《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》55.悪役令嬢は式典場の裏で待つ

夕暮れどき、人払いがなされ熱気がなくなった式典場の裏へと移する。

元々あまり人が來ない場所ではあるものの、ヴァージルによって今日は立ちりが制限されていた。

裏に一本だけそびえる大きな木は、學園設立時から巨木を誇っており、切り倒すのは惜しいという理由で殘されているらしい。

木のれば、ほの暗い闇に包まれる。

クラウディアは木の幹にれながら、待ち人を待った。

式典場の裏は、他の建との兼ね合いで袋小路になっている。

だから見る方向は定まっていた。

葉が風に揺れる音が鮮明に聞こえるものの、自分自に吹く風はない。

きっと上空にだけ、風の流れがあるのだろう。

しかし視界には、揺れる長い金髪が映った。

「クラウディア様、このような人気のない場所で、何を考えておいでですの?」

「ルイーゼ様……」

急いで追ってきたのか、ルイーゼは肩を上下させている。

フェルミナに何か言われたのか。

それとも彼が協力者なのかは、まだわからない。

「あなたほどの立場なら、これがどれほど愚かな行為かわかるでしょう!」

けれど。

赤く燃えるような夕焼けを背に、扇をこちらへ突き出す姿は見惚れるほど綺麗だった。

屹然としたルイーゼの佇まいに、クラウディアかららかな笑みがこぼれる。

「わたくしを心配して來てくださったの?」

「か、勘違いなさらないで! わたしはあなたを注意しに來ましたのよ!」

心配してくれたらしい。

(やっぱり、また何か言われたのね)

全ての可能を否定できなかっただけで、クラウディアは最初からルイーゼを疑ってはいなかった。

教室でのことを鑑みるに、また煽されたのではと思っていた。

フェルミナが會っていたもう一人が、協力者じゃないかと睨んでいる。

「フェルミナさんから、何かお聞きになったのかしら」

「……あなたがここで悪巧みをすると聞きましたわ。言っておきますが、妹さんの言葉を信じて來たわけではありませんからね!」

「そうですの?」

「注意しに來たと言ったでしょう? あの子、様子がおかしかったんです。そしたらあなたが一人でこちらへ向かわれていたから、慌てて追いかけてきたのよ?」

「お手間を取らせてごめんなさい」

余計な心配をかけたことを素直に謝る。

けれどルイーゼの追求は止まらなかった。

「どういうおつもりですの? わたしが來たからいいものの、お一人だったら何があるかわかりませんわよ?」

これも計畫のだとは言えず、苦笑するしかない。

フェルミナのことは、あまり公にしたくなかった。

しかし、このまま一緒にいるとルイーゼを巻き込んでしまう。

もしかしたら何も起こらないかもしれないけれど、囮役であるクラウディアに進捗を知るはない。

ルイーゼには木の裏にでも隠れていてもらおうと思ったところで、彼の背後に影が見えた。

「ルイーゼ様、こちらへ!」

「きゃっ!?」

急いで腕を引き、背に庇う。

程なくして現れたのは、生徒ではなかった。

「おお、おお、こりゃあ上玉じゃねぇか」

「しかも見たことねぇぐらいの別嬪さんですぜ」

薄汚い男が五人、姿を見せる。

荒事を生業にしているのか、全員つきが逞しい。

けれど顔がどこまでも下品で、その歪んだ笑みに蟲酸が走った。

「こ、ここは、あなたたちのような方が來ていい場所ではなくてよ!」

勇敢にもルイーゼが聲を上げるが、完全に腰が引けている。

その震える聲音に、男たちは喜んだ。

「いいねぇ、いいねぇ! 気が強いお嬢さんは嫌いじゃないぜ」

「おらぁ、黒髪のがいいなぁ。つきがたまらん」

相手が小娘二人という余裕からか、それとも獲を追い詰めるのが好きなのか、男たちは殊更ゆっくりと近づいてくる。

下卑た様子を見せられ、クラウディアの中では恐れより怒りが勝った。

生徒の誰かが、彼らを手引きしたのは確かだ。

背中からはルイーゼの震えが伝わってくる。

そこでけて見えたフェルミナの考えに、クラウディアは顔を顰めた。

(あの子、わたくしとルイーゼ様をまとめて陥れる気だわ)

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