《平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)》第九十二話:進路相談 その2

「結局、明確な進路が決まらないうちに今日がきちまったっすけど……博孝はどうするっすか?」

そんな問いかけを行ったのは、恭介である。砂原から進路に関する面談があると伝えられてから、既に二週間近くが経過していた。

進路調査の用紙は提出したものの、博孝も恭介も明確な進路は定まっていない。二人が共通して意識したのは、どこの部隊に配屬されようと自の技量を高め、強くなることぐらいだ。もっとも、博孝と恭介では“事”が異なる部分もあるため、それだけでは済まなかったが。

「とりあえず、希する配屬先は空戦部隊にしたけど……どうなるかねぇ」

顎に手を當てつつ、博孝は僅かに首を捻った。

時刻は既に午後六時を過ぎており、夕日は山際へと沈みかけている。本日の実技訓練を終えた博孝達は、面談を行う最後の小隊ということで男子寮の前に集合していた。

面談の場所は訓練校の中央に存在する教員用の校舎であり、博孝達はそこまで移する必要がある。里香と沙織が合流してから移するつもりだったが、訓練用の野戦服から著替えるのに時間がかかっているらしい。

博孝も恭介も手早く制服に著替え、みらいもだしなみという言葉を放棄するように短時間で著替えている。汗を掻いても、土埃で多汚れても、全く気にしないみらいの姿を見た博孝は、もうの子らしくしてほしいと心の片隅で思っていたが。

「待たせたわね」

そうやって博孝達が駄弁っていると、制服に著替えた里香と沙織が姿を見せた。その姿を確認し、博孝は全員を促して教員用の校舎へと向かう。

(……ん? 里香の表が暗いような……)

しかし、歩いている途中で博孝は首を傾げた。隣を歩いている里香はみらいと楽しげに話していたのだが、表の中に僅かな張をじ取ったのである。

「里香? どうかしたのか?」

「えっ……な、なにが?」

博孝が聲をかけると、里香は揺したように視線を逸らした。その様子から、深く踏み込んでほしくないのだと博孝は判斷する。

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「ああ、もしかして面談を前にして張してるとか? 大丈夫だって。教だけでなく大場校長もいるんだし、取って食われはしないって」

そのため、軽い冗談を口にした。しでも里香の張なり不安なりが晴れれば良いと思ったのだが、それを聞いた里香は表を変えることなく首を橫に振る。

「……ううん、大丈夫だよ」

ぎこちなく微笑み、博孝から視線を外す里香。それを見た博孝は、今度は心だけで首を傾げる。

(進路についての悩みなのかねぇ……まあ、俺も人の心配をできる立場じゃないけどさ)

する進路が決まらず――正確には、“決められず”にいた。博孝としても、今回の進路相談は々な意味で重要だとじている。

仲間達との會話もなく、博孝は教員用の校舎へと到著した。そして玄関を通り、一階部分に存在する小さな會議室に向かう。

「第一小隊の河原崎です。面談をけに來ました」

ノックをしてから扉を開け、中にいた砂原と大場に聲をかけた。すると、砂原は機の上に置かれた書類を整理しながら頷く。

「來たか……まずは武倉からだ。他の者は外で待機していろ」

そんな指示をけ、博孝達は廊下に出る。恭介だけは會議室へと足を踏みれようとするが、その背中に張が見えた博孝は右手でサムズアップした。

「グッドラック!」

「何で幸運を祈るんすか!?」

博孝の言葉にすかさずツッコミをれる恭介だが、それだけで多張が抜ける。そのため博孝にサムズアップを返し、苦笑をしながら會議室の扉を閉めるのだった。

面談の場として選ばれた會議室は、十畳程度の広さである。二つの長機と四つの椅子が置かれており、壁際にはホワイトボードが置かれていた。恭介は促されるままに椅子へ腰を下ろし、砂原と向き合う。大場も砂原と並んで座っているが、面談自は砂原が行うのだ。大場は恭介の様子を意識しつつ、手元の紙に視線を落としている。

