《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第六十六話:海上護衛任務 その5
鳴り響く警報が、事態の深刻さを告げる。甲板にいた訓練生達は顔を見合わせ、不安そうに周囲を見回した。
往路では船団の前方に位置していた『いなづま』は、復路では船団の後方に位置することになる。現在は船団の前方に位置した『あけぼの』と『いかづち』の『ES能力者』達が『ES寄生』の排除を行っており、船団を引き連れて海域の突破を図っている。
殘された『いなづま』と『さみだれ』は回頭すると、後方から迫る『ES寄生』と『ES能力者』に対する足止め――を言えば撃破を行うつもりだった。
『飛行』で向かってくる『ES能力者』の數は十二。一個中隊分の『ES能力者』が隊列を組んで飛翔し、一直線に突っ込んでくる。それに対する“現狀”の町田達の戦力は、『いなづま』と『さみだれ』に搭乗する陸戦部隊六名に空戦部隊二名、それに加えて指揮である町田に、上空を飛んでいる空戦部隊二名の合計十一名だ。
訓練生を戦力に數えるならば十七名ほど増えるが、『飛行』を発現している『ES能力者』相手に訓練生をぶつけても無駄死にさせるだけだろう。『あけぼの』と『いかづち』、それに加えて二名の空戦部隊員に砂原もいるが、砂原はともかく、各艦に振られた空戦部隊員は船団を護衛しながら退卻する必要がある。
「陸戦部隊員は『ES寄生』の排除および艦の防! 訓練生は防に徹しろ! 飛べる奴は続け!」
そう命令し、町田は部下を連れて『飛行』を発現する。『ES能力者』の數だけで考えれば優越しているが、『飛行』が可能な人員だけで計算すると分が悪い。砂原をれても六名であり、相手の半分しかいないのだ。
訓練生の指揮は陸戦部隊の曹長に一任し、町田自は迎撃のために空へと上がる。可能なら最初に発見した『ES寄生』ぐらいは沈めておきたいが、『飛行』で向かってくる『ES能力者』の技量は不明だ。他の部分に意識を割く余裕はない。
しかし、警戒する町田の意表を突き、隊列の先頭を形していた小隊が突出して船団の方向へと突っ込んで行く。狙いは船団かと危懼する町田だが、その小隊は船団には目もくれず、一気に上昇して砂原へと向かっていった。
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自に向かって突っ込んでくる小隊の姿を見て、砂原は片眉を上げる。潛水艦を使って奇襲をしたことには驚いたが、その後の行の意図が読めない。小隊は散開して砂原を囲むと、小隊長らしき男が口を開いた。
「『穿孔』の砂原浩二だな?」
「…………」
問いかけに対し、無言で応える砂原。相手の顔を確認しても、見覚えはない。だが、野戦服に似た服をに付けている以上、どこかの國か組織に所屬しているのだろう。男はアジア系の顔立ちで、外見年齢は二十代半ば。実年齢は砂原や町田とそれほど変わらないかもしれない。
『町田佐。この男は小に用があるようです。船と訓練生の防、それに殘りの相手の迎撃をお願いいたします』
『通話』で町田に話しかけると、町田からため息のような聲が響く。
『うちの部隊五人で船も訓練生も防しつつ、二個小隊の相手をしろと?』
『佐ならば簡単でしょう? 『ES寄生』は陸戦部隊と『いなづま』で対処可能です。それに、うちの生徒も無力な子羊ではない』
『先輩、気軽に言ってくれますね……』
一対一の『通話』ということで、町田は口調を崩す。それを聞いた砂原は、心で小さく笑った。
