけで、戦闘用のスキルを一切持っていないからだった。 彼の住む帝國は軍事大國で、戦闘スキルを持たない者は差別されていた。 だから帝國は彼を、魔王領への人質・いけにえにすることにしたのだ。 しかし魔王領に入った瞬間、トールの「錬金術」スキルは超覚醒する。 「光・闇・地・水・火・風」……あらゆる屬性を操ることができる、究極の「創造錬金術(オーバー・アルケミー)」というスキルになったのだ。 「創造錬金術」は寫真や説明を読んだだけで、そのアイテムをコピーすることができるのだ。 そうしてエルフ少女や魔王の信頼を得て、魔王領のおかかえ錬金術師となったトールだったが── 「あれ? なんだこの本……異世界の勇者が持ち込んだ『通販カタログ』?」 ──異世界の本を手に入れてしまったことで、文明的アイテムも作れるようになる。 さらにそれが思いもよらない超絶性能を発揮して……? これは追放された少年が、帝國と勇者を超えて、魔王領を文明大國に変えていく物語。 ・カクヨムにも投稿しています。
8 159【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
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