「さて、まずは確認をしておこうか。事前の調査用紙には空戦部隊への配屬を希すると書いてあるが……これだけか?」

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博孝が取った行について苦笑しつつ、砂原は恭介に尋ねる。大場も小さく笑っており、恭介は會議室の空気が軽くなったことをじながら口を開いた。

「そうっすね……いや、そうです。もうしで『飛行』が発現できそうなんで、卒業後は空戦部隊への配屬を希します」

進路相談の面談に加えて大場がいるということで、口調を改める恭介。しかし、そんな恭介の言葉を聞いた砂原は苦笑を深めた。

「ああ、いつもの調子で構わん。お前の場合、敬語を意識しすぎると自分の考えが出てこないだろう」

そう言いつつ、砂原は大場に対して目線だけで許可を求める。その視線をけた大場は大きく頷いた。

「私も気にしないから、武倉君はいつも通りに話しなさい。そちらの方が本音が出やすいだろう?」

「それで良いなら、そうさせてもらうっす」

二人の言葉を聞き、恭介は頭を掻きながら口調を戻す。そして、再度自分の考えを口にすることにした。

「正直、進路って言われてもピンとこないっすね。でも、この調子で訓練を続けたら遠くないに『飛行』を発現できると思うっすよ。だから、希としては空戦部隊一択になるっす」

「ふむ……そうか。空戦可能な『ES能力者』を陸戦部隊に進ませるメリットもないしな……」

ある程度は予測していたのか、砂原は特に問題點も挙げずに頷く。そんな恭介と砂原の會話を傍で聞いていた大場は、思わず苦笑してしまった。

「しかし、“現時點”の訓練生が卒業後に希する進路が空戦部隊とはね……私もES訓練校の校長を務めて長いが、非常に珍しいことだよ。これも砂原君の指導の賜かな?」

大場はこれまでに何度も進路相談の面談に同席したことがあるが、訓練生が卒業後の進路として空戦部隊を希するのは珍しい。“將來的”に希する者はいるのだが、恭介はもうしで『飛行』を発現できるから希しているのだ。

するだけならば誰でもできるが、それを実現するだけの技量を持った生徒は非常にない。これが卒業前の生徒ならば、數がないながらも過去に存在した。それでも、大場の記憶にある限りでは片手の指で足りる數だったが。

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「お褒めいただき恐ですが、小の指導よりも武倉個人の才能と努力の賜でしょう」

冗談なのか本気なのか、淡々と答える砂原。まさかそんな言葉をかけられるとは思わず、恭介は先ほどまでとは違う意味で張する。

「や、いや、その、それはちょっと違うんじゃないっすかね。教の指導があればこそだと思うっすけど……」

ここまで直截な褒め言葉は、聞いた覚えがなかった。そのため、恭介は照れながら頬を掻く。“あの”砂原に褒められたというのは、驚くと同時にとても嬉しいものだった。

「調子に乗ってはいかんが、訓練生としては十分に褒められる練度だ。このまま努力を重ねれば、すぐに『飛行』を発現できるだろう。卒業後の進路は空戦部隊……あるいはそれに“準ずる”部隊への配屬を希するということで問題ないな?」

「問題ないっす!」

砂原に褒められたことで喜んだ恭介は、それほど深く注意せずに頷く。それを聞いた砂原は手元の紙に何事かの文字を書き加えると、追加で質問を行う。

「武倉、お前は卒業後も仲が良い同期と一緒の部隊に配屬されたいと思うか?」

「それが可能なら、是非とも一緒の部隊が良いっすね」

「そうか……わかった。他に希する進路はないか?」

ペンを走らせ、更に文字が追加された。それを不思議そうに見つつ、恭介は頷く。

「特にないっす」

「それならば、面談はこれで終了だ。岡島を呼んできてくれ」

短時間で面談が終わり、恭介は張から解放されたことで大きく息を吐く。それでも砂原と大場に向かって一禮すると、會議室から出て廊下に設置された椅子に腰かけていた里香へと聲をかけた。

「終わったっす。次は岡島さんの番っすよ」

「あ、うん……」

恭介の聲を聞き、里香は椅子から立ち上がる。そしてノックをしてから會議室へとり、椅子へと著席した。しかし、その作のすべてがぎこちない。そんな里香を見て、砂原は僅かに眉を寄せる。