『なに、『構力』から判斷すれば大した相手でもないだろう。それとも、その程度の相手に負けるのか? それなら、今度の休日に貴様の部隊に足を運び、徹底的に鍛え直した方が良さそうだな』
『先輩の一家団欒の時間を潰すなんて、恐ろしくて堪りませんよ。了解です。“積み荷”の方はどうしますか?』
『敵の後続がいるやもしれん。現狀の戦力だけで対応する』
『了解です』
それだけの會話ができれば、十分だ。臨機応変にけないような“仕込み”はしていない。わざわざ借りけてきたのだから、町田には十分に働いてもらおうと砂原は思った。
それと同時に、砂原は油斷なく眼前の男を注視する。『構力』の規模は、発現している限りではそれほど大きくない。訓練生に比べれば遙かに大きいが、砂原からすれば警戒するほどの発現規模ではなかった。以前戦しかけたラプターに比べれば、數段どころか桁で劣るだろう。
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「さて、小は貴に覚えがありませんが? それに、これはどういった心積もりでしょう。一方的な敵対行など、宣戦布告と取られても仕方ない行為です。國際ES法に抵していますが?」
しでも報を得るべく、砂原は口を開く。これで素直に答えるとは思わなかったが、相手の表や仕草からでも報は得られるのだ。
「覚えがない……だと?」
だが、砂原の言葉に対する男の反応は、しばかり予想外だった。砂原の言葉が信じられないように、目を見開いている。
「ええ、覚えがありません。まずは姓名を名乗られては如何か?」
挑発ではなく、砂原は心の底からの疑問を込めて尋ねる。眼前の男にも、周囲を囲む男達にも見覚えはない。潛水艦まで引っ張り出して強襲をかけてくる以上は何かしらの目的があるのだろうが、見も知らぬ『ES能力者』に喧嘩を売られるというのは、砂原からすれば迷な話だった。
問答無用で叩きのめしても良いが、報が引き出せるのなら引き出すべきだろう。訓練生達が気になるものの、町田がいる以上はどうとでもなると砂原は思っている。
「そう、か……そうか。そうか……覚えがない、か」
男は何度も呟き、それに合わせて『構力』が膨らんでいく。周囲の男達もそれに合わせて『構力』の規模を増し、殺意が浮かんだ瞳で砂原を見る。砂原の正面を取っていた男は、割れんばかりに歯を噛み締め、砂原へと獰猛な殺気をぶつけた。
「『天治會』の第五空戦部隊隊長、フレスコだ。『穿孔』の砂原、お前の命をいただく」
その宣誓を切っ掛けに、砂原も戦いに移るのだった。
「機関砲、任意にて斉! 弾幕を張って近づけさせるな! 味方に當てるようなヘマをするなよ! 速砲に対『ES能力者』用砲弾の裝填急げ! 『ES能力者』だけが『ES能力者』や『ES寄生』を倒せると思わせるな! 『いなづま』の力を見せてやれ!」
艦橋で矢継ぎ早に指示を出しつつ、鈴木は戦場の把握に努める。砂原のもとに向かった空戦一個小隊はすでに戦闘を開始しており、砂原が船団に流れ弾が行かないように上手く立ち回っている。個人個人の練度はそれほどでなくとも、連攜が巧みだった。
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町田は部下の空戦部隊員を率いて、空戦二個小隊を相手に立ち回っている。町田は敵の撃破よりも船や人員の防を重視しており、こちらは互角に渡り合っていた。
敵の『ES能力者』との距離が近いため、ミサイルの類は発できない。そのため『いなづま』に搭載された20mm機関砲を中心に弾幕を張り、町田達の防をすり抜けてこようとする『ES能力者』を牽制する。
それと同時に甲板に目を向けると、陸戦部隊の中でも最も階級が高い曹長が指揮を執っていた。
