《斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】》04.悪役令嬢はもの思いに耽る

「いたっ」

「クラウディア様、大丈夫ですか!?」

「えぇ、し針で突いただけだから気にしないで」

あれから、父親に刺繍でも贈ってはどうかと言われ、ハンカチに新しく刺繍することにした。

以前、出來映えが良かったのを覚えてくれていたらしい。

図柄は王家の紋章がいいかとも考えたけれど、自分のことを思いだしてしくて、黒い花と青い鳥の絵柄にした。

「パンジーにしたのは狙い過ぎかしら?」

花言葉は、「もの思い」「わたしを思って」だ。

シルヴェスターが花言葉に詳しいかはわからないけれど、文通をしていた頃、毎回花が添えられていたので知っている気もする。

「良いと思います。男には直球過ぎるくらいで、ちょうどいいですよ。それに青い鳥には『幸福』の意味がありますから」

「そう? 自己主張が激しいと笑われないかしら……」

やはり無難に王家の紋章が良かったのではないかと手が止まる。もしくは公爵家の紋章にするか。

悩んでいると、手元に影が落ちた。

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何だろうと顔を上げれば、ヘレンが真剣な表で目の前に立っている。

「クラウディア様、よろしいですか?」

そのまま前のめりで両肩に手を置かれ、宣言された。

「クラウディア様が手がけられたハンカチをけ取って、喜ばない人はいません。もしいるなら、それは人ですらありません!」

「へ、ヘレン?」

「仮に相手をけなす容だったとしても、贈られたほうは意識してもらえているんだと激するでしょう」

「でも相手はシルよ?」

「殿下はビスクドールのようにしくはありますが、『人』です。それも思春期真っ只中の男です。これに関しては、分は関係ありません! 絶対にお喜びになられます! 笑おうものなら、リンジー公爵家を敵に回したも同然……!」

しまいには自分が一番槍となってシルヴェスターに立ち向かうとまで言われ、クラウディアは慌てる。

下手をすれば、その発言だけでも國家反逆罪だ。

「わ、わかったわ! この図案で完させるわね!」

「クラウディア様が心を込めて刺繍されるのです。自信をお持ちください」

「そうね……旅立たれると聞いて、気分が落ち込んでいるのかもしれないわ」

「港町までは距離がありますが、新學期までには戻って來られるんでしょう? しの辛抱です」

ヘレンの言う通りだ。

永遠に別れるわけではないし、シルヴェスターにしてみれば、領地の視察に赴くだけの話。

リンジー公爵家だって、領地で休暇を過ごすこともあるのを考えれば、落ち込むほどのことじゃない。

今回の長期休暇では、王弟が滯在する手前、公爵家は王都を離れられなさそうだけれど。

「でも、いつになく寂しくじてしまうのよね」

「それがというものです」

「ヘレンにも覚えがある?」

「ありますよ。ここ最近は全くないですけど」

「あら、もっと休みがあったほうがいいかしら?」

「わたしの場合は、クラウディア様から離れるのが一番寂しいですっ」

ぎゅっと抱き締められ、それじゃあいつをするの、とどちらともなく笑いがれる。

ヘレンがいれば、寂しさは紛らわせそうだった。

◆◆◆◆◆◆

夜、ベッドで一人になると、周囲が無音になったようにじられた。

実際は暖爐の音だったり、風の音だったり、何かしら聞こえてはいるのだけど。

部屋は暖められ、寒さはじない。

その暖かさが、いつかの遊戯室を思いださせた。

「助けられた命だったのよね……」

今でなら、という注釈はつくが。

は自ら毒を飲んで亡くなった。

あとから、それは隣國よりもたらされた毒で、解毒も近なものでできると知ったのだ。

教えてくれたのは、請けを申し出てくれた青年だった。

芋づる式に、紳士服店で會った外が頭に浮かぶ。

「もしかして偵のようなことをしていたのかしら」

娼婦の中には、ハニートラップだったり、政府の裏の仕事をける人がいた。

もそうだったのだろうか。

隣國の客から得た報を、政府に流していたのだろうか。

けれど外の相手が彼だという確証はない。

當時の彼の年齢を考えても、今娼館で働いているかは微妙だ。

それに。

「助けられたとして、助けることが正解なの……?」

娼館での生活が恵まれているなどと、冗談でも言えない。

高給取りで、贅沢ができていたクラウディアさえ、ふとした瞬間にびたくなるときがあった。

それでも流行り病に倒れるまで生きられたのは、ヘレンや先輩娼婦たちが支えてくれたのと、罪の意識があったからだ。

経緯はどうであれ、前のクラウディアは罪を犯した。

娼館で人生を學ぶまで、正真正銘、愚かだった。

娼館は、その罪を償う場だったのだ。

だから生きられた、生きる必要があった。

しかし娼館で働く全てのが、罪を犯したわけじゃない。

ほとんどの人は、他に頼る場所がない弱者だ。

死を覚悟した人の意思を曲げ、劣悪な環境で生き続けろということが正しいのか、と問われれば――違う、と答える。

「でも見殺しにはしたくないなんて、ただのワガママよね」

かといって「死」が正解とも思えず、りながら寢返りを打つ。

本人の意思を無視した行は、善意の押し付けでしかない。

いくら悩んでも、答えが出る気配はなく。

この日、クラウディアはあまり眠れなかった。

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