《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第九十一話:進路相談 その1

「へぇ……校してから一年半が経つと、進路相談があるんですね」

驚いたような顔をしながらそんなことを言ったのは、博孝達の自主訓練に參加した市原だった。そんな市原の言葉に反応したのは博孝だけでなく、市原が率いる第七十二期訓練生第一小隊の全員である。

「わたし達も半年後にあるのかしら?」

「でも、進路かぁ……全然思いつかないね」

「……うん」

二宮は首を傾げ、三場は自の將來に対して苦笑し、紫藤は言葉なく頷く。紫藤の“目標”を知っている博孝は紫藤が妙なことを口にしないかと気をんだが、いくら仲間の前とはいえ復讐に関して話すつもりはないらしい。

その代わりに、博孝の傍にを寄せて囁くように尋ねた。

「先輩はどうするの?」

「どこかの部隊に配屬されるのは當然だけど……空戦部隊になるんじゃないか?」

『飛行』を発現している以上、訓練校の卒業後は空戦部隊に配屬される可能が高い。経験を積ませるために陸戦部隊へ配屬される可能もあったが、博孝としては空戦部隊に配屬されるだろうと思っていた。

(まあ、“普通”に配屬されるかは微妙なところだけど……)

言葉には出さず、心だけで呟く。自分自や周囲を取り巻く環境により、博孝としては自分がんだ進路に進めるとは考えられない。そもそも、強く希する進路先もないのだが。

「そう……それじゃあ、先輩の進路先にわたしも行けるように頑張る」

博孝の言葉を聞いた紫藤は、聲を潛めたままでそう言った。

先日、博孝は紫藤の父親に関する報を開示する許可を得ている。あくまで紫藤に対する限定的なものだが、自分が知り得た報を“他の機”に抵しない程度で話せるのだ。

そのため、毎日のように顔を見せる紫藤に任務で遭遇した紫藤の父親の報――博孝や恭介と戦する前に逃亡し、おそらくは逃げ切ったであろうことを伝えた。だが、その後に付け足した一言は余計だったと博孝は思っている。

戦したのは初めてじゃないし、今後も戦することがあったら――」

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そこまで口にした瞬間、紫藤に両肩を摑まれた。

今後何かあれば、その都度教える。博孝としては後輩に対する配慮として口にしかけた言葉だが、紫藤からすれば別の視點で気になる點があった。れ合いそうなほどに顔を近づけ、紫藤は驚愕と憎しみを混ぜたような顔で問うたのだ。

「……先輩は、あの男と“何度も”戦しているの?」

前回の任務が初めてではないのか。それならば、何故何度も戦する羽目になっているのか。そんな疑問をぶつけられた博孝は、自分の失言を悟りながら紫藤からを離して苦笑する。

「それは教えられないな」

「…………」

博孝が口にしない以上、他の機に抵するのだろうと紫藤は思った。そうであるのならば、博孝は絶対に口を割らない。半年程度の付き合いだが、そう判斷できるほどの付き合いをしてきた。

紫藤は自分を落ち著けるように深呼吸をすると、考えを改める。博孝が教えないのならば、“それ”に気付ける位置にいれば良いのだ。

博孝と紫藤では訓練生の期が異なるため、日中は一緒にいられない。任務を行う時も別であり、顔を合わせるとしたら自主訓練の時ぐらいだ。しかし、訓練校を卒業すれば話は別である。

報を持っている上に、今後も自の父親と遭遇する可能が高い。博孝の存在をそう認識した紫藤は、極力博孝の傍にいようと思った。

それは、言わば打算である。復讐を果たしたいと思っている相手に関する報の得易さと、普段の自主訓練で得られる戦闘技能の向上。それでいて、博孝個人の格や人格も紫藤にとっては好ましい。

紫藤にとって博孝は傍にいる理由があり――しかしながら、周囲から見れば事が異なる。

「ところで……河原崎先輩って、最近遙と仲が良いですよね? 何かあったんですか?」

ヒソヒソと言葉をわす博孝と紫藤を見て、意を決したように二宮が尋ねた。敢えて博孝に尋ねた辺りから判斷すると、紫藤に対しては既に問うたことがあるのだろう。だが、容が容だけに紫藤もはぐらかしたに違いない。