『曹長、『ES寄生』の撃破は可能か?』
「『砲撃』を叩き込んでいますが、致命傷には屆きません。速度は落ちていますが、このままでは當たりを食らうかと」
答えつつ、曹長は部下と共に『砲撃』を発現して海中の『ES寄生』へ叩き込む。相手も無傷では済まず、海面が赤く染まっていく。
――だが、止まらない。
百メートル以上の巨を持つ『ES寄生』は、その巨に見合った頑健さを持つ。その上『防殻』を発現しているらしく、『砲撃』を撃ち込んでも致命傷にならないのだ。砂原や町田のように、一撃で仕留められる威力のES能力を持っていれば簡単に料理できる。しかし、陸戦部隊員が持つES能力の中で最も強力なのは『砲撃』だった。
『いなづま』に激突するまでに仕留められるかは、五分五分といったところだろう。敵の『ES能力者』の襲撃がなく、平常の防衛制ならば容易に撃退し得るのだが、今は平常と呼ぶには程遠い。
『仕留めるのは難しいかね?』
「憾ながら、火力が足りませんな。お力をお借りしても?」
『火力か……よろしい、『いなづま』の力を見せてくれよう! 魚雷管発準備! 生意気な魚類を吹き飛ばすぞ!』
嬉々とした鈴木の聲が響き、『いなづま』の甲板に設置された五連裝魚雷発管が遠隔でき始める。ソナーで知した敵目標に対し、自で照準を定めているのだ。
「曹長殿、我々も攻撃を行いたいと思います」
狀況の推移を見守っていた博孝だが、手數は多い方が良いだろうと志願をする。それを聞いた曹長は、僅かに戸った。
「しかし、諸君らは……」
曹長は、訓練生である博孝達を危険に曬そうとは思わない。初めて遭遇したトビウオならばともかく、今回の相手は百メートル級の『ES寄生』だ。それも、『防殻』を発現している。
「大丈夫です。普段の訓練で、あの『ES寄生』よりもおっかない人を相手に戦ってますから」
曹長の危懼に謝をしつつ、博孝は小さく笑う。向かってくる『ES寄生』は、確かに強大だろう。百メートルを超える軀に、『防殻』まで発現している。だが、所詮は“その程度”だ。
『収束』を発現することもなければ、『瞬速』を使っていないのに姿が見えなくなる速度でを使ってくるわけでもない。し反撃をしただけで、嬉々とした笑顔で殲滅してくるような危険もない。
「まあ、教よりはよっぽどマシっすよね」
「あんなのは、デカいだけの的じゃない」
恭介や沙織は気楽に言う。それは油斷でも過信でもなく、純粋に、砂原に比べればどうということはないという想だった。他のメンバーも同じ心境なのか、苦笑しつつも同意して頷く。みらいもそれに同意しているのか、何度も頷いていた。その表に恐怖のはなく、問題なく戦えそうだ。
「……仕方ない、か。ただし、諸君らは防にも気を割いておけ。何が起きても良いようにな」
「了解です」
曹長は僅かに悩んだが、悩む時間もないと決斷する。借りられるのなら、貓の手だろうが訓練生の手だろうが借りたいのだ。指揮をどうするかと思案するが、それよりも先に博孝が仲間に向けて笑顔を向ける。
「よーし、お前ら。相手は潛ってはいるが、あれだけデカい的だ。教相手の模擬戦よりはよっぽど楽だ。初手で全火力の集中……つまり、いつものことだ! 外して教の顔に泥を塗るなよ!」
『了解!』
「良い返事だ! それじゃあ等間隔に並べ! 曹長殿の合図で一斉撃! 出し惜しみはするな! 可能な限り『構力』を込めろ!」
博孝が聲を張り上げると、訓練生は一糸れぬきで位置につく。それを見た曹長は、『ES寄生』よりも恐れられる砂原に同すれば良いのか、それともここまでの仕込みを行っていることに嘆すれば良いのか悩んだ。しかし、今は悩んでいる時ではない。
