《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第七十三話:晴れのち雨 その5

病院に設置された會議室の中で、砂原は一人で思考の海に沈んでいた。既に日は暮れ、“事件”からは五時間ほど経っている。時折関係各所に連絡や報告を行っているが、空いている時間はひたすら思索へと回されていた。

訓練校から博孝の護衛を行っていた分隊には、病院の周囲を警戒させている。何もないとは思うが、用心するに越したことはない。

「丸山尉が……生きている?」

呟く聲は、心底怪訝そうなものだった。清香は作戦行中行方不明――MIA認定されているが、死亡が確認されていないためKIA認定はされていない。

報のえいを考慮して、清香が持っていた報に関連するものは変更が為されているが、清香自の軍籍が抹消されたわけではない。

死んだと思われた者が生きていたことは、砂原にとって珍しいことではない。戦場ではよくあることだ。しかし、清香が生きていたことには違和がある。

何故ハリドと共に行をしていたのか。

何故博孝の護衛に対して虛偽の引き継ぎを行ったのか。

――その後、どこに消えたのか。

考えられるのは、清香が『天治會』にられているということだ。三回目の任務で、何者かにられた空戦小隊と砂原は戦している。だが、その時戦った相手は意思のようなものがじられなかった。

それだというのに、護衛の報告によれば清香は普通の人間と同じように見えたらしい。喋りもすれば、言葉も発する。その態度は、護衛が何の疑いも持たない程度には自然だったようだ。

砂原は報告用の書類をまとめつつ、視線を鋭くする。『天治會』に『ES能力者』をる獨自技能を持った者がいるのか、それとも『天治會』が何かしらの技を有しているのかはわからない。もしかすると、『天治會』に連れ去られた清香に心変わりがあり、『天治會』に所屬することになったのかもしれない。

あるいは――。

「丸山尉自が、他の『ES能力者』をる能力を持っている?」

々飛躍した考えだが、それならば三回目の任務の際にも辻褄が合う部分が多い。攫われたと思ったが、実際には『天治會』に“回収”されたのではないか。そして今回、何かしらの目的を持って戻ってきた。

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「……いや、ないな」

呟き、その後まで思考したものの、それはないと砂原は判斷する。

三回目の任務で清香が攫われたと判明した際、砂原も清香の報に目を通していた。報や家族構、『ES能力者』としての遍歴。開示されていた機など、事細かに記されていた。

その中には、他の『ES能力者』をるような技能は含まれていない。支援型の四級特殊技能保持者として活しており、特筆すべき點は特になかった。勤務態度も良好で、周囲との関係も悪くない。不満らしい不満も抱えておらず、思想にも問題なし。

そもそも、清香がそんなES能力を持っていたら、“上”が大喜びで活用するだろう。一部の過激派が、世界征服などとび始める可能もある。敵対國家の『ES能力者』をり、主要都市で自させればそれだけで大混に陥れることができるだろう。

その點を考慮し、清香は既に『ES能力者』の中で指名手配されている。発見すれば即座に拿捕するよう命令が下っており、街の中や近隣都市へは警戒を促すよう指示も出ていた。

しばらく悩んでいた砂原だが、一度休憩をれようと立ち上がる。報告書は鞄にれ、手に提げて會議室を出た。向かう先は、里香が治療を行われている集中治療室だ。治療が終わったという報告は屆いていないが、そろそろ終わるだろうと思ったのである。

「げっ……きょ、教

そして、集中治療室の前で椅子に座る博孝を発見した。砂原の顔を見るなり引きつったような聲を上げ、退路を探すように視線を彷徨わせている。それを見た砂原は、ため息を吐きながら博孝の頭に拳骨を落とした。

「岡島のことが心配なのはわかるが、休んでおけと言っただろう」

「いてて……いや、しばらくベッドの上で寢転がっていたんですけど、どうにも眠れなくて。いつもはこんな時間に寢ませんし」

拳骨を食らった頭を押さえつつ、博孝は苦笑する。それを聞いた砂原は、仕方のない奴だと呟いた。博孝の様子を見る限り、特に問題があるようにも見えない。々、時折集中治療室の方へ目を向け、里香の心配をしているぐらいだ。

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「致命傷ではないと聞いている。それは治療をしていたお前がわかっているだろう?」

