《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第八十六話:兆し その3

謎の男が投じたスタングレネードの影響から回復した博孝は、恭介と共に地面に下りてから深々とため息を吐いた。

「いやはや、まさか通常兵を使って出し抜かれるとはねぇ……」

「手榴弾なら驚くだけで済むっすけど、スタングレネードは音と閃が厄介っすね。まだ耳に音が殘っている気がするっすよ」

軽く耳を叩きながら眉を寄せる恭介。博孝は異常が殘っていないかを再度確認すると、恭介を促して走り出す。

「とにかく、取り逃がしちまったもんは仕方ない。里香達のところに戻るぞ」

博孝としては追撃を仕掛けたいところだが、これ以上の行は獨斷専行も良いところだろう。現狀でもギリギリのラインだと判斷した博孝は、心でため息を吐きながら里香達の元へと駆け戻る。

「俺は教に報告をれる。恭介は周囲の警戒を頼む」

さすがに取り逃がした男を放置するわけにもいかず、腰ホルダーから攜帯電話を取り出すと、砂原に向けて発信した。同時に、恭介は博孝の指示通り移しながら周囲の警戒を行う。

『こちら砂原』

コール音が一回も鳴らないうちに、砂原が応答した。電話口からは風を切る音が聞こえ、『飛行』を発現しているのだろうと博孝は判斷する。

『こちら第一小隊の河原崎です。岡島から報告は伝わっていますか?』

『聞いている。現在岡島たちのもとへと向かっているが、追った相手はどうした?』

淡々と尋ねてくる砂原。その聲に疑問を覚えつつも、博孝も淡々と答える。

『逃げられました。『探知』でじ取れた限りでは、北に向かって逃走したようです。正規部隊員から追手を差し向けていただけますか?』

『すぐに指示を出そう。お前達はどこにいる?』

言外に、これ以上はくなと言われていると博孝は思った。そのため、苦笑混じりに答える。

『岡島たちのもとへ帰還中です』

『わかった。それならば詳細の報告は合流してから聞くが……相手の戦力は?』

『相手は撃系のES能力に長けていますが、『隠形』も得意なようです。『活化』を併用した『探知』でようやく、といったところですね』

Advertisement

『……そうか。了解した。では、すみやかに帰還せよ』

その言葉を最後に、通話が終了する。博孝は小さくため息を吐くと、恭介を促して移の速度を上げた。沙織がついている以上は問題ないと思ったが、負傷した人狼のことも気になる。そのため『瞬速』を発現しながら移し、森の中を風のように駆け抜けた。

里香達の『構力』を頼りに帰還すると、博孝達の接近に気付いていたのか、すぐに沙織とみらいが視線を向ける。

「……おにぃちゃん、きょーすけ」

「博孝、恭介、怪我はない?」

無事に戻った博孝と恭介を見て、沙織とみらいが安堵したように聲をかけた。博孝はそんな二人に軽く手を上げて応え、口を開く。

「怪我一つないよ。そっちは? あの犬はどうなった?」

「こっちも問題なかったわ。あの犬については……」

沙織が視線を向けると、そこには仰向けに寢かされた人狼の傍で治療を施す里香の姿があった。博孝と恭介の帰還に気付いてないのか、真剣な様子で『接合』を発現し、人狼の傷を塞ごうとしている。

「里香次第ってところかしら?」

「すぐに教が合流するから……って、來たな」

言葉の途中で博孝が視線を上げると、『飛行』を発現していた砂原が地上へと下りてくる。そして博孝達の顔を見回し、次いで、里香へと聲をかけた。

「岡島、その『ES寄生』の容態は?」

「……なんとか持ち直しました。治療を継続すれば、完治できます」

「そうか……貴重な報源だ。岡島は治療を継続しろ。すぐに回収班が來る。長谷川と河原崎妹はその『ES寄生』が暴れないよう監視しておけ。不審なきを見せたら、即座に意識を奪え」