「全戦闘員に告ぐ! 撃系ES能力で対象の防を突破するぞ! あとは『いなづま』が料理してくださる!」
その聲を合図に、陸戦部隊員は『砲撃』を、訓練生は『撃』を発現する。博孝も、自分で言った通り出し惜しみはしない。『活化』を併用して三十発を超える弾を発現し、各弾に可能な限り『構力』を込めていく。
博孝が発現した弾の數に、曹長はギョッとした目を向けた。數が數なら、一発一発に『構力』を込める正確も訓練生のものとは思えない。
「いやはや、末恐ろしいものだな……教殿の教えの賜か?」
呆れるように呟くと、それが聞こえたのか博孝は苦笑を返した。
「いやぁ……これでも教には全然勝てなくてですね……」
「……そうか」
曹長は、『最近の訓練校ではどれほど厳しい訓練が行われているのか?』と現実を逃避しそうになる。それでも自分の仕事を果たすべく、『探知』で相手のきを探った。『ES寄生』は相変わらず、『いなづま』に向かって一直線に向かって來ている。おあつらえ向きに、再び海面から背びれを出していた。
「総員――撃てえっ!」
曹長の言葉を引き金に、線や弾が宙を飛ぶ。『防殻』を発現しているとはいえ、一直線に向かってくる相手だ。外す方が難しく、曹長の掛け聲と同時に魚雷発管から魚雷が発される。
海面付近を進んでいた『ES寄生』の前面に線と弾が集中し、轟音と共に水しぶきとしぶきを上げる。『防殻』を撃ち抜き、を吹き飛ばし――僅かに遅れて、45キロの高能薬が搭載された短魚雷が連続で命中する。『ES能力者』の攻撃だけでも致命傷に近かったというのに、とどめとして炸裂した薬は『ES寄生』の前頭部を容赦なく吹き飛ばす。
艦橋はその戦果に大きく沸き立った。ソナーの観測手も喜びの聲を上げるが、僅かな間を置いて悲鳴が上がる。
「対象の『ES寄生』が沈黙! っ!? 『ES寄生』の周囲に移あり! 反応からは、十メートルクラスのと思われます! 數は五!」
『甲板の戦闘員へ告ぐ! 追加で五匹の『ES寄生』だ! どうやら奴さん、の周囲に何かを飼っていたらしい!』
鈴木からの警戒の聲が飛ぶと、それと同時に水面を斷ち割って何かが跳ねる。その軀は十メートルほどあり、目視で確認した恭介は思わず聲を上げた。
「何っすかアレ!? コバンザメ!?」
「十メートルのコバンザメなんて笑えねえな!」
どうやら、先ほどの『ES寄生』に引っ付いていたらしい。コバンザメと言いつつもその軀は巨大で、十メートル近いコバンザメが『いなづま』に向かってくる。
「速いぞ! よく狙え!」
曹長の聲が飛び、再度線や弾が飛ぶ。しかし、コバンザメは機敏なきで攻撃を回避し、被弾を許さない。時には水面に潛り、時には水面を跳ねて的を絞らせない。
『いなづま』との距離は殘り一キロ。曹長は決斷すると、陸戦部隊員達に目を向ける。
「水中戦闘準備! 訓練生は『撃』を継続して牽制! 指揮は小隊長が執れ!」
それだけ指示を出し、曹長達は『いなづま』から飛び降りてコバンザメのもとへと向かう。だが、相手は五匹だ。一人で一匹を相手にしようと、二匹は脇を抜けられる。
「相手のきは速いが、それだけだ! 『いなづま』に近づけるな!」
指揮を引き継いだ博孝は、希と共に指示を出しながら迎撃を行う。しかし、コバンザメのきは速い。博孝はマシンガンのように弾を連するが、コバンザメは巧みに避けていく。
『訓練生諸君、敵を海中から引きずり出せるかね?』
そんな博孝達に、鈴木から聲がかかった。それを聞いた博孝は即座に頷く。
「可能です」
『では、海中から引きずり出してくれ。あとはこちらで仕留める』
