《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》51.悪役令嬢は溺の弊害を知る

遂に明日、學園は文化祭を迎える。

授業も午前中で終わったというのに、クラウディアは既にぐったりしていた。

それもこれもシルヴェスターのせいである。

(うう、見通しが甘かったわ……)

演技とはいえ、衆人環視での溺は、クラウディアの神をガリガリ削り。

煽った仕返しと言わんばかりに、シルヴェスターは見えないところでれてきた。

さり気ない接ではあったものの、に熱を燈すには十分で……。

悶々とさせられたのは自分のほうだった。

(もしかしたらお互い様かもしれないけれど)

シルヴェスターの表は、言わずもがなである。

変化はあまりなく、溺を表現する上で、いつもより甘かったぐらいだ。

片や、熱を発散させるがないため、クラウディアの頬はまだ薄くづいていた。

青い瞳は潤み、つり上がっているはずの目に力は無い。

「く、クラウディア様っ、はしたないですわよ……!」

聲に顔を向ければ、侯爵令嬢のルイーゼが顔を真っ赤にして立っていた。

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ちなみにシルヴェスターは先生に呼ばれて、この場にはいない。

ルイーゼの言葉はその通りなので、素直に謝る。

「ごめんなさい……」

「いえ……あの、熱でもありますの?」

クラウディアの狀態を調不良と勘違いしたルイーゼは、心配げに顔を覗き込んでくる。

綺麗な翠の瞳と目が合ったクラウディアは、そのまま彼に口付けたくなった。

「クラウディアのことは私が見るから大丈夫だ」

「殿下……」

シルヴェスターが戻ってきたことで、ルイーゼはを引く。

その表は憂いに満ちていた。

(もしかしなくても、勘違いさせているわよね)

シルヴェスターは、クラウディアを婚約者と認めたわけじゃない。

婚約者は學園を卒業してから決められるのだから。

しかし今日の二人の仲を見れば、最早確定したも同然だ。

そう演出しているのだから仕方ない。

あとで事を説明できればいいのだけれど……とクラウディアが考えているに、ルイーゼはいなくなっていた。

シルヴェスターに手を引かれて立ち上がる。

「君は相手がでもいいのか」

「ルイーゼ様なら有りだと、魔が差してしまいそうだわ」

「……私は君に近づくにまで気を配らないといけないのか」

「言っておきますけど、合意の元でしかしませんからね!」

まるで相手構わず襲うような言い方に、むっとする。

(大、誰のせいで熱を持て余してると思ってるのかしら)

「先ほどは明らかに不意打ちしそうだったが?」

「……若さって怖いですわ」

「せめて否定しろ」

君たち兄妹は人が否定してしいところで決まってけ流す……と、希有なことにグチりながら、シルヴェスターはクラウディアをエスコートした。

「シルヴェスター様は違うと仰るの?」

「同意を求めるな。……今すぐ婚約者候補などという慣例は破棄して、婚約者期間を飛ばしたくなるときはある。何故結婚できるのが最短でも十九なのだ」

學園を卒業するのが十八歳。

それから婚約者期間が一年あって、正式に結婚するときには十九歳という計算だ。

學園在學中には分を超えて出會いがあり、この期間に婚約者候補はふるいに掛けられる。

そして権利を得たものは殘りの一年で、正妃になる資格を問われるのだ。

この資格は個人の資質というより、家を見られる。得られる権力で、実家が暴走した例が過去にあったためだった。

「王族は大変ですわね」

「他人事のように言うな」

婚約者候補であるクラウディアは、もちろん他人事ではない。

けれど貴族のご令嬢は、デビュタントを済ませれば、いつだって結婚できた。

「君は私の期待値を超えるときもあれば、大きく下回るときもあるな」

「そうですの?」

「単純な反応がしいときもあると言っただろう。今がそのときだ」

シルヴェスターの答えを理解しようとしたところで、生徒會室に著く。

が見つかって一段落したものの、だからといって現場で問題が発生しないわけじゃない。

今日もまた、というより當日である明日も、きっとクラウディアは現場に出ているだろう。

そしてシルヴェスターには書類が待っている。

間近で溺を見せつけられ、灰になりつつあるトリスタンもまた同じだった。

何だかんだで、存在を消して控えていた彼が、今日一番の被害者かもしれない。

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