「それはそうなんですが……」

砂原の勵ましの言葉を聞き、博孝は顔を伏せた。そしてしばらく顔を伏せていたが、どこか辛そうな様子で顔を上げる。

「教々と報告したいことがあるんですが」

博孝の表を見た砂原は、ため息を吐いた。それでも自販機でコーヒーとスポーツドリンクを買うと、博孝にスポーツドリンクを手渡してから隣に腰をかける。

「そこまで元気があるのなら、俺も止めん。報告を聞こう」

今は寢ているよりも、何かをしている方が気が紛れるだろう。博孝の狀態を考慮し、砂原はそう判斷した。

「今回の件ですけど、多分……いや、確実に俺を狙ったものです」

どこか確信を持って語る博孝に、砂原は眉を寄せる。なくとも、冗談を言っている様子はない。

「ふむ……理由があって言っているんだな?」

「はい。理由としては、ハリドが“任務”で來たと言っていた點です。俺を『天治會』にい、それが斷られたらそのまま戦う。他にも何か任務に含まれているのかもしれませんが、ハリドの目的は間違いなく俺にありました」

博孝を『天治會』にったと聞き、砂原は驚く――などということはなかった。その事実自は見逃せないが、博孝の格も十二分に理解している。

「お前を『天治會』にか。しかし、お前はそれをれるような奴ではあるまい」

「もちろんですよ。獨自技能を持っているからすぐに幹部になれる、金も稼ぎ放題、も抱き放題と言われましたが……」

「金には困っていない、抱くは自分で選んで自分で捕まえるとでも言ったか?」

冗談混じりに言われた言葉に、博孝はギョッとした目を向けた。もしや、砂原には人の心を読むES能力が備わっているのでは、と真剣に考えてしまう。そんな博孝の顔を見て、砂原は小さく笑った。

「図星か。まったく、お前が言いそうなことだと思ったぞ」

らかい聲で言われ、博孝は戸う。しかし、砂原が々と気を遣っているのだろうと判斷し、報告を続けた。

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「あとは手口ですね。護衛の人達を引き離して、その上で市原を負傷させた上で里香を攫う。街の防衛部隊は『ES寄生』に手が取られてけず、そうなると俺がくしかない」

「そしてハリドがお前を『天治會』にい、斷られたから殺そうとした、か」

砂原が締め括ると、博孝は肯定するように頷く。そして視線を逸らすと、どこか遠くを見るように目を細めた。

「つまりは、まあ、今回の件で里香や市原が負傷したのは俺の――」

自分のせいだと博孝が口にしようとした瞬間、砂原から強く背中を叩かれる。博孝はその力強さに咽そうになったが、何故叩かれたのかわからず不思議そうに砂原を見た。

「教?」

博孝が聲をかけると、砂原は首を橫に振る。その時砂原の顔に浮かんでいた表は、博孝をめるような、それでいて慈しむような溫かさをじさせるものだった。

「たしかに、相手はお前を一人にして、一人で戦わせるために岡島や市原を傷つけたのかもしれん。しかし、傷つけたのは誰だ? お前か? 違うだろう。お前もまた、相手の都合に“巻き込まれた”側なんだ」

そう言われ、博孝は言葉を失う。博孝が傷つけたわけではないが、巻き込んだ原因は自分にあると思った。

「お前に責任はない。責任があるとすれば、『天治會』が即座にはかないと判斷した俺にこそ責任がある」

博孝が外出する報がどこからかれ、『天治會』が即座にいたのだ。用心のために護衛として一個分隊を用意したが、それも意味をしていない。

訓練校に“モグラ”がいるのか、それとも申請関係の管理システムに“”が開いているのか。その洗い出しはすぐさま行う必要がある。

博孝には話さないが、わざわざ砂原を『任務の報告』という名目で呼び出した以上、“上”も一枚噛んでいる可能が高い。もちろん、それとわかる証拠など殘されていないだろう。砂原にできることは、源次郎と連攜して可能な限り“モグラ”を狩り、訓練生の安全を確保することだけだ。

そこまでいけば、あとは“信頼できる教”を手配するだけである。

砂原がそんなことを考えていると、博孝は納得できないように口を尖らせた。

「今回の件、教に責任があると言われると……理解はできますけど、納得は到底できません」

小隊長として責任の所在等も學んでいる博孝としては、言葉にした通り理解はできても納得はできない。獨斷専行をしてしまったのは自分だが、そうしなければ里香の命はなかっただろう。そもそも、相手が博孝に獨斷専行以外の手を打てないようにしてきたのだ。口を尖らせる博孝を見て、砂原は思わず苦笑してしまった。