生徒達に指示を出す砂原。里香に治療されている人狼の姿を見て僅かに目を細めるが、すぐに視線を外して博孝へと向き直る。

「詳細な報告をしろ」

「はっ。所定のルートを警戒中、“アンノウン”に遭遇。長谷川、武倉の二名と共に戦闘を行いました。“アンノウン”との戦いは有利に運べたのですが、その途中で“アンノウン”が人語で話し始めました。しかし、そこで何者かによる攻撃をけ、“アンノウン”が負傷。狀況を勘案して、“アンノウン”の口封じを行ったものと判斷しました」

Advertisement

「それで相手を追ったのか?」

「はっ。タイミングを考える限り、相手は何かしら重要な報を持っていると判斷しました」

博孝の報告を聞くと、砂原の目つきが僅かに細められる。砂原は里香からも報告をけており、博孝が敵を追った理由も理解していた。

本來ならば褒められる行ではないが、彼我の力量を踏まえた上で判斷し、後を追っている。『飛行』を使える博孝と、『瞬速』を使える恭介の二人で分隊を組んで行している點からも、“不測の事態”に対する警戒がじられた。

――だが、砂原としては博孝の判斷全てを肯定することはできない。

「馬鹿者が! 相手側に『隠形』に長けた者がいたらどうするつもりだった!? 罠だった可能もあるのだぞ!」

「はっ! 申し訳ございません!」

砂原の怒聲に対し、博孝は即座に頭を下げる。博孝は『探知』を使えるが、相手の技量によっては『構力』をじ取れない可能もあった。それこそ、以前戦したラプターのような強者が相手だったならば、訓練生レベルの『探知』など容易に回避できるだろう。

そう考えるならば、博孝の判斷は迂闊な點が多い。しかしながら、博孝の表を見た砂原は、博孝自もそのことに気付いていたのだと思えた。

もしも砂原が逆の立場だったならば、戦力差と周囲の狀況を確認した上で後を追っただろう。それが理解できるからこそ、砂原は一度怒聲を上げただけで肩の力を抜く。

「まったく……あまり不用意にくな。次からはどんな場合でも報告を行え。余程の相手と戦っていない限り、電話を取る余裕はある」

ため息を吐きながらそう告げる砂原に、博孝は頬を引きつらせる。余程の相手と砂原は言うが、博孝には例え格下が相手だろうと戦闘中に電話を取る勇気はない。

「申し訳ございません……」

それでも、上の命令は絶対だ。そのため、博孝は頭を下げる。砂原はそんな博孝を見て、下げられた頭に拳骨を落とした。

「今回は事態が事態だ。不問とする。戦闘中に姿を変える『ES寄生』といい、その“背後”に関係すると思わしき『ES能力者』といい、報の取得は重要だ……それで、相手には追いつけたのか?」

Advertisement

博孝は拳骨を落とされた後頭部を軽くると、不満そうに眉を寄せる。

「追いつきましたが、スタングレネードを焚かれて逃げられました」

「ほう……発音が聞こえたが、スタングレネードを使ったのか。相手は間違いなく『ES能力者』だったんだな?」

興味を惹かれたのか、砂原は僅かに首を傾げた。砂原としても、『ES能力者』が通常兵を使用するというのはそれほど聞き覚えがない。しかし、戦としては有効だろうと思った。

「そこは間違いなく。『探知』で『構力』をじ取れましたし、きも人間離れしていました」

『探知』を使える博孝が『構力』の有無を読み違えるとは思えず、砂原は頷き返す。博孝は報告の続きを行おうとしたが、それよりも先に砂原が言葉を遮るように手を上げた。

「……教?」

し待て。“アンノウン”の回収班が來る」

砂原がそう言うと、博孝の『探知』にも『構力』が引っ掛かった。そして一分もかけずに一個小隊分の陸戦部隊員が駆けつけると、砂原に向けて敬禮を行う。

「軍曹殿、こちらが例の?」

「そうだ。先ほど引き渡した兎と同様だ。極力他人の目につかないよう移させろ。岡島、治療はここまでだ」

「はっ、了解であります」

砂原が陸戦部隊員への指示を出すと、彼らはすぐに行に移る。里香は砂原の指示を聞き、陸戦部隊員に一通りの治療を行ったことを説明すると、その場から距離を取った。里香は人狼から溢れ出るを浴びたのか、野戦服のところどころがに染まっている。