「岡島、顔が強張っているぞ。そこまで張する必要はない。リラックスしたまえ」

「は、はいっ」

返事をするものの、里香の表いままだ。砂原と大場はそんな里香を見て苦笑し合う。

「彼の場合、すぐに面談を行った方が良さそうだね?」

「そうですな……岡島は雑談よりも実務的な會話の方が向いています」

そう言いつつ、砂原は里香が提出した進路希の調査用紙を手に取る。調査用紙には砂原としても気になる點があり、早く話をしたいと思っていた。

「さて、岡島が希する進路についてだが……“治療専門”の『ES能力者』で間違いないな?」

「……はい」

砂原の言葉に対して、里香は小さく頷く。それを見た砂原は、その瞳の興味のを宿した。

「支援系の『ES能力者』ではなく、治療を専門とする『ES能力者』か。これは醫者のようなものだと捉えて良いか?」

頭から否定せず、里香の考えを引き出そうとする砂原。その隣では、大場も興味深そうに里香を見ている。

「はい……踏み込んで言うなら、怪我の治療だけでなく神的なケアも含めた専門職のようなものを目指せればと……」

話している間に自信がなくなったのか、里香は窺うようにして砂原を見た。だが、砂原の反応は否定するものではない。先ほどよりも興味のを強くしている。

「ふむ、興味深い話だ。何故それを希したのかを説明してもらえるかね?」

「えっと、ですね……現在の『ES能力者』の運用方法では、怪我をした場合などは支援系の『ES能力者』が治療を行うことになると思います。小さな怪我ならば自力で治すことも可能ですし、即死さえしなければ助かる見込みはあります」

自分の中にある考えを口にしつつ、砂原と大場の反応を確認する里香。砂原も大場も興味深そうにしているが、話を遮る様子はない。そのため、説明を続行する。

「でも、“それだけ”なんです。怪我の治療はできても、神的なケアまではできません。重傷を負った人、死に掛けた人、あるいは……」

そこまで言って、里香はを舐めてらせた。張からか、ひどくが乾いてしまう。

「――敵を殺したことで神的な異常を抱えても、それを治す手段がありません」

神的な“傷”を治す薬はない。専門家による適切なケアか、親しい者達による獻か、時間の経過ぐらいしか治す方法がないのだ。しかも、例え治ったとしてもふとした拍子に“傷口”が開く可能もある。

聲に力を込めて語る里香を見て、砂原は眩しいものを見るように目を細めた。『ES能力者』を専門的に研究する者はいても、専門的に治療する者はいない。普通の人間では治療すらできず、『ES能力者』では數がないために専門家を育てる余裕がないのだ。

現場の部隊からは治療を本職とする『ES能力者』を求められているが、“上”が頷いたことはない。支援型の『ES能力者』に求められているのは、他の『ES能力者』を支援することだ。『探知』による索敵や『通話』による部隊の連絡網の構築など、戦闘面での活躍が求められている。

無論、怪我を負った『ES能力者』を治療することも支援型『ES能力者』の役割ではある。しかし、正規部隊員ならば『接合』程度は使えるのだ。反対に、『探知』や『通話』といった支援系の特殊技能を使える者はない。攻撃型や防型の『ES能力者』にとっては習得が難しい技能であり、支援型や萬能型の『ES能力者』の方が容易く習得できる。

それに加えて、支援型の『ES能力者』は攻撃型や防型の『ES能力者』と比べて數がない傾向があった。萬能型に比べれば多いが、他の二系統に比べれば數はない。

小隊の戦力バランスを考えるならば、一つの小隊に一人の支援型『ES能力者』が必要になる。だが、日本における支援型『ES能力者』の人數では各小隊に一人ずつ配屬するのは不可能だった。

現場の部隊としては、數でも良いから支援型『ES能力者』を治療専門として鍛え、重傷者や死亡者を減らしたい。『探知』や『通話』はそれが可能な者に代替させれば良いと思っている。