「お前は獨斷専行をしたが、ハリドを仕留めて岡島を取り返している。俺に対しては危機管理の件で罰則が下される可能があるが……まあ、それは半々といったところか」

そう言いつつも、砂原はほぼ確実に罰則が下ると思っている。正確には罰則というよりも、“上”が難癖をつけてくると思っていた。

「もしかすると、お前に対しては罰則どころか特別褒賞があるかもしれんぞ。訓練生で敵の『ES能力者』を仕留めるというのは、それほどまでに例がないことなんだ」

砂原の態度から、“上”が無理難題を砂原に押し付けていることを博孝は悟る。そのため、博孝は拗ねたように言い放った。

「いりませんよ、そんなの。そんなもんをくれるぐらいなら、教に対する罰則を帳消しにしてほしいです」

もしも砂原の言う通りになったならば、砂原を罷免しないように嘆願しようと博孝は思う。そんな博孝の言葉に、砂原は笑みを深めるのだった。

二時間後、白を基調とした清潔な病室で、博孝は椅子に腰をかけて里香の顔を見ていた。集中治療室での治療が終わった里香は病室へと運ばれ、ベッドに寢かされている。が悪いものの、傷などは全て塞がっていた。

以前博孝や沙織が重になった時のように、全ボロボロの上に骨折多數、臓にも傷があるような癥狀ではない。ナイフによる刺し傷に、『撃』をけたことで負った裂傷程度だ。そのためそれなりの腕を持つ『ES能力者』ならば傷を塞ぐことができ、二日もすれば退院ができると聞いて博孝は心の底から安堵した。

その後、博孝はずっと里香の病室にいた。未だに里香は目覚めていないが、呼吸の度にが上下するのを見て、里香が生きていることを確認する。

「俺が死に掛けた時も、里香達はこんな心境だったのかねぇ……」

最初の任務に始まり、博孝は何度も死に掛けてきた。その度にこんな心配をかけていたのかと思うと、申し訳なく思う。特に、里香はそのを庇われ、博孝が死にかけたこともあるのだ。その心配の程は、博孝では及ばないだろう。

砂原は博孝のせいではないと言っていた。しかし、博孝としては里香や市原を巻き込んでしまったと思う心が強い。

市原に対しては、里香が集中治療室から出るよりも先に見舞いへ行っている。里香も重傷を負って治療をけていると聞き、悄然としていた。そんな市原の傍らには二宮が控え、あれこれと世話を焼いている。共に市原の世話をしていた紫藤などは、それが二宮の神に安定をもたらすのだろうと靜観していた。

自室にいるみらいには連絡をれ、今夜は子寮で過ごすように話している。最近は『構力』も非常に安定しているため、問題はないだろう。みらいが泊まらせてほしいと言えば、拒否する子はいない。

博孝は治療を終えているが、今晩は病院に泊まるよう命令されていた。病院には砂原を筆頭として多くの『ES能力者』が詰めており、安全は確保されている。翌日には砂原と共に訓練校へ戻るのだが、その砂原は報告等があるため再びあちこちへと飛び回る予定だった。

眠る里香を見つめながら、博孝はその思考を飛ばす。今回は辛うじて乗り切れたが、今後も同じようなことが起きる可能が高い。ハリドの言葉を思い出し、博孝はため息を吐く。

「もっと、強くならないとな……」

“敵”がどんな目的を持っているかは、わからない。それを思えば、博孝にできることは今以上に強くなるということだけだ。

今回のような苦難を乗り切れるように、他の誰かが巻き込まれた時に守れるように。強くならなければならない。

「教ぐらい強かったら、里香のことも守れたのかな……」

愚癡のように言うが、博孝としては砂原という存在は強さの象徴だ。教え子のことを守り、そのを案じ、降りかかる危難を力盡くで振り払う力を持っているように思える。

安らかな寢息を立てる里香を見て、博孝は強く拳を握り締めるのだった。

翌日、砂原は不可解な出來事に巻き込まれていた。

博孝や二宮達を訓練校に送り屆け、関係各所に今回の件で報告を行い、下されるであろう処罰や後任の教について悩んでいたところ、まったく以って不可解なことが起こったのだ。

“上”からの砂原に対する追及の聲は――ただの一つたりともなかった。それどころか、博孝や砂原を稱賛する多くの聲が屆いたのである。

曰く、『訓練生ながらも敵の『ES能力者』を仕留めた河原崎訓練生は、稱賛こそすれ罰則を適用するなどもっての外』。

曰く、『仲間の危機を救い、その上、敵を仕留めたことで自を未然に防ぎ、一般市民への被害を防いだのは素晴らしい』。

曰く、『自の危険を省みず、敵の『ES能力者』に立ち向かい、それを撃破した河原崎訓練生の獻を評価する』。

曰く、『そんな河原崎訓練生の錬に盡力した砂原軍曹を教職から解くなど、到底考えられない。今後もその手腕に期待する』。

曰く、『今回の件は、られた自國の『ES能力者』が関與するという予測不可能なものだった。訓練生のに配慮をして護衛までつけていた砂原軍曹に、その咎を負わせるのは行き過ぎだろう』。