人狼は陸戦部隊員が用意した擔架に乗せられると、そのまま森の中へと消えていった。砂原はそれを見送り、周囲に“目”がなくなったことを確認して博孝に視線を向ける。

「楽にしろ……それで、お前の想は?」

砂原言葉を聞き、その意図を読み取った博孝は肩から力を抜く。報告の続きを行えということだが、型にはまった報告ではなく、純粋に博孝の所を聞くつもりなのだ。

「相手の『構力』や使っていたES能力から判斷して、ハリドの相方かと。一當てして、可能なら捕まえようと思ったんですがね……まさかスタングレネードを使うとは思いませんでしたよ」

訓練に組み込んでほしいですね、と軽口を付け足す博孝。それを聞いた砂原は、余裕を持って敵と相対できたのだと判斷する。

「今後の訓練にも組み込むとしよう。それで、相手の顔は覚えているか?」

相手の顔と聞き、博孝は顎に手を當てた。記憶を掘り返してみるが、逃げた相手に対する印象が変わることはない。

「言いにくいんですが……相手は日本人に見えました。長は俺よりし低いぐらいで、髪が黒……なんですが」

「どうした? 何か気になることがあるのか?」

言葉を濁す博孝に、砂原が続きを促す。博孝はそんな砂原の言葉に対し、迷った様子で口を開いた。

「いえ、気になるというか……相手の顔、どこかで見た気がするんですよね。直接の知り合いじゃないんですけど、見覚えがあって……恭介はどう思った?」

「え? 俺っすか? うーん……見覚えはなかったっすけどねぇ」

博孝に話を振られた恭介は、自分の記憶を掘り返して相対した相手の顔を思い出す。しかし、博孝が言うような“見覚え”はなかった。

「まさか、これまでの任務で世話になった部隊で見たわけではあるまいな?」

もしもそうならば、一大事と言えるだろう。狀況から判斷する限りでは、新種の『ES寄生』に関して深く絡んでいるとしか思えないのだ。しかし、博孝は首を橫に振る。

「これでも人の顔を覚えることには自信がありまして……お世話になった部隊の人じゃないです。何と言えば良いのか……顔のパーツや雰囲気に見覚えがあると言いますか……」

博孝自も確信が持てないため、曖昧な言いになってしまう。そんな博孝の様子から、すぐには思い至らないと砂原は判斷した。

「思い出したら即座に連絡をしろ。その話は脇に置くとして、他に気になる點は?」

博孝も、これ以上悩んでいても答えが出ないと判斷する。

「天治會に気をつけろと言われました。特に、俺達兄妹……俺とみらいは気をつけろ、と」

そんな博孝の言葉を聞き、砂原の片眉が跳ね上がった。怪訝そうな雰囲気を漂わせながら、砂原は思考を巡らせる。

(河原崎に対し、警告を行う……いや、この場合は忠告か? しかし、相手が『天治會』の者だとすれば、何故そんなことを?)

敵に塩を送る――という話ではない。相手は何かしらの目的を持って博孝に接したのだろう。だが、その目的が不明に過ぎる。

過去に博孝が戦ったハリドの場合は、博孝を『天治會』に引き抜こうとした節があった。ハリド自は博孝との戦いを優先していたため、また、博孝が頷くはずもないと思っていたために勧の口説き文句も雑なものだった。

(それに、今回は河原崎兄妹二人に対しての忠告、か……“アンノウン”のことと連していると考えるべきだろうが、その意図が読めん……)

