《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》42.悪役令嬢は平靜を裝う

離れて座っていれば、こんな事態に陥らなかった。

けれどシルヴェスターは、ちらりとクラウディアを見下ろしただけで、腰に回した腕をかそうとしない。

「どうして君はコルセットをしていない?」

「普段からつけていたら、窮屈で仕方ありませんわ」

型を気にして薄手のコルセットをつけるご令嬢もいるけれど、クラウディアには無用の長だった。

素でそれなのかと、シルヴェスターは熱のこもった息を吐く。

「シルヴェスター様、とりあえず腕を放していただけませんこと?」

「嫌だ……」

消えりそうな聲だった。

思いがけない聲音に驚きつつも、言い募る。

「お互い、落ち著かないだけではありませんか?」

「……」

ようやく訴えを認められて、そっと腕が外される。

しかし外した腕はそのままソファに置かれ、クラウディアがを離そうとするのを阻止した。

そこまでしてれていたいのだろうか。

(そういえば癒やしを求めておいでだったわね)

からかいたいだけじゃなかったのかと考え直す。

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らかいに癒やされる男は多い。

など最たる例で、顔を埋めたりみたがる客がほとんどだった。

だからといってシルヴェスターに提供できるものではなく、これぐらいの距離なら大丈夫かと妥協する。

男として切実な様子を見せられて、幾分クラウディアにも余裕ができてきた。

「今日はお忍びの視察ではなかったのですか?」

「ここへは隠れて裏口からった上、小売店の様子を視察しているところだ」

「……商品が婦人服からケーキに様変わりしていますけれど」

しかも用意されたケーキは明らかに売りではない。

クラウディアがどれだけ注文したところで、お金が請求されることはないだろう。

「カフェの個室も考えたのだが、こちらのほうが意表を突けると思ってな」

「確かに驚きましたわ」

今日のために、いったいどれだけの人がいたのか。

店側もいい迷だろうに。

それでも、クラウディアのためだけに準備されたとなれば、悪い気はしない。

こういう驚かし方なら大歓迎だ。

室でれ合うのは、勘弁願いたいけれど。

「元は君の案だが、気にってもらえたか?」

「はい、こんな風になるなんて予想だにしていませんでしたもの」

加えて、見下ろしてくるシルヴェスターの視線が甘いのも、予想外だった。

ケーキが並べられているせいか、室に漂う空気も甘ったるくじる。

意識してしまうと、また落ち著かなくなりそうなので、クラウディアはそれに気づかないふりをした。

「文化祭の案もそうだが、君の見識には心する。何がきっかけで……いや、きっかけは周知の事実か」

「改心したのはお母様がきっかけですけれど、見方が変わったのは、また別ですわ」

人生をやり直しているとは言えないので、考えながら言葉を紡ぐ。

クラウディアに大きな影響を與えた人。

壁際に立つヘレンをそっと窺う。

筋や地位は揺らがないものと信じておりました。しかしそれは妄信に過ぎないと気づいたのです」

愚かなおこないで、簡単に崩れ去るものだと知った。

娼館で客を取り、平民も貴族も同じ人間なのだと知った。

誰もが人生に悩み、癒やしを求めていたから。

「ならば、わたくしにできることは何かと考えるようになりましたの」

限りある中、どれだけのことができるか。

効率を求めるためには何が必要か。

娼婦時代も、やり直してからも、必死で方法を探った。

「大切な人を守るため、自分を守るために。今も試行錯誤を繰り返している最中ですわ」

「辛くならないか? 人や自分のためとはいえ、頑張り続けるのは」

「ふふっ、面倒になったり、怠けたくなるときもありますわよ。でも辛いだけじゃありませんもの」

むしろ得られるもののほうが多い。

そうでもなければ、続けられないだろう。

「それにわたくしは単純ですから、侍に褒められるだけでやる気が出ますの」

「私には、単純には思えないが?」

「シルヴェスター様と侍に向ける顔が、同じであるわけがないでしょう?」

「ふむ、難しいな」

「単純なほうがお好みですか?」

「いや……だが、単純な反応がしいときもある」

「男心は複雑ですわね」

心よりマシだと思うが」

難解の最たる人が、何を言うか。

「そう仰るなら、シルヴェスター様ももっとをお見せください」

「見せているだろう?」

「わかりにくいのです。照れて耳が赤くなったりしないのですか」

「無茶を言うな。心ついたときから、が表に出ないよう教育されているのだぞ」

「……言われてみれば、わかりやすかったらハニートラップを仕掛けられますものね」

「納得するところがそこなのか」

王太子殿下ともなれば、他國からそのような刺客が送られてもおかしくない。

貴族間ですら、使われる手だ。

娼婦の中には、それを専門にする人もいる。

「権力者って大変ですわね」

「公爵令嬢が何を言っている。君だって辺には気をつけているだろう?」

「そうでしたわ」

そして絶賛、弾を抱え込み中だ。

フェルミナのことを考えると、どうしたものかと頭が痛くなる。

これといって打って出られる手段がなかった。

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