鈴木の聲に疑問を持つこともなく、博孝は小隊員達へと目を向けた。
「全員、コバンザメの進行方向の“手前”に撃ち込め!」
指示を出しつつ、博孝も弾を撃つ。今度は水中への貫通力を重視して、『狙撃』を中心とした弾だ。
コバンザメは進路に放たれた弾に気付くと、水面を跳ねて跳躍する。コバンザメは弾を容易く飛び越え――。
『撃てええええぇぇっ!』
76mm単裝速砲が、火を吹く。高く跳躍したコバンザメは飛來する対『ES能力者』用の砲弾をけ、木端微塵に吹き飛ぶ。それを見た鈴木は快哉を上げた。
『よくやった! 陸に戻ったら砲士には一杯奢ってやる! もう一匹も仕留めるぞ!』
「っ! 艦長! 陸戦部隊員が一匹後ろに通しました!」
そのびを聞き、鈴木はすぐさま気を引き締める。曹長やその部下が二匹の『ES寄生』を仕留めているが、一匹は取り逃がしたようだ。きが速く、あっという間に速砲の角では狙えない位置まで接近してくる。
それを見た博孝は、即座に決斷した。
「第四小隊と恭介、里香は右の奴を牽制! 沙織とみらいは接近戦用意!」
指示を出しつつ、博孝はみらいを抱き上げる。沙織は『武化』で大太刀を発現し、みらいも『固形化』で『構力』の棒を発現した。最近の様子からみらいのことが気にかかった博孝だが、みらいに異常は見られない。
「『瞬速』で接近! 一気に叩くぞ!」
博孝と沙織は同時に『瞬速』を発現し、甲板を蹴って跳躍。接近してきたコバンザメの頭上を取る。それに反応したコバンザメは口を開きながら跳ねると、博孝達を一飲みにしようとした。
「みらい!」
「……んっ!」
博孝が発現した『盾』に著地し、みらいは手に持った棒をフルスイング。外見に見合わず、第七十一期生の中でも頭抜けた膂力を持つみらいの一撃は、コバンザメの口を強制的に閉じる。博孝は『盾』の足場を蹴ると、右手に『構力』を集めてコバンザメの鼻先へ移し、鼻づらへと掌底を叩き込んだ。
そんな博孝達のきに合わせ、沙織も大太刀を振るう。博孝とみらいの手によって弾かれたコバンザメの頭部に大太刀を突き込み、力任せに両斷する。さらに、激痛で抵抗するコバンザメのきを煩わしそうに睨み付け、大太刀を“ばして”一気に振り下ろした。
大太刀という括りにれるには大きくびた刃が、コバンザメを真橫に切斷する。返りが吹き上がるが、博孝はみらいを抱きかかえて『瞬速』で退避。沙織も同様に退避すると、殘りの一匹へと向かうのだった。
町田は、相手の連攜の練さに心で舌を巻いていた。対峙する敵の二個小隊は、言葉を投げても答えず、無言で襲いかかってくる。互いの死角をカバーし、撃系のES能力を使えば的確な偏差撃が飛んでくる始末だ。
數で言えば八対五のため防戦に徹しているが、相手は時折『いなづま』や『さみだれ』目がけて弾を放ってくる。町田達は『盾』で弾を防ぎ、なおかつ敵の前衛が仕掛けてくる接近戦に手を焼かされていた。
意識を向けてみれば、訓練生達は実戦を前にしても驚くほど冷靜に行している。百メートル級の『ES寄生』も既に仕留めているが、『ES寄生』に引っ付いていたコバンザメに対しても果敢に立ち向かっていた。
鈴木が率いる『いなづま』も勇戦しており、魚雷で『ES寄生』にとどめを刺し、速砲でコバンザメを一匹仕留めている。それに加え、町田達を巻き込まない程度に機関砲で牽制を行っていた。
『飛行』が発現可能なレベルの『ES能力者』に対しては、機関砲でも牽制以上の効果はない。當たっても、々しばかりの衝撃を與える程度だろう。しかし、ほんの僅かに勢が崩れるだけでもありがたい。
(かといって、あまり時間はかけられないか……)
