《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》30.悪役令嬢は王太子殿下を知る

「醜聞になるから、あれの虛言癖については公言していない。だが俺があれを認めていないことは、生徒會役員には伝えてある」

「そうだったのですね」

「加えて、卑屈になりやすいとも言っておいたほうがいいな。どうせまたディーにイジメられていると言い出すに違いない」

その景がありありと浮かんで苦笑する。

しかし學園でなら、フェルミナを信じる者――便乗する者――も出てくるだろう。

「ずっと領地から出さなければいいものを。結局、父上はあれに甘い」

「親心でしょう。致命的な間違いは犯していませんから」

「俺たちにはない親心か。それも時間の問題だろうがな」

言い捨てるヴァージルに、最近はそうでもないですよ、と一応父親のフォローをしておく。

クラウディアとヴァージルが恨むことを伝えてから、父親は二人の意見を尊重するようになった。

今更が拭えないけれど、されないよりはマシだ。

「だが現狀では、領地に戻すほどとはいえない。自滅してくれるのが一番なんだが……殿下には、あれのことを話しているのか?」

「シルヴェスター様なりに察しておられるわ」

フェルミナのあざとさも看破していた。

お茶會で話したことも覚えているだろう。

クラウディアの答えに、ヴァージルは苦笑を浮かべる。

「あいつは人の醜い部分を楽しむところがあるからな」

「……それだと格が悪いように聞こえますわよ」

「言ってやるな。あいつなりの処世だ。第一王子の立場は、何かと悪意に曬されやすい」

誰よりも守られる立場であり、危険でもある。

に限らず、他國の相手もしなければならない重圧は、どれほどのものだろう。

シルヴェスターは學園にる前から、本番を強いられている。

廊下を歩く背中を思いだす。

同じ服でも、まるで違うように見えた後ろ姿を。

既に為政者たらんとしているシルヴェスターに比べれば、自分の手管など稚に思えた。

考えに耽りそうになるのを、ヴァージルの聲が呼び戻す。

「だがディーが隣にいれば、あいつも心強いだろう」

「そうでしょうか? お兄様とのほうが親しく見えましたわ」

シルヴェスターとも、トリスタンとも。

いつの間に仲良くなられていたの? と首を傾げて問う。

「すまない、ディーにはあえて黙っていた。……後ろめたいのもあってな」

「後ろめたい?」

「王城に呼ばれていたのは、母上が生きていた頃だ。こう言えば、わかるか?」

厳格な母親が生きていた頃、屋敷の空気は常に張り詰めていた。

ヴァージルにとって、シルヴェスターたちと遊ぶ時間が、何よりの息抜きだったという。

「ディーは、俺が忙しくしていると思っていただろう? けれど実は、王城で遊び回っていたなど、とても言えなかった」

俺も父上と同じように、ディーを置いて逃げていたんだ、と続くヴァージルの言葉を、クラウディアは強く否定した。

「同じではありません! むしろわたくしは、お兄様に息抜きできる場所があって良かったです」

子どもにとって、當時の屋敷の雰囲気が良かったとは到底思えない。

もし逃げ場所がなければ、ヴァージルの格も、前のクラウディアのように歪んでいたかもしれなかった。

「許してくれるのか? ディーを一人置いていったのに」

「シルヴェスター様の遊び相手として呼ばれたのはお兄様だけですもの。仕方なかったのです。それにお母様が亡くなってからは、傍にいてくださりましたわ」

一緒に過ごす時間がし増えたぐらいだが、ヴァージルはずっとクラウディアのことを気遣ってくれていた。

そして、それは今も変わらない。

「責めたかったわけではないのです。ただ楽しそうなお二人の雰囲気が羨ましかったの」

「トリスタンには口うるさく思われてそうだがな」

確かに、彼に言っていたのはお小言だった。

生徒會室でのやり取りを思いだして笑う。

「そんなにトリスタン様は勉強が苦手なのですか?」

「稽古にかこつけて逃げるんだ。騎士は武が優れているだけではいけないというのに」

「曲がったことがお嫌いな割りには、勉強からは逃げられるのですね」

「そうなんだ! ディーからも言ってやってくれ。正道を歩みたいなら、文武両道を目指せと」

しかしクラウディアまで口うるさくなったら、トリスタンは兄妹から逃げるようになるだろう。

「シルヴェスター様は何も仰らないのですか?」

「殿下は俺たちのやり取りを面白がっているだけだな」

「やはり格が悪いように聞こえるのですけど」

「……最終的には口を出されるから、そうでもない。多分」

ヴァージルの返答は、概ね肯定しているようなものだった。

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