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そう考えた博孝だが、博孝から事を話すわけにもいかなかった。紫藤個人の事にもれる上に、機にも抵する。

「そうか? 前からこんなもんだろ」

故に、博孝は肯定も否定もせずに話を流そうとした。それが苦しいことは、口にした博孝自が一番知っている。以前から『撃』や『狙撃』の自主訓練を共に行っていたが、その時に比べれば明らかに紫藤の距離が近いのだ。

それが二宮の推察する、年若い男間の甘酸っぱいものだったならば博孝も悩むことはなかっただろう。その実態が非常に生臭く、実の親子が、娘が父親を殺そうとするものでなければ、博孝もここまで悩みはしない。気を遣うこともしない。慕のではなく復讐の念に駆られ、報をして傍にいるだけだ。

自然を裝って話を流そうとする博孝だが、紫藤と最も親しいと自負する二宮としては納得できなかった。そのため、期待半分不安半分で口を開く。

「遙は何も答えてくれませんでしたけど……もしかして、二人は付き合っているとか?」

「え?」

「え?」

「……?」

「あー……そんな風に思うっすか」

そんな反応をしたのは、博孝の周囲にいた里香や沙織、みらいに恭介である。博孝と付き合いが長い四人からすれば、博孝の態度で大の事は察することができた。さすがに紫藤の事までは知らないが、博孝が“面倒な事態”に直面しているのだと推察できる。

そのため、二宮の発言に対して疑問符を浮かべてしまった。しかし、そこまで博孝と深い付き合いがない二宮には通じない。どこか期待に満ちた瞳をしながら博孝へと詰め寄っていく。

「で、で、で、どうなんです?」

「お前はゴシップ記者か……」

メモを取る仕草をしながら尋ねる二宮に、博孝は呆れたような聲を吐き出した。ついでに市原に視線を向けると、その意図を汲んだ市原が苦笑しながら二宮の腕を引く。

「二宮、そこまでだ。先輩に迷をかけるなよ」

「なによ……遙と河原崎先輩が付き合ってるかもしれないのよ? 気にならないの?」

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「いくら相手が友人でも、相手が親しい先輩でも、踏み込んで良い部分と悪い部分がある。今回はどう見ても悪い部分だろ……ところで先輩方」

二宮を引き離した市原は、話を強引に変えるべく口を開く。二宮は不満そうにを尖らせたが、市原に二の腕を引かれてどこか嬉しそうな様子で引き下がる。市原はそんな二宮の様子に気付かず、問いを投げかけた。

「――參考までにお聞きしたいのですが、先輩方はどんな進路を希されるんですか?」

「いやぁ……どうしたもんっすかね」

「どうしたもんだろうな」

恭介の言葉に相槌を打ち、博孝は困ったように息を吐く。市原からの問いに明確な答えを返せず、一度口にしたように『空戦部隊かな』とお茶を濁したものの、博孝としてはしっくりとこない。

その結果、自主訓練を終えてから恭介と共に談話室でソファーに腰を掛け、炭酸ジュースを片手に自分達の進路について話していた。

時刻はすでに丑三つ時を過ぎており、みらいは自室に帰して眠らせている。談話室には自主訓練に參加した他の男子生徒もいたが、似たように進路について話していた。

「進路って言われても、俺達『ES能力者』はほとんどが正規部隊に配屬だろ? 自分が就きたい任務を重點的に行う部隊への配屬を希するのが一般的だろうけど……」

言葉を濁し、博孝は炭酸ジュースを飲み干す。恭介も博孝と同様に迷いを表に浮かべており、炭酸ジュースがった缶を意味もなく凹ませていた。

「就きたい任務っすか……正直に言って、特にコレだっていうやつがないっすよ」

「だよなぁ……というか、俺がやりたいことっていったら『飛行』を使った空戦技能をばすことぐらいだぞ。でも、『飛行』を使った任務に就いたことがないし、これまでやってきた任務を重點的に行う部隊に配屬されるかも謎だ」

博孝は『飛行』を発現しており、恭介も遠くないに発現できると思われる。その點から考えれば、これまでに任務で派遣された陸戦部隊に配屬されるかもわからない。かといって、訓練校では『飛行』を必要とする任務が行われることはないのだ。