膠著狀態を作るだけなら造作もないが、敵の増援がないとも限らない。他の『ES寄生』の出現も考慮すれば、時間はあまりかけられない。町田は彼我の力量差を確認すると、部下に『通話』で命令を下すことにした。
『一個小隊を拘束しろ。船の防も任せる』
『隊長殿はどうなさるので?』
『決まっているだろう――殘りの一個小隊を片付ける』
それだけを告げて、町田は『収束』を発現する。同時に『瞬速』で姿を消し、最も狙いやすい位置にいた敵の懐へと飛び込んだ。
「――え?」
相手が呆然としているが、町田のきに一切の遅延はない。『収束』によって『構力』が高度に圧された右手を突き出し、豆腐でも貫くような容易さで相手の心臓を抉り抜く。
移から踏み込み、そして相手に風を開けるのにかかった時間は、ほんの僅か。町田は一瞬の早業で一人を仕留めると、右手を引き抜いて即座に他の『ES能力者』を狙う。
接近してくる町田を警戒し、敵は慌てたように散開した――だが、散開した瞬間に町田が発現した『撃』により、二人の『ES能力者』が吹き飛ぶ。致命傷ではないが、十分に行力を下げられるだけの一撃だ。即座の追撃は難しいと判斷し、町田は殘りの一人へと一気に接近する。
相手は接近戦が得意なのか、接近する町田に合わせて拳を振るった。町田は振るわれる拳をけ流し、繰り出される蹴りを避け、冷靜に相手の隙を窺う。町田が相手の拳をけ止める度に高度の『構力』がぶつかり合う衝撃音が響き、大気を揺らす。
それでも、その拮抗は長くは続かない。町田は相手の右拳を自の右腕にらせるようにけ流すと、そのまま相手の右腕を取る。
「悪いね――俺は、先輩みたいに手加減が上手くないんだ」
手刀が振り下ろされ、右腕が切斷される。相手は激痛に悲鳴を上げようとしたが、それよりも先に町田は掌底を繰り出した。最初に敵と仕留めた時とは異なり、貫通ではなく衝撃の浸を目的とした打撃。その打撃は相手を打ち抜くのではなく、相手の“部”を破壊する。
町田は確実に命を奪ったことを確認すると、そのまま海面目がけて叩き落とした。報がしいところだが、何も全員を生かして捕らえる必要もない。二、三人生かしておけば良いだろう。
できれば死も持って帰りたいところだが、それは余裕があればの話だ。一方的に攻撃を仕掛けられた以上、撃墜する分には何も問題はない。
『収束』を発現していたが、至近距離で浴びたために頬についた返りを指で弾くと、殘りの“獲”の數を數えて町田は獰猛に笑うのだった。
「砂原あああああああああぁぁっ!」
怨嗟のこもった咆哮。男――フレスコの聲を聞きながら、砂原は冷靜に敵小隊の引き離しにかかる。空中で複雑な軌道を描きつつ、敵小隊を船団から引き離すように導していく。時折弾が飛來するが、『撃』や『狙撃』の直弾など目を瞑っていても避けられる。
敵小隊は砂原の機力を見ると、遠距離攻撃ではなく近距離攻撃へと切り替えた。それぞれが『防殻』を発現しつつ、での勝負を挑んでくる。
個々の練度はそれほどでもないが、連攜の技は高い。砂原は周囲を囲んだ四人の攻撃を捌き、け流し、回避し、冷靜に報を得ていく。殘っている敵の二個小隊については町田がいるため問題はないと思っているが、“やり過ぎて”全員を撃墜している可能もあった。
世界各國が保有する『ES能力者』については、國ごとに特が現れる。日本ならば接近戦思考が強く、合衆國ならば遠距離戦思考が強い。砂原は過去に幾多の『ES能力者』と戦して蓄積してきた経験をもとに、相手の報を脳で検索。そして、すぐさまヒットした。
『飛行』を発現しているものの、それほど大きくない『構力』。練度の低さを數と連攜で補うその戦思考。
「ああ……數が多いだけの、“あの國”の『ES能力者』か」