“上”としては、任務に攜わる支援型『ES能力者』を治療専門に回せばその分が他の者の負擔になると思っている。攻撃型は攻撃が本分であり、防型は防が本分だ。それならば、小隊の支援は支援型が務めるべきである。

両者の言い分はどちらも正しいが、その両方を実現させることはできない。治療の腕が高く、神的なケアもでき、戦闘中に索敵や警戒、『通話』による報共有が可能な者などほとんど存在しなかった。

現狀では、極一部の優れた腕を持つ支援型『ES能力者』が所屬部隊から“出向”という形で各部隊間を飛び回っている。しかし、神的なケアまでできているかと問われれば、答えは否だった。

“普通”のカウンセラーを派遣するという手もあるが、人間と『ES能力者』では大きな差異がある。役に立たないわけではないが、本的な解決には程遠い。

(“現場”の人間ならば、ほとんどの者が考える課題だ……訓練生とはいえ、実戦経験がある岡島が提言してそれを目指すというのも納得できる)

そう考えた砂原だが、同時にも思う。里香が治療専門の『ES能力者』を志するのは、里香本人の考えと外部的な要因があるのだ、と。

普通の訓練生ならば、里香のようなことは言わない。恭介も例外的だが、恭介のように自分の能力に見合った進路を選ぶ者がほとんどだ。

里香が口にした専門的に治療を行うというのは、里香本人よりも別の――近にいて、親しく、里香が淺からぬ想いを抱いている博孝が原因なのだろうと砂原は思う。

博孝がハリドを殺めた後、変調を隠して苦しんでいた。それはハリドに攫われた里香としては、深く心に殘ったのだろう。里香に心配をかけまいと普段通りに振る舞い、自力で立ち直ろうとして失敗した博孝。今では復調しているが、里香としては歯かったに違いない。

そんなことがあったからこそ、的にも神的にも治療できるようになりたい。里香はそう思ったのだろうと、砂原は判斷する。

砂原としては、前々からカウンセリングもできる『ES能力者』が必要だと思っていた。その手の陳を“上”に出したこともある。諸手を挙げて、というわけにはいかないが、それでも自分で考え抜いて結論を出した教え子のことを誇らしく思った。

――故に、砂原は里香の本心に気付けない。

たしかに、里香が治療専門の『ES能力者』を目指した理由は砂原の推測と重なる部分が大きい。ハリドに攫われた自分を救い、ハリドを殺し、その後は笑顔の裏で苦しんでいた博孝のことがきっかけであることに間違いはない。

しかし、そんな里香の中にあるのは不安だった。それは、自分に何ができるのかと考えた時に浮かんだ不安である。

周囲を、第一小隊の面々を見回すだけでも里香は思うことがあった。普段は表に出すこともなく、めた悩みである。

――自分は、周囲に比べて劣っている。

それが以前から里香の中にあっただった。あるいは、劣等と言い換えても良い。

『武化』で発現した大太刀を振るい、接近戦においては第七十一期訓練生の中でも最強の沙織。

里香に“近い”部分があるものの、博孝よりも短期間で『瞬速』を発現し、『飛行』すらも発現しそうな恭介。

『ES能力者』として基本的な部分が疎かになっているものの、巨大な『構力』を持つみらい。

そして、『活化』という獨自技能を持ち、攻撃も防も支援もバランス良くこなし、第一小隊を率いる博孝。

周囲を見回してみれば、『ES能力者』として自分よりも優れた者達ばかりだ。なくとも、里香はそう思っている――そう思ってしまった。

里香にできることは、他の誰かができる。反対に、他の誰かができることを里香はできない。支援型の『ES能力者』としても、里香ができることの多くは博孝に教わったことだ。『探知』も『通話』も、博孝に教わったことだ。『接合』などは、第七十一期の者ならばほとんどができる。

接近戦では、クラスの中でも下から數えた方が早い。遠距離戦はマシだが、弾を雨のように放つ博孝の前では霞んでしまう。防力も、支援型の中では低い方だ。かといって、支援型として優れている部分はないと里香は思っている。