考え込む砂原だが、答えがわかるはずもない。そのため一度問題を棚上げすると、目前の“面倒事”に取り掛かることにした。

「任務を切り上げて訓練校に帰還するぞ。さすがに“アンノウン”のことを考えれば、このまま任務を続行させるわけにもいかん」

「了解です。あ、教、參考として一つ聞いても良いですか?」

「なんだ?」

訓練校への帰還を命じる砂原に、博孝は首を傾げながら尋ねる。

「俺達のところ以外でも“アンノウン”が出たって聞きましたけど、そっちはどうなったんですか?」

れるなら、砂原は何も言わないだろう。博孝もあくまで興味半分、『何か手がかりを得られるかもしれない』という思い半分で尋ねた。砂原はそんな博孝の質問に対し、眉をしかめて答える。

「俺が駆けつけたら自決した。治療を行ったが、ほとんど即死だった」

不快そうに告げられた言葉。そんな砂原の言葉を聞き、里香の表が僅かに変わる。

「……自決、ですか? 自ではなく?」

「自決だ」

詳細は語らずに肯定する砂原。しかし、里香の表は不可解なものへと変わった。

「里香、どうかしたのか? 何か気になることでも?」

里香の表を見た博孝が尋ねると、里香は小さく頷く。その表に宿る不可解なは、一向に消えることはない。

「『ES寄生』って、元々はだよね? それなのに、自決したっていうのが気になって……」

人間以外のが自決――自殺をするなど、里香は聞いたことがなかった。その點については博孝もなるほどと思い、砂原は同意するように頷く。

「俺もそれは不可解に思っている……が、『ES寄生』が姿を変えるというのも初めての事例だ。その辺りについては、研究者の見解を待つしかあるまい」

「……はい」

自分達が悩んでも解決はしないと告げる砂原に、里香は落ち著かないように返事をした。博孝としても里香の疑問は尤もだと思っていると、その先の思考を遮るように砂原が口を開く。

「今回の件については、詳細が発表されるまでは機事項として扱う。中村達第六小隊にも“命令”しているが、許可が下りるまでは決して口外するな」

「了解です」

砂原からの命令に対し、代表して博孝が頷く。姿を変える『ES寄生』など、話が広まれば混と恐怖をじさせるだけだろう。そのため、機扱いされることにも納得した。

博孝達は周囲を警戒しつつ、訓練校へと引き返していく。“アンノウン”のことといい、忠告をしてきた男のことといい、博孝としても頭が痛い。だが、頭が痛いのは砂原も同等だった。

博孝は今後も何かしらの問題が発生するのではないかという危機を抱き、砂原はどうやって報告すれば良いものかと悩む。特に、砂原としては考えることが多すぎた。

“アンノウン”もそうだが、博孝に接した男がどんな思を持っていたのかも不明だ。『天治會』に対して偵の人員を派遣しているという話は聞いたことがなく、末端の人員が勝手に行を起こしたのかと疑問に思う。

(長谷川中將に確認を取っておくか……しかし、“アンノウン”についても軽視はできん。腕の立つ『ES寄生』が増えれば、それだけで世界各地で大混が起こるぞ……)

『瞬速』や『武化』を使う『ES寄生』など、砂原が『ES能力者』として過ごしてきた人生の中でも聞いたことがなかった。もしも強力な『ES寄生』が大量発生すれば、人類に対して大きな被害が出るだろう。

(軍の上層部でどのような結論が出るかはわからんが、これまで通りにはいかんのだろうな……)

そんなことを心で呟き、砂原はため息を飲み込むのだった。

その夜、博孝は第一小隊のメンバーと共に夜間の自主訓練に勵んでいた。

中途半端に終わったとはいえ、任務の後である。いつもならば休息に充てるのだが、それほど疲れていない。それに加えて、大人しく自室で休もうとしても任務の最中に起こったことが脳裏に過ぎり、眠れそうになかったのだ。

