校舎を出て、空を見上げる。

朱と金が混じった夕焼けは、艶やかに夜をっていた。

見れてしまいそうになる合いに後ろ髪を引かれながら、シルヴェスターに促されて王家の馬車へ乗り込む。

その雰囲気を察せられたのか、迷だったか、と尋ねられた。

「いいえ、あまりに夕焼けが綺麗だったもので」

言いながら茜に染まる窓へ顔を向ける。

早くも空は表を変えており、この分だと暗くなるのも早そうだ。

シルヴェスターは、そんなクラウディアの橫顔を何も言わずに眺めた。

ガタン、と馬車が音を立ててき出しても、しばらく沈黙が続く。

「今日の君はしいな」

「あら、わたくしはいつだってしいですわ」

「ふっ、違いない。生徒會室での君も、空を眺める君も、もちろん普段の君にも、私は魅了されっぱなしだ」

「……にあまるお言葉です」

軽口を返したのにもかかわらず、なおも賛辭を重ねられて恥ずかしくなる。

いつになくしっとりとした聲音に、どうしたのだろうと対面に座るシルヴェスターへ顔を向けた。

そして――息を飲む。

茜の日差しに彩られたシルヴェスターこそ、何よりもしかったから。

空と同じになる銀髪に、朱がる黃金の瞳は、正しく見れそうになった夕焼けそのもので。

神々しさすらじられる貌に、時を忘れる。

（お兄様で目はえているはずなのに……）

ヴァージルも、トリスタンもそれぞれ整った顔立ちをしている。

兄にさえ圧倒されるときがあるけれど、シルヴェスターは群を抜いていた。

呆けそうになる自分を叱咤し、視線を引き剝がす。

「今日は、どうしてってくださったのですか？」

「君と話がしたくてな。折角一緒にいるのに、學園の中だとお互い本音を出せないだろう？」

確かに、と同意する。

クラウディアは公爵令嬢兼、婚約者候補として。

シルヴェスターは王太子殿下として、人前では姿勢が崩せない。

學園ではシルヴェスターの反応を見るのを、早々に諦めたぐらいだ。

「お気持ちは嬉しいですが、他の方から嫉妬されてしまいますわ」

「今更だろう？　私や君が、嫉妬をけないほうがおかしい」

地位が高くなればなるほど、妬み嫉みはけやすかった。

いくらクラウディアが淑の見本と言われても、必ず敵に回る人間はいる。

「噂や悪意を一々気にしていたら、がもたないぞ」

シルヴェスターが言えば、説得力があった。

誰よりも悪意に曬されている人がゆえに。

「だからシルヴェスター様は楽しまれるのですか？」

「そうだ。神経をすり減らすより楽しんだほうが、神的にはずっといい」

ヴァージルが言っていた通り、これがシルヴェスターの処世なのだろう。

反応を楽しまれているの上としては、格が悪いのも否めないけれど。

「面白がって、寢首をかかれないようご注意くださいませ」

「私を誰だと思っている？　危険とわかるものに近付くほど愚かではないさ」

一応シルヴェスターなりに関わる基準があるらしい。

考えてみれば王城で暮らすの上だ。

余計な心配だったかと、目を伏せる。

その目にシルヴェスターの指先がれ、クラウディアはを固まらせた。

れた指先は、目から顎へと伝い、顔を上げるよう促される。

「下を向くな。君には私を見ていてしい」

「ずっと見ていたら首が痛くなってしまいますわ」

「ならば肩を貸そうか？」

「お戯れを」

しかし有言実行とばかりにシルヴェスターは腰を上げ、クラウディアの隣へり込んだ。

揺れがある中での移に、クラウディアは悲鳴に近い聲を上げる。

「せめて馬車が停まったときにしてください！」

「このぐらい大丈夫だ。ほら、肩を貸してやれるぞ」

「お兄様から調子に乗らないよう言われてませんでしたか？」

「クラウディアが緒にしてくれればいいだろう？　たまには間近で君を見たい」

どこまで本気なのか悩むところだけれど、この至近距離では別のことが気になって表を見ていられなかった。

腕といい、足といい、隣り合ったがれていて。

制服越しでも筋のいが伝わってきて、鼓が早くなる。

自分でも揺する理由がわからない。

男のとは、飽きるほど付き合ってきたというのに。

「……シルヴェスター様、これでは余計に顔が上げづらいですわ」

「今日は意識してくれるのか？」

もしかして、以前のキスをに持たれているのだろうか。

記憶を掘り起こせば、シルヴェスターは男の矜持が傷付くとも言っていた。

「あのときはっ、驚き過ぎて、逆に反応できなかっただけです！」

「その割りには、冷靜に指摘されたが」

「心臓はずっと壊れそうでした！」

そこまで言うと、やっと納得してくれたのか、頷く気配が伝わってくる。

相変わらずクラウディアは顔を上げられない。

「今も？」

「今もです」

頬が熱くなっているのは、夕日のせいだと思いたかった。

どこか必死なクラウディアの様子に、シルヴェスターから笑いがれる。

「君と社會制度について話すのも面白いが、こういうのもいいな」

「からかっているほうは、楽しいでしょうね！」

「私だって、今にも心臓が壊れそうだぞ？」