確認と挑発を兼ねて口にしてみれば、フレスコの顔が変わる。砂原からすれば、何度か戦経験がある戦を相手が取っているのだ。相手の出國を見極めるのは容易い。もっとも、『天治會』と名乗っている以上、元の國籍は関係ないのだが。
多國籍の犯罪者で形されている『天治會』は、元々所屬していた國が他の國から抗議をけないように『一切の関係はない』と宣言している。それに加えて、砂原としては相手の出國に目星がついても証拠はないのだ。
そういえば、と砂原は思い出す。昔、索敵の“ついで”に叩き落とした中隊も、その國の『ES能力者』だった。そう考えると、フレスコの言や態度にも納得がいく。砂原には、しばかり理解しにくかったが。
「まさかとは思うが、私怨かね? 部下の敵討ちをしにきたとでも?」
半ば確信しているが、それでも問いかける形で尋ねた。すると、フレスコは激のを濃くする。
「思い出したか! そうだ、貴様は部下達の仇だ!」
肯定するようにぶフレスコ。それを聞いた砂原は納得し――『探知』で周囲の気配を探った。
訓練生や貨船を狙った襲撃ではなく、私怨から敵討ち。そんな話を正直に信じるほど、砂原は馬鹿ではない。潛水艦を運用した襲撃には驚いたが、砂原個人に対する報復を行うための行だとすれば、いくらなんでも杜撰に過ぎる。
それ故に、砂原はフレスコ達がだと思った。本命は別にいると判斷し、フレスコ達の攻撃を捌きながら周囲を警戒する。もしも前回の任務で遭遇したラプターが出張っているならば、今度こそは仕留めてやろうと思った。もしもラプターがいなくとも、相手の目的を完全に探るにはもうしばらく時間がかかる。
第七十一期訓練生が任務に出る度に問題が発生するという現狀。その理由をしでも解明しようと、砂原は時間を稼ぎながら報を収集することを選択する。
戦いながらも周囲に意識を向ける砂原に、フレスコは怒りを燃やす。眼前に敵がいるというのに、その敵に意識を割かないその態度。『お前達の相手は片手間でできる』とでも言わんばかりの砂原に、フレスコは攻撃の手を増やしていく。
『穿孔』が訓練生の護衛に就くと聞き、他の幹部の反対を押し切って出撃してきたのだ。差し違えてでも砂原を仕留めて、積年の怨恨を晴らさなくてはならない。
砂原にとって誤算だったのは、フレスコが純粋に復讐のためにいているということだった。そのため、フレスコ達はで本命は別にあるという砂原の予測は外れることとなる。
――そして、誤算は一つだけではなかった。
フレスコが『構力』を集めたのをじ取り、砂原は距離を取る。フレスコは砂原に向けて右手を向け――しかし、フレスコからの攻撃はない。
「っ!?」
に、自の周囲に違和を覚えて、砂原は僅かに瞠目した。砂原が持つ『構力』の発現が阻害され、『飛行』が不安定にれる。
(『干渉』か!?)
第二級特殊技能の『干渉』。相手の『構力』に干渉し、大きな力量差があれば『ES能力者』を無力化すらできる技能だ。砂原が無力化されることはなかったが、それでも『飛行』の制に多の影響が出る。
「――今だ!」
フレスコの號令をけ、周囲の『ES能力者』から攻撃が加えられる。『干渉』によって移速度に影響が出ていた砂原は相手の攻撃をまともに食らうと、そのまま海面へと一直線に落下するのだった。
【書籍化】え、神絵師を追い出すんですか? ~理不盡に追放されたデザイナー、同期と一緒に神ゲーづくりに挑まんとす。プロデューサーに気に入られたので、戻ってきてと頼まれても、もう遅い!~
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