『飛行』が使える生徒を卒業後に陸戦部隊に配屬するかと聞かれれば、否だと博孝は思っている。ただでさえ『ES能力者』は人手不足なのだ。その上で、『飛行』を使える者をわざわざ陸戦部隊に配屬させる理由がない。

「新兵に経験を積ませるってことで、陸戦部隊への配屬も有り得るんじゃないっすか?」

「『飛行』を使わせずに、陸上戦闘のみに絞らせてか?」

「あるいは、陸戦で便利屋扱いされるかも……空戦可能な戦力は貴重っすよ」

「空を飛べる奴がいたら便利だろうけど、陸戦と足並みを合わせるのは難しそうだけどなぁ……それなら最初から空戦に放り込んで、訓練校では経験できない類の任務に攜わるとか?」

次々に意見をぶつけるが、答えは出ない。進路希調査の用紙を提出するまでは期間があるが、その後の面談の日取りが問題だった。

「てか、なんで俺達の面談は最後なんっすかね……」

恭介がぼやくように言うが、博孝としても疑問に思う。

砂原から進路希調査の用紙が渡された後に、追加で説明があったのだ。それは面談を行う順番であり――博孝達第一小隊は、何故か最終日に回された。

平日の放課後に面談を行うということで、一日で多くの生徒を面談することはできない。そのため小隊ごとに日付が指定され、その日の放課後に面談を行うことになっていた。

しかし、その指定の仕方が腑に落ちない。出席番號順でもなく、小隊の番號順でもなく、ランダムにしか思えない順番で日付が指定され、博孝達第一小隊は最終日になっていたのだ。

「悪いことばかりじゃないって。考える時間が多く取れると考えようぜ」

恭介に対してそう言いつつ、博孝は心で首を傾げる。

(教のことだから、何かしらの意図があるんだろうけど……)

腰のホルダーから攜帯電話を取り出し、メール機能を立ち上げる。すると、そこにはメールでも面談の日付が通知されていた。しかも、各小隊の中でも誰がどの順番で面談をけるかも指定されている。

(なんで俺とみらいが最後なんだ?)

第一小隊の面談が最終日に行われることも疑問ならば、第一小隊での順番についても疑問だった。メールの文面を追ってみると、最初に恭介、次に里香、その次に沙織、そして最後に博孝とみらいの順番になっている。

(最近の訓練の厳しさを考えると……“何か”あるのか?)

“問題”がありそうな憶測を話すわけにもいかず、心だけで疑問を口にする博孝。護衛訓練でもそうだが、校してから継続して行われている個人訓練や小隊ごとの連攜訓練においても指導が厳しい。砂原の施す訓練は以前から厳しかったが、最近では手加減の“上限”が上がった気がするのだ。

生徒個人の技量に合わせて指導し、無意味に生徒を傷つけることはしない。その部分については変わらないが、砂原を相手とした模擬戦では下手なけ方をすると骨の二、三本は折れそうな攻撃が飛んでくるようになっていた。もちろん、そのまま骨を折ったりはしないが、代わりに反吐を吐きそうなほどに追いつめられた。

常に周囲に意識を向けろ、思考を回せ、きを止めるな、小隊との連攜を重視しろ、下手を打つな、それではすぐに死ぬぞ――などと懇切丁寧に“指導”しつつ、絶的な打撃の嵐を叩き込んでくるのである。

博孝などは、訓練中でも使用が許可された『飛行』を発現して飛び上がったことがあったが、即座に空戦技能の粋を凝らした殺人的な連撃によって地面と熱烈なキスをする羽目になった。

鬼気迫る、というほどではないが、これまで以上に教え子を鍛え上げようという意思が砂原からはじられる。それ故に生徒達からも不満の聲は上がらないが、もうしだけ手加減をしてほしいと思う者も多數いた。

もしかすると、訓練校の訓練課程に見直しがあったのかもしれない。そんなことを考えた博孝が一期下の市原達に確認したところ、第七十二期訓練生の訓練ではそんなことはないらしい。むしろ、市原達にとってみればかなり“ぬるい”そうだ。

『これも先輩達の自主訓練に混ぜていただいている果ですね』と笑顔で口にしたため、博孝達は嬉しく思った。自分達も砂原から教えを乞う立場だが、それでも後進の育に役立っているのだ。しかし、市原の様子を見る限り以前のように自信が過信に変わりそうだったため、先輩として笑顔を浮かべ、大喜びで砂原式の“指導”を行ったのは余談である。