もしもの話であるが、里香が誰かに自分の弱気を、弱音を吐いていたなら、ここまで悩んでいなかっただろう。博孝ならば、里香の発言を聞いた後に笑い飛ばし、言うのだ。

――俺が里香に敵わない部分はたくさんある、と。

里香本人が気付かない資質を、周囲の者は皆が知っている。しかし、知っているが故に周囲の者は口にしない。

里香の長所を挙げるとすれば、頭の良さや観察力といった知略面だ。気が弱い部分があるものの、必要となれば躊躇なく質問を行う積極もある。

だが、里香はそれを長所と思っていなかった。むしろ、その點でも博孝に劣っていると思っている。

周囲の者達からすれば、里香ならば自分のことも正確に分析しているように見えた。それこそ、砂原すらも里香の特を認め、里香の短所――弱気さや自信のなさを軽く見ている。

周囲よりも劣り、しかも、時間が経つごとに差が広がっていく現狀。それが里香を不安にさせ、時には恐怖を覚えさせる。

結果として里香が定めた進路は、支援型の『ES能力者』として大することだった。自分のを守れる程度の実力も必要だが、それよりも先に支援系のES能力を鍛えたい。

ハリドを殺して調を崩した博孝を治療した『ES能力者』――川と話をして、里香はそう思うようになった。しかし、普通の支援型『ES能力者』のように正規部隊に配屬され、任務ばかりを行うのでは治療系の技能をばすのが難しい。

それ故に、“治療専門”の『ES能力者』を志したのだ。

「希する任務や部隊についてではないですけど、わたしが希するのはそれだけです……その、そういった希でも問題なかったでしょうか?」

不安そうに尋ねる里香。そんな里香を見た砂原は、思わず苦笑してしまう。

「これは生徒の進路調査だ。生徒が真剣に希する進路に問題があるはずもない。まあ、これまでに例がない進路希ではあるがな」

砂原は苦笑しながらそう言うと、機の上に置いていた一枚の紙を手に取った。

「この手の話は、現場の部隊でも出ていてな。“これまで”は専門が高い醫療を育てるための機會もノウハウもなかった。部隊に配屬された支援型『ES能力者』が実戦で、多くの治療の機會を経ることで腕を上げるぐらいが々だ。その上、神的な治療まで行える者はほとんどいない。いたとしても、自分の経験に基づき、その範疇で治療を行うだけだ」

手元の紙にペンを走らせつつ、砂原は言う。空戦部隊への配屬を希した恭介もそうだが、里香の進路希も十分に特殊だ。しかし、砂原としては前々から気に留めていた課題でもあり、里香が希するのならば喜んで骨を折ろうと思う。

「専門的に『ES能力者』の治療ができる者が必要だというのは、俺も思いを同じくするところだ。岡島が本気で希するのなら、長谷川中將にも直接陳するが……どうする?」

長年部隊で任務に従事した支援型『ES能力者』から選抜しても良いが、里香は訓練生だ。將來的な“び代”や資質を考えるならば、十分な自信を持って里香を推薦できると砂原は思っている。

現段階で『探知』や『通話』などの五級特殊技能を使える里香ならば、強力な治療系のES能力を習得することが可能だろう。卒業後の進路ということで考えるならば、卒業までに里香の技量を高め、相応しい実力を備えさせることもできる。

源次郎にも話を通すという砂原の言葉に、里香は目を瞬かせた。もしも可能ならばと、玉砕覚悟で話したつもりだったが、砂原の反応は面食らうほどに好意的だ。しかし、しばかり話が大きくなっている気もする。

「えっと、その……」

言いよどみ、それでも裏で思考を回転させる里香。このまま通常の部隊――それも、博孝や沙織、みらいや恭介とは異なり、陸戦部隊に配屬されるだろうと予測した里香は、決意をめた表で頷く。

