《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》19.悪役令嬢は妹にしてやられる
あれだけの貌と気を見せ付けられたら、惚れないご令嬢はいないだろうとも思う。
クラウディアが平靜でいられるのは、娼館で多種多様な男と過ごした経験があるからだ。
するの橫顔は微笑ましい。
けれどシルヴェスターには婚約者候補がいて、クラウディアも候補の一人だ。
心からフェルミナがクラウディアを蹴落す可能がある以上、のんきにはしていられない。
しかし現狀、打つ手がなかった。
フェルミナが問題を起こしてくれれば、責任を問える。
前のクラウディアが斷罪されたように。
逆を言えばきがないと、対応のしようがないのだ。
(今のところ誰かを懐する素振りもないし)
クラウディアをそそのかそうとしてくる人もいなかった。
前はこれでまんまと嵌められた。さも味方ですという顔をして近付いてきながら、その実フェルミナの手先だったのである。
道理で先回りや、企ての証拠を手にできたはずだ。
対立せずにいられるなら、それに越したことはないけれど。
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(何か仕掛けてきそうな気配をじるのは、わたくしのうがち過ぎかしら?)
斷罪時に見たフェルミナの一面が、トラウマとなって殘っているせいかもしれない。
(可い顔があれだけ歪むのだもの。一どれだけの執念を――っ!?)
抱えていたのか。
その思考は、ふいにフェルミナと目が合ったことで遮られる。
お茶會の間、クラウディア同様に微笑みを絶やさなかったフェルミナが、一瞬表を消したのだ。
いつか見た愉悅に満ちた笑顔ではない。
けれど消え去ったフェルミナの表を見た瞬間、クラウディアの背中に悪寒が走る。
「きゃっ!?」
そして、それは起こった。
バランスを崩したフェルミナが、その場で転けたのだ。
手に持っていた紅茶を被り、ピンクのドレスが汚れる。
「フェルミナさん!? 大丈夫!?」
慌ててクラウディアは、フェルミナを助けようと手をばした。
しかしその手は握られず。
「お義姉様、酷いです! いきなり突き飛ばすなんて!」
目に涙を浮かべ、フェルミナが聲高にぶ。
「それほどあたしに恥をかかせて笑いたいんですか!?」
「突然何を言うの……?」
ばした手のやり場がない。
フェルミナの訴えに、周囲がざわつきはじめる。
(やられた! 警戒してたはずなのに……!)
けれどひとりでに転けたフェルミナを止める手立てはなかった。
どうにか狀況を打破したくて、フェルミナを助けようとを屈める。
それを察したフェルミナは自分の足で立つと、クラウディアを置いて走り出した。
「フェルミナさん、待って!」
取り殘されたクラウディアは途方に暮れる。
「どうして、あんな勘違いを……」
そして悲壯に肩を震わせ、涙を流した。
ここに侍長のマーサがいれば、はしたない、と言っただろう。
(なりふりなんて構っていられないわ)
母親の墓石にすがりついて大聲で泣いたように。
今回は泣き方こそ大人しいものの、傷付いている様子を周囲に印象付かせる。
それでいて辺りを見回し、人の配置を確認した。
幸い、近場に敵対勢力に屬する者はおらず、馴染みのご令嬢たちが、すぐにめてくれる。
(とりあえずこの場はこれでいいわ……問題はこれからね)
フェルミナはどこへ行ったのか。
彼を一人で行させたくなかった。
きっと今もあることないことを口にしているはずだ。
「みなさん、ありがとうございます。おかげで救われました。フェルミナさんが心配なので探したいのですけれど……」
誰か見かけていないかと協力を仰ぐ。
するとクラウディアに同したご令息が、フェルミナが走り去った方向を教えてくれた。
「あちらへ走って行ったよ。馬車の乗り場に行ったんじゃないかな」
「俺も見た。良かったらついて行こうか?」
王城には馬車を預けられる駐車場があり、招待をけた貴族はそこへ家の馬車を停めていた。
どうやらフェルミナはクラウディアを置いて一人で帰るつもりらしい。
庭園から馬車乗り場までは、警備の騎士が立っていて人目もある。
下心を持った人間に襲われる心配はないが、気を使いたくなかったので付き添いの申し出は辭退した。
そこでシルヴェスターの姿を探す。
お茶會など主催者がいる催しから早めに帰るときは、一言伝えてから辭するのがしきたりだ。
フェルミナは無視したようだけれど、クラウディアまで禮を失することはできない。
目的の人はすぐに見つかった。
というより、騒を聞いてシルヴェスターのほうから現れた。
「話は聞いた。私が乗り場まで送ろう」
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