強くなっていくのが実できるが、微塵も油斷できない砂原との訓練。それは『ES能力者』として“一段階”上の実力を得るものだと博孝はじたが、それは訓練生には求められないほどに厳しいものだ。

そもそも、訓練校では『ES能力者』として基本的な水準まで鍛えられれば僥倖だとされている。

的に言えば『防殻』や『盾』、『接合』や『撃』といった汎用技能の習得だ。汎用技能の全てを修め、その上で在學中に行われる任務で現場のことも學ぶ。加えて、もしも特殊技能の一つでも習得できれば、卒業後の進路は引く手數多だ。

『ES能力者』の數がない以上、教として割り當てられる者も限られている。教の基準としては敵『ES能力者』との実戦経験があり、『飛行』を発現できるレベルの『ES能力者』がましいが、空戦可能で実戦経験がある『ES能力者』となれば待遇も破格である。砂原のように家庭のために教職へ回る者もいるが、その數はないのだ。それも、腕が立つ者となればさらになくなる。

その點からすれば、第七十一期訓練生は幸運と言えた。教の砂原は『零戦』で中隊長を務めた猛者であり、訓練校での教導は初めてでも“部下”を扱き抜いてきた人である。砂原本人としては“優しい教育”だったのだが、その“被害”に遭った者達が各部隊で要職を占める辺り、育能力も高い。

そんな砂原によって鍛えられている第七十一期訓練生は、平均的な他の期に比べると全的に高い技量を有していた。砂原の方針としては、各自の『ES能力者』としての適ばしつつも弱點を作らないようにしている。

攻撃型の『ES能力者』である沙織が相手ならば、攻撃系のES能力を鍛えながらも防系や支援系のES能力も鍛える。

型の『ES能力者』である恭介が相手ならば、防系のES能力を鍛えながらも攻撃系や支援系のES能力も鍛える。

支援型の『ES能力者』である里香が相手ならば、支援系のES能力を鍛えながらも攻撃系や防系のES能力も鍛える。

そして、生徒の中でも數がない博孝やみらいなどの萬能型の『ES能力者』が相手ならば、全的に鍛えた上で本人の特に合った鍛え方をしていた。みらいは基本的な部分が疎かになっているため、汎用技能を中心に鍛えている。博孝は各系統のES能力を鍛えつつ、撃系のES能力と『構力』の作力を重點的に鍛えている。

それによって生徒達は技量をばし続けているが、砂原は生徒がいくら技量をばそうと満足しない。訓練校という安全地帯にいるに、鍛えるだけ鍛えようとしていた。

もっとも、博孝からすれば最近はそれが行き過ぎているようにもじるわけだが。

(進路か……例え何かを希したとしても、それが通るようは思えないな)

の狀況を鑑みて、博孝はそう結論付ける。そしてそれは、みらいも同様だと思った。

獨自技能を発現した博孝と、人工の『ES能力者』であるみらい。その貴重を客観的に計算し、博孝は自分やみらいがんだ進路には進めないだろうと思う。

(『天治會』からもちょっかいをけてるし、どうなるのかねぇ……)

これまで何度も『天治會』の『ES能力者』に襲われたことを、偶然だと思えるはずもない。博孝からすれば、『天治會』側に襲うだけの理由があったのだと思う。その理由がわからないのが難點だが、“周囲”の事を考慮すれば己の進路が嫌でも見えた。

「本當に、どうなるんだろうなぁ……」

手に持っていた空き缶をグシャリと握り潰し、博孝はため息を吐くのだった。

同時刻、子寮の談話室に里香と沙織の姿があった。博孝や恭介と同じように、自分達の進路について話し合っていたのである。正確に言うならば、自室に戻ろうとする沙織を里香が呼び止めた形になるが。