そんな言葉を、砂原は投げかけられた。

はっきり言って、砂原は自の耳を疑った。あるいは、“上”の頭を心配した。一何があったのか、以前とは手のひらを返す勢いで言っていることが異なっている。

砂原としては、教職を解かれないのは素直に嬉しい。しかし、“上”の態度が気にかかる。気になるというよりも、気味が悪い。

握り潰したはずの敘勲の話も再燃しており、砂原としては頭が痛い限りである。そちらは源次郎からも手を回してもらうとしても、“上”の思が読めない。

「なんだ……何が起きている?」

博孝がハリドを仕留めたことを、何故そこまで喜ぶのか。三回目の任務でラプターに襲われた時は、鬼の首を取ったように大騒ぎしたというのに。

源次郎が山本元帥に渡りをつけて事態を収拾したのかと思ったが、そのようなきもなかった。報告と確認のために源次郎のもとへと赴き、顔を合わせて問い質したが、首を橫に振られたのである。

「山本閣下には何も言っていない。だが、実際に“上”は軍曹の危機管理能力や河原崎訓練生の獨斷専行を問題にしていないようだ。それどころか、今回の件が発生したことに大喜びしているようだぞ」

苦蟲を噛み潰したような顔で答える源次郎。その表には、砂原に対する何かしらの理解のがあったため、砂原は無言で源次郎の話に耳を傾ける。

「今回訓練生達を襲った『ES能力者』……ハリドと言ったか。ハリドが使用したナイフを調査したところ、合衆國のだったようだ。“上”は外を派遣して猛抗議すると息巻いていた。それに伴い、様々な賠償を引き出すつもりなのだろう」

「ハリドはアジア系の人間だと思いますが……『天治會』に対『ES能力者』用の武を売っていたと騒がれるだけで、かの國にとっては痛手でしょうな」

今回の事件が起きた現場に殘されていたナイフ。ハリドが使用したものだが、調査した結果、合衆國製だと判明した。

『天治會』という、國際的にはテロリスト扱いされている組織に『ES能力者』の殺傷も可能な武を販売する――その風聞だけで、大きな痛手となるだろう。そんなものは知らないと突っぱねようにも、証拠があるのだ。

その機會をもたらした博孝に“上”が謝しているのかもしれないが、それは砂原に対する罰則を斟酌する理由にはならない。

「それとだな……」

源次郎は僅かに言いよどみ、砂原に意味ありげな視線を送る。その視線をけた砂原は僅かに首を傾げるが、源次郎はため息を吐くようにして言った。

「今回の一件、どうやら“上”はプロパガンダに利用するつもりらしい。今回の一件で、『我が國では優秀な教導が行われており、訓練生でも敵の『ES能力者』を倒せる』と喧伝するようだ。『ES能力者』やその訓練生に対する費用は、毎年大きな額になるからな。國民の非難も回避したいのだろう」

そんな源次郎の言葉を聞き、砂原のこめかみがピクリとく。

「……河原崎訓練生を“神輿”にすると?」

怒気を押し殺したような聲。砂原の心を十分に理解できる源次郎は、それに同調するように息を吐き出す。

「後輩を傷つけられたことに怒り、攫われた仲間を助けるために危険を省みずに単戦。その上、敵『ES能力者』の自を防いで仲間を助け出した……そんな“談”にするらしい。馬鹿馬鹿しいことだがな」

一聴すれば、たしかに談に聞こえるかもしれない。後輩と共に休日に外出していた訓練生が敵の『ES能力者』に襲われ、拐される。同じように外出していた訓練生が、傷つけられた後輩や仲間が攫われたことに怒り、単戦して仲間を救い出す。それも、一般市民に大きな被害が及ぶ『ES能力者』の自を防いだ上で。

なるほど、聞くだけならば十分なハッピーエンドだ。善人が好みそうな話である。訓練生という年若い年が、攫われた仲間を助けるために、これまで何人もの訓練生や『ES能力者』を殺害してきた『天治會』の『ES能力者』を倒す。

