《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》59.悪役令嬢はもう妹を恐れない

王太子殿下を自分が救うなど、おこがましい。

公爵令嬢としての理がそう訴えてくるものの、視界は揺らぎ、今にも青い瞳からは雫がこぼれそうだった。

極まった熱に、神経が焼かれる。

「わ……わたくしに、できることでしたら」

「君にしかできない」

震える聲で答えれば、斷言された。

握られていた手の甲に、口付けが落とされる。

「君がしい。君の心に住まうのは、私しか許せない」

次いで、指先にもシルヴェスターのれた。

指の一本一本にを贈られ、に火が燈る。

「シルヴェスター様……っ」

「シル、と。私はディアと呼ぼう。しいディア、私の心を救ってくれ」

は僅かでしかない。

記憶を辿れば、児戯に等しいぐらいだ。

でも。

を知ってしまったクラウディアには、刺激が強すぎた。

今までの経験はまるで役に立たず、自分でも全が真っ赤に染まっているのではと思う。

「シル、わたくしがお救いいたします。だから、どうか手を」

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放してください、とは言えなかった。

手を握られたまま、を吸われる。

している、ディア。私は何とも思っていない相手に、キスはしないぞ」

咎められているのはわかるが、火照りで思考が追いつかない。

――けれどその熱は、者によって急激に冷やされた。

「噓よ……そんなの、噓!」

どこからか走ってきたのか、息を切らしたフェルミナが部屋の前で立っていた。

すかさず、シルヴェスターの背に庇われる。

「そなたも切り捨てられたいのか?」

後ろにいるクラウディアから、シルヴェスターの表は窺えない。

しかし聲音だけで、に震えが走った。

特別低いわけでも、冷たいわけでもない。

ただ人がこんな聲を出せるのかと思うくらい、がのっていなかった。

それでも恐る恐るシルヴェスターへ手をばす。

「シル、わたくしはみませんわ」

暴漢が現れたことで、フェルミナの関與は確定した。

報告を聞けば、父親も判斷せざるをえないだろう。

指先がシルヴェスターの手にれると、彼はを取り戻した。

「……ディアがそう言うなら矛は収めよう。どちらにせよ、ただでは済まぬからな」

振り返った黃金の瞳にがあり、人知れずほっとする。

クラウディアにもフェルミナへ対する怒りがあるが、罰せられるのは今ではない。

「フェルミナさんも部屋へお戻りになって」

大人しくしているよう伝えるが、フェルミナは獣が牙を剝くように吠える。

「そう言ってする気でしょ!? 殿下、殿下はそのに騙されているんです! あたし、必死で逃げてきたんです!」

誰から? と思ったところで、侍長のマーサが姿を見せる。

どうやらフェルミナのお目付役としてつけられたらしい。

「申し訳ございません、クラウディア様。振り切って逃げられてしまいました。すぐ連れて行きます」

「嫌よっ、使用人風があたしにらないで!」

抵抗しながら部屋へろうとするフェルミナに、待機していたシルヴェスターの護衛が判斷を仰ぐ。

「手を貸してやれ」

二人いる護衛の、一人がこうとしたところで、フェルミナはシルヴェスターへ向かって手をばした。

しかし距離がまることはなく、護衛に取り押さえられる。

瞬く間の出來事だったが、クラウディアには一部始終がスローモーションで見えていた。

フェルミナは床へ押さえ込まれ、後ろ手に拘束される。

「で、殿下っ、あたしは、何もやってません!」

「では誰がやったというのだ?」

「貴族派の生徒ですっ、証拠もあります!」

噓か本當か、フェルミナは往生際悪く抵抗し、ぶ。

「ほう、それは興味深いな? そろそろ到著する捜査も聞きたがるだろう。連れて行け」

「待って! 違うの、あたしは、ち、違う、違う違う違う違うーっ」

ピンクブロンドの髪をぐちゃぐちゃにしながら連行される姿は、錯しているようにしか見えない。

歪んだフェルミナの表は醜く……哀れみをった。

前のクラウディアより酷い。

「人は、あそこまで落ちるものなのだな」

「そのようですわね……。あの、捜査が來られるのですか?」

「あぁ、こちらが仕向けたとはいえ、暴漢を學園へ招きれたのだ。協力者ともども、しっかり罰をけてもらう」

公表の仕方は考えるから安心していい、と言いながら、シルヴェスターは空いていた椅子に腰かける。

すぐにヘレンがお茶を用意してくれた。

「ところで、焦がれているとも言ったはずだが、何故君は私の気持ちを疑った?」

「えっ!? そこへ話を戻しますの!?」

「ディア、今、君の前にいるのは誰だ?」

「シル、ですけど……」

答えれば、にっこりと微笑まれる。

どうやらフェルミナのことは、早く頭から追い出せと言いたいらしい。

急展開に頭が混するものの、シルヴェスターなりに気を使ってくれているのだろう。

「もうあの子のことは、怖くありませんわ」

「ならばいいが。私は狹量だと言っただろう? 私の気持ちを疑った理由は?」

(それはそれで訊かないと気が済まないのね……)

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