「沙織ちゃんは……希する進路がある?」

そんな問いを投げかけたのは、里香自が進路について悩んでいるからだ。相談をするわけではないが、友人がどんなことを考えているか知りたくなったのである。

里香の質問をけた沙織は、の下で腕を組みながら天井を見上げた。そして考えをまとめるように瞑目すると、數秒と経たずに口を開く。

「進路というか、強くなることが目標ね。卒業後に配屬される部隊も、特に希があるわけじゃないわ」

“以前”ならば、迷うことなく『零戦』への配屬を希しただろう。しかし、“今”の沙織にとって、それは意味がある目標ではない。

「強くなってどうするの?」

強くなるという答えに、里香は続きを求める。『ES能力者』である以上、ある程度の強さは必要だろう。だが、強さを求めた先に何があるのか。

沙織は組んでいた腕を解くと、右手を握り締めて拳を作る。今はまだ、を張って強くなったとは言えない。それでも、強くなったらやりたいことがあった。

「まずは、お爺様を毆り飛ばすわ」

「……え?」

発言が理解できず、里香は首を傾げてしまう。強くなってから、何故源次郎を毆り飛ばす必要があるのか。それが里香には理解できない。そんな里香に構わず、沙織は握り締めた右拳を見つめ続ける。

「お爺様にも……そして、博孝にも誓ったの。わたしはお爺様の孫として、この國の『ES能力者』として、強くなる。當面の目標はお爺様を毆れるぐらい強くなること。そのあとは教やお爺様より強くなることが目標ね」

「えーっと……」

尋ねたのは自分だが、里香は答えに窮してしまう。沙織の言葉や態度に迷いはなく、今しがた口にした言葉を本気で目標に掲げていることはわかった。それならば、卒業後に配屬される部隊など関係ないだろう。沙織ならば、どんな部隊に配屬されようともこれまでのように自らを鍛えていくことができるはずだ。

「……それから先は?」

強くなりたいのは理解したが、仮に源次郎よりも強くなってどうするのか。それがわからなかった里香が尋ねるが、沙織はきょとんした顔で首を傾げるだけである。

「そんなの、その時に考えれば良いじゃない。それに、お爺様を毆れるぐらい強くなるだけでも長い時間がかかるだろうし、その間に新しい目標が見つかるかもしれないわ」

『その目標はの子としてどうなんだろう』などと思った里香だが、口には出さない。沙織の才能と努力を知っており、目標を思い定めた理由もある程度は知っているため、再考を促すような言葉が浮かばなかった。

どこか呆然としたような顔で見つめられ、沙織は再度首を傾げる。しかし、何かに思い至ったのか笑顔で手を叩いた。

「もちろん、自分一人で強くなれるとは思っていないわ。教が鍛えてくれるけどまだまだ勝てないし、周りには大切な仲間もいる。博孝も、一緒に強くなっていこうって言ってくれたしね」

途中から沙織の笑顔の質が変わり、僅かに穏やかなものが混じる。聲にも信頼に似た響きがあり、里香はしだけが騒ぐのをじた。

「そ、そうなんだ……」

それでも騒いだを落ち著かせ、それだけを口にする。沙織はそんな里香を笑顔で見つめ、瞳に興味のを混ぜた。

「里香はどうするの?」

「わたしは……」

沙織の問いに対して、里香は言いよどんでしまう。進路や目標について考えはあるのだが、それが実現できるのか。“以前”から考えていたことではあるのだが、それを“実現させること”が自分に可能なのか。足を踏み出すよりも先に悩んでしまう、自分の分が里香には憎らしかった。

「まだ……悩んでるかな」

結局、言葉にできず誤魔化してしまう。沙織のように即答できないのがもどかしい。沙織に聞いたのだから自分も答えるべきだと思ったが、里香としても明確に言葉にできなかった。

「そう? 里香のことだから、その辺りは既に決めているのかと思ったわ」

首を傾げる沙織に対して、里香は曖昧に微笑む。沙織が里香に対してどんな印象を抱いているかが垣間見える発言だが、沙織が期待するような即斷さは持ち合わせていなかった。

面談まで時間はあるが、それまでに考えがまとまるか。その點が里香としても懸念だったが、最低でもある程度までは形にするしかない。

沙織の不思議そうな視線をけ止めつつも、里香は自分の心――仲間に対する不安と劣等を抑えつけるのだった。

どうも、作者の池崎數也です。

毎度のご想や評価をいただき、ありがとうございます。

更新ペースを戻すと言いつつ、週一ペースで申し訳ないです。

以下のものを投下しました。

・河原崎みらい

http://29.mitemin.net/i118730/

いつもの殘念クオリティですが、ご興味のある方はどうぞ。

それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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