「お、お願いしますっ」

勢い込んで頭を下げる。そんな里香を見た砂原は、里香から見えないとわかっていても頷いた。

「悪いようにはしない。だが、そうと決まれば支援型の『ES能力者』としてもっと鍛える必要があるな」

頭を下げていた里香は、思わず頬を引きつらせてしまった。話の流れから考えると、治療系のES能力を鍛えるのだろう。しかし、一どうやって鍛えるというのか。

「あの……どうやって鍛えるんですか?」

頭を上げた里香は、恐る恐る尋ねる。他の支援系のES能力――例えば『通話』や『探知』ならば訓練方法もわかるが、治療系のES能力をどうやって鍛えるのか。

「ん? なに、簡単な話だ。これから先の訓練を行うにあたり、嫌でも怪我人が“大量に”出る。治療系のES能力は他のES能力とは異なり、數をこなすことが上達の近道だからな。岡島は率先して治療を行え。良いな?」

答えは、非常に簡単だった。今後の訓練で大量の怪我人が出るため、それを治せと砂原は言う。そして、怪我人を量産するのは砂原本人なのだろう。

もしや、自分の発言が原因で訓練の過激さが増すのではないか。里香は心でそんなことを考えたが、砂原はそれに構わず考えを巡らせる。

(室町大將が言っていた新設部隊……もしも本當に設立するのなら、“隊長殿”に協力を依頼してテストケースとしてねじ込むか。岡島ならば、河原崎兄妹の支えにもなるだろう。新設部隊の話が流れるのなら、川中尉に協力してもらおう。ひとまず、卒業までに最低でも『療手』を……いや、それは甘えだな。最低でも『治癒』を覚えさせよう)

“とりあえず”卒業までに四級特殊技能である『治癒』を覚えさせようと思う砂原。そのあとは源次郎に協力を依頼し、最善と思われる道を里香に提示するしかない。室町の言っていた新設部隊が本當に設立されるのならば、間違いなく博孝やみらいも配屬されるだろう。それならば、里香を部隊付きの醫療として配屬させることも可能だ。

教え子の將來を思案した砂原は、口の端を僅かに吊り上げる。かつて正規部隊にいた頃に部下を扱き、鍛えたのとは異なる充足だ。あるいは、楽しさすらじる。

砂原が浮かべた笑みを見た里香は頬を引きつらせたままで僅かにを震わせていたが、それに砂原が気付くことはなかった。

會議室から廊下に出た里香は、それを迎えた博孝達に聲をかける。次は沙織の番であり、それを促す必要があった。しかし、それよりも先に博孝が聲をかける。

「終わったか……ん? なんかすっきりとした顔をしてるけど、良いことでもあったのか?」

里香の変化に気付いたのか、すぐに疑問をぶつける博孝。そこまで表を変化させていたつもりはなかったが、それでも気付く博孝に里香は微笑を浮かべる。

「……うん。自分の將來について、ある程度見通しが立ったというか……」

「へえ、そいつは良いことだ。どんな進路を希したのか気になるけど……それは全員の面談が終わってからかね」

里香の笑顔を見て、博孝も笑って返す。そんな博孝を見て、里香は思った。それは前々から思っていたことであり、ここ最近の不安の種でもあったことである。

――博孝の隣に立てるようになりたい。

どんな道でも構わない。自分にできることを他の仲間ができるのなら、他の仲間ができないことをできるようになる。

それが、今の里香が選んだ新たな目標だった。

どうも、作者の池崎數也です。

いただいている評価が一萬ポイントを超えたと言っていましたが、さらに拙作の文字數が百萬字を超えたので閑話などを書こうと思っています(二百話二百萬字の予定をオーバーしそうです)

以下のどれなら読みたいと思えますでしょうか。

・クラスメイトから見た博孝の評価

・現在までに登場しているキャラの紹介(開示可能な設定含む)

・砂原の過去話(訓練校時代)

・閑話は良いから本編を進めてほしい

なお、現時點で想欄にて「こんな話が読みたい」とコメントを下さった方については、本編で描く予定のネタと被っている部分でした。上に書いたものについても、即座に書けるとは思いませんが、數話以に書けたらと思っています。

追加で一點、どうしても気になることがありましたのでこの場をお借りします。

なんと、三件目のレビューをいただきました。非常にありがたく、嬉しく思います。この場を借りて禮申し上げます。

しかし、いただいたレビューでは何故か砂原のことが大半を占めているような……主役が砂原? 過去にいただいた二件のレビューを上回る砂原推しでした。リアルで膝を屈しかけたのは緒です。

それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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