グラウンドで自主訓練に勵んでいるのは、第一小隊のメンバーだけである。他の生徒達は任務の際に疲労を覚え、ほとんどが自室で休んでいた。

訓練校近くでの警邏任務とはいえ、任務は任務だ。張から普段以上の疲労が圧し掛かり、大人しくを休めている。

「しかし、任務の後にまで自主訓練をする必要があるっすか?」

恭介も自主訓練に參加しているが、普段に比べて覇気がない。それは自主訓練を面倒に思ったというよりも、率先して自主訓練を行う博孝を慮っての発言である。

「通常兵だったとはいえ、不意を突かれたからなぁ……疲れて集中力が落ちているなら、丁度良いさ。萬全の調で戦いに挑める保証はないしな」

沙織と組手を行いつつ、博孝が答える。事前に熊の『ES寄生』と戦闘をしていたから――などという言い訳は、しようとも思わない。『ES能力者』同士の戦いでスタングレネードを使用され、聴覚はともかく視覚を一時的に潰されたのだ。実を使っての防訓練ができれば一番だが、それができない以上は自の技量を磨くしかない。

“次”があれば、同じ轍は踏むまい。博孝はそう思い、普段以上に熱をれて自主訓練を行う。しかし、そんな博孝達の元へ予期せぬ來訪者が現れた。

「『構力』のが見えたからまさかとは思いましたけど……先輩方って、今日は任務があったんじゃないんですか?」

そんなことを言いながら姿を見せたのは、後輩の市原である。いつも通りと言うべきか、小隊全員を引き連れて呆れたような顔をしている。

「おう、市原か。そっちも自主訓練か?」

「そうですけど……今日って訓練校周辺の『ES寄生』を“掃除”しに行ったんですよね? 休まなくて良いんですか?」

市原達は參加していないが、正規部隊員と訓練生をえて任務が行われることは周知されていた。そのため、疑問をえて市原が尋ねる。

しばかり下手を打ってなー。反省會も兼ねた自主訓練だ」

「へぇ……河原崎先輩がですか? それは珍しいですね」

下手を打ったと告げる博孝に、興味半分で目を輝かせる市原。市原からすれば、第七十一期生の中でも博孝が率いる第一小隊は突出している。訓練生という枠を飛び越えている博孝と沙織が所屬し、その上で訓練生としては優秀な恭介や里香もいるのだ。それほどの人員が揃っていて、下手を打ったと博孝は言う。一度敗北し、それ以降は博孝達を尊敬している市原としても興味が惹かれた。

市原に疑問を向けられ、博孝は沙織との組手を中斷する。そして軽く汗を拭いつつ、後輩へとアドバイスをすることにした。

「下手を打ったというか……まあ、意表を突かれたな。そうだ、お前らにも注意を促しておこうか」

「拝聴します」

博孝の態度と言葉を目の當たりにして、市原達は背筋を正した。時折暴走することがあるが、博孝は基本的に面倒見が良い。何かしらの參考になるだろうと市原達は判斷した。

「通常兵についてどう思う?」

さすがに敵の『ES能力者』と戦したとは言えず、博孝は話したい部分だけ出して尋ねる。その問いをけた市原達は顔を見合わせると、首を傾げた。

「通常兵、ですか……それは銃の類ですか? さすがに、核兵を持ち出されるのはご遠慮願いたいんですが……」

博孝の表を見た市原は、冗談の類ではないと考えて真剣に答える。『ES能力者』ならば、小火程度ならば問題にはならない。話の切り出し方から判斷する限り、博孝が言っているのは『ES能力者』としても“それなり”に脅威になる兵だろうと市原は思った。

真面目な顔で核兵を持ち出す市原に、博孝は苦笑する。

「さすがにそこまで騒なは例えに持ち出さないさ。ただ、俺達『ES能力者』が相手でも有効な通常兵があるんだよ」

任務の話を聞きに來たはずなのに、何故か兵についての話を聞く羽目になっている。そのことに疑問を覚えつつも、市原は先を促した。

「それは一?」

「スタングレネードだ。こいつは『ES能力者』が相手でも効果がある。聴覚はともかく、視覚は一時的に潰されるな」

「……実験ですか?」

今日何かあったのか、とは聞かない。それは聞くべきことではなく、また、博孝も答えはしないだろう。任務の容に関することは、基本的に機事項に該當する。例え先輩後輩、あるいは家族の間柄でも話せないのだ。

