《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》60.悪役令嬢は王太子殿下に誓う

フェルミナをお披目したお茶會の帰りに、シルヴェスターから焦がれていると言われた記憶はあった。

「からかわれていると思ったのです」

「紛れもない本心だったが?」

「でも、ずっとわたくしの反応を面白がっておられたでしょう?」

どこか人を食ったようなシルヴェスターに、君は面白いと言われた。

そのことが印象に殘り、他の言葉は全て遊びだと思ったのだ。

「もしかして、全て本心だったのですか?」

「君に対するものはそうだが……まさか一つも伝わっていなかったと言うのか?」

二人で顔を見合わせ、きを止める。

信じられない。

クラウディアが愕然とする一方、シルヴェスターだけは何かに気づいたのか、片手で顔を覆った。

「そういえば君が言っていたな。面白がって、寢首をかかれないよう注意しろと」

「馬車でのことですわね」

シルヴェスターに送ってもらったときのことだ。

あまり人をオモチャにし過ぎないよう、忠告した。

「あれは、君のことだったのか」

「ということは、やはり最初は面白がっておられたのですね?」

「同年代のご令嬢の稚さにうんざりしていたところへ、當時話題だった君が來たのだ。新鮮にじてもおかしくはないだろう?」

否定はされなかった。

では、と浮かんだ疑問を口にする。

「どこでお気持ちが変わられたのですか?」

「正直に言うとわからない。一対一のお茶會のときには面白いと思っていたし、私への未練を見せず帰る君に焦がれてもいた」

(あのときは一秒でも早く帰りたかったものね……)

シルヴェスターから解放されたい一心だったのが、態度に出ていたらしい。

婚約者候補としては失敗だけれど、結果として興味を引けたのなら良かったのだろうか。

「気づいたときには君ばかり目で追っていたのに、君はこちらを見もしなかった」

「そんなことは……」

と答えつつも、シルヴェスターにそれほど見られているとは気づかなかった。

意識して見ていなかったと言われれば、その通りかもしれない。

「一度目のキスは、気を引きたい一心だった。二度目のキスで、多思いは通じていると確信したのだが?」

シルヴェスターの言う通り、そのときにはクラウディアにも気持ちがあった。

けれど若さゆえと、気持ちを否定してしまったのだ。

後ろめたさをじ、視線が泳ぐ。

「ディア、大人びている君を私は好いている。話も合うしな。けれど時折、男慣れしているのではないかと嫉妬に駆られるのだが、私の心を救うついでに、この疑問も解消してくれないか?」

心が揺れた瞬間に核心を突かれ、クラウディアは息が止まった。

こういうところがあるから、シルヴェスターは油斷ならない。

「わ、わたくしの周りにはお兄様しかおりませんわ」

「あぁ、ヴァージルにも確認を取ったが、普段はあの侍にべったりで、全く男の影がないらしいな?」

「でしたら、答えは出ておりますでしょう?」

「だから解せぬのだ。君はどこでその手管をにつけた?」

おかしい。

フェルミナが來るまでは、甘い空気に満たされていたはずなのに。

シルヴェスターは、すっかり追求する姿勢だ。

かといって、娼婦時代があったなんて言えば、目も當てられない事態に陥る予がある。

クラウディアは、誤魔化すしかなかった。

「わたくしにはわかりかねます。どういったところで、シルは手管だとじられたのですか?」

「わざと袖を取って甘えたり、を押しつけてきただろう」

「その程度、侍でもしますわよ」

どうやら直接的な行しか印象に殘っていないようでほっとする。

しかしこれからは気をつけようと、に刻んだ。

「では侍報源だと言うのか?」

「シルは、好きな相手の気を引くために、誰かに相談したりはしませんの?」

「それは、するが……」

相談では納得できないものがあるらしい。

シルヴェスターの勘の鋭さには、心を通り越し、背筋に冷たいものが伝う。

「誓いますわ。今までも、そしてこれからも、シル以外の男れ合うことはないと。もちろん家族は除きますけど」

そう言いながら、今度はクラウディアが両手でシルヴェスターの手を握った。

「亡きお母様にも誓います。わたくしの誓いが重いことは、ご存じでしょう?」

「あぁ、それで改心したのだからな。……家族も含まないか?」

「そこまで狹量ではないと信じております」

えっ、お兄様もダメですの? とシルヴェスターを見れば、彼はそっと視線を逸らす。

想像以上に、シルヴェスターは獨占が強かった。

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