『ES保護団』は諸手を挙げて喜ぶだろう。常日頃から『ES能力者』を人扱いするな、高い金を払うなと騒ぐ『ES抗議団』とて、沈黙せざるを得ない。“上”としては、様々な方面に“旨味”がある話だ。

「俺にも確証はないが、軍曹が罷免されなかったのもその関係だろう。そんな訓練生を鍛え上げた教を罷免しては、片手落ちになるからな。“神輿”に騒がれても困る」

そのために、“上”は今回の件で博孝が行った獨斷専行や砂原に対する罰則を無視するらしい。狀況を勘案すれば、博孝にも砂原にも咎はないと判斷されたのだ。その背景に、多大な利益が見え隠れしているが。

「さすがにメディアの出などはないだろう。獨自技能保持者の訓練生を表に出すなど、話にならん。その場合は俺が握り潰す」

「お願いいたします」

大きな功績を上げた『ES能力者』の顔や名前がテレビや雑誌などで取り扱われることは、珍しいもののないわけではない。砂原とて、その手の話題で取り扱われたことがある。しかし、博孝は訓練生だ。そんなことをすれば、今以上に他國からの手がびかねない。

「それと、だ。“砂原”、お前に聞きたいことがある」

階級ではなく名字で呼ぶ源次郎。ここからは上と部下ではなく、一個の個人としての話なのだろう。

「なんでしょうか?」

「今回、丸山尉の姿が確認されていたな。彼をどう思う?」

それは、砂原も気になっていた部分だ。源次郎がどう思っているかも知りたいため、砂原は自の所を口にする。

「そうですな……『天治會』にられていると思われます。ただ、それにしては“前回”のようなり方ではなく、自の意思を持っているようでしたが」

る條件、あるいはられる側に個人差があるのか、それとも“敵”の技量が向上しているのか……」

「どこまでれるのかも謎ですな。フレスコもその傾向があったのでは?」

砂原が問うと、源次郎は眉を寄せながら頷く。

「死を調べてみたが、死んだ原因がわからん。突然の心停止で死んでいる。の中に傷もなく、ピンポイントで心臓を破して自決したわけでもない。そもそも、そんなことをすればお前が気付いただろうがな」

とまでいかないが、自決するために自の中で『構力』を使って自したのではないか。そんな疑いを持った源次郎だが、直接対峙していた砂原はそれを見落とすような技量ではない。

「死ぬことを命じられて、それを実行したと? しかも死に方から考えて、本人の意思だけでなく直接作できると?」

「おそらくはな。ただ、本人がそれをれなければ無理だろう。無條件、無差別に『ES能力者』の作できるのなら、今頃俺もお前も生きてはいまい。あるいは、お互いにり人形になっているだろう」

條件を問わずに『ES能力者』の神やれるのなら、『武神』や『穿孔』とあだ名される自分達は真っ先に狙われると源次郎は思った。『武神』という最強の“駒”を失うだけで、日本という國は國際社會での発言力が下がってしまう。同時に、『穿孔』を失っても大きな痛手だ。

「『天治會』か……予想よりも厄介な相手かもしれんな」

嘆息する源次郎に、首肯する砂原。砂原が遭遇したラプターだけでも、テロリストと形容するには騒過ぎる。源次郎と砂原は互いに憂慮するが、いつまでも考えていても仕方がない。源次郎は意識を切り替えると、小さく笑みを浮かべた。

「しかし、河原崎訓練生は大したものだな。獨自技能といい、本人の気質といい、大きくびると思ったが、ここまで長が速いとは思わなかった。さすがはお前の教え子だな」

「お褒めに預かり栄です。しかし、俺の教えなど大したことはありません。河原崎本人の努力の賜でしょう」

謙遜ではなく、本気の様子で答える砂原。それを見た源次郎は、笑みを苦笑に変えた。

「お前は昔から謙遜が過ぎるな。お前の錬は、部下にいた者からも技量は上がると好評だったぞ? まあ、その分辛いと陳が……いや、なんでもない」

源次郎は話を濁すと、一度咳払いをしてから視線を鋭くする。

「當面は、河原崎訓練生に気を配ってやれ。初めて他の『ES能力者』を手にかけたのだ。下手をすると、潰れる可能もある」

「了解いたしました」

源次郎に言われるまでもなく、砂原は博孝のケアを行うつもりだった。それを源次郎もわかっているのだろう。再度苦笑を浮かべて言う。

「潰れなかったら、さらにびるだろう。その時は、孫を嫁がせてやっても良いぐらいだ」

冗談なのか、それとも本気なのか。源次郎の言葉を聞いた砂原は、苦笑を返すだけに留めた。

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