それでも、的な部分をぼかして間接的に伝えることはできる。博孝が口にしているのはあくまで後輩へのアドバイスであり、任務とは関係がない――という裁を取っていた。

「さてねぇ……ただ、『ES能力者』だから通常兵に注意しなくても良いって考えは危険だと思ってな」

「肝に銘じます」

とぼけるように話す博孝に、市原は力強く頷く。市原自、対『ES能力者』用の武裝で重傷を負ったことがあるのだ。そのため、博孝の話は重要なものとして捉える。

頷いた市原を見て、博孝は表を緩めた。初めて會った時に比べて、ずいぶんと素直になったものだ。そのことを嬉しく思い――博孝は僅かに視線を鋭くする。

市原達の顔を見回していると、何か引っかかるものをじたのだ。

(なんだ、この覚……違和というか、妙な引っかかりが……)

理由がわからない違和を前に、博孝は顎に手を當てながら市原達の顔を見回す。突然目を細めながら顔を見られた市原達は、一何事かと姿勢を正した。

「河原崎先輩? 俺達の顔に何かついていますか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……んー、なんだっけなぁ」

市原、二宮、三場。そして、最後に紫藤の顔を注視する。先の三人に対しては気になる點はないが、紫藤の顔を見た博孝は違和が強くなったようにじた。そのため、博孝は紫藤をじっと見つめる。

「……あ」

「……先輩、なに?」

見つめられた上に、意味ありげな呟きがれた。そんな行を取った博孝に対し、紫藤は不思議そうに首を傾げる。だが、博孝は何も答えずに紫藤へと顔を近づけた。

紫藤の顔立ちを確認し、観察し、隅々まで注視する。対する紫藤は、至近距離から博孝に見つめられて照れたように距離を取った。博孝は先輩といえど、年齢的にはほとんど変わらない。その上、異だ。さすがに至近距離で見つめられるのは恥ずかしいものがあった。

「博孝君?」

のない聲で里香が聲をかけるが、博孝からの反応はない。そんな博孝に対して里香は頬を膨らませるが、博孝は十秒ほど経ってからようやく距離を取った。

「いやぁ、悪い悪い! ちょっと“知り合い”に似ている気がしてな! 気を悪くしたなら謝るよ」

紫藤から距離を取った博孝は、そう言って朗らかに笑う。紫藤は博孝の行が理解できず、困を深めるだけだ。

「本當にゴメンな? 俺の気のせいだった。いや、ここは謝るよりも眼福だったって言った方が良いか? 紫藤みたいな可い子の顔をじっくりと見れたんだし」

「……えっ?」

ハハハ、と笑いながら謝罪する博孝だが、紫藤は謝罪の言葉に対してきを止める。博孝としては、“他意”があったために口から適當に言葉を吐き出しただけだ。そのため、紫藤の反応を気にせずに言葉を続ける。さも、世間話の延長とでも言わんばかりに今度は恭介に視線を向けた。

「そういえば、の人って父親に似ると人になるって聞くよな」

「あー、割と聞く話っすよね。実際はどうなのかわかんないっすけど」

話を振られた恭介は、これまでの付き合いから博孝が何かしらの意図を踏まえて発言しているのだと気付いた。そのため、話を合わせるように頷く。恭介の同意を得た博孝は、今度は沙織へと視線を向けた。

「沙織はアレだな。父親似というより、祖父似」

「それって褒めているのかしら?」

沙織は何も気にせずに首を傾げるだけだ。そんな沙織の様子に心で苦笑しながら、博孝は視線を紫藤へと戻す。

そして、和な笑みを浮かべながら尋ねる。

「――紫藤は、父親に似てるって言われないか?」

お久しぶりです、作者の池崎數也です。

一ヶ月近く間が空いてしまい、申し訳ございません。プライベートが落ち著きましたので、しばらくは更新ペースを元に戻せるかと思います。

総合評価について、いつの間にか一萬ポイントを超えていました。評価をいただき、大変嬉しく思います。今後も引き続きご指摘およびご想、評価等をいただけると幸いに思います。

一萬ポイントを超えたということで、何かした方が良いんですかね……。

それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

    人が読んでいる<平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください