《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》20.悪役令嬢は王太子殿下に詰められる

しかしシルヴェスターの申し出は過分で、首を橫に振る。

「シルヴェスター様の手を煩わせるわけには……」

「君の傍にいてあげられなかったんだ。せめてめさせてくれ」

シルヴェスターが眉を下げて請えば、どこからともなく黃い聲が上がった。

斷れない狀況に、心の中で溜息をつく。

(早くフェルミナを追いたいのに、シルヴェスター様の相手をしないといけないなんて)

仕方なくシルヴェスターの腕に手をかけて、エスコートされる。

案の定、乗り場へと続く列柱廊を進む歩みは、ゆっくりとしたものになった。

一定間隔を開けて警備の騎士が立っているが、その他の人影はなく、廊下を歩く二人の靴音が響く。

(もしかしてフェルミナとグルなんじゃないでしょうね)

シルヴェスターとフェルミナは今日が初対面だ。

あり得ないことだとわかりつつも、行を邪魔されてうがった見方をしてしまう。

「フェルミナ嬢とは仲が良いように見えたが?」

「わたくしはそのつもりですが……フェルミナさんは違うようですの」

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こうなればとことん自分に非がないことを訴えようと、クラウディアは再度涙ぐむ。

どうしてこんなことになったのか。

自分の何がいけなかったのかと、弱々しく口にする。

「シルヴェスター様はどうすれば良かったと――」

上目遣いでシルヴェスターを窺ったクラウディアは、そこできを止めた。

めさせてくれと同行を申し出たシルヴェスターが、いつもの穏やかな笑みを浮かべていたからだ。

微塵も、クラウディアを心配しているようには見えない。

「本心ではどう思っている?」

「え……」

「仲良くしたいなんて噓だろう? 君は聖人ではないし、普通は人の子なんて憎悪の対象でしかない。それも相手が父親のを一けているとなれば尚更だ」

「わたくしは、そうは思いません。父の行に問題はありますが、フェルミナさんには罪がないもの」

現狀フェルミナにも思うところはあるが、人問題については父親が一番悪いと考えている。

生まれた子に罪はないのだ。

フェルミナも、クラウディアも、ヴァージルも。

だからこそ自分と兄を放置した父親を、クラウディアは許さない。

これは本心からの言葉だったけれど、シルヴェスターの反応は薄かった。

「ふーん」

「……シルヴェスター様は、わたくしがどう答えれば満足するのですか」

教えてくれれば、シルヴェスターが好むように振る舞う。

クラウディアはずっとそのヒントを探していたが、終ぞ見つからなかった。

「どう、と訊かれたら」

「っ!?」

ちょうど大きな柱の影に差し掛かったところだった。

柱が背になるよう追い込まれ、腕の中に閉じ込められる。

正面から向き合う形になった白磁の貌に、クラウディアは息を飲んだ。

シルヴェスターはその反応を楽しみながら、クラウディアの黒髪を一房手に取ると、先に口付ける。

「私はクラウディアの本音が知りたい。隙なく取り繕われた本を暴きたい」

黃金の瞳が細められる。

そこにはがあり、獲を狙う獣がいた。

(……やっとを見せたわね)

追い詰められながらも、シルヴェスターの仮面が剝がれたことで、かえってクラウディアには余裕が生まれた。

ずっとこれが知りたかった。

人形じゃない、シルヴェスターの人間の部分。

とっかかりさえ摑めれば、娼婦時代の経験が語りかけてくる。

「シルヴェスター様、があってこそですわ」

艶やかな笑みで告げると、シルヴェスターは一瞬だけきを止め、次の瞬間には聲を出して笑った。

「あははっ、そうこなくては! やっぱり君は面白いよ。泣いてる君よりずっといい!」

シルヴェスターの反応に、遂に正解を知る。

今までの胃が痛かった會話も、ここに帰結しているのかと。

(シルヴェスター様は、駆け引きを楽しみたいのね)

の、というほど甘いものではないだろうけれど。

彼は自分の思い通りにならないクラウディアを楽しんでいるのだ。

同年代のご令嬢と比べれば、クラウディアはさぞ特異に映ることだろう。

娼婦になり、果ては人生をやり直しているのだから當然だ。

(新しいおもちゃを見つけた気分かしら。加嗜好というよりは、支配? 手にれる過程を楽しみたいのね)

それこそクラウディアの得意分野だった。

娼館のナンバーワンにまで上り詰めた手腕は伊達じゃない。

「お気に召して何よりです。そろそろ退いてくださらない? フェルミナを追いかけたいの」

「私より彼のほうが大事なのか?」

咎めるような聲音だが、その実クラウディアの行を楽しんでいるのがわかる。

黒髪を弄ぶ指が、次は何をするのだと訊いていた。

「大事です」

何せクラウディアの人生がかかっている。

庭園では涙を見せたことで、一定の同を集めることに功したものの、それも萬全じゃない。

クラウディアを蹴落としたい人間は、フェルミナ以外にもいるのだ。

お茶會での騒は、そんな者にとって良いネタになるだろう。

これを機に、フェルミナに近付いてくるかもしれない。

敵同士で手を組まれでもしたら、面倒なことこの上なかった。

「それは妬けるな」

そう口にするなり、シルヴェスターはクラウディアの顔に影を落とす。

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